ナナシノ幻想 2
橙色のストライプ柄の半袖シャツの笑顔の眩しいお兄さんが荷物を持ってやってくる。トラ猫ダイワではなく、瀬川急便である。爽やかな笑顔で3人の前に箱を置く。箱に取っ手がついているので、片手で持ち上げられそうだ。
「意外と小せぇな」
大須賀が両手を後頭部に当てながら、つまらなそうにそう言った。
「そんな大きくても部屋置けないもん」
高宮は頬を膨らませた。六平はテレビの入った箱の説明書きを読んでいる。
「メーカーもなかなかいいんでないか。懸賞は胡散臭いメーカーが多いからな」
「そりゃ偏見だな」
六平の言葉に大須賀は鼻で笑う。
「そうか?大体そうでないか?」
六平が天然ボケなのかそうでないのか大須賀に真面目に訊いている。高宮はやっていられないと言わんばかりに溜息をはいた。
「もぉ、2人ともギャラバ行ってきなよ!」
「高宮は来ねぇの?」
誘うというよりは、付いてきて当然という感じで、むしろ来ないのか?と確認するニュアンスである。
「いいよ、ギャラバ飲める物ほぼないし」
「明太子フラッペカップチーノなら飲めるんじゃねぇのか」
「なにそれ。名前からしてなんだか」
大須賀はふざけている様子はなく、真顔である。名称からしてカップチーノに明太子が入っているのだろうか。高宮は想像してみて、唾を吐きたくなった。
「コーヒーが嫌いなんだろう、高宮は」
六平の言葉に大須賀はニカっとした。
「まじかよ。コーヒー飲めないのか」
「だって苦いし美味しくないでしょ!」
六平は首を傾げたが大須賀は高宮を笑った。
「ココアも一応あるぞ。トッピングないが」
高宮はテレビの箱に付いた取っ手を持つ。大須賀が前に立ち塞がって、「行こうぜ」という。
「割引券やるから行こうぜ」
「え、いや、でも」
「一緒に行きたいんだ」
高宮の前に立っていた大須賀が一歩前に来て、耳元で囁くと、顔を近付けたついでのように高宮の頬にキスする。チュっと慣れたようなリップ音がして、高宮は湿った感覚と柔らかさに肩が跳ね、テレビを落とすところだった。
「大須賀、あまり高宮をからかわないでやってくれないか」
大須賀は、片手で頬を押さえ呆然としている高宮を面白がっている。
「高宮からかうと面白れぇからよ」
「大丈夫か?」
殴られたわけでも転んだわけでもないが六平は高宮の顔を覗き込んで心配そうに問う。普段が無表情なだけに、なんだかその差に不覚にもドキっと胸が大きく主張した。その表情を見せる相手が違うよ、なんて内心思いながら。
両親の離婚がもとで帝王学院に編入してきたけれど、高宮は不安でいっぱいだった。高宮が編入するクラスの学級委員だった六平が高宮に寮生活の説明と案内をしてくれたことがきっかけで高宮は六平と仲良くなり、六平が大須賀を紹介してくれた。六平がその後に桐生と柳瀬川を紹介して、高宮の不安は掻き消されていった。
「テレビ、部屋に置いてきたら行こうぜ」
大須賀の唇の感触が残っているような気がする頬に片手を当て、高宮は自室に向かった。
「ここで待っているぞ」
腕を組みだした六平と両手を後頭部に当ててにやにやしている大須賀。高宮は2人のジャージ姿を交互に見る。
「え、2人ともその恰好で行くの!?」
六平の紺色に蛍光オレンジとラインが入った上下セットのジャージと、白と黒の上下セットのジャージを着た大須賀。高宮が思っているギャラバにジャージなんて似合わない。
「いつもこの恰好だが」
六平は真顔でそう答え、高宮は大須賀に視線を向けるが、大須賀も頷くだけだ。
「まじなの・・・・。着替えてよ、ギャラバにジャージって変だよ!」
「高宮って変なやつだな?」
大須賀が六平に向くと、「今にはじまったことではないようだけどな」と返ってきたので大須賀は笑った。
着替えてきた六平と大須賀の私服姿を確認すると、玄関で合流した。
六平は脚の長さを魅せるようなタイトなジーンズに、華奢さがわかる、ディムグレーのVネック。薄手で長袖だ。髪が地毛でもハイミルクチョコレートのような色なので、暗い色の服がよく似合っていると高宮は思った。
大須賀はベージュの七分丈のカーゴパンツに肘まで捲ったワインレッド色のロングTシャツ。その上から黒いベスト。大須賀も同じく色素が薄いようで髪色がクセのある淡い黄土色だ。視覚的に軽やかな印象だと高宮は思った。ミサンガと思しき茶色のものが右手首にかかっている。
ギャラクシーバックスは学院から近場にあり、徒歩で行ける。
強い日差しに高宮は手を目の上に当てる。寮の庭に咲いたチューリップの赤も目に眩しい。玄関の真上の、校舎と寮を結ぶ渡り廊下の真下の陰はいつもより暗い。
「こりゃ混むな。王学の生徒で」
帝王学院のことを略して王学と呼んでいる。帝学だと停学を連想させるから避けているという話を六平から転校初日に聞いた。近場の店は休日は王学の生徒で混んでいる。
特に今日は日差しが強く暑いため、フラッペカプチーノという冷たい飲み物を推しているギャラバは混みそうだ。
「明太子フラッペカプチーノはなくならないと思うけど・・・」
寮の敷地を出てすぐの交差点は青だった。高宮は急いだが、六平と大須賀はのろのろ歩き、着いた頃には赤信号で、青信号を待つ。
「はしゃぐなよ高宮」
いつの間にか大須賀はサングラスをしている。
「はしゃいでないって」
「もうすぐ夏か。プールにでも行きたいところだな」
まだ薄手なら長袖でも十分な季節だが、今日はいきなり暑い。六平は袖を捲り上げる。2人とも色素が薄いためか色が白い。日に焼けると赤くなるタイプのようにも思える。
「お、いいな、プール」
「六平はなんか水着とか似合わなそう」
信号が青になって、六平と大須賀が歩き出す。高宮も遅れて渡る。
「あー分かるわ。なんかあんまり肌出さないイメージっていうか」
「そうか?バスケットボール部は大体ノースリーブだが」
高宮は六平の部活の姿は見たことはない。
「眼鏡はどうしてるの?」
「コンタクトレンズを入れている。部活の時だけな」
「それ伊達眼鏡じゃなかったのか」
日差しで眩しい銀のフレームを高宮は見つめる。レンズの上だけを覆っている。
「なんでいつもコンタクトじゃないんだよ」
お洒落なプラスチック眼鏡ならとにかく、堅物っぽい銀フレームの眼鏡にハイミルクチョコレートのような髪色が正直高宮の中ではミスマッチで、真面目なのか、グレているのか分からない。
「部活の時はあまり感じないが、日常生活だと違和感に落ち着けなくてな」
たわいない会話をしているうちにギャラクシーバックスが見えてくる。
「お前、ココアでいいんだよな?」
「明太子とか入ってないよね?ここのココア」
「明太子フラッペカプチーノになら入っているが」
大須賀の問いに信用ならないとばかりに六平に向いたが、六平もどこかずれたことを答える。
「買ってくるから席探しとけよ」
大須賀はポケットから3枚の券を出して、ギャラクシーバックスに入っていく。高宮と六平も大須賀に続いてギャラクシーバックスに入っていき、混雑している中席を探した。窓際と暑いところは避けられているようで、そこだけが4人掛けのテーブルが空いていたため、そこにした。きょろきょろ店内を見回せば、その大多数がピンク色に濁ったカップを持っている客で、あれが明太子フラッペカプチーノだろうかと思った。異様な味覚の持ち主ばかりで自分が異様なようにも思える。高宮と六平は向かい合うように座る。大須賀はどちらの隣に座るだろうか。
高宮はブラインドが半分下がった窓から外を見つめていたが六平は高宮の方をじっと見つめているようだった。
「六平」
「なんだ?」
ギャラクシーバックスの、窓の周辺は芝生が植えられ、花が綺麗に植えてある。ずっと花を見つめているが、射すような六平の視線がそろそろ痛い。
「いや、なんか。俺の顔なんかついてるかなーって」
手の甲で何度か顔を拭ってみる。
「もう少し右だな。俺から見て」
六平は真顔である。本当に何か付いていたのか。
「大須賀に接吻されたところ」
六平の表情が曇る。なんだこの状況は、と高宮は思いながら、大須賀にキスされたところを手の甲で拭った。忘れていたのに。
「せっ・・・ぷん・・・って・・・。そこがどうかしたの?」
「いや。俺がただ気になっただけだ。なんか・・・なんだろうな。妹を気に入らん男に取られた・・・みたいな感じだろうか」
六平は眉間に皺を寄せ、やはりいつもと同じ真顔でそう答えるものだから、高宮は余計に戸惑う。例えが丁寧なようで雑だ。
「オレ妹いるけど分からないわ、そのたとえ」
「そうか」
短く切った六平。ただもう一度六平の言葉を思い返してみて。
「オレ、妹なの?」
「弟っていうのはもっと小憎らしい感じだからな」
六平の眼鏡のフレームが反射して眩しい。
「六平弟いるっけ?」
六平はこくっと頷いた。
「3つ子だ」
たった4文字だけれど、高宮は驚いて前のめりになって、もう一度訊ねる。
「弟と姉だな。俺だけ色素が薄い」
双子や三つ子の遺伝子のことは高宮はよく知らないが、そういうこともあるものなのかと思った。六平が携帯電話の画面を見せてくる。
「この前撮ったやつだな」
六平と同じ顔をした人があと2人映っている。にこっと笑う長い黒髪の女性が、六平と、もう1人の黒髪のムスっとした六平の肩を抱いて映っている。
「小憎らしいんだ?弟」
「ああ。生まれた時から反抗期のようでな。会えば毎度脛蹴られるぞ」
兄弟の話をする六平は表情が緩んでいて楽しそうだった。
「まぁ、でも下の子ってそうじゃない?オレも妹によくバカにされる」
「妹さんもきっと、高宮がかわいいのだろうな」
さきほどから六平が変だ。暑さで少しおかしくなっているのか。大須賀がはやく来ることを祈るばかりだ。
「ところで六平はさ、桐生のどこが好きなんだ?美人なところ?優しいところ?」
話題が桐生のことに移って、少し六平は引いてしまう。
「確かに美人かもしれないな。高宮はああいう感じの人が好きなのか?」
「えっオレ!?」
「優しいが時折見せる毒めいたところは惹かれるな。まっすぐなところと少し優柔不断なところも守りたくなるな。それから薫を見てるときの目がな、切ないんだ」
六平が高宮から視線を外した。まさか本当に答えると思わず、六平の桐生に対する真摯な想いに、高宮は気分が重くなった。
「改めて考えると少し高宮に似てるな」
「え?」
脳裏にあの艶やかな黒髪が思い浮かぶ。形も色もいい薄い唇。薄い二重に濃く長い睫毛。自分と似ているかどうかと言われれば疑問しか残らない。
「いや、似てないでしょ。っていうか、柳瀬川くんのこと見てる時の視線が切ないって、それこそ切ないよ、六平」
ダストボックスやその上の備品の陰から見える行列の中の大須賀を探すが死角にいるようだ。身体を左右に揺らして見るが、もしかするとすでに注文しているところにいるのかもしれない。
「俺がどうかしたのか?」
意外な声が頭上から降ってきて、咄嗟に高宮は姿勢を正してしまう。
「よぉ、高宮・・・・・・と静ちゃん」
高宮にだけ笑顔を見せて六平はおまけのように呼ぶ柳瀬川。
「え、なんで?え?」
高宮が柳瀬川と六平を見る。六平は特に驚いた様子はない。
「桐生とデートだよ。な~んてな」
柳瀬川が視線で別のテーブルをさす。桐生が高宮と六平に手を振った。
「出掛けるってここのこと・・・」
「ちょっと本屋寄ったついでにな」
桐生のいるテーブルと見つめていると、ピンク色に濁ったカップがある。あれが明太子フラッペカプチーノだろうか。
「桐生君飲んでるのなに?明太子?」
柳瀬川は少し首を傾げたが、満面の笑みを浮かべる。
「トマトアンドストロベリーフラッペカプチーノとか言ってた気がするけど」
桐生の反対側に置いてある、おそらく柳瀬川が座っていた席にはごく普通のティーカップが置いてある。
「人数増えてんな」
大須賀がトレイを持ってやってくる。テーブルにトレイを置いて六平の隣に大須賀は座った。
大須賀は高宮の前に氷とココアの入ったグラスを差し出し、六平にはピンクに濁ったカップを差し出した。ギャラクシーバックスはオリジナルメニューにしかテイクアウトサービスがない。
「それっ本当に明太子なの・・・?」
六平は躊躇なくカップに刺さった太めのストローを咥える。高宮は引き攣った顔でそれを見つめる。大須賀が悪い笑みを浮かべていることにも気づかない。
「おいおい」
柳瀬川は困ったような表情で高宮の頭を撫でた。
「じゃあ飲んでみろよ」
「いいの・・・?」
大須賀がまだ口を付けていない自分の分を高宮に差し出す。高宮は躊躇いがちに口を付け、啜る。
「っ!?」
口に広がったのは明太子の味ではなかった。明太子のしょっぱさというよりは甘さ。いちごオレのような味に酸味が効いたようなだ。
「明太子味なんてあるわけねーだろ」
「あんまり高宮をからかうなよ」
さっき六平が言った言葉を今度は柳瀬川が笑いながら言う。離れた席で桐生も笑っている。1人騙されていたのかと思うと急に恥ずかしくなってしまう。
「まさかマジで信じてたのかよ?」
「すまない。なにとなくおもしろそうだったので加担した」
謝ってはいるが、悪びれる様子もなく六平はストローに口を付けたままだ。
「高宮お前詐欺に引っかかるんじゃねぇぞ」
「大須賀も静ちゃんも高宮をからかいすぎなんだって」
3人、主に大須賀と柳瀬川が言い合っている間、当の本人はふと桐生を見る。さきほど六平が言っていたことは本当だろうか。だが桐生とばっちり目が合ってしまう。桐生は大人っぽい笑みを浮かべた。誘われるようにココアのグラスを持って柳瀬川のいた椅子に座る。
「テレビはどうなったんだい?」
「さっき届いたよ。途中で六平と大須賀に会ってさ。割引券あるから一緒に来いって」
桐生は確かに美人だ。ただ六平が惚れているのはそういう点ではないのだろう。ならばどういう点なのか、高宮は興味があった。
ストローを抓んで口に咥える仕草まで美しい。そして男とはどうにも意識できなくて、なぜか年上のお姉さんと一緒にいるようで気恥ずかしくなってしまう。
「いとこで同じ学校って、なんかいいよね」
桐生の瞳に大きな反射。あの窓際だ。あの窓際で柳瀬川が動く度に、桐生の瞳の反射も揺れる。そしてそれが見えるくらいにここの2人掛けのテーブルは狭いというか近い。
「いやー、やりづらさも感じてそうだけどなー」
愛想笑いでそう答える。六平はアンタのこと好きだけどあんたはどうなんだよ柳瀬川が好きなのか。高宮は内心そう思った。
「そっか。そんなものなのかな」
伏せた睫毛の下の目元がまるで恋する乙女のようで高宮は目を逸らした。桐生は一つ一つの仕草が物憂げなのかもしれない。そして儚い。六平はきっとそこにやられてしまったのだろう。内心一人で納得する。
「あ、それ」
桐生の左腕の袖から見えた桃色の紐。高宮が反応すると桐生は袖を捲った。
「ミサンガ?」
「桃色って恋愛運じゃなかったっけ?」
お節介な気持ちが先走る。桐生は、はははと笑った。
「女子高生みたいなこと言うね。そうだよ。一般的イメージだと桃色は恋愛運だよね。協調って意味もあるらしいけど」
「桐生くんは?」
誰かが好きなの?誰かと協調したいの?高宮は真剣な面持ちで桐生を見つめた。
「大した意味はないよ?」
にこっと笑ってはぐらかされる。
「カノジョがいるんだ、俺。柳瀬川の幼馴染の女の子なんだけど」
桐生の言葉が右から左へ流れていくようだった。カノジョがいる。カノジョがいるとなると、六平の立場はどうなるのか。
「その子がペアでっていってくれたんだけど、ちょっと俺にピンクは似合わなかったかな」
なんだか高宮は馬鹿らしくなって、うん、とはっきり頷いてしまった。
「そっか。やっぱりピンクは似合わないか」
「青だね。青が似合うよ」
なげやりにそう答える。
「青か。でもあの子は暖色系の方が似合うんだよな・・・」
「それなら2色にしたら」
六平のことが頭から離れなくなって適当に、けれど雑にそう答えた。
桐生にはカノジョがいて、柳瀬川と付き合っているという噂もあって、六平は桐生のことが好きで。頭の中で構図を描いて、思いっきりココアを吸う。
横目で六平を見れば、大須賀と柳瀬川が話し込んでる隣で静かにトマトアンドストロベリーフラッペカプチーノを啜っている。
「カノジョとは、長いの?」
「半年くらいかな、まだ」
なんで自分は桐生のカップル生活のことなんて訊いているのか。一人頭を抱えだした高宮を桐生は不思議そうに見た。
「あ、でも柳瀬川に紹介してもらったわけじゃないよ。たまたま。世間は狭いね」
高宮がもう一度六平を見れば、六平と目が合う。無表情のままストローに口を付けている。
「大須賀と柳瀬川、話し込んでるね」
「仲が良いんだよ。いいな、あそこは。なんだか六平に嫌われてるっぽくてさ」
耳を疑う。少し俯く桐生のを見つめ、「違う、そうじゃない」と六平に対するお節介が燃える。
「そう・・・かな・・・?桐生くんほど六平のこと知らないけど、人のことそんな嫌うかな・・・?」
「嫌われていなくても、苦手には思われてるみたいなんだ。本人と同じ空間で言うべきじゃないね」
桐生は背を引いて、高宮と間を取ると、目元を軽く拭った。泣き出しちゃった?と高宮は内心焦りだす。何と声を掛けていいか分からない。どうしてこういう話になってしまったのだ。
「花粉症やっぱつれぇよな」
大須賀と話が終わったらしい柳瀬川が戻ってきて、ポケットティッシュを桐生に差し出した。しかもローションティッシュである。
「ほんと。鼻つらくて」
「あ、花粉症か」
柳瀬川が差し出したティッシュで鼻をかむ桐生。似合わない。
「いきなりツーンってきて目にキて鼻にクるんだよな」
柳瀬川がずっと突っ立っていることに気付いて高宮は立ち上がって、六平と大須賀のもとに戻った。
「何話してたんだ?」
意外にもそう訊ねたのは六平ではなく大須賀だった。
「え、なんかミサンガの話」
自身の左手首を右手でミサンガを付けているらしきジェスチャーで伝える。
「ミサンガか。そういやピンク色の付けてんな」
「大須賀は茶色だね?」
大須賀は自分のミサンガを見る。
「茶色は温もり、安心感、堅実のイメージカラーというが」
「あれだろ、色の効果っていうか、もう色で選んでるだろ、こういうのって!」
大須賀の語尾が少し強まる。
「茶色好きなんだ?」
「俺そんなピンクとか黄緑とか似合わないからな」
「会話内容が女子高生臭いな」
そのフレーズさっきあんたの好きな人から聞いたよ、という言葉を飲み込んで、残り少ないココアを飲み干す。
「じゃ、帰るか」
高宮が飲み終えたのを合図に大須賀が席を立つ。
「嫌われていなくても、苦手には思われてるみたいなんだ」
桐生の言葉を頭の中でずっと考えていると、すでに交差点のところまで来ていた。大須賀が何かずっとぺらぺら話していたようで、高宮の代わりにその相槌をずっと六平が打っていたようだ。
「あ・・・のさ」
交差点を渡っている間に高宮が立ち止まったので少し後ろを歩いていた六平は高宮の背に手を当て歩くことを促す。大須賀は両手を後頭部に当て、振り向くこともなく歩き続けたまま。
「さっさと帰って高宮の部屋でテレビ観る」
大須賀の部屋にはもっと大きいテレビがあるはずだ。
「あ、接続しなきゃ」
高宮は自身で話を切り出したのも忘れ、テレビのことを思い出す。六平は高宮を追い越す。
「あんまり言うほど美味くはなかったな。不味くはなかったけど」
「トマトの食感とイチゴの種の感じがな、不快ではあったな」
「ココアはココアの味だったよ」
「嫌われていなくても、苦手には思われてるみたいなんだ」
六平の横顔見ながら桐生の言葉を思い返す。
【結】




