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魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
ライジング・サン編
158/183

第31話 魔法少女は変わりゆく世界で。(1)

 ◆5月9日◆


 少しばかり年季の入った愛車に身を委ね、自由という行為を満喫するかのように、人通りの少ない道を軽快にひた走る。

「やっと暖かくなってきたなー……」

 顔を撫でる空気から季節の移ろいを微かに感じつつも、私は冷たさの残る風を切りながら道なりに進む。

「……お?」

 やがて視界に捉えた十字路に、私は身構えるように気を引き締める。

「私のドライブテクを……見せてやろう……!!」

 誰にでもなくそう呟くと、手元のスティックを左に傾け、ドリフトしながら十字路をド派手に曲がる――ような気持ちで、ゆっくり安全に道を曲がる。

「よし。なかなかいい感じに仕上がってきた――な?」

 新しい相棒との相性を確かめながら優越感に浸っていると、曲がってすぐにある電気屋がふと目に留まり、私は速度を緩める。

「……?」

 正確に言うならば、私が気になったのは電気屋のほうではなく、ガラス張りのショーケースの中に設置されていたテレビへと真剣な眼差しを向ける少女のほうだった。

 私はスティックを手前に傾けて後進し、ガラスの向こう側へと熱視線を向ける少女の背後へと愛車を停車させる。

「……君、何してるの?」

「――っ!?」

 その少女は突然声を掛けられたことに驚きながら、ショーケースに背を預けるように振り返った。

 そして、突然振り返った少女に、私も驚いた。

「あ、え~っと……。別に私は怪しいものじゃないんだけど……」

「……!?」

 今にも泣き出しそうなほどに警戒し、少女は怯える子犬のような目で私のことをジッと見つめ返していた。

 それから両者とも微動だにしない沈黙が長々と続き、これ以上周囲の目に晒されれば社会的抹殺もあり得るかもしれないと危惧した私は、慌てて取り繕うように謝る。

「お、驚かせて悪い。君……迷子でしょ?どうしたの?」

「ど……どうして……わかるの……?」

「う~ん……。勘……かな?」

 私は少女が迷子であると()()()察していたが、あえてその根拠を突きつけるようなことはしなかった。

 だが、それが少女に警戒心を植え付ける結果となったのか、少女は疑いの視線を一層強くした。

「お兄さんは……嘘つき……」

「なるほど、そうきたか……」

 ガラスに映り込んでいる自分の姿を見て、少女が怯えている理由に納得し、私は被っていたハンチングキャップを脱ぎ、マフラーを外した。

 そして、団子で纏めていた髪を解くと、少女の表情はみるみるうちに変わっていった。

「お兄さん……じゃない……!?」

 驚愕している様子の少女にそのままハンチングキャップを手渡すと、少女は困惑した様子で首を傾げた。

「それは君にあげる」

「えっ……?なんで……?」

「友達の証」

「とも……だち……」

 少女は不思議そうにハンチングキャップを凝視し、片眉を上げた。

「――ということで、これで私たちはもう友達。だから、私は君を助けるに足る正当な理由が出来た。そういうわけだから、困っている君を私が助けるのは当たり前なこと」

「たす……ける……?」

 その言葉に反応するように顔を上げ、少女は驚きながら私を見つめ返す。

「私が君をおうちに帰してあげるってこと。だって、私は――」

 私はそこまで言いかけ、その先を語ることなく口を閉ざした。

「いや……なんでもないよ。名前を聞いてもいいかな?」

 右手を差し出しながらそう問い掛けると、少女は戸惑いながらも私の手を握り、呟くように名乗った。

「なまえ……。わたしは――」





 ◆6月29日 午後1時◆


「今日はいい天気だねー!お姉ちゃん!」

「……そうだな」

 そう言われて天を見上げるように顔を上げると、目に刺さるような陽光が私たちを否応なしに照らしていた。

 私はその光を遮るように手のひらで影を作りながら、掛けていた眼鏡を外す。

「……」

 いつか見た空のように、その光景が一変するようなことはなく、私は小さなため息を吐きながら、被っていた帽子を目深に被りなおした。

「どうしたの?お姉ちゃん?気分、悪いの?」

「……なんでもないよ。こういう扱いにまだ慣れてないだけ」

 私は人差し指を下に向け、()()()()()()()()()を指差す。

「そっかー。そうだよねー……。ごめんね?強引に連れ出しちゃって?」

「いや……。私一人で外出なんてもう出来ないから、気分転換には丁度いい」

 妹によって車椅子に乗せられた私は、青空の下へと強引に引き摺り出され、こうして散歩へと駆り出されていた――というのは脚色し過ぎではあるが、家に篭っていると何かをする気力も起きず、ゴロゴロしているだけの日々に嫌気が差しそうだったのも事実なので、私は「気分転換も兼ねて散歩に行かないか?」という妹の提案に乗ることにした。

 しかしながら、私が目を覚ましてから数日しか経っていないためか、私がこうして復活を遂げたことはご近所にはそれほど知れ渡っておらず、車椅子に乗せられながら移動しているというだけで、近所のおばさん連中に何度もエンカウントしては哀れみの弾丸を受けていた。

 このご時世において親身になって気に掛けてくれるのは有難い話ではあるものの、コミュ障の私からすればご近所の衆目に晒されるのは見世物にされているようなもので、正直なところあまり気分の良いものではないし、精神的なストレスも少なからず感じていたので、外出して早々ながらに私は疲弊していた。

「……いつでも言ってね?私がお姉ちゃんをどこへでもバビューンと連れてってあげるから!!」

「バビューンって……今日日(きょうび)聞かないな……。まあでも、その厚意は受け取っておく」

 今の私は自分の足だけで外出することすら難しい状態であり、散歩に連れ出されているという今の状況に文句など言えた立場ではない。

 そんな事実を認めながら、私は小さな溜息を吐いた。





 ◆6月29日 午後1時15分◆


「えーっと……ちょっと飲み物かって来るねー?だから、ここで待っててー?すぐに戻るからー!」

「あ?えっ?ちょっ――」

 車椅子から私を降ろし、休憩所のベンチに座らせると、夏那は急に余所余所しい態度でどこかへと走り去っていった。

 その様子を不思議に思いながらも、私は成す術もなくそれを見送る。

「なんだったんだ……?」

「あれ……?もしかして、花咲さん……?」

 私が呆然としていると、間髪いれずに私の名を呼ぶ声が耳に届き、声が聞こえた方向を振り向く。

 そして、声の主を視界に捉えて驚きながらも、何故だか懐かしさのようなものを感じ、私は思わず声を漏らした。

「ハー……マイオニー……?」

「ははは。そう呼ばれるのも、ちょっと懐かしいですね?」

 学生服でも女装でもなく私服姿ということもあってか、私はその姿に一瞬だけ違和感を感じたものの、ハーマイオニーは以前と変わらぬ笑みを浮かべながら、私の近くまで歩み寄った。

「目が覚めたとは聞いていましたけど、まさかこんなところで会うなんて……」

 私はハーマイオニーを見上げる形になり、思ったことが口からそのまま出た。

「なんか……大きくなった?」

 私がそう呟くと、ハーマイオニーは小首を傾げた。

「大きく?またまたー、思ってもないことをー。久しぶりに会った親戚みたいなこと言わないでくださいよー?」

 そう言いながらも、ハーマイオニーは満更でもなさそうに笑った。

 だが、私の“大きい”という感想は嘘でも世辞でもなく本音であり、ハーマイオニーの身長がどうこうというより、物腰や雰囲気といった存在感のようなものに対して出た言葉だった。

「隣、いいですか?」

 私が戸惑いながらもゆっくり頷き返すと、ハーマイオニーは私の隣に腰を下ろした。

「……」

 しかし、わざわざ了承を得てまでそこに座ったにも関わらず、自分から話題を振ることもせず、ハーマイオニーはただただボーっと流れ行く白い雲を見つめていた。

 モヤモヤとした気分に堪えかねた私は、恐る恐るながら自分から口を開く。

「あ、あの……私に……何も聞かないのか……?」

「……?それはこっちの台詞ですよ?一年間も寝ていたら、気になってたりしてるんじゃないですか?その間に何があったとか?」

「そっか……そういうことか……」

 ハーマイオニーが私の隣にわざわざ腰掛けた理由は、雨の死の真相について私を問い詰めるためなのだろうと勝手に決めつけていた。

 だが、ハーマイオニーのその一言によって、それが私の誤解であることが判明し、私はホッと胸を撫で下ろした。

 ようするに、ハーマイオニーは私と話す時間を作るよう、わざわざ気を利かせてくれたということなのだろうと私は悟った。

「生徒会のこととか、みんながこれまでどうしていたとかは、なんとなく気になってた……。だけど、考えてみたらそんなことどうでもいいかなとも思った……それが本音」

「どうでもいい……?」

 ハーマイオニーが不思議そうに聞き返すと、私は肯定するように小さく頷いた。

「だって、()()()()()()()()()()()()()()。そんなことを知っても意味が無い」

 ハーマイオニーは少しだけ残念そうな顔を見せると、空を見上げた。

「そう……ですか。僕は転校した友達がどうなったとか、小中学校の頃の友達が今どうしているのかって気になりますけどね?たとえ同じ場所で生活していなくても、友達は友達ですから」

「……友達、か」

「まあ、花咲さんが聞きたくないというのであれば、ここからは僕が話したいことを勝手にお話しますね」

「なんでそうなる……。というか、私の話を聞いてたのか?」

 私の苦言などお構いなしといった様子で、ハーマイオニーは咳払い一つすると自分の話を始めた。

「五月さんが病院に運ばれて数日後、そのまま息を引き取ったと聞かされました。もちろん、僕は最初信じられませんでした。尊敬している人だったし、何度も救われてきた恩人――いえ、僕にとっては目指すべきヒーローみたいな存在でしたから、死ぬことなんてあるはずがないって思ってました。だから告別式当日になっても信じられなかったし、五月さんの前では泣くわけにはいかないって決めてもいたんです。それでも、棺に入った五月さんの真っ白な顔を目にしたとき、それが本当のことなんだって理解してしまったんです。それからの僕は……ちょっと言葉にするのは恥ずかしいですね……」


 正直に言えば、私も雨が簡単に死ぬことはないと心のどこかでは思っており、この先何十年と共に歩み、一緒に成長してゆくのだろうと頭の中で思い描いていた。

 しかし、人間なのだから病気や事故で死んでしまうことも有り得るというのに、そんな未来などあるはずがないと可能性を捨て、疑うことすらもしなかった。

 だが、現実にそれは起こった。

 それだというのに、現実に直面してなお、未だ雨の死を受け入れていない自分が確かに存在していた。

 勿論ながら、私は雨の告別式には出ておらず、雨の最後の姿を見てもいない。

 この目で見ていない以上、それを信じることは難しかったし、それを信じてしまうことで、何かを失ってしまうような気さえしていた。

 半信半疑だからこそ、私はなんとか今の自分を保っていられるのかもしれない。


「ごめん……」

「自分の責任だ……なんて言わないで下さいよ?悲しい出来事ではありましたが、少なくとも僕にとってあの出来事は転機でもあったんですから」

「転……機……?」

 まるで私の思考を見透かしているかのように、ハーマイオニーは私の考えていたことを言い当てると、力強く頷いた。

「僕は……いえ、僕たちは気付かされました。五月さんが亡くなり、花咲さんが目を覚まさなくなったことで、自分たちがどれだけお二人に支えられていたのかを。だから、僕は決意したんです。お二人のように誰かを支え、助け、皆に頼りにされるような立派な人間になろうって」

 その眼差しは私の知っているハーマイオニーとはどこか違っているように見えた。

 それと同時に、雨の眼差しに似ていると率直に感じた。


「あー!?こんなところにいたー!?」


 ハーマイオニーが語り終えるのを見計らったかのようにその叫び声が聞こえ、私たち二人は声がした方向に視線を向ける。

 すると、夏那が私たち二人を指差しているのが目に留まった。

「あ……」

 私はすぐさまハーマイオニーの全身を流し見したあと、その服装はマズいと直感的に悟り、身を挺して隠そうとする。

 しかし、夏那は自慢の脚力によってわずか数秒足らずで急接近すると、そのまま私の背後へと回り込み、ハーマイオニーの顔を覗き込んでいた。

「どこ行ってたんですかー?探しましたよー?セ・ン・パ・イ♪」

「ごめんごめん、夏那ちゃん……。場所間違えちゃったみたい」


「……は?」

 一見すると普通の挨拶ともとれるそのやり取りで、私は大まかな事情を察することとなった。

「も、もしかして……バレてるのか?」

「あー……え~っと……。はい……。五月さんの告別式で夏那さんとバッタリ会ってしまって……」

 よくよく考えてみれば、ハーマイオニーと夏那は同じ学校に通うようことになったわけであり、生徒会長でもあったハーマイオニーが夏那に身バレしてしまうのは、遅かれ早かれ必然だったことだろう。

 そのイベントをこの目で拝めなかったことは、後生悔やむことになりそうなほど残念ではあったものの、私にはそれ以上にとても気に掛かっていることがあった。

「まあ、それはいい……。まず聞くが、どうして私を外に連れ出す小芝居までして、二人は待ち合わせなんかしていた?」

「……ば、バレてたの!?」

「さ……さすが、花咲さんですね……。もうそこまで……」

 夏那は私たちを指差して「こんなところにいた」と言っていた。

 当然ながらその言葉は、この場から動いていない私に向けられたものではなく、必然的にハーマイオニーに向けて言われたことになる。

 そして、ハーマイオニーの「場所を間違えた」という発言から察するに、二人は事前に連絡を取り合っており、どこか別の場所で待ち合わせをしていたことは明白だった。

 しかしながら、二人がそんなことをする理由が私には思い当たらなかった。

「コホン……。じ、実はお姉ちゃんが目を覚ましたら言おうと思ってたんだけどね?」

 夏那は私に向き直ると、背筋をピンと伸ばし、緊張するように畏まった様子で固まった。

「実は――」

「――ちょっと待っ……ゲホッ!ゲホッ……!!」

 目覚めてからはじめて大声を出し、私は何度も咳き込む。

「お姉ちゃん大丈夫!?どうしたの!?気分悪くなっちゃった!?お水飲む!?」

「ああ……い、今まさに……。水はいいから、ちょっとだけ心の準備をさせてくれ……」

 夏那がハーマイオニーのことを慣れ親しんだ様子で「セ・ン・パ・イ♪」などと呼んでいたことから、とてつもなく悪い予感のようなものを私は感じとっていたが、ようやく自分が()()()()()()()()()をしていたことに、気付かされることになった。

 それは、一年もの長い間、不在である時間を作ってしまったことだった。

 私や雨以外にハーマイオニーと呼ぶ人間は妹しか居なかったはずだが、ハーマイオニーは「ハーマイオニー」と呼ばれることが久しいと言っており、妹はハーマイオニーのことをセンパイと呼んでいた。

 互いの呼び方を変えることに、一年という時間は少なくはないと言えるし、ハーマイオニーがわざわざ「僕たちは」と言い直していたことからも、二人は同じような境遇に立たされた者同士、互いを支え合いながらその時間を過ごしていただろうということに、疑いの余地などない。

 だとすれば、私をこの場に連れ出すように画策し、コソコソと連絡を取り合って待ち合わせした挙句、二人揃って畏まりながら私に報告することがあるとすれば、それは一つしか考えられなかった。


「じゃあ、言うね……?わ、私たち……お付き合いすることになりましたー!!」


「うん。はい。おめでとうー」

 私は棒読みの賛辞と雑な拍手を形式的に送ると、ハーマイオニーに向き直り、手招きをした。

「……というわけで、ハーマイオニーちゃん。ちょっとこっちに来てくれるー?」

「は、はいぃ……!?こ、これはなんだか……すごく嫌な予感が……!?」


 …


「あれ……?なんだか空が曇ってきたねー……?そろそろ帰ろっかー?」

「そうですね……僕もなんだか疲れました……」

 知っても意味が無いなどと豪語しておきながら、私はハーマイオニーを尋問の如く問い詰めた。

 あれだけ釘を刺していたというのに、私が寝てる間に大事な妹に手を出していたというのだから、これはあって然るべきの罰であり、姉として当然の権利だと主張しながら、様々なことに釘を増量しておいた。

「おっと、言い忘れてた」

「な……なんです……?ま、まだあるんですか……?」

 疲労の色が滲むハーマイオニーを再び手招きし、妹に聞こえないよう耳打ちする。

「……言いたい事はまだまだあるけど、これからも妹のことを支えてやって欲しい」

 表情の問題を未だ抱える妹には、私以外の支えが必要だと以前から考えていた。

 私はもう妹を支えてやることは出来ないし、このまま生活が続く限り、妹は私を気遣い、私が妹の重荷となってしまうことは目に見えていた。

 だからこそ、今の私にとってこの結果は、むしろ好都合とも言えた。

「……はい。わかりました」

 ハーマイオニーは大きく頷くと、ニコリと笑った。

「あ、そうだ。それなら僕からも一つだけ」

 どこかで聞いた言い回しをしながらハーマイオニーは再び私に耳打ちをする。

「さっき五月さんのことで僕に謝りましたけど、あれは違うと思いますよ?」

 私は眉を潜めながら首を傾げた。

「僕は詳しい事情は聞かされていませんけど、これは断言できます。きっと、五月さんは後悔なんてしていない。だって、たとえ自分が命を落とすことになっても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ヒーローという言葉を聞いたその瞬間、私の脳裏に雨の残した最後の言葉が浮かんだ。


 ――『私はずっと、チーの親友だ』。


 あの状況で、雨はどうしてそんな言葉を私に掛けたのか、ずっと疑問に思っていた。

 だけど、私はようやくその言葉に込められた意味を理解した。


「やっぱり、お前のほうが向いてるのかもしれない」

「えっ……?何か言いました……?」

「なんでもない」


 …


「それじゃあねー!センパイ♪」

 ハーマイオニーは手を振りながら私たちを見送っていた。

「さっきは二人で何の話をしてたのー?」

「大したことじゃない」

 いつの間にか灰色の雲で覆われてしまった空を見上げ、私は小声で呟く。

「死んでからも助けられるなんて思ってなかったけど……それならせめて、あーちゃんには生きていてほしかったな」


 雨が最後の最後に私に伝えようとしたのは「どんなことがあっても、私たちの関係が変わりることはない」ということなのだろう。

 今の私がまさしくそうであるように、あの一件を自分の責任だと後悔し、悔やみ続けることを見越し、自分の死期を悟った雨はそれを否定しようと、その言葉を選んだ。

 私は親友の残した最後の優しさをそっと仕舞うように、心の中で「ありがとう」と囁きながら胸に手を当てた。


「――待……て……」


 “いつの間にか”という言葉は、その状況にまさしく相応しかった。

 黒い布のようなものを全身に纏った人物が、音や気配もなく、いつの間にか私たちの前に立っていた。

「うわぁ……!?ビックリしたー……。だ、誰……?」

 私はその特徴的な風貌の少女に覚えがあった。

「君は……この前の……?」

 それは私が目を覚ましたあの日、雨の家の前に立っていた黒づくめの少女だった。

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