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俺のクラスは893……!?

一部内容の削除と再構成、編集を行いました。

ストーリー自体の変更はありません。

 俺の『近寄るんじゃねえクソ野郎共(ただし一人は除く)』オーラを察知したのか、四人の騎士は俺に軽く自己紹介しただけで、直ぐにガキ共の方へと話しかけに行った。

 正直有難い。今こいつ等と会話でもしようもんなら、全てをブチまけて罵声を浴びせそうだ。それに一人で今後の事も考えたい。

 俺の記憶が間違っていなければ、この後は夜に歓迎の晩餐会が開かれて俺達が招かれる。そして翌日には装備やら金やら旅路の必需品やら渡され旅の準備に一日費やされる。んで、明後日には魔王討伐の旅路に着く筈だ。この旅に出たら最後――俺の死に向かって一直線だ。

 しかも勇者能力が全く無い俺じゃその前に死んじまってもおかしくないと来た。

「ふおっ……冗談じゃねえ……今晩にでも逃げちまうか……?」

 おい、そこ。ヘタレとか言うなよ。俺は――多少喧嘩っ早いと言う自覚はあるが――基本的にただの料理人だ。荒事なんか苦手に決まってんだろ。喧嘩何かして手でもケガしてみろ。たちまちオマンマの食い上げ、ヘタすりゃ店をクビにされちまうわ。

 ましてや異世界で魔王と戦え、とか言われているのに魔王と戦えるような力は全くねえと来たもんだ。逃げるだろ普通。

 幸い俺は今後の展開を全て覚えている。宴が終わった後はタクト達は転移の疲れで、城の者達は酒宴の騒ぎで皆寝くたばってしまう筈だ。

 丁度その時、俺の記憶通り、四騎士は俺達に今夜歓待の宴が開かれる旨を俺とガキ共に伝えてくる。そして俺達を先ほどの待合室の様な場所に連れ戻すと、宴が始まるまでここで自由に寛いでいてくれ、と言って退出していった。

 やはり記憶通りの展開だ。俺一人なら宴の後に密かに逃げ出す事は可能だろう。なんせこの夜の警備体制がどうなっているのか予め分かっているんだからな。十分逃げれるだろう。そして俺の覚えている限りではこの小説のラストまで魔王軍との戦いに巻き込まれない地域と言うのが幾つかある。そこに逃げ込み、この小説の終わりが来るまでやり過ごせばいい。

 幸い明日俺達に渡される予定の金は既に用意されていて、何処に保管されているかも分かる。そいつを失敬すれば一人でひっそりと暮らすには困らねえ筈だ。

 とか考えたが。またまた思い出しちまった。

「この小説のラストは世界が破滅して終わりだった……」

 ダメじゃん!早いか遅いかだけで結局死ぬのは変わらないじゃん!

 流石総ジェノサイドのトラウマ物クソ小説だ……そう簡単に生き延びさせてくれないぜ。


 俺が一人百面相をしながら懊悩していると、さっきと同じ椅子に固まって座っていたガキ共が俺の方をチラチラ見ながら何やらヒソヒソとやっていた。

「あん……?どうしたガキ共?」

 俺がそう声をかけると、ガキ共はビクッとして視線をそらし、再び三人顔を突き合わせてヒソヒソとやりだす。何だってんだ?気になるじゃねえか。思わず聞き耳を立ててみると、

「うえ……!?あ、アタシがやんの?」

 と、これはライムの声だな。何だその嫌そうな口調は?

「だって、君……ライムはあのオジサンと話してたじゃない」

 タクト……テメエ……またオジサン言いやがったな。

「お、お願いよ。私タックン以外の男の人と話すの苦手だもん……何か怖いしあのオジさん」

 ああ、ミントはそんなキャラだったもんな。そしてお前もオジさん言うな!怖くねえよ!

「何コソコソ話してやがんだガキ共。俺に何か用か?」

 ムカっと来たが俺ぁ大人だ。ガキ共の戯言に一々目くじらたてねえで、こちらから水を向けてやる位の度量はあるってもんよ。……多少言葉に刺が出るのは勘弁してくれ。

 だがそれでも暫くヒソヒソやっていやがったが、やがてタクトとミントに押し出される形でライムが俺の方に向く。

「ちょ、ズルいって……!ああもう、分かったわよ!私が話すわよ!ねえオッサン!」

「さっきからオッサンオッサンうるせえ!俺はまだオッサンじゃねえつってんだろガキ!」

「だからアタシから見たら……ああ、もう!じゃあテツ!これでいい!?」

「よくねえ!勝手に端折るな鉄太郎だ山田鉄太郎!そして年上にタメ口利いてんじゃねえよ!」

「うわ、めんどくせぇオッサン!いいじゃんあのフードのオッサンもテツって呼んでたんだからテツで!それに年上だからって偉い訳でも無いのに敬語なんて使ってらんないわよ!」

 ギャアギャアと俺とライムが言い合っていると、

「ちょ、全然話がすすまないじゃない!」

「と、取り敢えず一度おちつこう?ね、ライムちゃん」

 と、タクトとミントが間に入って来る。

「何よ!元はと言えばアナタ達が押し付けたんじゃない!」

「わ、分かったよ、今度は僕から話すから!ええとテツ……さん?」

 ムキーッと吠えるライムを抑えながら、タクトが俺に言って来る。つうか何かテツで固定になって来たな、おい……

「ええと……少しお話があるのですが……あ、あそこにお茶の準備がされているみたいです。飲んでもいいみたいなので、折角だから飲みながら話をしませんか?」

 タクトが指し示す方を見ると、部屋の隅にテーブルがあり、その上にティーセットの様な物がおかれている。そういや喉が渇いたきがするな。なので俺は頷いてその案に載る事にした。

 俺たちはテーブルの側にそれぞれ椅子を持ち寄り座るとお茶(ミントが人数分入れてくれた)の入ったカップを手にする。見た目やたらと黒いが、香的には紅茶に近い感じがする。

 一口飲んでみると香りが強く色の割には苦味の少ない、スッキリした紅茶みたいな味だった。まぁ、不味くは無いが俺はやっぱ緑茶の方がいいな。日本人だし。

 暫し俺達は無言で茶をすすっていたが、やがて意を決したのかタクトが再び口を開く。

「その……正直さっきの王様の話、完全に信じた訳では無いのですが……でも今の所、僕達は魔王を倒さないと元の世界……日本に戻れないのは間違いないみたいですよね」

 残念、倒しても戻れないんだけどな。だって皆死んじゃうし。お前も含めてな。でも流石にこれは言わないぜ。俺は茶を啜りつつ眼だけでタクトに先を促す。

「で、明後日には城を出されて魔王軍って人達と戦わせられるんですよね、僕達。何か勇者の力があるとかで」

 俺には無いけどな。俺には微妙な魚と野菜の力だけらしいしな!

「でも正直そんな力が本当にあるかどうか、自分じゃ分からないし……戦えって言われても僕……いえ、僕やミント、後ライムさんも、ただの高校生で戦い方なんて知らないんですよ」

 ま、そりゃそうだよな。俺も知らねえし。平和ボケ日本人は伊達じゃない。

「そこで、ですね……テツさん、僕たちに戦い方のコツ、みたいなのを教えてもらえませんか?」

「…………………は?」

 え?何言ってんだコイツ?何で俺にそんな事を聞いてんだ?思わず唖然としちまって、飲んでたお茶が口からダバダバとこぼれたじゃねえか!

「あー……すまん、もう一度言ってくれるか?」

「え?ええ。ですから、僕達に戦い方を指導してもらえないでしょうか?」

 おおう、やっぱ聞き間違いじゃねえ……

「あのなぁボウズ……」

「タクトです」

「……あのな、タクト。俺は戦い方なんか教えらんねえゾ?」

「そこを何とか。何なら道中戦う所を見せてもらうだけでも構いません。とにかく、何の当てもお手本も無く戦わせられるよりはいいと思うんです」

 え、あれ?なんかコイツ、俺が戦える事前提に話してないか?

「なぁタクト」

「何ですかテツさん?」

「俺も戦い方なんか知らねえぞ?」

「「「え?」」」

 何故か他の二人もタクトと同じような驚きの声を上げる。え、お前らも俺が戦えるとでも思ってたの?そもそも最初の勇者査定の時に「一般人と変わらない」って聞いてたよな?

「あのなぁ、俺は別にお巡りさんでも自衛官でもねえんだぞ?戦い方何か知るかよ」

「え?そりゃ警察とかじゃないのは解りますが……戦えないんですか?」

「当たり前だろ。自慢じゃねえが俺は荒事は苦手だ」

「そ、そんなバカな!?」

 何かタクトがすげえ意外そうな顔しているんだが……何でだ?

「ええと……テツさん、ヤクザ屋さんですよね?なのに戦えないんですか?」

「ぶふぉぉっ!?」

 思わず吹いた。や、ヤクザだと!?俺がか!?

「だ、誰がヤクザだコラ!俺は料理人だ!ただの板前だわい!」

「うそぉ!?そんな恰好で、ただの料理人!?ありえない!どう見てもヤクザじゃん!」

 ライムが絶叫する。失礼な。どこからどう見ても板前だろうが!

「だってその髪型!ヤクザの人が良くやっているじゃん!」

「ただの角刈りだろうが!こんな髪型なんざ市場や板場に行けばいくらでもいるわ!」

 言い忘れていたが俺の髪型は角刈りだ。板前たる者清潔かつ男らしい髪型をするものだからな。それに市場に角刈りが多いのも嘘じゃねえ。実際、俺が良く行く市場に入っている床屋に行けば、黙って居ても勝手に角刈りにされるぞ。大体今時角刈りのヤクザの方が少ないわ!

「わ、私もてっきり……全身真っ黒けの服で何かチャラチャラネックレスしてるし……」

 お前もかミント。確かに今俺が着ているのは黒いジャケットに黒のパンツに柄物のシャツだ。しかしこんな格好は別にヤクザじゃなくたって普通にいるだろ!

「ここに飛ばされる前に、俺は市場に仕入れに言ってたんだよ!そんな所に汚ねぇ恰好で行くわけにはいかないんだから、一張羅くらい着ていくわい!それに黒い服の方が汚れが目立たなくて楽なんだよ。そしてこれはただの磁気ネックレスだよ!料理人は長時間立ちっぱなしだし細かい手作業が主体だし肩が凝るんだよ!」

「僕も……だって頬はこけてるし色も白いから、てっきり危ない薬とかやっているかと……それに手とか変な傷が多いし、人とか刺し慣れているのかと……」

 お前が一番ひでえ事言うなタクト!確かに俺は痩せ気味で色白だよ。

「あのな、料理人は料理するとき大体腹空かしてんだよ!腹一杯だと旨いもん作りたい、って気が起きねえからな!しかも俺らが飯を食えるのは大体飯時を遥かに過ぎてからな、食欲だって出ねえよ!だから痩せてる奴は普通に居るわ!そして朝早くて夜遅い上に基本室内での仕事だから日に焼ける訳がねえだろうが!そして包丁使う仕事だから傷くらいこさえるわ!」

 ああ、ようやくわかったわ、さっきこいつ等が俺みてビクビクしてやがった理由。勝手にヤクザと勘違いしてやがったよ、こいつ等!

 

 そんな気まずい一幕がありつつ、結局その後会話らしい会話も無くなり(俺がただの料理人だと理解して戦い方を教えろ、とか言うのは撤回した。半信半疑だったけどな!)、重苦しい空気の中時間が過ぎ、日が暮れると歓待の宴とやらが催された。

 王様主催の宴と言うだけあって、出された料理は中々豪勢(とは言え、俺達の感覚から言えば地味な料理)だった。肉や魚、野菜にスープなど数多くの種類の料理が俺達の前に並べられた。とは言え、この世界の文明レベルはお約束の中世ヨーロッパ程度で、料理の技法も大体その時代に準じている。

 つまり、俺にとっては味気ない料理だ。基本塩味とバターが主体で香辛料もそんなに多い種類が使われている訳でも無い料理は、味が濃いわりにうま味が少ない。それに何より。

 基本的に使われている素材が古い。まぁこれはとれたて新鮮野菜が直で台所に来る現代人の感覚では、の話だろうけどな。この時代なら生鮮食品の輸送や保管技術が発達していないのは当然と言えば当然の話だしな。

  口に合わなかったのはガキ共――タクト達も同じだったようで、若いくせにどの料理も半分近くは残してやがった。

 後俺が不満だったのは、中世ヨーロッパ風の世界観の常で――米が出てこなかった事だ。やはり日本人、せめてコメの飯を食えればもう少し不満は少なかったんだけどよ。


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