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未完結短編集  作者: .六条河原おにびんびn
朱の洋館 R-15/ホラー
32/86

朱の洋館 10 R-15/某映画パロ


 親友が、自分を刺す。視界が大きくずれ、「高木」と書かれた学校指定のスリッパが見えたところで、目が覚める。


 目が覚めて上体を起こす。目の前にモデルの様な体格の男性が背を向けて立っている。

「し・・・・ろえ・・・・・君・・・・・?」

 龍宮はおそるおそる口を開く。振り返った褐色の肌の男。

「起きましたか?」

 白江に間違いなかった。大人びた顔立ちをくしゃりと歪ませて笑う。

「白江君・・・・・・無事・・・・だったの・・・・・?」

「ええ。びっくりしちゃったけど、大丈夫です」

 周りを見渡す。城崎が隣で、眉をひそめて眠っている。

「ここは・・・・?」

「洋館の地下のようですね。研究所みたいな構造ですが・・・・・。ここは仮眠室だと思います」

 簡易ベッドが沢山置かれている部屋。龍宮と城崎は床より少し高めになっている畳の上に寝ていた。

「そっか・・・・、怪我はない?」

「はい、ないですよ」

「私たちは・・・・・どうなっていたの?」

 記憶を辿ると、白い腕に壁際まで追い詰められたところまでしかない。

「あそこの廊下は、入り口はありますが、出口はないんです

よ」

 白江が呟くようにそう言った。

「壁から減り込んできたんですよ。記憶ありませんか?」

「じゃぁ・・・・・!天城君と渡島君、和泉君は!?」

「別の部屋かもしれません」

 龍宮は後退さる。説明しようがないけれど、この男は白江ではないような気がしてきた。態度と口調が白江らしくない。

「白江君・・・・・・、白江君だよね・・・・?」

 後退さる龍宮の腕に、しゅるしゅると何かが巻きついていく。

「・・・・・白江・・・・・くん・・・・?」

 背の高い白江。彼はいつも、背が高いのにワンサイズ大きいワイシャツを着ている。ぶかぶかの袖から、数時間前に見た触手が伸びている。

「ぅ・・・・そ・・・・・」

 白江の袖から触手が伸び、龍宮の腕に絡みつく。

「あがあああああひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃああああああ!」

 高らかに笑い声を上げる白江の顔はだんだん崩れ、ワイシャツがぶちぶちと破られていく。とぐろを巻いた蛇のような触手が、そこに何本も存在する。

「城崎君っ!起きて!城崎君!」

 龍宮は叫んだ。けれど城崎はまったく動く気配がない。けれど、その手は除草剤タンクを手繰り寄せている。

「城崎君!」

 赤いフレームの眼鏡の奥の、切れ長い瞳が開く。

 城崎は黙って、素早く除草剤タンクを開ける。

 褐色の液体が触手にかけられる。

 触手は龍宮を解き、城崎にめがけて向かっていく。

「逃げてください龍宮先輩!」

 触手が城崎の腕に、足に、腹に、胴に巻きつく。赤いフレームの眼鏡が飛んだ。床に軽快な音を立てて、滑っていく。

「龍宮先輩!何しているんですか!?早く!」

 動こうとしない龍宮に声を荒げる城崎。

 一際太い触手が城崎の細い首を捕らえた。

「っふ・・・・・」

 龍宮は仮眠室の出口に走った。城崎を振り返る。触手で城崎の顔は見えない。




   彼は生涯、偽った善者で在り続ける。本心じゃなくても。





「龍宮・・・・・せん・・・・っ!お願いします!逃げっ!」

 龍宮は仮眠室を出ていった。


――――そうだ、それでいい・・・・・。




   龍宮先輩 貴方に何かあったら どんな顔して天城に会えばいい・・・・?



   心細いくせに。



   あいつらだけには、変な見栄を張っていたい・・・



   死にたくないくせに。



   あいつらみたいに 優しくなりたい・・・・・


   どうしてそうまで善人にこだわるの?

    


「逃げ・・・・て・・・・く・・・・」

 龍宮は戻ってきた。


  

   

     やれることなんてないんだけどさ。何一つ。




 

 触手に噛み付いた。考えることなんて何もなかった。脳みそのなかは真っ白。視界には、後輩の苦しそうな歪んだ顔。赤いフレームの眼鏡。さらさらの綺麗な髪。

 口内にえぐ味が広がった。生のじゃがいもみたいな、口内がざらざらするあの不愉快な感覚。そして酸味と苦味。卵黄のような体液が口に、顔に、身体にまとわりついた。

 感触は、タコに似ている。口から吐き出した触手の欠片。触手の力が弱まる。あとは手で掻き分けて、むしりとった。

 おかしな病気になったらどうしようと思った。

 自分がドライバーもライターも持っていたことを思い出した。

 息切れを起こし、瞳に涙を溜めている城崎を見たらどうでもよくなってきた。


 口の周りが触手の体液や肉片で汚れ、ぼんやりとした表情で城崎のほうに向いた。

「怖いですよ・・・・・。先輩・・・・」

 城崎が肩で息をしながらそう言った。

「除草剤、使っちゃいましたね」

 苦笑いを浮かべる城崎を、龍宮は抱きしめた。城崎は目を見開いた。手を背に回そうとしたが、やめた。

 何も言わない龍宮。何も言えないのだ。しゃくり声が聞こえる。泣いているのか。



「ひどいですね、先輩。後輩を、噛み千切るなんて」

 龍宮の背中から、聞き覚えのある声。

 白江がそこにいた。噛み傷だらけで、出血はしていないが、ボロ切れのような肌の上半身の白江。下半身はタコの魚人のように、触手がいくつも出ている。

 口の端を吊り上げ、けれど目は笑っていない。睨むように、けれど気に入った玩具を慈しむように。

  白江はこんな知的には笑わない。

 

 

  これは白江ではない。分かっている。


  ボロ切れのような手に、金属バット。いつそんな物を手にしたのか。

  あれを奪って、抵抗なんていくらでも出来ると思う。




  龍宮を守るつもりでいたのに。



  憧れのあいつの、想い人を・・・・・

  





「“オレ”が、渡島じゃなくて、ごめんな、先輩」


 最期の最期、好きな人のもとにいさせてやれなくて。





――――形が白江な以上、オレは、何もできない。




――――よく分かってるじゃないか。白江のくせに。




  龍宮の肩越しに、いびつに笑う白江を見つめた。

   


   






   捨テラレタ悲シミトカ 寂シサヲ知ッテル シンヤ ナラ キットイイ仲間ガ出来ルヨ





「いっ・・って・・・」

 渡島は目を擦った。身体の節々が痛い。

 辺りを見渡す。自分のいる反対側に天城が寝ている。四方八方黄ばんだ白い壁。ただひとつ、目の前の壁にだけ、上のほうにガラスが埋め込まれている。奥は 暗いが、電気が点いているのは分かる。ガラス自体が黒いのか。サングラスのレンズみたいなものだろう。そして、四角形の穴。おそらく出口。

 渡島は動こうとしたが、右足が重いことに気付く。

 壁から生えた鎖に繋がれている。目の前には斧。これで鎖を断ち切ればいいのだろうか。けれど斧で断つには鎖が太い。

 渡島は斧に手を伸ばした。皺くちゃの紙が置いてある。


  『この斧でトモダチと自分の足を切断して逃げるか、作動する火炎放射器で炙られるか、選択しろ』


 何か悪い夢でも見ているのではないかと思う。ふざけすぎている。

 紙を捨てて、笑う。いつものように。見下したように。小ばかにしたように。けれど、すぐに表情が無くなった。

 ウィーンという機械の音がする。黄ばんだ白い壁から、機械が現れる。この手紙のとおりなら、おそらくそれは火炎放射器。渡島はそれを凝視した。

「天城!起きろ!天城!!!!!!!」

 渡島は天城を呼ぶが、起きない。

 機械は先端が筒状だった。そこから朱色の炎が吹く。少しずつ、機械が壁から増えていく。

 はったりだと思っていた。悪戯だと。

「嘘・・・・・だろ・・・・・?」

 火炎放射器は天城の繋がれている壁の方ばかりに現れ、先端は天城に向く。

 最初は花火くらいなかわいいものだったが、段々と火力は増していくのが見て分かった。

「天城っ・・・・!」


 炎が昔から苦手だ。ガスコンロと打ち上げ花火以外の炎をみると、背筋がぞくっとし力が抜ける。漠然とした不安がもやもやと圧し掛かってくる。それもこれも自分ごと消してしまいたい過去のせい。

 


      一度、死にかけたことがある。燃え盛る家の中で。

 

 

 足枷とその鎖がだんだん熱くなり始める。息が苦しくなってくる。酸素とかそういうことではない。恐怖で。

 焦らすような、ちりちりとしたこの程度の熱さが、怖い。

「天城・・・・・」

 今、ここで起こして、どうなる?ふとそう思った。ここで起こして、天城にも同じ恐怖に晒すのか?

 ここから出たい。炎を見たくない。出たい。出なければならない。焼かれたくない。


 ここから出られるのなら・・・・・・。


 斧を掴む。やるならはやいほうがいい。振り上げる。


  校庭を走る天城が脳裏を過ぎる。その横に自身がいる。

  桜が舞い散る校庭。その下を走る天城。

  1年から2年に上る頃の桜。つまらない通知表を奪われ、追いかける自分。

  白江が混じって、城崎に笑われ、和泉に呆れられる。


   




――――どうしたらいい?

 

 ここで焼き殺されるのがいいか、足を切断するのがいいか。

 斧を下ろす。

 炎に炙られ、天城の傷んだ髪がきらきらと照る。動かない。

「くそっ!」

 

  自分が滅多刺しにされたときのことを思い出す。あの時もこうして、天城のように、弟がぐったりとしていた。遠い過去が甦ってくる。頭が痛くなる。息もまともに出来ないのに叫びたくなる。気が重くなる。この記憶ごと消えたい。無くなりたい。

「うわアアアアアアああああああああっ!!!!!!」

 熱い。喉も。胸も。足枷も。目の奥も。

 塞がった傷が全部開くようだった。刺された肩が、胸が、腹が、腕が、頬が、今になって再び疼きだす。普段の生活なら思い出さなくていいようなことまで思 い出される。犯人の服装とか、顔とか。父親を刺した後の血塗れの包丁だとか。首を絞められながら自分を見つめる弟だとか。

「いやだ・・・・・やめろよ・・・・・!」

 別居した後は自分に心配かけまいと嘘ばかり言う弟が、助けを乞う。

「出せよ・・・・っ!止めろよ・・・・・っ!」

 頭を抱えて、地面に伏せる。黄ばんだ白さのざらざらとした感触。爪を立てて引っ掻いた。全てを拒否するように、がりがりと引っ掻く。


 一番最期にみた弟の顔は、真っ赤で、泡を口の端から垂れ流し、動かない眼球は自分を凝視していた。

 弟を守ったつもりで、生き残ったのは自分だった。

 

「どうすればいいんだよっ・・・・・!?」

 ぼろぼろになった、手入れの行き届いた爪。拳を強く握ると掌に刺さった。

 この足を切断すれば、炎は消えてくれるのか。天城の足を切断すれば、炎は消えてくれるのか。この記憶を掘り起こすことも止まるのか。

「天城っ・・・・!」

  死んでしまおう。あの時と同じように炎にまかれて。


―――― 一緒に、死んでくれるか?天城・・・・・


 天城との思い出が頭を支配しないように、目を閉じ、何も考えまいと思った。


けれど、天城が焼かれて死ぬのはあまりにも酷い。斧を振り上げる。狙うのは足ではない。首だ。

 自分はこのまま、業火に焼かれて死んでしまおう。



    「一貴・・・・生きていてよかった・・・・・」




 父親、弟が殺され、兄が行方不明になるなかで、唯一残された母親。奇跡的に一命を取り留めた自分を強く抱きしめ涙した、哀れな母親。

 自分が死んだら、そうだ。母親は一人になってしまう。

 一瞬にして決心は砕け散る。そして新たな決心が生まれる。


「ごめん・・・・・。足、無くなるが・・・・・・」

 斧を握り直した。

 失敗したら?おそらく滅多刺しにされた時より痛いのではないか?血が止まらなくなってしまうのではないか?

 天城に恨まれるのではないか?いずれの道にしろ恨まれる。

 天城には妹がいるといった。父親も母親もいるんだろう。天城が死んだら。悲しむだろうな。恨むだろうな。つらい道が待っているだろうな。


 足がなくなったら?不慮の事故でもなく、友人に切り落とされるのだ。

 天城は自分を恨むか?

 天城が渡島自身を恨まなくとも、渡島が渡島自身を恨む。

 それならどうしたら一番丸く収まるのか。

 このまま死ぬのか。焼かれて死ぬのか。


  生きたい。死にたくない。母親を一人にしておきたくない。死ねない。

  命さえあれば、足がなくなったって・・・・・


 手が震える。失敗したら?失敗。失敗したらどうなる?失敗・・・・・



       話変わるけど、天城には兄弟、いるのか?



         妹がいるよ



       そうそう。年子だからさ、1年にいるんだよ

    

   

       まじで?意地悪いだろ

    

    

     しっかり・・・・してい・・・・て・・・・、綺麗な・・・・・・ひと・・・・・



     ああ。兄のオレが言うのもあれだけど、顔だけは綺麗だからなー

 


     目元は・・・・・・・似ていま・・・・す・・・・ 


        

       「目元?似てるのかなー?」



  失敗してはいけない。失敗できない。


  失敗しなければいい。



――――二三貴フミキ、お兄ちゃんに力を貸してよ。


 そのまま斧を振り下ろした。


***




 あまりにも受け入れたくない現実の悲惨さに目を背けたとき、人はそれを夢と呼ぶのだろうか。

 

 「お前みたいな、人間が腐ったような男は、もう月見里ヤマナシ家には要らん。出て行け」

 「お父さん、でも、この子は未成年なのよ・・・・・?」

 「父さん、誤解なんです!深夜は悪くないっ!」

 





   「然るべき施設に入れろ」


 


 施設の生活は苦労した。第一に当時の僕は問題だらけだった。施設の鳴海さんに毎日文句ばかり言い、ときには喧嘩をした。

 「人に信用されるような善人」になろうと躍起になった。たとえ利用されるだけの人間でもいい。「善人」になろうと。当時の僕は「いい人」になりたいと、それから素を隠した。

 自炊、掃除。自力でこなした。こいつという友達はできなかった。けれどいじめられていたわけでもない。はぶられていたわけでもない。

 施設にいたソラ、という少年は右腕がなかった。交通事故で両親と右腕を失くしたという。どうして君は両親も兄弟もいるのに、そんなことをしたんだ、と当 時の僕に毎回ちゃちゃいれてくる。不思議と僕はそれが嫌ではなかった。施設ではいい「お兄さん」的な存在だった彼は、僕にも同様「お兄さん」で接してく る。あとで鳴海さんから聞いた話では、同い年だったのだけれど。

 ときには「本当の自分」に負け、掃除をサボタージュしたこともあった。その度にソラは僕を叱った。

 施設での生活は楽しかったのかもしれないな、とふと思うことがある。今の自分の生活に満足できないわけではない。施設には3年間いた。

 ある日、父が施設にやってきた。引き取りにきたのかと思った。

 父は、自身の兄とその息子の三男死んだこと、長男が行方不明で、次男が意識不明の重体だということを言いにきただけだった。

 そして、父は「お前は葬儀にも見舞いにも行かなくていい」と。

 父の甥の次男・一貴イツキとは同い年で、よく家に来ていたものだった。けれど遊ぶのは兄。一貴は兄を毛嫌いしていたけれど。三男の二三貴フミキ は父と母が僕に近寄らせなかった。長男の零汰レイタはいつも僕をからかって遊んでいた。今思えば、遊んでくれる人なんて零汰しかいなかった。

 最初は本当のことだとは信じなかった。死んだ。父とは違い、優しい誠実そうな伯父。こんな僕にも無邪気に笑いかけて近寄ろうとしてくる二三貴。生意気だ けれど、僕にだけは本音をぶつけてくる一貴。父にも撫でられなかった頭をわしゃわしゃと乱すように撫でつけ、誰にも向けてもらえなかった笑みをみせる零 汰。

 涙は出なかった。ただ、頭がぼーっとした。その場で手を合わせた。


「何してんだよ、しんや」

 背後から声をかけられた。ソラだ。

「何もしてねぇよ」

「あ、そうなんだ。悪かったな」

 珍しくソラは謝った。気まずそうに。話を聞いていたのはなにとなく分かった。ソラは、視線を泳がせ、また僕を捕らえた。

「今の、しんやのお父さん?」

「・・・・・ああ。そうだよ。真面目そうで怖そうだろ」

 ソラとの気まずさは気持ち悪かった。ふざけるように僕は笑った。

「・・・・・そっか」

「オレ、なんか分からないけど父さんに嫌われててさ、生まれたときから・・・・・。多分」

「・・・・・・うん」

「兄貴は母さんにも父さんにも可愛がってもらってたみたいだけど」

 こんな話をしたいわけではないけれど。

「オレが悪さしても誰も怒らない。勉強する兄貴は怒るくせにさ」

「・・・・・・・」

 ソラは顔を顰めた。

 どうしてだろうな。いつの日か誰かが言っていた、どこでだか誰かが歌っていた「カミサマは意地悪だね」。その通りだよ。

 どうして、本当に両親の必要なやつからは奪うのに、僕には与えてたの?なにか変わったの?なにか変わるの?

「・・・・誰かの葬儀、来るなっていうのは・・・・・?」

「ああ。従兄弟と伯父。仲、あんまり良くないしさ」

 僕は俯くだけ。全てソラが代わりに悲しんでくれるから。

 仲が良くない。言っていて笑いがこみ上げる。関わりはあまりなかったけれど、仲は良かったと思っている。少なくとも一貴イツキは僕には本音をぶつけ てくるし、叱咤する。けど全て間違いじゃなくて。二三貴フミキは僕に懐いていた。関わろうとしてくれた。すぐに引き離されてしまうけれど。零汰レイ タは下の兄弟には全く似ていなくて、快活で明るい。歪んだ僕にも兄弟と同等に扱ってくれた。

「でも・・・・・いとこ、なんだろ・・・・?」

「ああ。いいんだ。ありがとう」


「しんや、おれしか仲いいヤツ、いないもんな!」

 バカにするようにそう言ったソラの言葉が何故かじわりと熱く沁みた。

 この日からソラは僕により絡んでくるようになった。だから寂しくなくなった。ソラとともに、弟分みたいなちびっ子も僕と関わることが多くなった。

 小学校の卒業式には行かなかった。担任の先生が施設に証書と通知表を持ってきてくれた。

 ソラが卒業式から帰ってくるのを待った。ソラと小学校は違う。

 中学生に上る頃、母方の祖母が僕を引き取りに来た。これからは一緒に暮らすんだそう。

 反抗した。抵抗した。けれど決まったことだった。

 「捨てられた悲しみとか、寂しさを知ってるしんやなら、きっといい仲間が出来るよ」

 最後に、ソラは僕にそう言ってくれた。それってお前のことなんじゃないの、なんてことあの頃はまだ言えなかった。

 そうして苗字が月見里ヤマナシから城崎ジョウザキに変わった。


 中学校の入学式には母方の祖父母が来てくれた。少し遅れて、父方の祖父母が来てくれた。4人とも来てくれるとは思わなかったから嬉しかった。

 桜が舞っていた。

 中学の3年間は静かに過ごした。小学校の授業になんて殆ど出なかったため、勉強面では遅れが出てきたけれど、猛勉強し、中学にいる間はテストは上位で在り続けた。

 少し荒れた時期もあったけれど、嫌な思い出と良い思い出が僕を制御した。

 


 そして高校に入って、再会した。苗字は変わっていたけれど、いとこに。

 意識不明と聞いたままで、その後の生死は知らなかったけれど、死んだものだと思っていた。


「よぉ」

 不機嫌な表情で一貴が声を掛けた。変わっていない。あの頃と。

「・・・・一貴・・・・」

「母さん、父さんと離婚したからさ、もういとこじゃない」

 血縁上いとこだよ。こいつ馬鹿なのかな、と思った。

「名前で呼ぶなよな、深夜」

 自嘲気味に笑って、やつはそう言った。

「お前も、僕のこと、月見里ヤマナシなんて呼ぶなよ」

 




 ソラ、オレ、仲いいヤツ作ってまた会いに行くよ。


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