第24話 魔法少女は星座で。(5)
私が瞬きした直後、炎と瓦礫に包まれた凄惨な風景は一変し、緩やかな波が海岸を打つ音と、澄み切った夜空に浮かぶ星々の光が煌々と降り注ぐ、映画のワンシーンに出てくるような風景に変わっていた。
「景色が…」
「本当に…戻った…」
「とりま、なんとかなったっぽいな…。よくやったな」
「えへへ…」
夏那が現実を夢だと考えたことで、ケートスは夢が現実化するという事態を引き起こした。
それならば、その逆も可能であると私は考えた。
夢は夢、現実は現実と夏那が再定義してしまえば、ケートスの力を考えれば元通りに出来る可能性は十分にあった。
とはいえ、夏那がそれを正しくイメージ出来たうえでケートスの力を扱えるのか、たとえそれが出来たとしても本当にこの世界が元通りなるのか等など、不安要素は挙げきれないほどあった。
「あ、ああーー!?」
背後から突然聞こえた絶叫に、何事かと慌てて振り向く。
「な…なんだ、いきなり…?びっくりするだろ…――って、なにしてんだ…?」
そこには自分の浴衣を捲っているハーマイオニーの姿があった。
「ややや、やりました花咲さん!!尊厳を取り戻しました!?やったー!!!」
尊厳という言葉で何を言わんとしているのかを察し、私は自分の衣服を確認する。
「服装が戻ってる…」
夢が現実になった結果、私たちの姿が変わってしまっていたとするならば、私たちの姿が元どおりに戻っていることは、正しく元に戻った可能性が高いということを意味していた。
「これで悩みの種は一つ減った…か」
私は安堵の息を吐き、傍らに浮かぶケートスに触れる。
「それにしても、どうしてコイツはこんな力を持ってるのか…。これじゃ、まるで――」
事ここに至るまで、私の思考は何度も“このケートスという存在が一体なんなのか”という疑問に行き着いていた。
私が知る限りでは、生物ではなく、普通の人には見えない存在であることと、ケートスという名の魔獣だと呼ばれながら、星座とも同じ名前を持っていること。
そして、人の願いを叶えることが出来る力を持っていること。
ここまで挙げると、完全一致とまではいかないものの、私の知る“類似のケース”に該当していると言わざるを得なかった。
「まさか、な…」
確証はないものの、その瞬間、私の中で仮説が生まれた。
だが、今は根拠が少なく、考えても答えは出ないだろうとキッパリ諦め、私は自分が今するべきことに着手することにした。
「夏那。ケートスだけど、しまえる?隠すとか小さくするとかでもいいけど」
「えっ…?う~んと、どうだろう…?やってみないとー…」
私の不自然な質問に何かを勘繰ったのか、夏那は大きく首を傾げた。
「あれ…?それってもしかして、この子連れ帰るってこと…?」
「勘が鋭いな…。まあ、ここに放っておいたらまたソイツに狙われるだろうし、夏那もそれは嫌なんだろ?」
地面で気絶している大剣仮面を一瞥すると、夏那は激しく同意するように首を縦に振った。
「――と、い・う・こ・と・は…。この子、うちで飼うってこと…だよね…?」
「そうなる…のか…?まあ、飼うのも匿うのも似たようなもんだけど…」
私には飼うという発想はこれっぽっちも無かったが、連れ帰って庭に放つという点だけみれば、そう言えなくはない。
「やったー!名前付けなきゃ!?何が良いかなー?」
夏那は嬉しそうに歓喜の声を上げながら、ケートスに抱きついた。
「…花咲さん。本当に良いんですか?あんなの連れ帰るなんて?また、今回みたいなことが起きないとも言えませんよ?」
ハーマイオニーは怪訝そうな顔で、私の顔を覗き込む。
「それはそうだけど、このまま放っておけないってのも事実。乗りかかった船でもあるし」
確かに、ケートスが危険な存在であることは事実だろう。
だが一方で、大剣仮面にナイフを瞬間移動させたことや、夢世界をちゃんと消すことに成功したことなどを鑑みると、少なくとも夏那はケートスの力をコントロール出来ていると言える。
誰かが悪用しようと企んだり、夏那の精神が極度に不安定になったりしない限りは、今回のようなことは滅多なことでは起こらないのだろう。
いずれにせよ、クマゴローを勝手に拾ってきた私には妹の言葉を否定することなど出来るはずもなかった。
問題があるとすれば、足元に転がっているもう一つの懸念のほうだろう。
「とりま、暫くは様子を見ようと思う。それに――」
「それに…?」
「ペットも家族って言うしな」
妹が心底から喜ぶ顔を見てしまった以上、私にはそれを否定する気さえ起こりはしなかった。
◇
大剣仮面を三人がかりで人気が無さそうな場所に移動させ、全身を念入りに縛り終えると、私は吐息を漏らす。
「ふぅ~…。これで良し…っと。そっちは?」
「こっちも終わったよー」
夏那も大剣仮面の止血をちょうど済ませたところだった。
「こういうところは容赦ないですよねー…。傷はわざわざ手当てしてあげてるのに…」
「私は悪魔じゃない。正当防衛とはいえ、実際に怪我させられたとかではないし、過剰になったのは認めざるをえない。まあ、私たちを殺そうとしていたんだから、むしろ見逃してやること自体を感謝してもらいたいけど。私って慈悲深いな」
「まあ、それもそうですねー…。花咲さんが慈悲深いかどうかはともかく」
命を奪うことも、奪われることも覚悟した上で戦場に立つことはこの業界では普通のことだし、まして私たちを殺そうとしていたことも考えれば、怪我くらい自業自得の範疇だろう。
それでも私は、大剣仮面を傷つけるよう夏那に指示してしまったことに、少なからず罪悪感を覚えていた。
言葉にはしていないが、その贖罪という意味合いのほうが強いかもしれない。
「とりあえず、麻痺毒も効いてるだろうし、ここに縛り付けておけば暫くは動けない。私たちが家に帰るまで身動きができなければ問題ない」
大剣仮面の目的は最初からケートスだった。
つまり、ケートスがここに居るという情報を何かしらの方法で知り、ここに現れていたということになる。
もしそれが異物という存在を探知するようなものである場合、ケートスを連れ帰ったとしても、その居場所はすぐにバレることになるし、こんな厄介な奴をほいほい連れ帰ってしまうことにもなる。
それはなんとしても避けるべき最重要課題と断言できた。
「…二人は先に行ってて。私はちょっとやることがあるから」
「う…うん?じゃあ、ハーマイオニーちゃん、行こ?」
夏那は何かを感じ取りながらも、ハーマイオニーの手を引いてその場を離れる。
「なんか、すごく怖い顔してますよ…?」
「気のせい」
…
私は大剣仮面に巻かれたハンカチに触れ、小さく呟く。
「しっかり巻かれてる…。私のもそうだったけど、夏那は良い医者になれるかもなー。さて、と…」
雨に言わせれば、こういうところが甘いのだと呼ばれる所以なのだろうが、傷ついた人をそのままにして立ち去ることを、私の信条が許さなかった。
「花は命…光は力。集え、活力の光よ――」
目を閉じ、その言葉を紡ぐ。
「――《グロース・ライト》」
闇の中に浮かび上がるように現れた光の粒子。
それらは意思を持ったかのように収束し、ハンカチの巻かれた手をほんのり明るく照らす。
「…これで治りは早くなるだろ。とりま、これで勘弁してくれよっと――」
私がその場を立ち去ろうと腰を上げた瞬間、擦れた声が耳に届いた。
『待…て…』
「やば…。意識が戻った…」
私は一瞬警戒して身構えるものの、大剣仮面は縛られたまま、いきなり暴れ出すようなことは無かった。
『お前…は…ケートスを…どうする…気…だ…?』
傷を治しても痺れが取れていないことは、舌が回っていない様子から察することが出来た。
「答える義理はないけど、教えといてあげる。少なくとも今は手放す気は無い。もちろん、あなたにも消させはしない。そういうわけだから」
『待…て…』
立ち去ろうとすると、それを制止する声が再度聞こえた。
だが、私はこれ以上の関わりを拒絶するかのように、振り返ることなく足を進める。
『こいつは…俺を…退けた…特別ボーナス…だ…。良く…聞け…』
何を言われても無視しようとしていた私は、その言葉で思わず足を止めた。
『俺…たちは…亜禍狩り…。そう…名乗ってる…わけじゃねぇ…けどな…』
――亜禍狩り?俺たち…?
『お前…たちは…危険…過ぎる…。レム嬢ちゃん…俺たちは…必ず…お前さんを…』
数百年後に新たな魔王が現れるような意味深な言い回しをしながら、大剣仮面は沈黙した。
「やれやれ…」
私はとてつもなく面倒なことに首を突っ込んでしまったことを悟り、大きなため息を吐く。
◇
「…何してるんだ?」
地面に伏せるようにしながら、岩場に陰に姿を隠す二人の姿があった。
「あ!?お姉ちゃん!?か、隠れて!隠れてー!!」
「どうした…?」
私の体は強引に引っ張られ、倒れこむようにしゃがむ形になった。
促されるように顔を覗かせると、波の音に混ざる人の声が微かに耳に入る。
「…ハルーー!!…ナツーー!!」
その呼び名と聞き覚えのある声に、私は悪寒のようなものを感じた。
「あの声…もしかして…」
「ど、どうしよう!お姉ちゃん!?」
慌てる妹を落ち着かせるのもそっちのけで、私は焦りながらも状況を考察していた。
「私たちを探してるってことは、宿を抜け出したことがバレてるってことだよなー…。それに、こっちに向かってきてる…」
私たちが戻ろうとしている方向を阻むように、その姿はあった。
さらには、三人分の人影を隠せるような場所は見たところ周囲には無いし、暗がりといえど、息を潜めてやり過ごすには危険な橋を渡ることになる。
となれば、ここは姉としての私の出番なのだろう。
「…仕方ない。私が注意を惹きつけている間に二人は戻って、別のルートから宿に戻って」
「お姉ちゃん…。でも…」
「犠牲は少ないに限る。私一人で十分だろう」
「え~っと…。二人ともどうしたんですか…?様子がおかしいですよ…?二人のお母さんなんですよね…?正直に…というのは無理かもしれないですけど、話せばなんとか――」
ハーマイオニーは状況を理解していないように、あっけらかんといった様子で呟く。
すると、私と夏那はほぼ同時に力なく俯いた。
『――絶対に…怒られる…』
私と夏那の意見は完全に一致していた。
「お、お母さんはあんまり怒らないけど、怒るとすーっごく怖いの!!」
「怒られるだけで済めばいいけどな…。ははは…」
夜中に勝手に宿を抜け出したようにみえる今の状況を鑑みれば、見積もるだけで風呂掃除やトイレ掃除数ヶ月分は下らないだろう。
「嘘や言い訳が効くような相手じゃないし、私がなんとか繕っておくから、二人は早く戻って」
「で…ぅむぅ――!?」
反論しようとする夏那の口を強引に手で塞ぎ、私は人差し指を立てる。
「いいから。ハーマイオニーちゃん、妹を頼む」
「ま…任せてください!!」
二人が後退する様子を見届け私は覚悟を決め、この旅最後の戦いに挑む。
◇
――バチーン!!!
夜の海岸に破裂音のような音が響き渡った。
「い…ったー…」
叱られることは覚悟していたが、再会して早々に一発もらうことになるなんて、私も想像していなかった。
「バカ娘!!心配したんだぞ!?部屋に戻ったら三人とも居ないし、携帯置きっぱなしで連絡取れないし!!」
「いっつー…。だからって、いきなり殴ることは――」
私はそう言いかけたものの、その先を口に出すことは出来なかった。
月の光が雲間から差し込んだその瞬間、私の目には母の濡れそぼった顔が映し出されたから。
その悲痛とも呼ぶべき表情には、怒りや悲しさよりも、人を憂う優しさのようなものを感じた。
「ごめん…なさい…」
…
近くにあった岩に腰掛け、母と私の二人は夜空を見上げていた。
「二人は?」
「先に帰らせた」
「そ。良かった」
「あの二人のことは叱らないで。連れ出したのは私だから」
「ふ~ん。じゃあ、そういうことにしとく」
意外にも、母は何も聞こうとはしてこなかった。
故に私は、敢えてその真意を問う。
「…何も聞かないの?」
「あんたたちが無事ならそれで良いわ。それに、二人がしっかり者の良い子たちだってこと、私が一番良く知ってる。それでもまあ、心配させるようなことはしないでもらえると助かるわね?こっちの心臓が持たないし」
「心臓が持たないって…。昨日も言ったけど、ちょっと過保護過ぎない?」
「過保護かー…そうかもねー…。でも、私から見れば二人とも心配だから」
“二人とも心配だから”というその言葉の意味を、私はようやく本当の意味で理解することが出来た。
そこで私は、これ好機とばかりに気になっていたことを聞くことにした。
「夏那の表情のこと…。なんで私に隠してたの?」
母は少しだけ驚いた様子で振り向いた。
「…あの子がハルに言ったの?」
私は小さく頷く。
「…驚いた。やっぱり子供って成長が早いわね」
母は再び空を見上げると、遠い目をしながら前髪をかきあげた。
「…別に隠し事をしたくてしてたってわけじゃないの。ナツが隠してくれって言ってたからね。きっと、ハルに嫌われたくなかったんだと思うよ?」
表情と感情が一致しないなんて、普通に考えれば他人には知られたくないし、新しく家族になる相手となれば尚更だろう。
今にして思えば、ぬいぐるみで顔を隠すようにしていたのは、表情を私に見られないようにするための夏那なりの工夫だったのだろう。
「そっか…。でも、知ってたってことは、それを知った上で家族に迎え入れたってことだよね?」
「私があの子を助けたから気になってたってこともあるけど、名前が夏那と春希でちょうど良いかなって。それに、あの子はハルに似てたから」
私が“似てる”という言葉を問おうとする前に、母は空を指差した。
「ここは星が良く見えるわねー。あれが北斗七星…そこから曲線を描くようにアルクトゥールス…スピカ…これが春の大曲線。それで、おとめ座の隣にある星と、しし座の近くにある星を三角形で結ぶと春の大三角」
母は空をキャンバスに見立てるように、星々を指で繋いでゆく。
私の記憶には母が星に詳しいなんて情報がなかったため、少しばかり驚いていた。
「その顔…驚いた?まあ、これは旦那の受け売りだけどねー。あの人ロマンチストだから」
「そういえば、暫く帰ってきてないけど、今ドコに居るの?」
「さあねー?前に連絡があった時はアフリカとか言ってたけど。それも三ヶ月くらい前?ほんと、連絡よこさないわよねー…」
呆れたように文句を言いながらも、その顔はにこやかに笑っていた。
だが、数秒間の沈黙の後、母は神妙な面持ちで口を開いた。
「…私ね、ハルに言わなくちゃいけないことがあるんだけど。聞いてくれる?」
「なに?急に…?今の話の流れだと離婚?まだ三十路なのに?」
「違うわよ。それと、三十路って言うな」
母は戸惑ったように口を噤んだ。
数秒の沈黙の後、何かを決意したように目を閉じ、ポツリと呟いた。
「…ごめんなさい」
私はあまりに唐突な展開に思考が追いつかず、数秒ほど言葉を失った。
「は…?えっ…?なんで…?あ…。もしかして、さっきのこと?」
「…衝動的に叩いちゃったことも。けど、これは前々から言いたかった言葉なの」
怒られる理由は数多あれど、謝られる理由は私には一つとして思い浮かばなかった。
「ハルが大怪我で入院した頃の話。ハルが半身不随って医者に言われて、落ち込んでいた――ううん、絶望していたってのが正しい。姉さんから預かったあなたをちゃんと守ることが出来なかった…ってね。心配性になっちゃったのはそれが原因でもあるわね」
私はてっきり、心配性の原因は夏那にあると思っていた。
しかし改めて思い返してみれば、私が退院したとき母は既に現場から退き、今の役職に就いていたということも考えれば、時期的にも合致する。
それはきっと、私たちに目が届く時間を少しでも増やすためだっただろうし、二十代半ばを過ぎた働き盛りにその決断をするのは、相応の覚悟が必要だっただろうとさえ思う。
「早く退院して復学するためにリハビリを毎日頑張っているハルを私はずっと見ていた。でもね、そんなこと出来るわけないって心の底では思ってたの。子供の頑張りを信じられないなんて、酷い母親でしょ?」
「それが…謝りたいこと…?」
母は首を横に振った。
「ハルは怪我を克服して見せた。それなのに私は、あなたの体調がまた悪くなってしまうことも考えて、翌年に復学出来るよう意見も聞かずに勝手に手続きを進めた。きっとあの時はああするべきではなかった…。ハルを信じてそのまま進学させるべきだった。結果的に私はあなたを信じきれず、必死の頑張りに応えてあげることが出来なかった。ハルにそれを返せていないことを、今でもずっと後悔している…」
病室に見舞いに来ている時は落ち込んだ素振りは一つとして見せなかったが、感情の胞子が見え始めていたこの頃の私は、なんとなくだが母の気持ちを察していた。
だからこそ、私はいち早く退院するためにリハビリに打ち込んでいた。
だが、それが逆効果になっていたなんて、私は今の今まで知る由もなかった。
私の怪我によって心に深い傷をつけ、現職を変えざるを得ない状況に追い込み、私が頑張ることで逆に首を絞めていたという事実に、私は言いようもない罪悪感が込み上げてきた。
「だから…ごめんなさい…」
私はその言葉に、私の率直な気持ちを返した。
「――もう、返してもらってるよ」
「えっ…?」
私は空を見上げ、おもむろに指差す。
「…ねえ。星座って私たちみたいだと思わない?」
そう呟くと、母は同じように空を見上げた。
「星座が…?」
「ここから見える星の光一つ一つは、実際はそれぞれが何万光年も離れた所にある違う時間の星の光。私たち人間は、何の関係性も無いその一つ一つの光を繋げて“星座”なんて呼んでる」
指先が星座をなぞると、私はその指先を母に向けた。
「お母さんと私…それに夏那。私たち家族は、実際のところ血の繋がりも無い赤の他人。だけど、血が繋がっていなくても私たちは家族として星座みたいに繋がっている。未来がどうなるかは判らないけど、私や夏那に旦那や子供が出来たら、関係の無かったその人たちとも繋がりが生まれる。どんなに時間が経ってもそれは変わらないし、その関係はずっと広がっていく。なんか、それって“星座”と似てると思わない?」
私たちが星だとするなら、家族は星座。
どんな理由であれ、バラバラだった私たちという星を一つの星座に繋いだのは、間違いなく母なのだろう。
それは周囲の目から見れば、家族と呼ばれるものに違いはない。
ただ一つだけ違うとすれば、あの星々は自分自身が家族の一員であることを知らないことだろう。
「家族が星座…か…。それが昨日言ってた“本当の家族”ってやつの答え?」
私は返答に困るでもなく、鼻息を噴かせながら自信満々に頷く。
「へぇ~…。自信満々ってことは、根拠があるの?」
「それは内緒」
――根拠ならある。
私の指先には、星座のように繋がる、二本の赤い糸があるのだから。