プリンスの王子様3
彼は着慣れたような制服だった。おそらくわたしより年上だろう。感情を映さない青と黄の目がわたしを捉える。
「信号機研究部で待ってるネ」
まるで世界で2人きり。そんな独特の世界観を作っている。不意にかけられた言葉につられて頷きそうになる。
「部員募集してるネ。君と僕ちんの2人きりだヨ」
彼には表情が無い。
「名前教えるヨロシ」
表情のない顔が人形のようだ。こうして声を出し、動くのを見ているとおかしな気分になる。わたしはどの次元にいるのか、と。
「わたしはAAAAです」
「僕ちんは青黄梅バーミリオンと言うネ。・・・・・AAAAちん、よろしこ」
再び笑いたくなる衝動に駆られる。クールな顔立ちのくせにこの口調。そして滅多に聞かない敬称。異国人かもしれないと思ったが、名前からしてやはりそうなのだろうか。
「僕ちんは、異国人じゃなヨ」
思っていたことを口に出していたのだろうか、わたしは口元を押さえてどきりとした。
染めたようではない赤い髪とカラーコンタクトレンズ並みの青と黄がはっきりした目。名前はなんとでも名乗れるとして、他にどう説明がつくのだろう。もっともな説明をされたところで、信じるのも難しい。
「僕ちんは異星人ネ」
地区名から市名。市名から県名。県名から地方名。地方名から国名。そして国名から・・・・。スケールが違った。星が違うとはどういうことだろうか。このビジュアルから、二次元から来ました、のほうがまだ信じられる。
「アダムスキー型に乗って、ジアースにやってきたのだヨ」
ジアース。おそらく地球のことを指すのだろう。
ふざけないで!
→信号機の生まれ変わりとか言ってませんでした?
わたしは彼の言っていることを否定せず、話は聞いてみようと思った。
「信号機の生まれ変わりとか言ってませんでした?」
「よくゾ訊いてきれたナ!そうなのだヨ。僕ちんは僕ちんのアイデンテイテイに悩まされていたのネ」
アイデンティティの発音にわたしは目を閉じる。
「そうして、このジアースに信号機があると知ったのネ」
楽しそうな口調の割りに、顔に表情はない。わたしはからかわれているんだろうか。そう思った。
「僕ちんはこのまさるクンともう2年も付き合ってるのだヨ」
この男は苦手かもしれない。受けにも攻めにもならない。妄想の糧にならない。そして無機物を擬人化でもさせない限り、おそらく彼がわたしの意識の範疇に収まることはない。何よりわたしは、無機物擬人化を好まないのだ。
「もしまさるクンも僕ちんみたいに人間の姿になれたら、AAAAちんも喜んでくれるかネ?」
さすが、宇宙人。読心できるというのか。彼の前でおかしな妄想はしない方がいいだろう。
「僕ちんのことはバーミリオンと呼ぶヨロシ」
いや、信号機先輩で十分だろう。まず人前で呼べる名前ではない。ただのイタイ厨二病みたいではないか。
ふと考えていると、目の前に信号機先輩の顔があった。前髪を掻き上げられ、でこが露わになる。ちゅっと音を立てて、柔らかいものが当たった。
「僕ちんの星は、気にいった人にこうするネ☆」
信号機先輩がもうちょっとまともな人だったら、きっとわたしは―――。
【完】




