プロローグ
『力の残滓を辿ってみれば、こんなこともあるのだな……』
その声が聞こえた刹那、周囲の空気は明らかな変容を見せ、空は暗雲が立ち込め、四月だというのに突如として凍りつくような寒気に襲われる。
「えっ……? なに……?」
慌てて周囲を見回そうと視線を泳がせるも、周囲には私たち以外、人の影一つ見当たらなかった。
だが、一際強い風が吹き、瞼を一度下ろしたその直後、人影らしきものが忽然と現れた。
『探したぞ……』
「何アイツ……? チー、アンタの知り合い? なんか暗くて顔がよく見えないけど……?」
驚きのあまりなのか、私の全身は何かに拘束されているかのように固まり、動けなくなっていたが、唯一可動する私の目はそれでも情報を得ようと、相手に向けて視線を送り続ける。
大柄の男のシルエットを捉えていたものの、ソレが何かまでをハッキリと捉えることは出来なかった。
「アンタ、誰……? もしかして、変質者……?」
「……っ!? ソレに近づいちゃダメだっ!」
喧嘩腰に近付こうとする腕を咄嗟に掴んで制止すると、その行動によって俄かに状況を悟ったのか、当人は舌打ちをしながらすぐさまソレを睨み付けた。
「まさか、アイツってヤバイ系のやつ……?」
「憎悪よりももっと強い感情……とてつもなく強い復讐心……! あんなの視たことない……!」
通常の人間であれば、あれほどになることはまず考えられないのだが、その人影を中心に、私も視たことがないほどの量の復讐心の胞子が渦巻くように発生しており、私の目でも相手の姿を視認することが出来なかった。
その現状から、今の私には三つだけ判ることがあった。
一つ、アイツは人間ではない可能性が高いということ。
二つ、あの声には聞き覚えがあるということ。
三つ、アイツは私を探していたということ。
これらのことから、私は既にアレの正体を特定するに至っていた。
「アレは人じゃない……。それに私たちのよく知っているヤツ……」
『魔法の痕跡を辿っていれば、いつか必ずお主たちの誰かに辿り着くとは思っていたが、まさかこんなに早く再会できるとはな……』
何かを思い出したのか、並び立つ横顔は不機嫌から焦りへと表情を変えた。
「……っ!? アイツ……!?」
私自身も認めたくはないし、目の前の事実を信じたくもなかったものの、私はそれ以外の答えを導き出すことは出来なかった。
『見つけたぞ……! シャイニー・レム……!』
その名を再び耳にすることなどない――今の今までそう思っていた私の頭を叩き起こすように、その言葉は記憶を呼び覚まし、全身に電流が走るような衝撃を与えた。
この瞬間、私の平和で普通な日常は見事に崩れ去った。