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4/15

八方塞がりの俺と四人の騎士

一部内容の削除と再構成、編集を行い

再投稿しました。

内容自体は殆ど変わっていません。

 『この物語を考えたヤツは相当頭がいかれてる』

 と言うのが、高校ん時にこの小説を全部読んで思った事だった。ハッキリ言ってクソだった。皆が皆不幸な死に方をして、結局世界は滅んでしまう。そんな話だった。勇者であるタクトが悲しみを乗り越えて魔王を倒したにも関わらず、だ。

 読み終えた後の後味の悪さと言ったら、それはもう半端なかった。全シリーズを一回しか読んでいない俺が、未だに内容を詳しく覚えている位だ。それ位心に重く圧し掛かる話だった。

 え?何でそんなクソ小説を最後まで読んだのかって?それがよ……最初から人がバンバン死ぬ話ではあったんだよ。だけどよ、承の上巻辺りまではすげえ面白い話だったんだよ。不幸があってもそれを乗り越えて成長していく、死んだ者は未来を繋ぐために命を懸けて死んでいく、勇者はその思いを背負い力に変えて世界を救っていく――そんなカッコいい話だったんだ。

 でもよ。承の下巻から段々と希望を感じさせる部分が減っていったんだよ。そして転の章に入ったら更に話が暗くなっていってよ。信頼していた仲間同士の裏切りがバカバカでやがるんだ。しかし、それでも前半が良かったからよ。中盤で鬱展開になってから、終章でそれをひっくり返す、爽快な英雄譚ってのを期待して最後まで読んじまったんだよ!

 結果的に大どんでん返しなど無かった。淡々と最後までただひたすら不幸で、エグくて、怒りを覚える位に悲惨な結末を迎えるだけの話だった。

 しかも御丁寧に、だ。最終章を読むと、前半カッコイイと思って居た部分は全て複線で、そこから既にバッドエンド確定していた、とか言うクソ展開だったんだぜ!

 あれ程最後まで本を読んで後悔した事はなかったぜ。おかげさんで、正直に言えば俺はこの時まではアニオタとか呼ばれる人種だったんだが、綺麗サッパリそっちの道からは足を洗ったわ。んで卒業と同時に何の未練もなく料理の世界に飛び込めたって訳だ。

それまではアニメ関係の仕事とかしてえ、とか思って居たんだぜ。あ、いやまぁ……サッパリとは言ったがよ……たまに……本当にたま~にだぜ?ネット小説とかよ?同人マンガとかよ?話題になったアニメとかはチラッと、本当にチラッと見たりするぜ?別に仕事の合間にスマホでアニメのレビューサイトを検索したり、マミたんは俺の嫁とかそういうのは無いぜ?

 と、兎に角だ。ある意味俺の人生を変えた……いや、トラウマを植え付けた小説。それが、今俺が居る異世界そっくりたぁ、笑えなさ過ぎるぜ。


「ともかく、このままだと俺は死んじまう、って事だけは確かだろうな」

 今の所、全ての展開は小説通りに進んでいる。

「だけど、裏を返せば死ぬことが確定している場面までは確実に生きていられる、って事だ」

 豪華な造りの椅子の背もたれに体重を掛けながら俺は一人ごちる。しかし、もしかしたらそれも甘い考えかもしれない。なんせ「あの小説の世界」だ。

 勇者としての力を持って居たユウサクだから「あの場面まで生き延びられた」と言う可能性も否定出来ねえ。勇者能力の無い俺だとその前に死ぬ可能性だってあるかもな。

「死んでたまるか……何としてもこのクソ展開をぶっ壊さねえと……」

 そう呟いて気が付く。そうだ、確かに俺は勇者能力はネエが――

「代わりにこの世界の知識があるじゃねえか!」

 そう、そうだよ俺!登場人物の性格や特技、今後のストーリー展開や複線とかの、この状況を十分ひっくり返せるだけの知識が俺にはある!ある意味勇者能力よりもチート的で、これ程実用的な能力は他にねえんじゃねえか!?

「そうだよ!ここでガキ共に俺がクソ小説の知識を持って居る事を教え、ストーリーを大幅に変えちまえばいいんじゃねえか!」

 そうと決まれば、とガキ共の方に目をやると――三人のガキどもは俺と目が合うとビクッと震えてサッと視線をそらせちまった。

 ……何か怯えられてるな。何かしたか、俺?

 訝しく思うが、まぁいい。それよりも、だ。このガキ共にも自分達の運命を知ってもらって、先ず真っ先に死ぬ俺の運命を変える手助けをしてもらおう。

 と思い、ガキ共に向かって口を開きかけて――気が付いた。

『コイツ等全員悲惨な死に方をするんだった』と言う事に。

 タクトは最終話までに仲間全員と死別するか裏切られるかして一人ぼっちで魔王と戦って勝利しても最終的にはくたばっちまうし、ミントは後で出て来る女にタクトを寝とられ……ゴホゴホっ!失恋して自暴自棄になって精神を病んだ挙句にタクトの恋人と刺し違えて死んじまう。

 それに、こいつに至っては……

「何よオッサン?」

 俺の視線に気が付いたライムが不機嫌そうなツラで言って来る。俺はそれに答えず「クッ」と目頭を押さえて視線を外す。それを見たライムはキョトンとした顔をするが……

「……言えねえ……やっぱり俺には言えねえぜ……」

 そうだよ……俺には『お前は、後で出て来る男と恋仲になるけど、そいつに裏切られた挙句にレ○プされて殺される』なんて……とても言えねえぜ……

 大体こんな事をいきなり言っても信用される訳ねえよな……本当に、この話を考えたヤツはクソだ!折角知識があっても他人に話せねえ内容のオンパレードじゃねえか!

 ああ、クソ!八方塞がりじゃねえか……やっぱりチート能力欲しいぜ!


 俺がそんな事を考えている間に謁見の準備が出来たとかで、俺達は先ほどのフード男に連れられて王の前に案内された。

 そういやこのフード男にも名前があったよな……何だっけ?ける……かる……とむ……あ、確かトマノフ何とかって名前だったんじゃなかったか!?

「四人の勇者よ!よくぞ来てくれた!私はこの国を治めるトマノフ・リウル・マルノフス4世である。先ずは突然異世界に召還した事をお詫びする」

 ……違ったよ。目の前の随分と痩せたガリガリの、いかにも国王様!って感じの服を着たオッサン……まんま国王様だな。この王様の名前だったよ……フードのオッサンの名前は何だっけ?思い出せねえな……

 などと割とどうでも良い事を俺が考えている間、王様が俺達に言ったのは、大体俺が覚えてた通りの、厄介事をこちらに丸投げする内容だった。

 要するに『呼び出すことは出来きるけど呼び返す事は出来ないから、魔王と戦って後は自力で何とか帰ってねテヘペロ』って話だ。

 ……お前等、今俺の事を馬鹿だと思ったろ?いいんだよ、小難しい言葉並べたってどうせ意味は変わらねえんだ。なら解りやすい方がいいだろうが。

 ま、ともかくトマノフ王は言いたいことだけ言うとさっさと引っ込んで、代わりに魔王討伐の手助けをしてくれると言う護衛役の四人の騎士がこの場に現れる。

「ああ、やっぱりこいつ等出て来るのな……」

 俺はげんなりとした気持ちになる。四人の騎士の内三人は確実にロクでもない奴等だからだ。ネタ晴らしをしちまやぁ先の王様自体が破滅への道筋を作った元凶その物だ。

 そしてこの四人は俺達の護衛でも何でもねえ。俺達が魔族を憎んで自発的に魔族狩りをするようにそれとなく誘導して行く、お目付け役兼誘導係だ。

 特に四人の中でリーダー格の金髪碧眼のイケメン君。こいつが一番クズだ。俺達を魔族と戦わせる為だけに関係ない村や集落を部下達に襲わせたりしやがるんだ。しかもタクトとは方向性が違う超イケメンだぞ!テンプレ美形裏切りキャラだぞ!ツラが良いやつは嫌いだ!

 そして紅一点の、赤毛の長身姉ちゃん。後々でタクトとミントの中を拗らせようと色仕掛けをしたりして、でもあんま効果なくて、後で出て来る女にタクトが興味を持った事を察知すると二人の仲を取り持つ様にしつつミントの不安を煽り精神をおかしくさせた元凶だ。俺好みのいい形の乳と尻してるのに残念だ。

 そして三人目の中肉中背の男。俺はこいつが一番嫌いだ。こいつがライムをたらし込むヤツだからな。しかも裏切ってレ……と、兎に角!俺はこういう男の風上にも置けないヤツは大っ嫌いだ。しかも生で見たらそれ程ツラもよくねえんだ。普通だ普通。こんなのの何処が良かったんだライムは!?……ああ分かってるよ、それでも俺よりはイケメンだチクショウめ!

 正直言おう。俺はこいつ等の名前をろくに憶えてねえ(ま、直後に名乗られたんで、イケメンがクラウス、姉ちゃんがマキティネス、クズ野郎がディネストって名前だと思いだしたが)。

 しかし四人目の男。こいつだけは覚えてるぜ。カンダルフ。四人の中で一番小柄でヘラヘラしたチャラ男。最初こそ飄々としていて何を考えているか分からないヤツだった。

 でも(俺が入れ替わった)ユウサクが死んだ後、悲しみに暮れるタクト達を支えてまるでユウサクの代わりになった様に皆を引っ張り成長させていく、と言う中々男気のある奴なんだ。

 他の三人とは違い、タクト達を裏切る事無く本気で助けようとしてくれるヤツで、俺の一番のお気に入りのキャラだ。こいつだけは信用できる。……そこまでイケメンじゃねえし。

 ……ま、下巻の頭の方でくたばっちまうんだけどよ。信用できる、って事は他の三騎士にとっては目障りな存在、って事だからな。罠にはめられてあっさりと殺されちまうんだ。

 ……しかしあれだな。こうやって思い返すとこの小説ろくでもねえヤツしか出てこねえなぁ。まともなヤツはサッサと死んじまうしよ。ヤッパりクソだな。クソ小説だ。


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