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魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
ライジング・サン編
166/183

第32話 魔法少女は希望と絶望で。(4)

 ◆7月7日 午後5時10分◆


 ポツリポツリと雨粒が地面を濡らしはじめ、数秒と待たずして雨だれの音が静寂を掻き乱すほどに鳴り響いた。

『私を……私をその名で呼ぶなぁああーー……っ!!』

 パンドラは叫ぶように咆哮を上げながら大鎌の柄をつま先で蹴り上げ、手首を使って器用にそれを回転させる。

 すると、全身を絡め取っていた蔦は少し刃に触れただけで糸の如く切断され、拘束を解かれたパンドラは大きく後方へと飛び退る。

『私は……花咲春希なんかじゃない……っ!!花咲春希は身勝手で……幼稚で……無責任で……!一番の親友すら守れないほど……弱い……っ!!あんなのは……私じゃない……っ!!』

 喉を詰まらせたかのように途切れ途切れに声を発しながら、パンドラは私の言葉を真っ向から否定した。

「身勝手で幼稚で無責任で弱い……か……。そう言われると耳が痛い……。けど、あーちゃんを死なせてしまった自分を否定するために過去から目を背け、目の前の現実から逃げている今のお前はどうなんだ?異空現体(アカシクス)研究所(ラボラトリー)に協力しているのも、本当にお前の本心なのか?」

 私がそう問いかけると、パンドラは自らの顔の半分を左手で覆いながら呟いた。

『私が操られているとでも言いたいのか……?あの時みたいに……?』

 肯定するように私が頷くと、パンドラは黒雲で淀んだ空を見上げ、大きな高笑いを上げた。

『はは……ははははっ……!!私は私の意志で過去を捨てることを選んだっ!!その対価として、誰にも脅かされることのない、完璧な体を手に入れた!!私は以前のように弱くないし、もう何も失うものもない……。だからこそ私は、この歪みきった世界の構造を正しい形にすると心に誓った……っ!!私は私にできることをする……っ!!ただそれだけだ!!!』

 演説を終えたパンドラの瞳は、その内に秘めた想いを表現するかのように炎の如く赤く煌めいた。

「素晴らしい……っ!!我欲を捨て、世界に尽くそうという貴方様の高貴なるご決断は、神となって人を裁く器にまさしく相応しい……!!ははは……!!やはり、私の目に狂いはなかった……!!」

 イクスは何度も手を叩きながら、満足げな笑みを浮かべた。

「そういう……ことか……」

 そして私は、目の前の自分が如何にして今のような結論に至ったのかを悟り、喉の奥から苦言を漏らす。

「私はお前の選択が正しいとは思わない。あーちゃんや他の皆だって、きっとそう言う」

『……っ!平然と私に成り代わっておいて、“正しい”……?私が……間違っているとお前は言いたいのか……?』

 私が無言で頷くと、パンドラは私のことを鋭い瞳で睨み付け、その巨大な鎌を頭上で回し始めた。

『お前みたいなマガイモノに私の何が判る……?お前の記憶は、私の記憶だ……!!お前は……お前なんかには……あーちゃんを語る資格は無い……っ!』

 大鎌の遠心力を利用しながら自身も回転を始め、砲丸投げのようにそれを空に向かって投げ放った。

 まるでブーメランのような軌道を描きながら、私に向かって大鎌が迫ってくるのを横目で確認する。

 しかし、私はそのまま目を瞑り、その場から一歩も動こうとはしなかった。

「春希さん!?避けてください!?」

 芽衣の声が耳に届いてはいたものの、私は心配はいらないとばかりに首を横に振る。 

「――パンドラ。お前の目に、私はどう映ってる?」

 風を切るような音が心臓の高鳴りに呼応するように迫り、数秒も経たないうちに私の耳元まで近付いているのが判った。

 しかしそれでもなお、私はその瞬間が訪れることを信じ、ただただ待ち続けた。


 ――パシッ……!!


 風切り音が止み、その音が聞こえて瞼を上げる。

 芽衣は信じられないといった様子でパンドラのことをまじまじと見つめ、当のパンドラは大鎌を防ぐように私の真横で仁王立ちをしていた。

「な……ぜ……?私の知っているあなたは、他人を守るようなことは決してなかった……。まさか本当に……本当にあなたは春希さんなんですの……?もしそれが本当なら、私はなんのために……」

『違うっ!私はパンドラ……!!花咲春希なんかじゃない……!!!』

 私は串刺しにならなかったことに内心で胸を撫で下ろしながら、少しばかり小さく見えるその背に語り掛ける。

「……私はマガイモノでお前のニセモノかもしれないけど、お前と同じ記憶や意識を有していることに変わりはないし、お前の考えてることも、何を大切にしているかってことも全部知ってる」


 昨年までの私は、変身することは出来ないながらも、元・魔法少女としての責務や使命であるのだともっともらしい理由をつけ、魔法少女としての姿勢を変えるようなことはなかった。

 だが、其の実は使命感でもなんでもなく、何もしないことによって私が魔法少女だったという過去が全否定されてしまうのではないかと、私自身が変わることを恐れていたと表現するほうが正しかった。

 スイッチを切り替えるように別人の演技をしたり、他人の真似事が出来る人間は往々にして存在するものの、性格や思考、信念を曲げることなど、どんなに頭で意識していようと変えられないものはあるし、経験として刷り込まれているものであるほど変えることは難しくなる。

 それ故に、私は()()()()()()()()()()()()()()を利用することにした。


「……()()()()()()()()()()()()()()()()。まして、無防備な相手を攻撃する真似なんて到底できない。口では捨てたなんて言っていても、染みついた正義感はすぐには捨てられない……お前は紛れもなく花咲春希なんだ」

『うるさい……うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさい……っ!!!私は……パンドラ……!!この眼とこの力で、世界から悪を根絶する神……パンドラだ……っ!!』

 パンドラは以前と同じように、振り返りざまに私の喉元へと左手を伸ばす。

 だが、私はその手首を掴み返すと、そのまま捻り上げる。

『……っ!?』

「お前がそこまでして力を欲した理由は私も判ってるし、納得もしてる。私だって、皆を危険に晒すことのないくらいの力があれば、もっと上手に出来るのにって何度も考えてきたし、一年前の事件だって、私に力があれば犠牲を出さずに解決出来たかもしれない……。私にもっともっと大きな力があれば、こんな理不尽な世界も変えることが出来るのにって……。だからお前は私らしく、ただ合理的に()()()()()()()()()()()()

 パンドラは戸惑うように視線を泳がせたあと、溜息一つ吐く。

 そして、スイッチを切り替えたかのように私の顔を真っ直ぐ見据えた。

『ああ……そうだ……。力が無ければ何も守れない……。お前が私と同じ記憶を持っているのであれば、それを嫌というほど知っているはずだ……!!強者も弱者も関係なく、無慈悲に命を奪われることもなく、皆が幸せに笑って暮らせる世界を創る……それが花咲春希の求めていた理想……。そのためには、何ものにも縛られることのない、悪を排除するための絶対的な力を持ったヒーローが必要だった……!私はその理想を追い求めるため、世界を変えるほどの力を欲し、そして力を手に入れた!!あーちゃんだってそれを望んでいるはずだ!!私は間違ってない!!!』

「ヒーロー……か……。だから異空現体(アカシクス)研究所(ラボラトリー)の連中に魂を売るような真似をして力を得た……」

 もしも私に力があったら、失うことは避けられたかもしれないし、別の選択肢があったかもしれない――大切なものを失ってしまうことに対して大きなトラウマを持つ私にとって、パンドラの考え方は共感できる理屈だった。

 だが、今の私はパンドラの考えを安易に肯定することは出来なかった。

「それでも、今の私はお前に共感は出来ない。だって、私はもう知ってるから」

 眉をひそめ、パンドラは睨みつけるような眼光を私に向けた。

「夏那も芽衣もイノちゃんも……そしてきっとあーちゃんも……誰も()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、どんなことがあっても、()()()()()()()()()()()()()()

『なるほど……。お前は、私の知らない花咲春希を知ってるんだな……』

 パンドラは小さな溜息を吐き、私に振り返った。

『お前がそこまで言うのなら、お前が花咲春希であることは認めてやる……。だが――』

「――っ!?」

 目前に居たはずのパンドラの姿が忽然と消え、すぐに異変を察した私はすかさず前方へと飛び込む。

 その直後、私が立っていた場所を薙ぐように大鎌の切っ先が通過した。

「ば……!?」

 受身をとるように前転しながら地面を転がり、すぐさま顔を上げる。

 そこで真っ先に視界に入ったのは、すでに大鎌を振りぬかんとするパンドラの姿だった。

時間の欠落(タイムラプス)……!?」

()()()()()()()()

 私の身体はその動きに反応することもできず、首元へと着実に迫る刃を眼球で追うことしか出来なかった。


 ――避けられない……!?こいつ、私を本気で殺す気なのか……!?


 数秒後に迫る死を受け入れようとしたその矢先、その声が私の耳に入った。


「――モルゲンシュテルン!!」


 その直後、首元に迫っていた大鎌は巻き付いた鎖によってその動きを止め、私は九死に一生を得ることになった。

 それだけに留まらず、大きな影が弾丸のように接近し、鎖に引っ張られる勢いをそのままに一直線に飛び込んできた。

「えいやー!!」

 その人物の放った飛び蹴りがパンドラの腹部へと見事に決まった。

 しかしながら、相当な速度があったように見えたにも関わらず、パンドラはものの1、2メートル程度しか動くことはなかった。

「……っ!?そんな……!?」

 その人物は空中で身を捻り、ハンドベルのような武器を勢い任せに地面へと叩きつける。

 すると、地面はまるで地雷が爆発したかのように穿たれ、その粉塵が周囲に爆散し、二人の姿は粉塵の中に消えた。

「今のって……」

 粉塵の中を注視していると、金属を引き摺る音とともにその人物が姿を現した。

「りん……ちゃん……!?じゃなくて、メルティ・ベル……!?どうして……!?」

「何ボサッとしてるんですか!?そんなことはどうでも良いので、さっさと立ち上がってください!!」

「えっ……?あっ……ああ……はい……」

 怒るような口調でそう言われ、私は言われたままにはきはきと立ち上がる。

「アレはなんですか、バケモノですか!?私の渾身の一撃だったというのに、あの死神女ピンピンしてますけど!?意味が解らないんですけど!?」

 砂煙が降りしきる雨によってすぐに掻き消されると、パンドラは邪魔をするなと言いたげにメルティ・ベルに向けて赤い瞳を光らせていた。

「――お姉さん」

 一触即発の空気がにわかに漂う中、メルティ・ベルは私にしか聞こえないくらいの小声で呟いた。

「生憎ですけど、私ではあんなバケモノの相手はまともにできそうもありません。ですので、あのガサツ女の代わりに少しは時間を稼いであげるので、さっさとそのちっこい頭で打開策を考えてください。いいですか?」

 毒舌交じりで一方的に告げると、私の返答も待たず、メルティ・ベルはパンドラに向かって走っていった。

「相変わらず口は悪いけど、やっぱり良い子だな……。夏那は良い友達を持ったもんだ……」

 妹の見る目が確かであったことを自慢に思いながら、私はメルティ・ベルに言われるがまま、この場においてパンドラを黙らせる方法を模索しはじめる。

「とにかく厄介なのが、さっきの時間の欠落(タイムラプス)ってやつだけど……。もしかしたら……」


 芽衣が時間の欠落(タイムラプス)と呼んでいた、瞬間移動にも似たその力の正体を、私はおおよそ理解することが出来ていた。

 感覚的には一瞬で相手に近付いたように錯覚するものの、蓋を開けてみればそれは瞬間移動でもなんでもなく、ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という記憶操作に近いもの――簡単に言い換えれば、一瞬だけド忘れさせる魔法だと言えた。

 しかしながら、予知能力があろうと反射神経がどんなに良かろうと、接近するまでの記憶を綺麗サッパリ忘れてしまっている以上、その攻撃を瞬時に避けることは難しく、事実上の必中攻撃と呼べるほどに侮れない代物だった。

 だが、そんなチート紛いの攻撃にも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「この一回は大きい……りんちゃんには感謝しないと……。それと芽衣にも……」


『――これじゃ、話にもならない』


「く……屈辱……です……」

 私が数秒ほど目を離していた隙に、メルティ・ベルは自らの武器であるハンドベル型モーニングスターの鎖によって見事なまでにグルグル巻きにされ、まるでミノムシのように大鎌に吊るされていた。

「メルティ・ベル!?なんて哀れな姿に……。というか、負けるのはや!?」

 どんな事をすればこれほど短い時間で人を縛れるのかと私が感心している束の間に、パンドラはミノムシをそこらへんにひょいっと投げ捨て、次の標的は私だと言わんばかりにこちらへと視線を移した。

「――っ!?」

 言い知れぬ危険を察知して、一旦距離を取ろうと後退しようとしたそのとき、私はようやく足元に広がっていた異変に気がついた。

「足が……!?これは……蔦……!?そんな……まさか……」

 私の周辺一帯に根のような蔦が張り巡らされ、私の両足は蔦に絡めとられていた。

 幾重にも絡みついた蔦は足を動かそうとしてもビクともせず、私は泥濘(ぬかるみ)に足を取られたように体勢を崩しながらその場に倒れ込んだ。

『シャイニー・フローラだったっけ……?お前のその力はもう()()()

 パンドラは水溜りを踏みしめながら一歩一歩と私に歩み寄り、私の目前で立ち止まる。

 そして、蔑むような瞳で私を見下ろした。

『これでお前は名実ともに私より弱い』

 大鎌の切っ先を私の下顎に添えると、パンドラは満足そうに下卑た笑みを浮かべた。

「こんなに成長が早い……のか……。見ただけですぐに覚えるって……どこのチートスキルだよ……」

 成長補正の異常さを垣間見た私は心底驚きながらも、着実に迫り来るバッドエンドを回避するべく、精一杯の威勢を張る。

「でも、お前は私を殺せない」

 私が苦し紛れにそう言うと、パンドラは大鎌の角度を変え、まるで刃を研ぐかのように私の脇腹から腰へと刃先を滑らせる。

『それはどうだろうな』

 その鋭利な切っ先が私の太腿あたりに到着すると、パンドラはその刃先をゆっくりゆっくりと私の太腿に沈めていった。

「う……ぎ……がああぁああっ!?」

 切り裂かれるよりも深く重いと表現するべきか、刃の埋もれた患部は鳴動するように脈を刻み、熱した鉄の棒を押し当てられたかのように焼かれるような錯覚を覚え、途絶えることのなく続く激痛に私は歯を食いしばるしかなかった。

『お前を最初に見かけたとき、私はすごく驚いた……。どうして私の体が勝手に動き回って、普通に暮らしているのかって。だけど、私は考えることをすぐにやめた。だって、私の体の中身が何者であろうが今さら関係ないし、正直どうでもいいと思ったから』

「わ……私のことをまるで機械人形かゾンビみたいに言ってくれるな……」

『でも、今は違う。お前は花咲春希の記憶を持っていることを知った。だから私は、お前が花咲春希であると認めることにした。私と同じ考えが出来るなら、その意味が判るんじゃないのか?』

 その瞬間、私はようやくパンドラの真意を悟り、自分が大きなミスを犯したことに気が付いた。

「――っ!?大切な誰かを救うために自分を犠牲にすることを、私は躊躇(ためら)ったりはしない……。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 パンドラは私の足から大鎌を焦らすように引き抜くと、鮮血に染まったその切っ先を私の頬に当てた。

『そういうこと。だから私はもう、()()()()()()()()()()()()()()()()

 その瞬間、“パンドラを倒すことが出来るとすれば私しかいない”というノワの語った言葉の意味全てを、私はようやく理解した。

「……アニメやゲームみたいに、絶対的な悪なんてものは存在しない。悪は一方から見た主観であって、その悪にも必ず正義は存在する。お前がヒーロー気取りで悪人を裁けば、その瞬間から憎しみと復讐の連鎖が始まる……。だからこそ、芽衣は私たちの前に現れた……。お前がその大鎌を振り下ろせば、もう魔法少女には戻れないし、花咲春希にも二度と戻ることが出来なくなる……。お前はそれでもいいっていうのか……?」

 私は激痛に抗いながらも、狙いを定めるように人差し指をパンドラに向ける。

『花咲春希に……戻るだって……?ははは……!!私は悪を滅ぼす……そのために友達も、家族も、居場所も、自分の体さえ捨てた……!!今さら引き返すことなんてできるわけがない……っ!!何もかも、全部もう遅いんだよ……っ!!』


 今のパンドラは花咲春希であったという記憶と、パンドラであろうとする意識の間で揺れ動いており、未だどちらにも傾いていない中途半端な状態だと言える。

 だが、私がここで倒れ、花咲春希であったという枷を失ったその瞬間、恐らくパンドラはパンドラとして自らの存在を定義してしまうことだろう。

 そうなれば、パンドラは悪い心を持った人間を刈り尽くし、世界に終焉をもたらす存在へと成り果てるだろう。

 ようするに、私がここでパンドラに敗北することこそが、世界が破滅へと向かうターニングポイントなのだと考えられた。


「自分で言うのもなんだけど、お互い強情で諦めが悪――」

『――いい加減、見え透いた時間稼ぎも終わりにしよう』

 パンドラは私の魂胆など見え見えだと言わんばかりに話の腰を折り、大鎌を頭上に掲げた。

『――さよなら、花咲春希の亡霊。最後は苦しまないように殺してあげるから、安心するといい』


「春希さん!?」

「ちーちゃん!?」


「シ――」


 ――キィーン!!


 その直後、耳を(つんざ)くような金属音が鼓膜を貫き、私はようやく自分が攻撃を受けていたことに気付く。

「――っ!?」

 気がつくと、花弁の盾が私の目前に現れ、パンドラの振るった大鎌の切っ先を再び防いでいた。

『チッ……。シルトか……』


 たとえ時間の欠落(タイムラプス)が必中攻撃だとしても、そもそも()()()()()()()()()()()()

 つまり、記憶操作の干渉を受けず、自動的に相手の攻撃を防ぐようなもの――つまり“シルト”であればその攻撃を防ぐことは可能だと考えられた。

 そのため、私は時間の欠落(タイムラプス)が使われる直前にシルトを発動させていた。


「どうやら、祈莉に助けられたみたいだな……」


 一週間前、祈莉に便せんに入っていた二つの端末の解析を頼んだところ、二つの端末は一人の人間が同時に起動することによって、メルティー・ミラやメルティー・ベルとは別の形態――つまり、シャイニー・フローラに変身できるようプログラムされていることが判明した。

 その変身形態は、言ってみればメルティー・ミラとメルティー・ベルの力を上乗せしたような力を得ることが出来る形態だった。

 恐らく、未来の祈莉は、芽衣の用いる時間の欠落(タイムラプス)の力をパンドラに奪われることを承知の上、私にシャイニー・フローラの力を与えるよう、芽衣に二つの端末を託したのだろう。


『無駄なことを……。それはもう攻略済み……』

 パンドラは被っていた黒マントを脱ぎ、それを私に向かって投げるように広げた。

 その方法はメルティ・ミラと対峙したときに鏡の盾を攻略した方法と同じだった。

『今度こそ……終わり……っ!!』

 再び大鎌を構えるパンドラを確認し、私はここというタイミングを逃すことなく、その言葉を発した。


「――()()()()()()()!!」


 ――バシュッ!!


『な……に……?』

「これで終わりだ。パンドラ」

 1センチにも満たない風穴が黒マントに空き、その向こう側に存在するパンドラの胸部付近でソレは弾けた。


「――グロース・ライト!!!」

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