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未完結短編集  作者: .六条河原おにびんびn
非・王道系戦隊モノ ギャグ
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非・王道系戦隊モノ 4

 例えどれだけ自身が誰かのために、世界のためにと身を窶しても、何のためにもならない。誰かに褒められたいから。誰かに持て囃されたいから。別に本当に、本心から誰かのために、世界のために働きたいだなんて思ってない。必ずそこに下心が存在する。偽善だ。偽善的な考えで助けられた命もある。

 僕はくしゃみをしながら歩いた。綺麗事は苦手なんだ。偽善でしかない考えを綺麗事に隠せてしまえばいいのに。

 あー怖い。怖い。ずっとアカイロを担当しているというのがどういうことなのか今日身を以って知った。毒されている。まさか考えるよりも早く身体が池にダイブしているなんて。

 誓おう。もう絶対に人助けなどしない。もう誰かのために動こうなどとしない。絶対にろくなことがない。

「よ、薄幸そうなツラしちゃって。どうしちゃったの?」

 ああ。嫌だ。モモイロの声がする。幻聴だ。疲れてるんだな。

「無視すんじゃねぇよ。耳垢溜まってんじゃねぇ?」

 僕の通う高校の制服よりも洒落た制服を着たモモイロが立っていた。この地域の高校は洒落た高校ほどおつむが悪い。暗黙のルールだ。

「なんでズブ濡れなんだよ。お前ンとこだけ雨降ったの?」

 何がおかしいのかゲラゲラ下品に笑いだすモモイロ。

「んで、高校の帰り?」

 僕は頷いた。

「ほーん。ま、んなこたどうでもいいけど。そうだ。新しいアカイロとアオイロ見つかったぜ」

 僕はまた頷いた。

「んだよ。知ってんのかよ。誰から聞いた?」

「見てきた」

 モモイロは不機嫌そうな表情をした。

「つまんねーの。見たんか、あのイケメンコンビ。お前等よりよっぽど頼りになんぜ。おいちゃん達がサボれるくらいにな」

 喧嘩腰の口調に似合わない、こいつの一人称「おいちゃん」。さすがキ●ガイピンク。

「これでこころおきなく“普通の男の子”になれるだろ?HAHAHAHA」

 本当にウザいな。何が言いたいのだろう。

「何が言いたいんだよ。モモイロ」

「やめてくれよ。もうお前にはおいちゃんをモモイロなんて呼ぶ資格ないんだからよ」

「・・・・名前、なんていったっけ?ひゃくにん だっけ?ひゃくにん君よ」

「違ぇよ。百人ももとだバーカ。3歩歩きゃすぐ忘れやがってニワトリかお前。食うぞ」

 こんなんでも夜の為人の為嫌々でも動いているのだな~と思うと関心する。

「いつも以上にキショいな。何かあったんかよ。それとも新しいアカイロに何か言われたのかよ」

 僕は首を振った。

「アオイロにしか会ってないよ。ファッションセンスなさすぎてびっくりした」

 少しモモイロはきょとんとしてから、再び意地の悪そうな笑みを浮かべた。

「ぶわーか。お前みたいな薄幸顔してねぇからファッションセンスなんてなくてもいいんだろうよ」

 歴代モモイロは女性だったのに、こいつの代から男でもモモイロに就けることになった。スーツも男性用になっていて新しい。デザインが他のよりイカしているのを思い出す。

「僕は、きっと向いてなかったんだな」

 モモイロははぁ?とあからさまに変な顔をする。

「その通りだけど、いきなりすぎんだよ。言うのが」

「いや・・・・。そっか。・・・・でも、やっぱり君も僕のこと、薄幸とか言ってるし。自分が幸せじゃないくせに、誰かを助けられるはずないよ」

 けれどモモイロは僕の話はちゃんと聞くようだった。

「はぁ?バカじゃねーの。まだ悩んでたのかよ。ってか、他人のこと手前の幸せは連動してんのか」

 意味が分からない、とそうモモイロは言いたいのか。

「お前の誕生日が誰かの母ちゃんの命日だったらどうすんだよ。逆もだ。誰かの誕生日がお前の命日だったら?お前は喜ぶのかよ?それとも悲しむか?」

「・・・・・?」

「お前が不幸だって人は助けられるんだぜ。偽善的でもな。逆に、誰かを助けることでお前が不幸になることもある。お前が助けたヤツは10年20年後にお前の息子を轢き殺してるかもしれない。でもそんなこと言っていたらキリがない。だから割り切ってるんだろ。仕事だって」

 今日はよく喋るな、モモイロ。そして僕の言いたいことと少しずれてる。

「キイロだって言ってたろ。多分おいちゃんたちのなかで、純粋に人助けたい人、おらんで」

「そうだろうね」

「でも、きっと新しいアカイロはそうはいかねぇだろうな。アオイロはどうだかな。・・・・決裂すんのは今もう目に見えてんだ。おいちゃんも、もしかしたら“普通の男の子”に戻るかもな」

 やる気のない僕が選ばれて、その次に選ばれたのは、根っからの正義ということか。本当にアカイロ枠はもう誰でもいいんじゃないだろうか。

「正義の味方 なんてイマドキ流行らねぇよ。もう世界が必要としてないんだ」

 本当に今日は饒舌だな。いつもは聞いても軽くあしらってくるくせに。薄幸が伝染るから話しかけるなというくせに。

「何かあったのか」

「何もねぇよ。本当に、もうモモイロもキイロもミドリイロも要らねぇかもって考えてたら腹立ってきただけ」

 偽善的な活動でしかおそらく僕等は自己顕示できない。それが今危ういのだ。モモイロ、君も僕と根本は同じ。アイデンティティを失っているかのような錯覚に陥っているのだ。

「アカイロじゃない僕を、君達は必要としていない。世界も必要としていない。それじゃ僕は何だ?正義の味方の反対の 悪 か?僕は悪か?それとも何だ?正義じゃないならなんだ?アカイロじゃない僕って何だ?君は何だ?君は僕の何に当たるんだ?知り合いか?それとも僕は今、君ではない第三者に語りかけているのか?」

 モモイロは気味悪がるように僕を見る。僕はモモイロを揺さぶったつもりだ。きっと同じようなことを考えている。

「多分、おいちゃんはもうダメだ。おいちゃんはもう、モモイロを辞めたら、多分生きる意味なんてないぜ。毒されてんだ。完璧に」

 僕と同じ考えだ。僕の場合は、辞めてしまったけれど。

「お前は薄幸そうだから1つ忠告してやる。嘘を塗り固めて生きたほうがいいぜ」

 素直になったかと思えばまた僕を挑発するようなことを言う。

「じゃぁな」

「余計なお世話だ」

 モモイロは背を向けた。洒落た制服が小さくなっていくのを僕は見つめた。気付けば僕等は存在意義を求めていた。純粋なほど偽善的な存在意義を。でももう手に入れることはできない。お互いの傷を舐めあうには意地っ張りで。不器用だ。

 

【完】

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