スカイブルーめろんぱん 1
最近、宙来の脱色した髪に、白髪が増えた。苦労しているのだろうか?気にしながら宙来は振り返ってみる。両親の再婚。よし。同級生の弟ができた。まぁよし。その弟にストーカーもできた。・・・・・。
「ははは、まただ。僕がメロンパンが売り切れた、って一言ぼやいたらこれだ」
ときは、昼休み。この高校・宰相高校の購買で人気ランキング1位を誇るメロンパンは常に、争奪戦を経て食すことができるというほどの代物だ。それが今、宙来の義理の弟・岬青空の机の上に10個ほど置いてある。
「気持ちはありがたいんだけどね。これ、少し値が張るでしょ?悪いな」
宙来と青空は、お互いの両親が再婚するまでは仲が良いというほどではなかった。ただのクラスメイトであり、挨拶すれば適当に挨拶を返す程度の関係だった。
「どうしようかな。誰に返せばいいんだろう」
慌てる様子もなく、青空は財布を開いている。
「返さなくていんじゃねぇのか。善意でやってるんだろ」
今に始まったことではない。青空が傘を忘れたといえば下駄箱に折り畳み傘が入っているし、プリントで手を切ったといえば、引き出しの中に開けた形跡の絆創膏の箱が入っている。青空が咳をしただけで、のど飴が袋ごと入っていたこともあった。青空は美しい。ファンだっている。ストーカーがついていてもおかしくはない。けれど青空は無防備すぎるし、警戒心が微塵もない。
「でも、善意でもなんでも、こういったことはきちんと返さないと・・・・。僕の保護者じゃないんだから・・・」
「いいんだよ!もらっとけ。でも食うなよ。毒入ってるかもしれねぇから」
このメロンパンを食べるなと言ったことに対してか、それとも買い与えてくれた者に返金できないことに対してなのか、青空は不服そうな表情を浮かべた。苦い表情で宙来はそれを見つめる。
「やっぱりメロンパンなかった」
教室に入ってきた女子が、弁当を食べていた女子に泣きつくような振りをする。彼女は増山深里。栗色の髪を一本に縛っている。地味で、一目見てかわいいという感じではない。宙来はあまり話したことがない相手だが、青空は少し顔を赤らめて俯いた。
「増山さん」
すいすいと増山に歩いていく青空の襟を掴もうとするが、時すでに遅く、青空はメロンパンを増山に渡した。
「あっ!ばか!おまっ!」
どこの誰が買ってきたものかも分からない物だ。毒でも入っていたらどうする気なのか。話に割り込もうとして、後ろから強く腕を引かれ、目の前の青空と増山の会話を見ていることしかできなかった。
「あ、増山さん。メロンパン、余ってるからあげるよ」
「え、本当に!?」
顔を赤くして増山にメロンパンを渡す青空と、嬉しそうに目を見開く増山。
「あ、いくらした?悪いからお金返すよ」
増山はメロンパンを受け取る前に慌てて財布を取り出す。
「いいよ、いいよ。なんか奢ってもらっちゃって。でも僕食べきれないから」
宙来は歯が溶けるほど甘いものを食べたときのような猛烈な胃のむかつきを覚える。そして自分の腕を引っ張った相手をみた。黒髪を纏めた女子だ。目を合わせるなり頭を振られる。
「邪魔しちゃだめだよ」
あまり会話を交わしたことはない三条だ。1人でいることが多いが、友達がいないというわけではないようで、1人でいるのが好きなようだ。
「うっせぇ」
関わりの少ない女子でも遠慮なく暴言を吐き、腕を振り払って宙来は席について青空を待つ。
「なにしてんだよ」
頬杖をついて青空を睨む。穏やかに笑う青空の、まだ赤い顔に凄む気も起きない。
「危ないって、俺ぁ言ったぞ」
「大丈夫だよ。校内の人でしょ、購買のなんだから。そんな疑ってたらキリないよ?」
怒りはないが呆れている。この心配が相手に届くことはないのだろうな、と思うと情けなく思う。
「あのなぁ・・・・」
「増山さんが買えるはずだったメロンパン、僕がもらっちゃったんだもん。でもちゃんとお金は返したいなぁ」
もらったメロンパンを食べず、弁当を広げた青空に関心し、宙来は弁当を広げた。今日は少し、出汁巻卵を工夫したのだ。




