表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未完結短編集  作者: .六条河原おにびんびn
蒼穹の欠片 キャラ使い回し/恋愛要素強/青春?
20/86

黒いランドセルと薄紅色

 黒いランドセルと薄紅色

 ・過去に殺人事件に巻き込まれ、弟を失ったことを、桜を見つめて思い返す視点主。



 3年が卒業し、俺等は2年に上る。1年に残るやつも数名はいるんだろうか。俺等が2年の時間を歩むのに、また1年と、同じ時間を歩むのはどんな気分なんだろう。1年分、寿命的には長く生きた気分になるのだろうか。

 卒業生が桜の下で保護者たちと写真を撮ったり、教員と話し込んでいるところを俺は渡り廊下から見下ろした。この季節は結構つらい。色々なことを考えさせられ、思い出させるから。

 離婚した父と、父についていった兄と弟と、一生の別れをしなければならなくなった日からもうすぐで8年。



 お前はしっかりしているから、 母さんを守るんだぞ。



 離婚の理由は、社長にまで昇りつめた母とのすれ違い。弟はまだ幼かったけれど、泣く泣く父についていった。兄もそうだ。あの日から苗字も変わった。

 父は弁護士。詳しくは知らないけれど、有名だったらしい。それも仇になっていたんだろう。

 動機も詳しく知らない。ただ、逆恨みと聞いただけ。

 たまたま、俺が父の家に遊びに行った日だった。けれど、それは全然たまたまなんかじゃなかった。

 インターフォンが鳴って、父が出た。悲痛な声が聞こえて、男っていってもまだ少年だったけど、そいつは俺と弟のいたリビングに来た。血に塗れた包丁を持って。

 弟は何とか、と思った俺は、とりあえず弟に覆い被さったのだけれど、身体中滅多刺しにされたんだっけか。もう犯人の顔は覚えていない。きっと頭が、覚え ることを拒絶したんじゃないだろうかと思った。痛さと熱さにのたうちまわったのも覚えている。泣き叫ぶ弟の声も覚えている。でも、俺もすぐに意識を失った んだっけ。

 次になんとか目を覚ましたときは、もう家中火にまみれていた。血痕はないけれど、弟はぐったりとしていたのも覚えている。

 俺だけ助かった。

 2階にいた兄は行方不明。8年も家に帰ってこない。生きていないことは、何となく理解できている。

 父は、即死。苦しんでないだけ、よかったと思った。

 弟は、窒息死。首を絞められたんだそう。

 俺は、奇跡的に助かった。でも、助かっていないに等しい気もしていた。どうして生きられたのか分からない。医者も、生きているのが奇跡的だと言っていた。

 母さんが泣きながら、俺の怪我の状況も知らないで、抱きしめて、もっと泣いた。凄く痛かったけれど、拒むことなんて出来なくて。

 離婚ていったって、生きてれば会えるのに。死んだらもう、会えない。


 8年。短かった。でも長かった。でも記憶を消すには十分じゃない。

  

 入院中は毎日が地獄だった。身体の痛み。でもそれよりはフラッシュバックと、記憶を共有できる人がいないという孤独感。そしてそれに伴う将来への失望感。

 テレビを観ることは禁じられた。精神的によくないんだそう。

 

 入院生活の後半は、個室ではなかったから、同室者の点けたテレビを観ていたっけか。

 それで知った。犯人の供述を。


 

  月見里ヤマナシの次男を見つけたので、後を追いました。



 それを聞いたとき、焦点が定まらなかった。足元の地面が抜けたような、おかしな浮遊感があった。

 俺は、あの惨劇を起こした原因なのだと知ったとき、病院の屋上に行ってしまったことも覚えている。

  ただ、ふと、母さんのことだけは頭から離れなかった。

 夫と三男が死に、長男は行方不明。どれだけ心細いのだろう?一気に3人を失うのは、どれだけショッキングなのだろうと、まだ母さんのことを思う余裕があったのも覚えている。



 校庭の桜は、満開だ。すぐに散るだろう。病院の上から見た桜も綺麗だった。綺麗だと思える余裕なんてなかったけれど。

「渡島君」

 渡り廊下からずっと桜を見下ろしていると、部活のマネージャーの龍宮さんが声を掛けてきた。

「・・・龍宮マネージャー。・・・・こんにちは・・・・」

 龍宮さんは苦手だ。世界が違う気がする。俺の忌々しい過去を知って、重い気分にさせたくない。

「桜見?」

「え・・・・まぁ」

 感傷に浸っているなんて言えるはずもない。

「そっか」

 ただふと、誰かに、何となく、ごく僅かでいい、共有できたら、と不思議と思った。

「もうすぐで、弟が、小学校に上がるんですよ」

 生きていたら、小学校なんてもう、とっくに卒業している頃なんだけれど。

「・・・え・・・?」

 龍宮さんは戸惑ったような表情を浮かべる。嘘じゃないけど、嘘。

「弟、いたんだ?」

 多分、この学校に入学した頃から、噂にはなるんじゃないだろうかとは思っていた。俺がニュースになったことがあるってこと。良くない方の意味で。

 恐る恐る龍宮さんは訊ねてきた。やっぱり、知っているのか。

「ランドセル、何色がいいか、訊いてくるんですよ」

 本当は過去形。

 嘘じゃないけれど、嘘だから肯定は出来なかったが、否定もしたくなかった。

「黒じゃ、ワンパターンすぎるかしら?」

 龍宮さんは優しい。戸惑った表情から、割り切った表情に変わる。

「いや、俺も黒がいいかなって思ったんですけど、青なんかも最近流行ってるじゃないですか」

 本当は黒。黒いランドセルを買ったんだよ。8年も前だと、黒が主流だったから。

「最近は色のバリエーション増えているもんね」

「兄も黒がいいって言っていたんですよ」

 また龍宮さんは戸惑ったような表情をしたけれど、すぐに笑みに変えた。

「じゃあ、黒がいいんじゃない?弟さんは何色がいいって?」

 龍宮さん、ありがとう。

「黒、ですね」

 8年も前は、黒ばかりだから、青なんて選択肢はなかった。

「6年も使うんだから、弟さんの好きな色がいいんじゃない?」

 8年前は、もう黒と、赤しか選択肢なんてほぼなかった。

「そうですね。それなら、黒がいいって言っておきます」

 ありがとう、龍宮さん。おかしな、空しい茶番に付き合ってくれて。

「桜が映えて、きっと綺麗だよ。入学も、卒業も、桜が咲くからね」

 新しい黒も、赤も。あの薄紅色に映えるだろうか。





「埃をかぶったあの黒も、あの薄紅色に映えるだろうか・・・・」






 咲くと、いいな・・・・・・


 

 あの子の、黒いランドセルに映えるように。

 








-END-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=843189407&s ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ