非・王道系戦隊モノ 3
「起きてんご」
腹パンを食らわされ、僕は鯨が潮を吹くように口から水を吐き出した。
「大丈夫んご?どこか痛いとこないんご?」
目を開けると、前ぱっつんの茶髪の女の子が座っていた。毛糸のパンツが丸見えだ。
「溺れていたんご。お前河童なのかんご?」
茶髪というよりはバーガンディという小豆に近い色だろうか。目がくりくりと大きく睫毛も長い。カワイイ。おそらく口を開かなければモテるタイプだ。
「俺様は海老原武道言うんご」
後ろの髪は上の方を2本で縛って、あとは垂らしている。かわいいな。お人形みたいだ。それにしても残念な子だなと思う。
「お前喋らないなんご。もしかして話せないんご?」
「えーっと・・・?」
あの犬と少女は無事だろうか。目の前にいる語尾と一人称が奇抜な美少女を一度視界から外し、キョロキョロと辺りを見た。アコースティックギターを奏でるファッションセンスのない青年はどこだろうか。
「飼い主様ならあそこにいるんご」
ぴっとした仕草で奇抜な美少女は指を出す。その先に、ずぶ濡れになった少女が座り込み、その隣にセンスのない上着を少女に掛けているアコースティックギターの青年がいる。
ちょっと待て。
「飼い主様・・・・?」
「俺様の飼い主様んご」
後頭部をぶん殴られたような気分だ。嫌でも察しがつく。この女、犬だ。
「俺様が魚にコーフンして池に入っちゃったんご。飼い主様がカナヅチなの知ってたのにんご」
制服は泥まみれで濡れている。僕は起き上がった。犬のパンツを見て喜ぶ趣味はない。
「君は犬のくせに、服をきてパンツまで穿いているんだね」
僕は立って、それから奇抜な美少女に刺々しくそう言って、その場か去ろうとする。
「俺様が人間の姿になるときはいつも服着てるんご。それとも裸になったほうがいいんご?」
奇抜な美少女はバーガンディ基調のメイド服のような衣装に手を掛け出す。
「脱がなくてもいいよ。それじゃぁね。助けてくれてありがとう」
僕は僕の形に濡れているアスファルトを一瞥した。
「君、ありがとう。真っ先にこの季節の池に飛び込んでいくなんてね 」(訳:君のバカさ加減には驚き呆れたよ)
ふと肩に重みを感じ、振り返る。世にいうイケメンが爽やかな笑顔を向けてきた。彼はアコースティックギターの人だ。ナンセンスな襟のシャツがイケメンさを消していたのだろう。
「・・・・ども」
「いやー。君が動かなかったらイケメン君も動けなかったなー 」(訳:助けにいこうとして助けられてんじゃねぇーよ)
イケメンだと思う。素直に。ただ言い方にどこか含みがあるというか、含みがあるように聞こえさせるのが得意なのかもしれない。
「君、見覚えがあるな。イケメン君の名前は、軍城 沙火っていうんだけど・・・知らない?」(訳:このイケメンの顔を覚えろ)
「知りません・・・・」
「君は?」 (訳:このイケメンが君のような貧相な男の名前も覚えておいてやろう)
「・・・・明石 麗兎」
僕が名乗った瞬間、この人の顔が一瞬引き攣ってから、噴き出した。失礼な人だ。
「え~まじ?ちょー普通なんですけど!!ウケる~!!」
なんなんだこいつ。僕はじろりとこの人を睨んだ。
「もしかして、元アカイロでしょ??だよね??噂通りの不幸そうな面構えですこと」
横できょとんと奇抜な美少女が僕を見つめる。そんな目で見るな。
「ええ。そうですとも」
きっとあのろくでなしの3人が言ったのだろう。
「辞めて正解だって!向いてないもん!助けようとして助けられちゃうんだもんね!!」
まったくその通り。だから辞めたのさ。
「まぁ、安心してよ!今度のアカイロとアオイロはイケメン君たちだからさ!!ちなみにアオイロがイケメン君ね!」
聞き流していたが今理解した。この人が度々口にする「イケメン君」とはこの人自身のことなのか。
「今度のアオイロは、丈夫そうな人で安心しました」
あのろくでなしブルーを思い浮かべると、素直にそう言えた。
「それでは」
*
「本当に腑抜けたヤツだったね」
池からばしゃっと赤い物体が飛んでくる。一度光ってから、光が剥がれていく。現れたのは端整な顔立ちの男だ。
「・・・・少しは怒ると思ったんだがな」
沙火は後頭部をがりがり掻いて、池から上ってきた相棒・暮夜 我網に言った。
「仕方ないさ。彼も色々悩んでいたことなんじゃないか?」
にかっと笑う相棒に沙火も微笑み返した。




