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未完結短編集  作者: .六条河原おにびんびn
朱の洋館 R-15/ホラー
24/86

朱の洋館 2

*******



 暫く歩くと、山頂らしき場所に辿り着いた。膝丈に生えた雑草が歩きにくい平らになった地面と、視界の殆どを奪う大きな館。

 天城は言葉が出なかった。焦げ茶色の外装に割れた窓ガラス。外れた窓の桟。まだ4時の空。それが救いだ。趣味の悪いホラー系アトラクションのような外観。アトラクションならまだ人工的。それなのに自然なその不気味さはより恐怖感を煽る。

「とりあえず、撮影すればいいんだろ?」

 誰一人として動くことの出来なかったなかで渡島が一番前に来るとポケットから携帯電話を取り出した。



       ピロリロ~ カシャッ


 間の抜けた音に続いてシャッター音が鳴る。その大袈裟な音にバサバサッと周りの木々から去っていく鳥たち。

「さて、帰るか」

 画像フォルダに保存し終えた渡島は再び携帯電話をポケットにしまった。部活に遅刻し、着替えてもいない渡島だけが唯一携帯電話を持ってきていた。

「こんだけ歩いて、たった1、2分しか用ないのか」

 天城は不満そうにそう呟いた。

「そんなもんだ。・・・・いやなら、中、探索でもするか?」

 渡島は口の端を吊り上げて、小ばかにするように笑う。 

「しょうがねぇな、帰るか・・・・」

 天城が、もときた道に身体を向けようとしたときだった。

「うわぁっ!」

 白江の間抜けな悲鳴が聞こえる。ずるずるずる・・・っと草を擦る音。大きな蛇だろうか、素早い音だった。

「白江君!」

白江が転んだ。城崎の叫び声とともに、足首を掴まれたのか這い蹲るような格好で白江は今まで歩いてきた道に引きづられていく。

「白江先輩!」

 和泉が藻掻くような白江の手を追うように手を伸ばした。しかし、届かない。追おうとしたのに、身体がついていかない。それに気付くと同時に、腹部に巨大な蔦が巻きついている。意志を持っているかのように動き、和泉の腹部に巻きつく。

「だめだっ!和泉君っ!」

 だめだ、手が届かないと続くのか、だめだ、逃げてくれと続くのか分からない。現状を理解しきれず天城は顔を顰めているしか出来なかった。数メートルの先での出来事なのに、天城の頭はそれを現実だと受け入れていない。

「くそっ」

 珍しい城崎の悪態に驚くことよりも、白江が視界から消えていくことが頭では理解出来ず、天城はただ呆然と立っているだけだ。

「ぅあっ!」

 手を伸ばしていた和泉の右手首に別の緑色の触手が絡みつく。まるでCGのような、斑模様に、ぬめぬめと湿ったような光沢をもっている。それが巨大な蔦のような生物の正体。

「和泉君っ!」

「なんなんだよ・・・・」

 龍宮の声と、呆れたような渡島の声。

「放せない・・・・っ!」

 苦しそうな表情で和泉は右手首を自身の方に引くが、触手はびくともせず、寧ろ和泉の右手首が引っ張られているようにも見える。和泉の右手の甲は赤くなり、血管が浮かびだしている。

「っあああ!」

 和泉の悲鳴。ぎりぎりと和泉の腹部触手が和泉を締め付ける。龍宮が和泉の右腕に絡まる触手を踏みつけた。そして勢い良く銀色の鍵を和泉の腹部の触手に刺 した。おそらく部室の鍵だろう。どぷどぷと卵黄のようなオレンジ色の液体を溢れさせ、触手の力が弱まる。その隙に渡島と龍宮は力ずくで触手を和泉から放 す。放れたそれはずるずると、生い茂る雑草の中に縮むように戻っていく。

「あの洋館に逃げるのがいいか?」

 渡島が天城に問うと、城崎が口を開いた。

「待って、まだ和泉君が・・・・」

 腹部の触手はなんとか放れたもの、右腕の触手はまだ和泉の右腕を締め付けている。渡島は舌打ちするとライターを出す。風紀委員が没収した物を担当教諭に渡すよう頼まれて持っていると天城は部活前に聞いていた。

「和泉、気を付けろよ」

 渡島の平静さは天城たちを落ち着かせた。渡島がライターで触手に火を暫く当てると、しゅるしゅると縮んでいく。ざわざわと騒々しくなる草木。風が吹いているのではない。

「ありがとうございます、龍宮先輩、渡島先輩」

「天城、どうする?戻るか?戻れるのか?」

 珍しく真剣な瞳を渡島は天城に向けた。

「・・・・待って・・・・なんか・・・」

 ずるずると何か引きづる音や、草木のざわめく音が大きく聞こえる。天城はおそるおそる後ろを見遣る。

「走れっ!」 

 天城の声より早く、渡島の声が響き渡った。渡島が龍宮の腕を掴み、真っ先に走り出す。城崎や和泉、天城も続けて走りだす。膝丈の草が邪魔をした。

 無数の触手が登ってきた道から溢れかえって5人に向かってくる。

 洋館の前には錆付いた柵の門がある。それを支えるのは頂上にガーゴイルの石造が置かれているレンガの柱だ。渡島はほぼ体当たりのように柵の門にぶつかっ ていく。キィっと高い音を出して、門は簡単に開いた。最後を走っていた天城が門を閉めた。がしゃんっと、触手が門の柵に絡まり、蠢く。門は古く、軋んでい る。最後に着いた天城は門を押さえた。渡島は洋館のドアを乱暴に開けた。幸い鍵は掛かっていない。

天城アマギ!はやくっ!」

 渡島が叫んだ。軋む門を天城は押さえつけたまま、動こうとしない。

 渡島は天城テンジョウ天城アマギと呼ぶ。「天城」を「てんじょう」とは読まないと言い張って聞かないのだ。他にも、「龍宮タツミヤ」 を「りゅうぐう」と読んだり、「城崎ジョウザキ」なら「きのさき」、「白江シロエ」なら「しらえ」と呼んでいる。「和泉ワイズミ」を 「いずみ」と読むことに対してはみんな同意している。それなら「渡島ワタシマ」は「おしま」と読むのが通常だろう。そんな今はどうでもいいことばかり が頭を過ぎる。きっと聞きなれない渡島の怒鳴り声を聞いているからだろう。そして、表情があって、熱くなる珍しい渡島を見ているからだろう。そして、さっ きまで喋っていたはずの白江が居ないからだ。

天城アマギっ!」

「天城君!」

 城崎が出て行って、天城の腕を取る。はっと我に返る。城崎に引きづられるように半ば強引に洋館のドアをくぐった。

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