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未完結短編集  作者: .六条河原おにびんびn
契り千切る 関ヶ原パロ/現代
42/86

契り千切る 5

 島殿と形だけでも家族になって暫くは、島殿が食事の支度も、風呂の支度も掃除も洗濯もしてくれていた。僕にほとんど生活能力がなかったというか。今まで施設の人たちに頼りきりだったし、洗濯機はいじってはいけなかった。炊飯も何かあってはならないと食堂のおばさんみたいな人がボランティアで来てくれていたし。

 島殿はお仕事もしているから、両立は難しいし、僕も肉体的な若さというだけで甘えていたくはなかったから、僕が家事を担うと言った。島殿が帰ってくるのが7時半頃で、僕は4時頃になら帰ってこられる。僕にとっては生まれるずーっと前の話だけれど、身分の差から島殿は僕に家事をさせるのを渋った。

 島殿は関ケ原からずっと人間が生きるには長すぎる年月を過ごしていて、僕には不慣れな家電の使い方もよく知っていた。炊飯器が初めて世に出回ったのを見たことがあるそうだ。


 米をとぎながら僕はちょっと前のことを思い返していた。当時は風呂に毎日入る文化なんてなかったし、お米なんて毎日こんなに食べられるものではなかった。それに夕食なんてなかった。食事ができるまでの過程だって、気にしたことなどなかったような気がする。



「大谷様、米をとぐ時に、洗剤とかは入りませぬからな!」



 初めてここに来て僕が米をとごうとしたときに、慌てて島殿がやってきてそう言った。さすがに僕もそんなことは知っている。ただあのときの衝撃は忘れないと思う。前世の親友に会ったら、言ってやろうと思った。


 じゃらじゃらと音を立てて濁っていく水を捨てた。慣れる前は指の間から少し米をこぼしてしまったものだ。

 台所はリビングとくっついていた。リビングはベランダに面している。リビングの横に和室があり、その奥に僕の部屋がある。4畳の部屋で、他の部屋と比べると狭く古びているが僕は気に入っている。島殿はその和室のリビングを挟んで反対側に面している部屋を使っている。玄関からリビングまでの廊下にトイレと風呂場がある。ちなみにトイレと風呂場は別々だ。


 釜に水をいれて、炊飯器に設置するとスイッチを押す。これでいいのだ。火を起こして竹筒で息を吹きかける手間は要らない。便利だ。島殿と会って、昔のことを思い出す前はそんなこと全然思わなかったのに。ビルがあることなんて当たり前だと思っていたし、車が走り回っていることが日常的な風景だった。

 炊飯器以外の台所の電気の確認をして、点けっ放しにしていた台風情報がどうだのといっているテレビを消し、僕は買出しの支度をする。今日は何を食べようか。食事面でも、もうあの時とは全く違うものを食べている。昨日は麻婆豆腐を作ったし、その前はカレーだった。今日は焼き魚にしようか。島殿の食の好みは知らない。酒が好きだというのは知っているが、今の法律で僕の年齢では島殿の好きな酒を買ってくることはできない。


 戸締りをして、家の鍵を持ってから玄関を出る。昨日は秋が始まるにしてはまだ夏のように暑く、橙色を帯びた光が雲と雲の間から差し込んでいたが、今日は大雨。気に入っていた着物が濡れてしまうな、と思うと気分が沈んだ。過去を思い出す前からその素質のようなものがあったのか、洋服より和服を好んだ。そのせいか作務衣ばかりを選んで着ていた。島殿と同居する際には着物や小袖をもらった。今の時代では目を引くのか、すれ違う人々の幾人かは僕を見ていた。明日台風がくるのなら2日分くらい買い溜めておいたほうがいいのだろうか。あまり歩きやすいとは思えない防水加工されたブーツを履き、白地に紅色の模様の傘を持ち、僕は出掛けた。

 


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