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魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
クロッシング・コンステレーション編
125/183

第24話 魔法少女は星座で。(4)

「私にとっての…お姉ちゃん…」

 夏那は困惑したように、地面に倒れる私を見つめ返した。

「…今の言葉を考えるだけでいい!だから、私に構わず全力で走れ!」

「…っ!?うん…!!」

 私が発破をかけると、夏那は何かを飲み込むように大きく頷き、振り返ることなく一目散に走り出した。

「…」

 ハーマイオニーもまた、私を一瞥してから夏那の後を追うように走っていった。

「…それでいい」

『ちっ…。黙って寝てりゃあいいものを…』

 大剣仮面は呆れたように背中越しで呟くと、踵を返すように振り返る。

『レム嬢ちゃん…。言い忘れていたが、お前さんはもう()()扱いなんだ。少しでも長生きしたけりゃ黙ってるのが賢明だと俺は思うんだがなぁ?』

「…私を勝手にモノ扱いしないで」

 大剣仮面の目的が“人の世における異物の排除”だとするなら、私という存在は間違いなくその()()に該当するだろうことは、私も理解していた。

 だからこそ、私が魔法少女の力を晒すことで、大剣仮面の関心を私に惹きつけることが可能だと思い至った。

 無論、それには危険を伴うし、相手を信じ込ませるだけの証拠を見せなくてはいけないため、必然的にこちらの手札を一枚切ることになる。

 そこまでしなければ大剣仮面の足を止めることは出来ないと判断し、私は防御魔法の“シルト”を使うことを選んだ。

 その結果、私に注意を惹きつけることまでは確かに成功した。

 だが、大剣仮面が私を“後回し”と言ったように、金クジラが第一の標的という優先順位を変えるまで至らなかったのが実状ではあった。

 目的を達成出来なかっただけでなく、手の内を晒した挙句、相手に目をつけられて逃走不可避の状況を作り出したというのだから、最悪の失態と言われても弁明の余地はない。

 だが、私は失敗一つで諦めるようには出来ていなかった。

『その目…。忠告を聞く気はねぇって顔だな…?』

 魔法少女ということが本気(マジ)バレし、相手がそういった存在を排除する専門業者となれば、“狩る者”と“狩られる者”の立場がハッキリする構図となる。

 相手が私よりも格上である以上、他の二人を逃がして自分だけが戦うという選択しか残されていないことを、大剣仮面は既に察していることだろう。

 だが、往々にして油断や隙はそこに生まれやすい。


 全身を廻るような鈍い痛みに耐えながら、私はなんとか立ち上がる。

「…私は諦めが悪い。それは何年経っても変えられないみたいでね」

 私が立ち上がったその直後、大剣仮面が巨大な剣の切っ先を私の首元にあてがった。

『んじゃまあ…その性格が命取りだったってことだなぁ?』

「…死ぬ前に一つ聞かせて。あなたは一般人であれば誰にも手を出さない?」

 私がそう訪ねると、大剣仮面は少しだけ迷いながら相槌を打つ。

『ああ…?まあ、そうだな…?』

「じゃあもう一つ。一般人というのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

『だっはっは!!んなわけねぇだろ?俺はこう見えて平和主義者なんだぜ?殺人鬼じゃねーんだから、無闇矢鱈(むやみやたら)に人を斬ったりしねぇよ?』

「そうか」

『冥土の土産話はここまでだ。残念だが、状況が状況だ。俺を恨むんじゃなく、自分の性格とその力を呪うんだな?』

 剣の切っ先が喉元に食い込む感触を感じ、私は目を閉じて事の成り行きに全てを委ねる。


 ――今の私に、もう出来ることはない。

 だから私は、最後まで妹を信じる。


『お姉ちゃんは――』

 その瞬間、遠くで声が聞こえた気がした。


 …


 気が付くと、周囲は無音に静まり返っていた。

 数メートルほど離れた場所から金属音が聞こえ、私はその音に驚いて慌てて瞼を開く。

「…」

 ふと周囲を確認すると、音の発生源であろう巨大な剣が地面に転がっていた。

 そして同じくその場所で、焦った様子の大剣仮面が固まっていた。

『何が…起きた…?』

 私は自分の首に触れ、頭と体がちゃんと繋がっていることだけ確認する。

 そして、安堵しながら大きく息を吐く。

「ふぅー…。賭けに勝ったみたい…だな。記憶はそのままみたいだけど、こんな感じになるのか…。変な感じ」

『――っ!?』

 大剣仮面は慌てて振り返り、()()()()()()()()()()()私を仮面の奥から睨み付ける。

『馬鹿な…。どうやって移動しやがったぁ…?そもそも、あの状況で避けられたってことは無ぇはずだ…。まさか、まだ何か隠し持ってやがったか…?』

 私は首を横に振る。

「あなたと一緒にしないで。言っておくけど、これは私の力じゃない」

 私は随分と軽くなった体に驚きつつも、大剣仮面との距離をとる。

 そうしながら、手の平を空中にかざす。

 すると、まるで蛍のような光の粒子が私の手に収束し、やがてそれはシャイニー・ロッドへと形を変える。

 それを視認した大剣仮面は態度を瞬時に切り替え、数歩後退しながら臨戦態勢といった様子で身構える。

『なるほどなぁ…。俺と立ち合おうってのか…?上等――』

「よっ…と」

 私がその場で軽くジャンプすると、二つの鏡が私の両の足の下に移動し、私の体をその鏡面で受け止める。

『――って、何してんだぁ…?』

 新しい感覚に馴染もうと足踏みをすると、鏡はまるで磁石のように地面と反発しあい、私の体を10センチほど浮かせた。

「…なるほど。飛ぶというより、ホバークラフトって感じに近いな」

 空を自由に飛びたいな…――などと思っていても、さすがに10センチ程度では()()と表現するには些か誇張表現になってしまうのだろう。

 少しばかり夢が遠退いたことに落胆しつつ、私は用意した道具の具合を試す。

『何――』


 ――ヒュン!!


 私が体重を前に傾けた次の瞬間、鏡は途端に急加速し、まるで風になったかのように一瞬で大剣仮面を追い抜いた。

『――っ!?』

「――って、早!?ストップ、ストーップ!!」

 慌てて体重を後ろに戻すと、鏡は急停止する。

「ちょい焦ったー…。じゃじゃ馬かよ…」

 雹果が使っていたものを私なりにアレンジしたものだが、その感覚はシャイニーライトで飛行実験をしていたときと似ており、バランスを取るのがそれほど難しいというものではなかった。

 シャイニーライトと違ってエネルギーを極度に消費したりしないので疲れはしないが、その分スピードの調整がなかなかに難しく感じた。

 しかし、なんといってもそのビジュアルがかんじきを履いた姿にしか見えないということが一番の残念ポイントだろう。


「お…お姉ちゃん…?」

 私が急停止したその場所には、偶然と言うべきか、夏那とハーマイオニーが立っていた。

 夏那は私を確認するや否や私に抱きつき、顔を埋めながら強く締め付けた。

「夏那…?どうした…?」

 そのまま暫くの間、無言の時間が続いた。

「お姉ちゃんなら絶対に大丈夫って信じてたけど…。でも、ちょっと怖かったよ…?」

「ごめん…。心配掛けたよな…」

 私は夏那の頭をそっと撫で下ろしながら、耳元で呟く。

「でも、安心するのはちょっと早い。お姉ちゃんはあいつをなんとかしなくちゃいけないから、ちょっと離れてて。な?」

 両肩を掴んでそっと引き離すと、夏那の両頬が濡れていたため、私はそれを指先で拭き取る。

「さっきの答え、ちゃんと届いたよ。ありがとう、夏那」

 妹は何も言わず、ただ大きく頷いた。

「夏那が居る限り、私は絶対に負けないから。安心して?」


『…絶対に負けないたぁ、随分と大きく出たなぁ?』

 声のした方に視線を移すと、いつの間に追いついた大剣仮面が、一歩一歩と私たちに距離を詰めている最中だった。

『どうやら俺の目が節穴だったってのは認めないといけねぇみたいだな…。先に消さないといけないのは、ケートスよりもレム嬢ちゃんのほうだってのは良く分かったぜ?』

「そりゃどーも。でも、気付くのが少し遅かった」

 物陰に隠れるよう二人に指示し、私は向き直る。

『遅かった…?どういう意味だ?』

「全ての準備は整ってる。ここからはずっと私のターンってやつ」

 私はドヤ顔でそう言い放つと、大剣仮面の前に移動し、真正面に対峙する。

「…嘘だと思うなら、私をもう一度斬ってみれば?そのバルムンクってやつで?」

『…上等だ!』

 大剣仮面がジリジリと私に距離を詰める。

 それに対して私は、防御や回避行動を一切起こさず、ただただそれを見届けるように突っ立っていた。

 大剣仮面が間合いに入ったその刹那、事態は動いた。

 豪快な風の音とともに剣が真横に振り抜かれ、切っ先は横腹を捉えながら軌道を描き、やがて私の体を真っ二つに引き裂く。

 ()()()()()()()()()()()()()()

『なっ…!?』

 結果的に剣は(くう)を裂き、風の音を鳴らすに留まった。

『居ない…。今度はどこに行きやがった…?』

「こっち」

 気がつくと、私は大剣仮面の背後に立っていた。

『まったく見えなかった…。それが魔法少女ってやつの力か?』

 私は頬を掻きながら答える。

「残念だけど、これが違うんだよねー…。まあ、説明すると長くなるんだけど…。まあ、ただ一つ言える事は、あなたの攻撃が私に当たることは()()()()()ってこと。絶対ってところ超重要ポイント」

『絶対だと…?ふざけるのも大概にしねぇと…』

 私はニヤリと笑みを浮かべながら、答える。

「信じられないならいいよ。いくらでも斬ってみると良い」


 …


『ば…馬鹿…な…っ!?あり得ねぇ…!?俺の攻撃が一発も当たらないだと…!?一体どういうこったぁ…?』

 大剣仮面は息を切らしながら、私を大剣で斬り続けていた。

 だが、その切っ先が私を擦るようなことは一度たりとも無かった。

「無駄だからそれくらいにしたら?今の私は無敵状態だから当たらないと思うよ?」


 ――きっと私は、まったく動いていない。

 私はただ、はじめからそこに居た。

 だけど、居なかったときの記憶もある。

 なんとも不思議な感覚だ。


『はぁ…はぁ…。どういう理屈か知らねぇが、レム嬢ちゃんにはどうやっても攻撃が当たらないってのは理解したぜ…』

 ようやく諦めたのか、大剣仮面は構えを解いた。

『…そんなら、これはどうだぁ?』

「…っ!?しま――」

 大剣仮面は懐から何かを取り出したかと思うと、それを真横に投げた。

 その直線方向には、夏那の姿があった。

「――なーんて」

 私はすかさず回りこみ、放たれた短剣をシャイニーロッドで叩き落した。

『っ…!』

 私は摘まむようにそれを拾い上げ、手に取る。

「あなたは、私がなんのためにコレに乗ってるのかを先に考えるべきだった」

 私に攻撃が通じないとなれば、大剣仮面は打つ手がなくなる。

 そうなった場合、次の一手は必然的に“諦める”か“標的を変える”の二択しかない。

 そして、私には大剣仮面が後者を選ぶことは判っていた。

 なぜなら、大剣仮面は私の知る限り、どうしようもないほど“大嘘つき”なのだから。

「あなたの手札を一つ見せてもらった。だから、これで帳消し」

 自分の手を晒して一杯食わされたことを密かに根に持っていた私は、今度は相手が自分から手の内を晒すように、あれやこれやと画策していた。

 ここに来てその作戦が成功し、これで先ほどの失態は帳消しだろうと、私は内心で満悦感に浸っていた。

『まさかとは思うが…気付いてたってのか…?』

 私は頷いた。

「当然。その剣はリーチが長くて、すごく重い。普通に考えれば戦闘向きじゃない。だから私は、そこに理由があると考えた。バルムンクって言うくらいだから、何か不思議な力がある魔法の剣とか、特殊な機能を備えた兵器とかね。でも、服装や言動を含めた全部があることを隠すための布石だったことに私は気付いた」

 鍛錬のためにあえて重い剣を使っているなんて脳筋な理由でもないかぎり、普通に考えれば長すぎて重過ぎる扱い辛い剣でしかない。

 重い剣を振って敵をなぎ倒すだけで脅威となることもあるが、それは相手が多勢に限っての話であり、ケートス討伐クエストにそんなものを持ってくる利点はない。

 そう考えると、大剣仮面がわざわざ戦闘に用いているのには、何かしらの利点があるからということになる。

 では、重い剣をわざわざ持ってくる利点とはなんなのか。

「剣が重いからあなた自身は素早く動けない――逆を言うと、動く必要がないから重い剣を使っている。わざわざ着物なんて服装に身を包んでいるのは、相手に無防備な軽装だと思わせるため。長い剣をわざわざ使っているのは、対峙する相手との距離を一定に保つための物差し替わり。バルムンクが名刺なんて言ったのは、その武器が特殊で警戒するべきものだということを相手に印象付けるためのでまかせ」

 着物や大剣、バルムンクに関する発言や行動。

 それら全てが、相手を陥れるための小さな布石であると考えたなら、それは一つの答えに辿り着く。

「あなたと対峙した相手は皆こう考える。あの剣さえなんとかできればとか、スキを突いて懐に潜り込めれば勝機があるかもって。でも、それこそがあなたの得意とする戦術――まあ、罠と言ったほうが正しいかもしれない」

 相手を自分が得意とする射程に引き込むのは、戦闘において基本中の基本。

 だが、大剣仮面は聴覚や視覚、そして巧みな話術を使って相手を罠に誘い込み、文字通りの()()()になるよう、それらの()()()()を磨いたのだろう。

 だが、その中で()()()()()()()()()()()を、私は見逃さなかった。

「私は本物の剣術ってやつがどんなものなのかを知ってる。だから、あなたの扱うただ剣を振るだけの剣術が、剣術と呼ぶに値しないお粗末なものであることにもすぐに気付いた」

 私は雨の剣術を間近で目の当たりにしている。

 相手を知り、相手の動きを見極め、相手よりも一瞬先に刃を滑らせる。

 言葉で表すのはとても難しいが、言い知れぬ気迫を纏った威圧感、静の中にある鋭く磨かれた強靭な精神力、張り詰めた糸を寸分違わずなぞるような太刀筋など、雨から感じとったそのいずれもが、大剣仮面からは感じられなかった。

 だが恐らく、雨の剣技を見ていなかったら、大剣仮面の剣が剣術と呼ぶには程遠いということに気付く事は無かっただろう。

「敵が自分から懐に飛び込んでくるよう言葉巧みに誘導し、接近してきた瞬間や、剣を払い落とされた瞬間に生じる隙を狙って、服の中に仕込んだ暗器で仕留める…――つまり、一撃必殺の反撃を繰り出すのがあなたの戦闘スタイル」

 大剣を持っているのは、その“存在感”を利用することが目的。

 わざわざ剣を見せ付けるように地面に突き刺したのは、その剣が重いことを相手に印象付け、自分の動きが鈍いと思わせるため。

 名刺などといって剣の名を明かしたのは、その剣が重要な武器であると思い込ませるため。

 着物を着ていたのは、動き辛い服装であると相手に思わせながら、武器を隠し持つには都合の良い服装だった、というところだろう。

 攻撃を誘って相手の意表を突くという点だけ見れば、私が鏡の盾で攻撃を防いだ行動と本質が同じであると言える。

 ようするに、自身が似た戦闘スタイルを得意としていたからだと考えれば、すぐに反応したことや鏡の盾の弱点を見破られたことも納得できる理由だった。


『だーっはっはっは…!!なるほどなぁ!!』

 大剣仮面は空に向けて笑い声を上げる。

『人を騙すことには自信があったんだが、剣術のほうももうちっとだけ鍛えておくべきだったか』

 持っていた大剣を再び地面に突き刺したかと思うと、両腕を大きく開き、真下に振り下げる。

 すると、まるでアニメや漫画のように両の袖から複数のナイフが現れた。

『レム嬢ちゃんの言うとおり、コイツが俺の本命の得物だ。ちなみにコイツには象でも一日は動けなくなる麻痺毒が塗ってあるんだが、攻撃の当たらないレム嬢ちゃんにはまったく効かねぇから一撃必殺にもならねぇ…ってことで豆知識だ』

「へぇ…それは親切にどうも。まあ正直、あなたの戦い方には興味はないけど」

 私は手に巻かれていたハンカチを解き、それを近くに居る夏那にそっと手渡す。

「でも、気に掛かってることはある」

『気に掛かってること…?』

「…あなたが狙っているのは“異物”と呼ばれる存在であって、人間じゃないものが大半のはず。だから、その剣によるブラフなんて本来は必要ないし、必要なのは相手が人間相手のときだけに限られる。それなのに、どうしてケートスを狙っていただけのあなたが、その剣を持ち歩いているの?」

『そりゃあ勿論、こんな状況になったときのためだろうよ?』

 私はすぐさまその言葉を否定する。

「それは嘘。あなたは水族館でケートスと接触した私たち全員を手に掛けるつもりでここに現れた」

『ほう…?どうしてそう言えるんだ?』

「…平和主義者だっけ?あれだけ白々しい嘘を並べておいて、よく平然とした態度を取れるもんだって感心したよ」

 私は自分の目を指差す。

「私の目は感情を視ることができる――つまり、嘘を見破る力がある。私に嘘は通用しないし、あの時あなたが嘘を吐いていたことは、私の目が証明済みだ」

『感情…?嘘を見破るだと…?だっはっは!!それが本当なら、ますます逃がすわけにはいかなくなったなぁ?まあ、最初から逃がすつもりなんかねぇけどな?』

 手に四本ずつ、計八本のナイフを構え、大剣仮面は一触即発モードに突入する。

『そこの二人を同時に守りながら戦うなんてのは、さすがのレム嬢ちゃんでも無理だろ?』

 だが、私は身構えるようなことはしなかった。

 絶対に攻撃が当たらないから、その必要がないというわけではなく、()()()()()()()()()()()()()

「さっきも言ったでしょ?ここからはずっと私のターンだって。もう、あなたに勝ち目は無い――つまり、チェックメイトだ」

 天高く掲げた手で指を鳴らす。

 すると、異変はすぐに起こった。

『…っ!?』

 大剣仮面は持っていた全てのナイフをその場に落とし、そして地面に膝をついた。

 そして、自分の手に違和感を覚えたのか、震えながらもその右手を確認する。

『俺の…ナイフ…だと…。なぜ…?ぐぁ…!?』

 次の瞬間、大剣仮面は微弱な電流が走ったように痙攣したあと、その場に倒れて動かなくなった。

「…致死毒じゃなくて良かったな?それって、象でも1日動けないんでしょ?どう?自分で使ってみた気分は?ていうか、聞こえてる?」

 その右手には、先ほど大剣仮面が投擲したナイフが深々と刺さっていた。

「ご苦労さん。タイミングバッチリだったぞ、夏那」

「えへへ~…ありがと!!」

 この状況を脱する手段を考えていた私にとって、ナイフの毒は朗報だった。

 それ故、それを利用させてもらうことにした。

『まさか…ケートスの…力…。既に…ここ…まで…?』

「なんだ、意識あったのか…。しぶとい」

 私は大剣仮面と話をしながら、投擲されたナイフをハンカチで隠し、夏那にこっそり手渡していた。

 夏那はハンカチとナイフの組み合わせ、そして手の甲を指さす合図をしただけで、私の意図を汲んでくれた。

 まったく、良く出来た妹だと感心してしまう。

「ちょっと可哀想だから、あなたが負けた理由を教えてあげよっか?」

 私はしゃがみ込み、大剣仮面の耳元で呟く。

「それは夏那の存在。夏那が私を魔法少女だと信じてくれている限り、私は絶対に負けることはない。なぜなら、ここはまだ夏那が創り出した世界。夏那の信じる魔法少女は絶対に負けないと定義されている。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 子供の頃から魔法少女アニメを見続けていた夏那には、“魔法少女は負けない”という強い固定概念が存在している。

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()

『最初から…勝負にすらなってなかった…ってぇわけ…か…』

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