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俺はガィデイン・バーンの呪文を覚えた!!…………のか?

一部内容の削除と再構成、再編集と加筆、

タイトルの変更を行いました。

差し替えはここまでです。

晩餐が終わった後は、俺達は一人一部屋ずつ、それぞれに宛がわれて休む事になった。来賓用の客室らしい豪華な部屋で、貧乏人育ちの俺には正直居心地が悪かった。

部屋の外を伺ってみたが、別に見張りの人間が居る訳でも無く、逃げ出すなら今が最大のチャンスだ。チャンスなのだが……正直今逃げ出してもあんま自体は変わる気がしねえ。

なので俺はジタバタするのを諦め、取り敢えず状況を見ながら行動を決める事にする。何だかんだで異世界召還はそれなりに俺に疲労を与えていたようで、柔らかすぎて寝心地の悪いベッドに横になって大して時間もかからず、俺は気が付いたら寝ちまっていた。

翌朝、旅立ちの準備の日。俺達は昨日の晩餐に使われたのとは違う部屋に、朝食をとる為に集められた。流石に国王は同席していない。この場に居るのは俺達異世界の勇者様(若干1名はただの人)と例のクソ……もとい、四騎士の合計八名だけだった。

この世界では基本的に日の出と共に起きる習慣があるようだ。この世界の住人である四騎士と市場に買い出しに行く都合上、朝早くに起きる習性がある俺はシャンとしているが、タクト達はそうでも無いらしく、三人とも眠そうな顔でショボショボとしていた。

朝食に出されたのはくすんだ色合いのパンと魚の干物みたいなものが入ったスープ、サラダに茹で卵、そして塩漬け肉を焼いた物に付け合わせの芋に似た物だった。これ、お城の朝食としては割と地味な料理なんじゃねえか?まぁ、朝から山海の珍味を並べられても、それはそれで食欲がわかねえんだけどよ。

思い返してみれば、昨日の晩餐メニューも豪華に見えて、割と保存食っぽい物が多かった。まぁ、よく考えてみりゃ魔族と戦争しているのだから例え王の住まう城と言えども、それ程贅沢な物ばかり食べれる訳では無いのかもしれない。

何はともあれ。折角の朝食だ、有難くいただく事にする。

……有難くいただく事にしたのだが。正直というか、やはりと言うか。あんまり旨くない。いや、旨くないと言うよりも物足りない。王様の城だけあって、多少日にちが過ぎた感じのする食材だが、物自体は悪くない。恐らくこの世界ではかなり上質な食材なんだろう。

どの料理も工夫がなされていて、この城の料理人立の腕がかなりいい事も分かる。

分かるのだが……『世界中の料理が食べられる』と噂される美食大国日本の出身で、更に料理人である俺には、正直もう一つ物足りない。

パンは味は濃いのだが雑味も多くて硬いし、スープも汁にそれ程味が出ている訳でも無い。代わりに素材の味がはっきりわかるが、要するにスープと具が一体化する程煮込まれていない。肉も塩漬けして味が濃い所にバターだのクリームだののソースがかけられているのでやたらと濃い味で脂っこい。サラダも酢漬けの魚やオイルなどを掛けられているだけなので、ドレッシングやマヨネーズなどの味に慣れた現代人である俺には物足りない。

手間が掛かっているが大雑把な味付け。それが俺のこれまで食ったこの世界の料理の感想だ。

昨晩あまり食べていなかったタクト達も、やはり今回も食が進んでいない。

俺達とは対照的に、この世界の元からの住人である四騎士はケロリと平らげて満足そうにしている。この世界の奴らにとってはこれでもかなり上等な料理ということなんだろう。

やっぱ俺達日本人は食い物に関しては相当恵まれていたんだろうなぁ、と実感したね。


 朝食(どうやら俺達と四騎士との親睦も兼ねていたらしい)が終わると俺達は武器庫の様な所に連れていかれ、俺達の体に合う服や下着類、剣や鎧等の装備一式が渡された。

服は綿製のちょっとゴワゴワした物だが、着の身着のままである俺達には他に着替えなどないのでそれに着替えた。鎧も一応試着させられた。俺達は勿論鎧の着方なんて分からねえから四騎士に手伝ってもらったが。

最初は金属鎧をきせられたのだが――もちろん金属鎧が渡されたのは男である俺とタクト――そんなもんをいきなり着せられてマトモに動ける程、現代日本男児の俺達はタフではなく、着ただけでふらふらの状態だ。

結局、俺達は現状で金属鎧の装備は諦め厚い皮で作られた――いわゆるレザーアーマー――が支給される事になった。

他にも支度金として一人金貨三十枚、旅に必要な小物類、保存食、水筒などの必需品が支給された。他にも、城を出る時に馬も一人一頭支給されるそうだ。

そんなこんなで、色々な準備で夕方までかかり、色々な所に引っ張りまわされて次々と装備を渡された俺達はそれだけで結構疲労していた。

その日の晩餐はそんな俺達の様子を慮ってか、はたまた単に毎日宴席が催される程裕福ではないのか(おそらく両方だろう)、俺達と四騎士だけでの食事だった。

正直こいつ等の本性を知っている俺がらすれば料理の味と合わせてなんか残念会的な気分だ。とは言えそれは俺の都合だ。タクト達はこれからお世話になるから、と積極的に話しかけ四騎士と談話しているがそれを止める気は無い。

四騎士の内三人が裏切るのはまだまだ先(具体的には二巻分)であるし、今の所は俺達に対しては友好的に接してくれる……事になっているからな。放っといてもいいだろ。


そして翌日。運命の旅立ちの日だ。俺とタクト達は国王から馬を下賜されそれに跨り四騎士と共に城門を抜け、城下町を進みだした。

「ハァ……とうとう旅が始まっちまったか…………」

初めての馬に揺られつつ、俺は憂鬱な気分でボヤいた。この城を出れば、小説でユウサクが死ぬ場面に向けて一直線――つまり奴と入れ替わった俺が死ぬまで推定で後六十~八十ページ。

 クソ展開をぶっ壊して俺が死ぬのを回避する、と言う決意はした物の。

「肝心の回避方法がさ~~~~~~~っぱり思いつかねえ……」

 まぁ当然と言えば当然だ。勇者能力が皆無でこれと言った戦闘能力も無く、逃げ出しても結局死ぬだけ、と言うメタ状況でホイホイと妙案が浮かぶなら苦労はしねえぜ。

 何て事を俺が考えている間に、馬は城下町を抜け王都の外に出ていた。確かこの後は街道沿いにいくつかの街を通り、魔王軍と王国軍が戦う前線に最も近い街、ええと……なんて言ったかな……とにかくソコへ向かうはず……

「勇者様方。これからはこの街道沿いに進み、ミサンテと言う村で一泊した後、そこからアルバン砦に向かいます」 

 と、先頭を進んでいた四騎士のイケメンリーダー、クラウスがやや後ろに居る俺達に向けて言う。やはり俺の記憶通り…………え?

「アルバン……『砦』…………?」

 街でなく砦?何の話だそれ?

 思わずポカーンとした顔になった俺に、クラウスは爽やかな笑顔を浮かべ、

「ええ。あそこは我が国の新兵訓練の場所です。ですので物を教えるのが得意な教官が多くいます。勇者様達はどうやらあまり戦闘の経験が無いようなので、そこで二週間程基礎的な鍛錬を行いたい、と思います」

「え?このまま前線近くのモランの街、とか言う所に向かうんじゃないんですか?」

 クラウスの言葉にタクトが不思議そうな顔で聞き返している。そうだ、確かそういう名前だった。そして俺の記憶でもタクトの言う通りのルートだった筈だ。

「最初はその予定だったのですがね。しかしいくら勇者として優れた力を持っておられる、とは言えこの世界の知識も戦闘方法も知らないで前線に向かうのは流石に厳しいかと。まぁ本来は数か月訓練に当てたい所ですがそこまで時間に余裕もないので付け焼刃的なものですが」

 と、クソやろ……ディネストが俺達に向けて言う。正論ではある。

「それに、勇者様達は強い魔法の素質がありますが、その使い方は分からないでしょう?あの砦には魔導教官も居ますので基礎魔法の鍛錬も行えます。……若干一名あまり期待できない方もおられますが」

 マキティネスが俺の顔をチラリと見ながら言う。一言多い姉ちゃんだ。

「それにあそこの魔導教官は女性が多いんスよ!しかも美人揃いで全員ボンキュッボンでバインバインなんスよ!」

 と、マキティネスの言葉を受けてカンダルフがチャラけた口調で言う。何かコイツの口調は生で聞くとムカつくな……いやいや、そんな事は今どうでもいいだろ!

どうなってんだ?俺はこんな展開しらねえぞ?記憶と全く違うじゃねえか!?まさか、俺とユウサクが入れ替わった事でストーリーが変わったのか!?

だ、だとしたらマズいじゃねえか!!唯一のアドバンテージである『この先に起こる事が分かる』が意味無くなるじゃん!ストーリーのぶち壊しが出来ないじゃん!死んじゃうじゃん!

と、俺は内心パニックになるが――あれ?とも思う。

「いや、この展開は全く知らねえ訳じゃねえ……何となく聞き覚えが……」

 どこかで読んだような気がするんだ。確かこの後カンダルフが余計な事を口走って……

「マキティも魔法『だけ』なら中々で、教官にも負けないんスけどね?でも残念ながら勝っているのは身長だけっス。胸の方は如何せん……」

 そうそう、こんな感じで――

「カンダルフさん。勝手に変な愛称つけないで下さい。そして胸の方が何ですか?」

 そう、こんな風に笑顔で青筋をおったてる、って描写が――あれ?でも何でだ?小説にはこんな描写は無かったはず。でもこのやり取りには覚えがある――

 と、ここまで考えて、俺はようやく思い出す。

「ああっ、外伝!そうだ、外伝版のストーリーだ!!」

 そうだよ、思い出した!このクソ小説には、それぞれの章の空白を埋める外伝が各一冊ずつ、合計四冊書かれていたんだ!

 本編では王城を出てからサラッと書かれていていきなり数週間飛んでからモランの街に着く、と言う描写だけで、しかもいきなり勇者達がソコソコ剣と魔法が使える様になっていた、ってご都合主義な展開だったが、序章の外伝でその間の穴埋め的短編があったんだった。それで確か勇者達はアルバン砦で初期訓練をする話が追加されていたんだったよ!

 そうか、本編とは関係無い話でも時系列は同じなんだから、本来のストーリーに合わせて外伝の展開も同時に行われる、ってのは考えてみりゃ至極当たり前の事だ。

 うぉ、危なかった!!外伝なんてドマイナーな物にまで手を出しておいて良かった!読んでなかったら、俺の記憶は当てにならないとあきらめる所だったわ!

そしてもう一つ。むしろこっちの方が俺にとっては非常に重要だ。即ち――

「俺の寿命が後六十ページ分は伸びたぜ、ヒャッハーーーーーーーッ!」

 思わず歓喜の声を上げた俺に、

「ちょ、いきなり笑い出した!コワッ!」

「タックン、あの人どこかおかしいんじゃ……?

「うわ、キモッ!!やっぱりこのオッサンには近寄らない方が良いわね」

 とタクト達がドン引きし、

「く、クラウス様?ガイデーンバーンとはなんでしょうか?」

「さ、さぁ?勇者様の言葉は私にも良く分からないよ……」

「異世界の呪文じゃないんスかね……?」

「勇者達がいた世界の何かの符丁では……?」

 と、四騎士が気持ち悪そうにヒソヒソと話し合って居た事に俺は気が付かなかった……


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