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未完結短編集  作者: .六条河原おにびんびn
契り千切る 関ヶ原パロ/現代
37/86

始まりの話

 自分がもしかしたら普通じゃない存在なのかもしれないと、そう思い始めたのは、夏の暑い日、ひとつしかないコップで、お茶を回し飲みしたときだった。

 夢をみたときみたいな、なんだか得体のしれないものになったような。


 見ていた風景とは一転して、おかしな風景が脳裏に浮かんで、僕は呆然としてしまった。

「なんだよはやく回せよ」

 ぼーっとしていたことに、喉の渇きに急いたのか、まだ口をつけてもいないコップを一番やんちゃな友人が奪い取った。ふと離れていくコップ。これもどこかで味わった記憶で。


 僕はこの日を境に、ことあるごとに、脳裏にどこかで見たような、でも絶対に日常ではみない風景を思い起こしては呆然としている。


 僕には両親がいなかった。気がつくと、孤児院というところで暮らし、そこで友人ができた。

 施設の人は、それを「でじゃぶ」と教えてくれた。僕の見てきたものは「でじゃぶ」というらしい。


 僕が普通じゃないと確信したのは、大風邪をひいた夜だった。ひどくうなされた。胸元がとても苦しくて、目が覚めた。暗闇が昔から苦手な僕は、ダウンライトで寝ている。施設の人も、僕の暗闇が怖いことに対しては困っていたものだ。

「大谷様、おひさしぶりでございます」

 黒い猫がいた。いや、これは猫ではない。キツネだ。それより、この生き物は僕を何と呼んだ?

「おひさしぶりでございます」

 尖っているが傷のある耳。尖った鼻。鋭い目付き。

「だれ・・・?」

 黒い生き物は首を傾げた。その様子は人間に似ている。

「石田三成殿の家臣、島左近勝猛と申しまする」

「いしだみつなり・・・・?しまさこんかつ・・・・?」

 聞き覚えがある。でも、知らない。顔がぱっと浮かんでこない。名前は知っている。テレビで見た人達だろうか。僕は得体のしれない生き物に首を振る。よくよく考えれば、僕の知識の範囲で、人語を話す動物などみたことがないのに、このとき僕の頭を占めていたのは不思議な感覚だった。温かいけれど、どこか遠いような。

「やはり覚えていらっしゃらないのですか」

 僕は黒い生き物に手を伸ばした。毛は硬い。猫を触るように楽しくはない。そんな僕に、溜め息を吐いた。


「貴方は、大谷刑部少輔吉継殿の魂を持つ者でござりまする」



 口がパクパクと勝手に動いている気がした。名前に覚えがある。見たことのある、見たことのないはずの光景がぐるぐると頭を駆け巡って。

「僕が・・・・?」

 名前も知らない人の魂。魂ってなんだっけ。ぎょーぶしょーゆーってなんだ。色々と考えながら黒い生き物を見ていると、瞼が重くなった。

「僕は・・・・とても・・・・眠い・・・・」

 がさがさとした肉級が頬に当たって、それからはもう、覚えてない。




「大谷様、起きてくだされ。大谷様。朝でございます」

 意識だけが覚める。知らない名前を呼ぶ声の主は施設の人ではない。

「・・・・おはよう」

 挨拶はしっかりすること。そう施設で教えられ、癖のように知らない人に挨拶をする。眠い目を擦りながら声の主を見た。

 うわっ!と声を上げ、僕は薄い掛け布団を握りしめた。見知らない、不審な男が部屋にいる。壁に寄りかかり、床に座りながら、ベッドで寝ていた僕を見ていたのか。

「大谷様、そんなに驚かんでくだされよ」

 30代後半から40代前半くらいの男が溜め息をつきながらそう言った。白髪の混じり始めた黒髪を後ろで束ねている。服装はお祭りのときによくみるような格好で、外を平然と歩けるようなそれではないと思った。

「・・・・・誰?」

「夜中に会ったでしょう」

「会ってないですよ・・・?」

「会いましたよ。途中で寝てしまわれましたが」

 この人は、顎のヒゲを伸ばしているようだ。

「おじさん、ヤのつく人?」

 言い終わったあとすぐに返事がきた。

「違います」

「なんでここにいるの?」

「大谷様に用があるのです」

「僕大谷様じゃないし、知らない人には付いていったらダメって・・・」

 おじさんはイライラしてる様子だった。

「誰でも初めは知らない人なのですよ、大谷様。今から知り合えばよろしいではないですか」

「きっと人違いだよ。だって僕、大谷様じゃないもん」

「今の貴方が大谷様ではなくても、貴方が貴方になる前、いわゆる前世の大谷様の魂を貴方が持っているのです。生まれ変わりです」

 おじさんは僕の両肩を掴み、目線を合わせてくる。

「だとしたら、僕は、どうすればいいの?」

「一緒に探して頂きたい御仁がいます。大谷様のご友人です」

 僕は首を傾げた。

「詳しいことはまだいいです。とりあえず、大谷様には、記憶を取り戻していただきたく」

「どうやって?」

「そうですね、本でも読みましょうか」

 おじさんは胸元の布の重なり合ったところから小さめの本をだす。絵本ではないようだ。差し出されたので、受け取る。

「あの時にいた人たちが大体載ってますよ。あ、東軍も載ってるんで」

 戦国武将がうんたらかんたらと書いてある表紙を見てから、しおりの挟まった部分を開く。写真と見まごう挿絵つき。

「大谷吉継っていうのが、貴方、大谷様ですよ」

 口元と頭部を白い頭巾で多い、目元だけが露出している。キリッとした目。

「これが僕だっていうの?」

 だとしたら、おじさんは変な人だな。

「これは後世の人の推測と妄想で描かれておりますからな」

「おじさんはどれ?」

 おじさんに一度本を渡す。

「これです」

 おじさんが開いたページに映るのは、大きな飾りのついた鉄みたいな反射をする帽子を被った、険しい表情の人だった。見比べてみても、似てない。

「肖像画の方が似てるやも知れませんな」

 突き返してくる本をまた受け取り、僕は、大谷吉継の説明書きを読み始めた。

「漢字が読めない。けどこの漢字はとても見覚えが」

 僕はまたおじさんに本を渡す。

「あぁ、そうですよね。中身は大谷様でありながら大谷様ではございませんものね。それは、こばやかわ ひであき と読みます。大谷様を自害に追いやり、関ケ原の敗因とも言えますね」

 おじさんの口が淡々と動く。一方で僕は、変に頭が軽かった。ぽわ~んとする、というか、浮いているような、言いようのない変な感覚。

「大谷様?」

 脳裏を、会ったことのないはずの人の顔が過ぎる。若い。おじさんの息子くらいには若い。誰だろう。身体がいきなり暑くなる。思い出したくないと何かが拒否している。お前が悪い、お前が悪いと、名前も知らない、想像上の人物に思ってしまう。

「大谷様?」

 洞窟なのだろうか?真っ暗な視界で叫んだ記憶がある。真っ暗な視界の中で、誰かが泣いていた記憶がある。真っ暗な視界の中で、誰かが叫んでいた記憶がある。

「大谷様?」

 お腹が熱い。痛い、というよりは、何かじわじわと熱くなる感覚。胸が詰まるような、重み。

「大丈夫ですか?大谷様?」



 頭の中で、話が勝手に進んでは、繋がってゆく。

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