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魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
フォールン・ムーン編
144/183

第28話 魔法少女はそれぞれの葛藤で。(3)

 ◆6月19日 午後4時◆

「――さて、と。まずは芽衣を助け出す算段を立てないと……だよな?」

 同意を促すかのように雨が私に視線を送るも、私は言い淀むように口を開く。

「それなんだけど……。芽衣を救い出す方法が他に無いわけじゃなかったりする」

「えっ…?マジ…?それなら、なんで……」

「私は可能性が少しでも高い方法を選択しているつもり。だけど、その方法は可能性どころか実現性すら乏しい。その方法には大きな問題が二つもあるから」

 私は備え付けのホワイトボードの前まで移動し、壁画のように描かれた花畑を、問答無用と言わんばかりに無言で消しはじめる。

『あー。僕の傑作がー』

 大して残念でもなさそうにノワが呟いたことに気付きつつも、私は聞こえないことにしてホワイトボードをあるべき姿へと戻すと、硝子髪人形(グラスドール)片眼鏡紳士(モノクルメン)をゆるキャラ風の似顔絵で並べるように描き、硝子髪人形(グラスドール)の隣に四角い端末を描く。

「まずは一つ目。それは、あの端末を奪う方法。そのためには――」

 赤いマーカーを手に取り、三つの絵を遮るかのように、それぞれの隙間に斜めの線を入れる。

 すると雨は「あっ」と声を漏らすと同時に、納得するように何度も頷いた。

「そうか……。あの金髪変態野郎があのガキんちょに張り付いてると、スマホみたいなあの機械を奪えない……。今の私じゃ、あいつの不意を突くこともできない……」

「お二方を引き離す方法を考え、その上であの機械を奪う必要がある……。ちーちゃんはそう仰りたいのですわね?」

 私は無言で頷くと、再びホワイトボードに向かい合う。

「二つ目。芽衣をどうやってあの端末から助け出すのか」

 四角い端末から矢印を伸ばし、その先に芽衣の似顔絵を描いてゆく。

「えっ…?芽衣の額に当てて、リリなんちゃらって言えば良いんじゃないのか…?」

「……そんなに簡単ではないと思いますよ」

 雹果が突然ボソリと呟くと、私はそれを肯定するように首を縦に振る。

「……スマホだって普通にロック機能があるし、私たちがあの端末を使える保証はない。りんちゃんが本人かどうかを確認させたあの時、私たちにあっさり端末を渡したことや、私たちの前でりんちゃんの意識を戻す方法をわざわざ見せたのは、私たちにその動作を真似されないという自信があるからだと思う」

 私たちが端末に閉じ込められた八代霖裏が本物かどうかを確かめる際、硝子髪人形(グラスドール)はなんの躊躇(ためら)いもなく私たちに端末を手渡しただけでなく、八代霖裏の意識を戻す過程の一切を包み隠さず、私たちに披露した。

 硝子髪人形(グラスドール)なりのエンターテインメントだと言われればそれまでだが、秘密裏に動くような組織であれば、安易に手の内を見せることがどれだけ危険なことかを理解していないはずはない。

 考えられる可能性としては、絶対に奪われない自信があるか、奪われても問題がない――つまり、他人が使用できないような、何かしらの認証が必要なのだと考えられた。

「こりゃあ、難易度やばたにえんだなー……」

 へたりこむように雨がソファーに腰を沈めると、私はすぐさま苦言を呈す。

「あーちゃん。残念だけど、休んでる暇なんてないよ?私がこの作戦に可能性を見出した理由は、()()()()()()()()()()と、()()()()()()()()()()()()()()()()

「はっ……?どういう意味……?」

 私はその手を取って、雨をソファーから無理矢理に引き剥がす。

「今のままだと、まだまだ情報が足りない。不確定のまま行動に移せば、その分確実性に欠けるし、みんなを危険に晒すことにもなるから、それ相応の準備はしておきたい。だけど、芽衣のことも考えれば悠長にもしていられない」

「えっと、つまり何が言いたいんだ……?」

 雨が小鳥のように小首を傾げる。

「慎重かつ大胆にってこと。あーちゃんと雹果の二人には、()()()()敵地に乗り込んで敵情視察と検証をしてきてもらいたい」

 「これから」という部分を十分に強調しながら、私は雨の肩を強く叩く。

「――は?……って、はあ!?敵地に乗り込む!?今から!?」

「敵情視察……。なんだか楽しそうな響きですね」

 約一名ほど私の想定とは違った反応を見せたものの、やる気だけは感じられたので私はそのままスルーする。

『なんか面白そうだねー?それなら僕も――』

 ノワが意気揚々と飛び跳ね始めたところで、私はその頭頂部を鷲掴みにする。

「お前は私と一緒に居残り。敵の情報を集めることと、必要なものを集めることを全員で手分けして、同時進行で進める。私はここに残って、物資の調達とノワ(コレ)から根掘り葉掘り、出来るだけ情報を引き出す。結局のところ、相手のことを一番よく知っているのはコイツだから」

『根っ掘りー、葉っ掘りー、おってやっわらっかにー♪』

「ん~…。ま、そういうことなら仕方ないか……。学校帰りに敵情視察ってのはヒーローっぽくて悪い気はしないけど……。でも、本当にそれで良いのか女子高生……?」

 雨は自分自身を納得させようとしながらも腑に落ちきらない様子だったが、私はそんなことはお構いなしとばかりに、雨と雹果を部屋の外へと追いやる。

「時間が惜しいから、細かいことは移動しながらLIGHT(ライト)で伝える。そういうわけだから、イノちゃんは二人を異空現体(アカシクス)研究所(ラボラトリー)の居場所に案内してほしい」

「わかりましたわ」

 祈莉はゆっくりとした足取りで部屋の外へと出る。

「んー……?道案内がイノ……?つか、そもそもイノに道案内なんて勤まるのか……?」

「頑張れ」

 私は扉の隙間からそう言い残し、重厚な木の扉を閉めきった。





 ◆6月19日 午後6時◆

 部屋の自動扉が突然開くと、二人の人影が姿を現した。

 そのうちの一人が私の顔を見るなり、驚くでもなく首を捻った。

「う~ん、と……。君は確か、あの場に居た子だよねー?なんとなく覚えてるよー?」

「自己紹介が遅れました。私は(いぬい)祈莉(いのり)と申します」

 貴族のように背筋をピンと伸ばしたまま、まるで社交パーティーの場であるかのように軽い会釈を交わす。

「立ってないで座りなよ?」

「座……る……?」

 室内を見回しても、白い壁面と床があるだけで、座れるようなものは見当たらなかった。

 私が少しばかり戸惑っていると、床の中央部が裂け、地面の下から一対のソファーとテーブルが現れた。

 少年――先日、ライアと名乗っていた人物は、顔色一つ変えず、現れたソファーに腰を下ろした。

「……それでは、失礼しますわ」

 少年の斜め後ろをキープするように立っていた金髪長身の男性が少年の隣に並び立ち、私の一挙一動を観察するようにジッと見つめていた。

 しかし、私は意に介していないことを主張するように、勧められた椅子に堂々と座る。

「それにしても、まさかこんな真正面から会いに来るとは思わなかったよー?それで、僕に何の用かなー?僕らの居場所を突き止めてまで、そっちからノコノコと足を運んだからには――」

「こちらの発信機をお返しに伺いました。そのほうが良ろしいかと思いまして」

 ライアが喋り終えるのを待たず、胸ポケットにしまっていた超小型発信機を手早く取り出し、テーブルの上にスッと差し出す。

「……ふ~ん。わざわざどーもー」

 (いぶか)しげな表情を見せながらも、ライアは差し出された発信機を受け取り、それを隣の金髪長身男性へとリレーするように手渡す。

「それでは、私はこれで」

 私は座ったばかりの席からすっくと立ち上がり、部屋の扉へと向かうおうとする。

 すると、ライアはまるで尻でも叩かれたかのように慌てて立ち上がり、私の背中を呼び止めるように声を上げた。

「そ、それだけ…!?あ、あの子を返してくれとか、言いに来たんじゃないの…!?」

 私はゆっくり振り返り、片眉を曲げながら小首を傾げた。

「私は落し物を持ち主に返そうと伺っただけですわ。それに、そう申し上げたところで、芽衣さんの意識をすんなりとお返しして頂けるものなのでしょうか?」

「まー、そうだけどさー……。拍子抜けというか、なんかもうちょっとあってもいいかなーって……?大体、この発信機は落としたんじゃなくて、こっちがわざわざ付けたもののわけで、返す必要なんて――」

 何かを閃いたときのように手で小槌を叩き、私は人差し指を立てる。

「そういえば、落ちていたものを持ち主に返す風習が嫌いじゃないと、あなたは仰っていましたね?それでしたら、持ち主にお返した際にお礼を頂く習慣があることも、もちろんご存知ですわね?」

「知ってるけど……?それってつまり、君は見返りが欲しいと?」

「見返りというほどのものではないのですが、私とちょっとした取り引きをする気はありませんか?」

「取り引き…?」

 取り引きという言葉が出ると、ライアは不信感を表すように目を細めた。

「芽衣さんを元の体に戻して頂けませんか?」

「はぁ~……。やっぱりそれが目的かー……。さっきも言ったけど、それは無理だっていったでしょー?僕たちは魔法少女である彼女を手中に収めている――つまり、目的は達成しているんだよ?彼女を手放す理由が見つからない」

 ライアが呆れた様子で淡々と答えるのを確認すると、私は目を細め、嘲笑うようにクスクスと笑った。

「そうでしょうか?目的を達成しているのでしたら、私がお会いしたいとこちらに伺ってもわざわざ会う必要はありません。芽衣さんが魔法少女ではないことを、あなた方はもうご存知だからこそ、あなたはわざわざこの場に顔をお見せになられた。違いますか?」

「……」

 ライアは一瞬だけ眉をピクリと動かして動揺を見せたものの、下唇を噛むに留まった。

「もちろん、それだけでしたら取り引きではありませんし、あなた方には少しもメリットがありません。その代わりというと大袈裟かもしれませんが、あの機械を作った本当の魔法少女を私がここにお連れします。芽衣さんはその人と交換――ということでいかがでしょうか?」

 表情一つ変えずに私が語り終えると、ライアはそれまでとは一転して、納得したような表情を浮かべた。

「ははーん……なるほどなるほど~……。つまり、本物の魔法少女が誰かを、君は知っていると……。ようやく君の魂胆が見えてきたよー?」

 私がタイミングを見計らって口の端を上げると、ライアもまたニヤリと笑った。

「ひとつ聞いておきたいんだけど、お連れするってことはつまり、その人を差し出すって意味だよねー?君はその人を売るってことになるけどー?いいのー?」

 確固たる意思を主張するように、私はまっすぐ向き直り、首を大きく縦に振った。

「その人がそばにいる限り、どうしても私の周囲の方々には危険が付き纏いますわ。それに、その発信機を私たちが持っていては、あなた方はまた私たちの前に現れては同じ事を繰り返すのでしょう?あのような事態になることを、私も望んではいません」

「君は僕らと利害が一致すると判っていて、僕らに接触してきたってわけねー……。もしかして、見かけによらず君って腹黒?」

 ライアの問い掛けに、私はニッコリと笑顔を返した。

「それは私が答えることではありません。周りの方々が決めることですわ」

 数秒の沈黙の後、ライアは突然ソファーに腰を落とし、だらけたように仰け反った。

「……いいよ……取り引き成立。芽衣って子の体と、本物の魔法少女ってやつを僕の前に連れてきてねー」

「それでは後日、改めさせていただきますわ」

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