【innocent】2
村木に連れられ戻った教室は惨劇と化していた。
窓ガラスは割られ、黒板や、ひっくり返っていたり倒れている机には弾痕がくっきりと見える。
教室の前で愕然と突っ立っている村木の腕を振り払うとまた校庭に戻る気になった。
「待てよ」
村木は低い声で言った。
「なんなんだよ、早く遠藤のところに行かなきゃ…」
「SWが始まっちまった…」
村木はぼそぼそと言った。
SW。School War。市内の公立高校同士で戦う大会だ。意義について考えたことなどない。人権を無視した殺戮ゲームだ。
「そう…」
俺にはどうでもよかった。どうでもよかったんだ。
もともと人数の少ない地元の同じ小学校の面子が持ち上がって中学校にいる。さらにそいつらの大半はこの高校。
そうでないやつもいるけれど、過去に俺をいじめていた奴等だっている。
正直、この高校の奴等のことなんて、どうだっていい。
「村木、悪いけど、俺はどうだっていいから」
俺は遠藤のもとへ向かうことにした。
遠藤がいれば、他はどうだっていい。生きていられるのなら、負けても構わない。
「おい!待てよ…」
村木だっていいやつだ。高校で知り合ったなかではきっと一番仲がいい。でもこんな戦争に勝とうとは思わない。
「健闘を祈る」
他人事のように俺は村木に背を向けると、また校舎に向かった。
村木が大きな溜め息をつく。教室にいた生徒は生きている者は体育館にいる。教室に入っていないから見えないだけで、数人ほど床に倒れている生徒はいた。
白い髪の友人・瀬戸の背中が視界から消えるまで見つめていた。
村木は髪をがりがりと掻いて体育館に向かう。体育館に行けば武器を補充出来る。
教育委員会で決定された通称SWは命以外なら武器、食料をバックアップしてもらっている。
体育館に行く途中の廊下の窓にいくつか水滴が付着した。地面に斑模様が刻まれていく。斑模様が刻まれていく感覚が縮まっていく。
体育館は二階から伸びる渡り廊下を渡るか、外から体育館のある校舎に向かわなければならない。村木は校内から体育館に行く選択をし、二階に向かう。
二階の廊下を歩いて、二年の教室に誰かいるのを確認した。
髪を二本に縛った女生徒だ。見たところ外傷はない。
「大丈夫ですか」
形式的にそう訊ねた。
「…うん」
絶望を瞳に写し、頬には涙が流れている。
「体育館に逃げた方がいいんじゃないですか」
村木は訊ねた。
「あたしは、いいから。このまま死んでも」
「何言って…」
言い終わる前にまた断続的な銃声が耳をつんざく。
村木は無意識に舌打ちすると目の前の女生徒を床に伏せさせた。 教卓の上にあった花瓶が割れた。
「教室は危険だよ」
村木はがたがたと震えながら丸くなっている女生徒に囁いた。
「死にたくない…でもどうしたらいいの?」
どこから狙われているのかわからない。下手に動けない。
「体育館に逃げよう。静かに教室を抜けて、体育館に…」
女生徒は力無く頷いた。