第33話 魔法少女は託し託される者で。(1)
◆7月7日 午後7時◆
「うん……?こ……ここは……」
『ん?ようやく目が覚めた?』
眠り姫がようやく目を覚ましたことを確認し、私はだらしなく呆けたその顔を覗き込む。
すると、眠り姫は私の顔を見るや否や疑心暗鬼の視線を向け、自らの頬を抓るように引っ張りはじめた。
「……いはい。夢……じゃない……?」
お決まりの行動に苦笑しながら、私は手前に倣うようにお決まりの文句を返す。
『ここは現実だよ』
私は多くを語らずにシャイニー・パクトを差し出すと、眠り姫は困惑した表情を浮かべながらもそれを受け取る。
「現……実……?」
渡したそれを何気なく開けた眠り姫は、鏡に映る自分の顔を確認した途端に、未だ開ききっていなかった目を大きく見開いた。
そして、目の前の光景が現実であることをようやく理解してなのか、その顔に焦りの色を濃く滲ませる。
「こ……これは……!?ど、どうして……!?」
取り乱したように、すぐさま自分の顔や体を確認する眠り姫に、私は放るようにして二つのS-Reaperを眠り姫の膝に乗せる。
『祈莉とノワが持っていたS-Reaperを使って、お前が寝ている間に私とお前の体を交換しておいた』
「なっ……!?」
驚愕する眠り姫こと花咲春希を余所に、私は肩を回したり屈伸をしたりしながら、手に入れたばかりの体に慣れるための運動をはじめる。
『それにしてもこの体、本当に便利だなー。自己修復機能のお陰でアサガオの蔦も綺麗サッパリだし、胸の傷も元通り。暑かろうが寒かろうが関係ないし、五感も調整が利くから遠くの声も聞こえるしよく見える。そして何より、まったく疲れない。まさにパーフェクトボディ?』
現在の私は、常時オートヒールのバフが掛かり、消費MP0になったことに加え、全属性耐性を得て全ステータスが大幅上昇したような状態であり、無敵という言葉を体現したような感覚を全身で体感していた。
不服があるとするならば、胸と身長をもっと大きくしてもらいたいといったところだろう。
「そ、それは私の体だ……っ!!返せ……っ!!」
必死の形相で車椅子から身を乗り出すと、花咲春希はバランスを崩しながら滑り落ちるように地面へと転げ落ちた。
だが、すぐに体を起こすようなことはなく、首を上げて睨むだけに留まった。
「か……体が……!?思うように……動か……ない……!?」
『その体じゃ、魔法少女の力が無ければ自力で立ち上がることもままならない。慣れるまではプライドなんか捨てて、周りに助けを求めることをオススメする』
無様に地面を這う姿に向けて皮肉を込めつつ、私は嘲笑うように口角を上げる。
「ば……馬鹿にしているのか……?ふざけるな……!?」
まるでゾンビさながらに私の足を掴むと、花咲春希は片腕だけの力で必死にしがみついてくる。
『馬鹿になんてしてない。むしろ、尊敬してるくらいだけど、全部お前の思い通りにさせるのも悔しいから、ここからはこっちのプランどおりに進めさせてもらう』
「お前……何を言って……」
ある程度予想はしていたものの、まったく予想どおりの反応をされたことが少しだけ面白可笑しくなり、私は再び口角を上げる。
『パンドラ……いや、花咲春希。騙されていたのは私のほうだった。今日の戦いは私の完敗だ』
私がそう言うと、花咲春希は私に向けた視線に一層睨みを利かせる。
「私をこんな姿にしておいて、完敗だって……?ふざけるのもいい加減にしろ……!!」
どこにそんな力があるのか、右腕だけを器用に使って私の胸ぐらまで到達したかと思うと、そのまま全体重を乗せるようにして私を地面に転倒させた。
「その体を……今すぐ私に返せ……!!」
私は成すがままになりながらも、首を横に振る。
『……もういいんだ。全部判ってる。お前のやろうとしていたことは私が引き継ぐ』
「――っ!?お前……」
私がそう言うと、花咲春希は驚いたような表情を浮かべながらその手を離した。
『芽衣がパンドラの名を口に出したとき、どうしてお前は憤ったように私と芽衣の前に現れたのか。私はそれが疑問だった。だって、順序がおかしい。お前がパンドラと名乗ることを決めたのは、私がパンドラと口走ってからの話。つまり、あの時点では芽衣の言葉にお前が憤る理由は無かった。だけど、こう考えれば辻褄が合う。お前はパンドラになることをもっと前から決めていたって』
私は上体を起こし、馬乗りになっていた花咲春希を軽々と抱きかかえると、そのまま車椅子へと運んだ。
草や土まみれになった自分自身の姿を見るに見兼ねた私は、付着していたそれらを丁寧に払い除けてゆく。
『まず、異空現体研究所に攫われたお前に、新世界の創造主とやらになる以外の選択肢が与えられていたとは思えない――つまり、お前がこの体を手に入れたことはお前が望んでいたことじゃなかったはず。それなのにお前は自分が望んで手に入れたようなことを言っていたことに、私は違和感を覚えた。そこで私はこう考えた。この体になることを自ら望んだことにして異空現体研究所に従っておけば、周囲の人間を騙すには都合が良く、そうしたほうが身動きが取りやすくなると考えたんだろうって』
相手が自分のことを従順なペットだとか、無害な存在などと思っている間は、自身や周囲の人間の安全は担保され、相手に油断や隙が生じやすくなることを、私と同じ記憶を持つ花咲春希は知っていたことだろう。
詳細は定かではないものの、異空現体研究所内において相応の立場と、屋外を自由に歩き回るほどの権利を獲得していたことを鑑みるに、二人の間で何かしらの交渉が行われ、花咲春希はイクスの意向に全面同意する形で話を収めたのだと考えられる。
恐らく、抵抗や反発をすることが無意味であると悟っていた花咲春希は、イクスたちに取り入ることを優先して、少しでも自分の立場を良くしようとしたのだと推察できた。
だが、もしもそれが花咲春希の本意でないとするならば、異空現体研究所に従順なフリをしながらも、逆にその状況を利用し、相手に隙が生まれる瞬間を待ち続けていたとも考えることができた。
『次に、あーちゃんの家の前や夏那の前に現れた理由。あーちゃんの家の前で私を見かけるまで、私が私の意思で動いていることを知らなかったのなら、私を殺して過去の自分と決別することは当初の目的では無い。それなら、あーちゃんの家の前に現れた理由や、夏那に接触してきた理由は何なのか。もし、私の考えたとおりだとしたら、芽衣を探すという表立った目的を遂行しながら、最後に見ておきたかったからじゃないかと思った』
「……」
「さい……ご……?最後ってどういう……?」
夏那は首を傾げながら花咲春希に詰め寄るも、詰め寄られた当人は否定もせずにプイッと視線を逸らすに留まった。
「春希さんが……私を探す……?わ、私は過去に遡ってまで春希さんを探しに来たりはしましたが、春希さんに探されるような覚えは……」
“タイムスリップストーキング”というパワーワードが頭を過ぎって、背筋が凍るような感覚を覚えたものの、レベルマックスまで習熟させたスルースキルで何事も無かったように受け流す。
『お前の考えた筋書きには、異空現体研究所に強い敵意を持っている誰かが必要だった。その役割を担うのは芽衣が適任であると考えたお前は、芽衣を探している過程で私と鉢合わせすることになった。でも、それはただの偶然じゃない。全部、お前が仕組んでいたことだった』
私の立てた仮説において、花咲春希には異空現体研究所に対して強い敵意を持っている存在が必要不可欠だった。
恐らく、病院で芽衣とライアのやりとりを目撃していた花咲春希は、異空現体研究所と芽衣の間に何かしらの因縁があることを悟り、白羽の矢を立てたのだろう。
しかし、結果から言えばその選択は最適解だと言えた。
『イクスには自分を脅かす者が居るとでも言って言いくるめて、お前は自分から芽衣の捜索に動いていた。だが、どういうわけか芽衣のことを覚えている人間はまったくいなかったため、捜索は難航した。そこでお前は、私と同じように、八代霖裏に芽衣の捜索をさせることを思いついた。しかし、八代霖裏と何の接点も無い自分が彼女に依頼することは難しいだろうと考えたお前は、私が寝ている間に同人誌を見えやすい場所に置き、私に芽衣のことを思い出させ、私が自分から芽衣を探すよう仕組んだ。あとは私を見張っていれば、いずれ見つかるって寸法』
「……」
「なぜ、春希さんがそのようなことを……?それに、なぜそこまでしてまで私を……?春希さんは私に何をさせるつもりだったんですの……?」
芽衣が問い詰めるようにまっすぐ見据えるも、花咲春希はばつが悪そうに俯き、視線を逸らした。
『……お前の口からは言い辛いだろうから、私の口から言ってあげる』
私は芽衣に向き直り、花咲春希の気持ちを代弁するつもりで口を開く。
『花咲春希は最初から悪を刈るヒーローになろうだなんて考えてはいなかった。パンドラがイクスの前で破壊されれば、“真理の目”とパンドラの体は同時に失われることになる……。花咲春希は自ら悪を演じ、自分が破壊されることで世界を救おうと考えていた。だからこそ、芽衣を探し、その手で自分を破壊させようと画策していた』
「――!?」
『屋上で私たちの話を盗み聞きしていた花咲春希は、芽衣が未来から来たことを知った。そして、パンドラの誕生を阻止するためにわざわざ過去に現れたことと、異空現体研究所に対して強い敵意を持っていることを結びつけ、自分が芽衣の語っていたパンドラであること悟った。芽衣と自分の目的が一致していることに目をつけた花咲春希は、自分がパンドラであることに疑いを持たないよう敵対心を煽り、自身に刃を向けるよう誘導した』
身近な人間を痛めつけては敵対心を煽り、自分に敵意を向けさせるというその状況に、私はある種の既視感を覚えていた。
それは以前、ノワが雨に対して行った手段とまったく同じ方法であることに私は気が付いた。
『だが、パンドラの正体が花咲春希であると私が明かしたことで芽衣に疑念が生じ、雲行きは一気に怪しくなった。想定していた筋書きを辿らせることは困難だと判断した花咲春希は、目的を達成できるのであれば相手は誰であっても構わないと土壇場でその筋書きを変え、私に芽衣の役割を継がせることにした。そして、同じ“真理の目”を持っている以上、中途半端な嘘は見破られてボロを見せることになると考えた花咲春希は、あえて本気で殺しにかかることを決めた。自分が敗北するのなら無事目的は達成され、私を殺めてしまうような事態になったとしても、芽衣の怒りを触発するきっかけになる――結果、どう転んだとしても事態は好転することになる』
芽衣は私の説明を聞き終えると、無言で花咲春希の真正面に立った。
そして、気持ちを抑え込んでいるかのような擦れた声で小さく呟いた。
「……春希さん。私の目を見てください」
芽衣がそう告げようと、花咲春希は相も変わらず顔を逸らし、視線を合わせようとすらしなかった。
ギリッっという奥歯を強く噛みしめるような音が耳に届いた直後、夜の静寂に包まれていた森林にその音が鳴り響いた。
――パチィーーン!!
「もしも、私がこの手で春希さんを殺めてしまう未来があったとしたのなら……その私はきっと二度と立ち直ることは出来ませんの……!もしも、春希さんの犠牲で未来が救われたとしても……春希さんの居ない未来の私が笑うことはありませんの……!もしも、お二人が互いの命を奪うような未来があったとしたのなら……未来の私はそれを止められなかったことを、ずっとずっと後悔し続けますの……!あなたがやろうとしていたことは、そういうことですの……!!!」
花咲春希の頬はほんのりと赤く色付き、叩かれた本人はまるで信じられないといった様子ながら、ようやく顔を上げた。
「春希さんはいつだって正しかった……。いままでも、今日までのことだって正しかったのかもしれませんの……。ですが……!正しくあろうとすることが正しいとは限りませんの……!!」
芽衣は怒った表情ながらも、瞳から溢れるほどの涙を流し、もう一人の私の体をそっと抱きしめた。
「春希さんは魔法少女かもしれません。ですが、魔法少女である必要はないんですの。だって、私が大好きで、過去にやってきてまで助けたいと思ったのは、魔法少女の花咲春希さんではなく、花咲春希さんという一人の人間なのですから」
それは私に向けられた言葉ではなかったものの、その言葉は私の胸に深く突き刺さった。
花咲春希なのかシャイニー・レムなのか、一般人なのかヒーローなのか、人間なのか人間ではないのか――以前の私は、自分という存在がなんなのか、そしてどうあるべきなのかを常日頃から考えていた。
だが、考えてみればそんなのことはどうでも良かったし、考える必要も無かった。
花咲春希でありシャイニー・レムでもある私が、私の思うように行動する――ただそれだけで良かったのだろう。
そしてきっと、私が私であることを認めてくれるその言葉を、私はずっと誰かの口から聞きたかったのだと思う。
「芽衣……」
花咲春希は右手を上げ、芽衣の背に触れるか触れないかというところでその手を止め、躊躇う様子を見せた。
そのもどかしい様子を見兼ねた私は、仕方なく花咲春希に耳打ちをする。
『……私はこう考えてる。パンドラは最初からこの世界にはいない――というより、この世界にパンドラは誕生しないんじゃないかって』
ノワや芽衣が過去を変えようと未来に干渉していたことからも、未来にパンドラが現れ、人々から希望を刈り尽くしたというのは、恐らく本当に起こりえたことなのだろう。
そうだとすると、パンドラになるはずだった花咲春希はなぜ、現実に絶望することもなく、自ら悪として破壊される道を選ぶことが出来たのだろうか。
恐らくその理由は、パンドラの箱の中に希望が残されていたのかどうかの違いだろう。
「パンドラが……誕生しない世界……」
花咲春希は復唱するように小さく呟くと、その視線を自分を抱擁している人物へと向けた。
まるで納得したかのように僅かに鼻で笑ったかと思うと、花咲春希は戸惑うように止めていたその右手を下げ、芽衣の背にそっと乗せた。
「ごめん……。ありがとう……芽衣……」
…
二人が落ち着くまでの様子を暫く眺めながら、私はそろそろ頃合というところで芽衣の肩を軽く叩き、口を開く。
『さて、と……。私の役目はこれで終わりみたいだ』
芽衣は涙を袖口で拭いながら振り返り、そして何かを決意したかのように大きく頷いた。
その直後、何の音も無く、突然頭上に巨大なケートスが出現した。
「ケートス……。さっき、プランだとか引き継ぐとか言ってたけど、やっぱりお前は――」
私は背を向けて、小さく頷く。
『……この体をここに残しておくことは良くないし、私は本来生まれることのなかった存在。この世界にとっては、どっちも邪魔なもの。だからって、せっかく貰った命だし、私はただで消えてやるつもりも無い。この体は何十年だろうと壊れることはないだろうから、存分に有効活用させてもらうつもり』
空を見上げると、巨大なケートスが細胞分裂するかのように分裂し、小さなケートスがもう一体現れた。
それは私のちょうど真横に舞い降りてきたかと思うと、私を中心に円を描くように旋回し始めた。
それは金色の星屑を空中にばら撒きながら、さながら黄金の柱とも形容すべき光の中へと私の全身を包み込んでいった。
『すごく……暖かいな……』
昼下がりの日光に似た暖かさを感じ、私はその心地良さに思わず瞼を下ろす。
「ま、待って……!お姉ちゃん……!!」
その叫び声に驚き、慌てて目を見開くと、私に駆け寄ろうとする夏那の姿が視界に飛び込んできた。
だが、まるでそこに壁があるかのように光の柱は夏那の侵入を阻んだ。
「お姉ちゃんがお姉ちゃんじゃないって、なんとなく理解はしてるけど……。でもやっぱり……!お姉ちゃんはやっぱりお姉ちゃんだから、お別れするのはなんだか寂しいよ!?」
私は十分に考え込んだあと、妹だった少女に告げる。
『……私はキミのお姉ちゃんじゃない。キミのお姉ちゃんはそっち。だから、お姉ちゃんを大事に思うその気持ちは、そっちのお姉ちゃんに向けてあげて?』
「お姉ちゃん……」
私がそういうと夏那は悔しそうな表情を浮かべながらも、渋々頷いた。
『イノちゃん。一緒に居られた時間は少なかったかもだけど、そっちの私や妹……それに芽衣のこと。宜しく頼める?』
「……ええ。判っていますわ」
祈莉は普段と殆ど変わった様子は見せなかったものの、少しだけ寂しそうな表情を浮かべながら、私に笑顔を返した。
私はさすがに肝が据わっているなと感心しながら、この中で最も心配な人間へと視線を移す。
『……花咲春希。この世界にあーちゃんはもういないし、二度と帰ってくることも無い……。それに、この先に待っている未来はお前にとって過酷なものになるかもしれない。それでも、お前の周りには花咲春希を必要としてくれる人たちが居て、お前が居ることでこの世界はあるべき未来へと繋がってゆく。私は必ず、皆が笑顔でいられる未来に辿り着いてみせる。だから約束して。花咲春希として全力で生きるって』
私がそう問いかけようと、花咲春希は何も言うことはなかった。
だが、ほんの僅かだけ首を縦に動かしたその瞬間を、私の目はしっかりと捉えていた。
『……ありがとう。それじゃ、行ってくる』
黄金の光は目が眩むほどの輝きへと強さを増し、私の体はその白光に溶けるかのように掻き消え、意識は眠りに落ちるように消えていった。
◇
◆7月7日 午後7時15分◆
「行っちゃい……ましたの……」
もう一人の私の姿が消えたことを確認してから十数秒ほど経過した後、芽衣は独り言のようにボソリと呟いた。
「そうですわね……。ですが、あちらのちーちゃんは本当に過去を変えられるでしょうか……?」
祈莉は片眉を曲げながら首を傾げる。
「お姉ちゃんならきっと大丈夫!だって、私のお姉ちゃんだもん!!」
夏那がまるで自分のことのように自慢げにドヤ顔を決めると、芽衣と祈莉は顔を見合わせながら笑みを浮かべた。
私はその様子を遠巻きに眺めながら、誰にでもなく呟く。
「パンドラは誕生しない……か……。過信が弱点だとか言っておきながら……」
私が凝り固まっていた背筋を伸ばしていると、芽衣はこちらの様子に気付いて歩み寄る。
「春希さん……あの……先ほどは……」
「いいよ。気にしてないから」
私は芽衣の謝罪を流し聞きしつつも、右手の指をパチンと鳴らす。
「あ……れ……?」
「これ……は……。何が……起き――」
その直後、まるで気を失うかのように、祈莉と夏那の二人はバタリバタリとその場に倒れ込んだ。
「……!?み、皆さん、大丈夫ですの!?」
芽衣はすぐに駆け出し、二人を介抱するように屈み込む。
「これは一体……何が起こって……!?」
スラリとした綺麗な背中を見下ろしながら、私はその無防備な後頭部に手をかざす。
「――芽衣。ごめん」
私が左手に力を込めると、芽衣は他の二人と同様、力を失ったかのように地面に倒れ込んだ。
「こ……これ……は……。は……春希さん……が……?な……ぜ……?」
朧げに見上げる芽衣に、私は呆れたように笑みを浮かべながら告げる。
「皆、私のことを信用し過ぎ」
まるで事切れるように瞼を閉じた芽衣を確認した私は、事なきを得て安堵の溜息を吐く。
「ふぅ~……」
『これは何のつもりだい?レム?』
背後から唐突に声を掛けられ、私は驚きながらも、振り返ることもなく返答する。
「ノワ……やっぱり居たのか……。それと、一応言っておくが私はもうシャイニー・レムじゃない」
『……?キミは……もしかして……?』
私はノワに向き直り、言い放つ。
「ノワ。私のために、最後まで付き合ってもらうぞ」