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天高く舞う鳥

作者: RyuRiN

シャッシャッ

秋の日差しが差し込む昼下がり、

剣を研ぐ音が城の中庭、少し奥まった場所から子気味よく聞こえる。

剣を研いでいるのは年の功が40といったところの筋肉ががっしりと身体中に均等についた男だった。

白髪が少し混じった黒髪は短く切り込まれ、小じわが少し目立つようになった日に焼けた肌の奥からは深い蒼色の瞳が覗いている。


男は一心不乱に自分の名刀を研ぎ続けた。

まるで何かを振り払うかのように。


ガサガサ


そこに透き通ってしまいそうなぐらい薄い銀色の髪の、

こちらも筋肉がついた引き締まった身体の男がやってきた。

「グウェン」

銀髪の男が呼びかける。

「何かようか?」

グウェンと呼ばれた黒髪の男はチラリと銀髪の男に目をやると、研いでいる自分の剣に目線を戻した。


「聞いたよ。アリアを行かせたんだってな。」

銀髪の男は気にした様子もなく近くの手すりに腰掛けるとそう言った。

「ああ。今日の朝早く北に発ったよ。今頃王都をでている。」

グウェンはかつての自分の部下を脳裏に思い浮かべた。

彼女と初めて会ったのはちょうど2年前の秋、まだグウェンが一個中隊長を務めていた時だった。

自分の隊に女の部下が入ってくることは初めてのことで、どう扱ったらいいものかと思ったものだ。

だが実際に対面してみるとその女はそこら辺の男よりもよっぽど男らしかった。

長く伸ばした黒髪は頭上高くに一つにくくり、あまり豊かな感情表現はせずに口数も少なかった。

どんなにつらい任務や訓練にも泣き言を言わず、久しぶりに骨のある部下が入ってきたものだと思ったものだ。

そんな彼女も今は自分の元を離れ、今朝早く北の砦を守る任務に発った。


「俺は...お前はずっとあの子を手元に置いておくものだと思っていたよ。」

銀髪の男は秋の高い空に向かってそうぼやいた。

「・・・」

グウェンには答えようがなかった。代わりに剣を研いでいた手を止め銀髪の男に向き直る。

「俺にそんな事をする資格はもうない。」

「そんな事ないさ。お前が残れと言えばきっと彼女はお前のもとに残ってくれた。」

「本人が北の砦に行く事を自ら望んだんだ。あいつはもう俺の部下ですらない。」

無表情でそういうグウェンの左脚を銀髪の男は痛ましげな目で見た。



銀髪の男とグウェンは士官学校で共に学んだ仲だった。まだその頃は20歳手前だった2人はギラギラとした目つきで周りはすべて敵だと言わんばかりの目つきで睨んでいたものだ。

そんな二人もあれから20年以上がたち、落ち着きを覚え、一個中隊を預かる身分にまで昇りつめたものだ。


だがしかし、それまで負け知らずだったグウェンは半年前魔物の盗伐途中に左脚に傷を負ってしまった。

それからグウェンは前線を退き、一個中隊長としての身分も自ら返上してしまっていた。


銀髪の男も最近自身の目の衰えを感じる。

20歳時のように寝たらとれた疲れが、最近は徐々にとれなくなってきた。

お互い歳はとりたくないものだな。銀髪の男は胸中でため息をついた。


「グウェン、お前は馬鹿だ。大事なものは絶対に手放ちゃいけなかった。」

銀髪の男は少し語尾を強めグウェンを責め立てた。

グウェンとて好きで手放したわけじゃない。だがグウェンは誰よりも部下アリアの心中を理解できた。

胸に熱い想いを秘める彼女はがむしゃらに強さを求めた。

一見何も語らない彼女はその眼差しで誰よりも強くグウェンに訴えかけていた。

強くなりたい。誰よりも、強く。

そんな彼女を引き留め、比較的平和な王都で自分の部下でいろとは言えなかった。

まだ左脚を怪我する前であったのならば、剣の稽古をつけてやる事もできただろうが今となっては自分がしてやれる事はもう殆どない。


「空高く舞い上げる 鳥の翼を切り落とし

自らの背につけたところで

そこにあるのは飛べない者が2つ」


グウェンは昔祖父がよく読んでいた詩を諳んじた。

「元部下の可能性を潰し、自己満足の為に自分の傍に置き、上司と共に朽ちさせる訳にはいかない。

部下の門出を見送るのは、せめてもの元上司の矜持だろう。」

グウェンはそう言うと研ぎ終わった自分の剣を肩に担ぎあげ、左脚を少し引きずりながら王城の中へと去って行った。


「そりゃあ、立派な上司ではあるよ。でも男としてのお前は、それで良かったのかよ。」

グウェンを見送った銀髪の男は昔から不器用だった友人のことを思って一人、秋の寒空にボヤいたのだった。








最後まで読んで頂きありがとうございます!

長短編な上にヒロイン名前しかでてこないっていう(笑)

処女作なので暖かい目でみてください。


実はこの続きも考えてたりもします。

女部下はなんで強くなりたかったのか、女部下はグウェンのことどう思っていたのか、このまま2人ともずっと離ればなれなのか。

名前の出てこなかった銀髪の男も色々裏設定があったり。

そこら辺はまた別の短編で投稿しようと思います。

最後まで読んで頂き本当にありがとうございます!!

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