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2/15

始まりは親方のクシャミから

一部内容の削除と表現の変更、及び構成編集を行い

再掲載いたしました。

内容は殆ど変わっていません。

「こ、困った…………」

 と、思わず言葉が洩れる。もう『困った』以外の言葉が出てこねえ。

 え?唐突に意味が分からねえ?そりゃそうだ。いきなり困ったと言われても分からねえわな。

 ともかく。一度落ち着こう。そして冷静に考えよう。先ずは……そうだな、自己紹介から始めるか。自分の置かれた状況を見直すのに、自分の事から入るのは決して悪くない。

 という訳で。改めて俺の事を紹介しよう。俺の名は山田鉄太郎、二八歳独身だ。

 いいか、「山田太郎」でも「山田鉄郎」でもない。鉄太郎だ。

 ……ああ、分かっている。自分でも思うさ。微妙な名前だとな!せめて山田太郎なら「今時なんてベタな名前だ!」って話のネタに出来る。そして「鉄郎」ならば「ご両親は銀鉄好きだったのか?」と言う、これまた話の前フリとしても最適だ。

 一応社会人だからな、俺は。こういう名前から話の切り口に出来ると言うのは結構な強みだと経験から学習しているんだぜ。

 しかし「鉄太郎」ではな……精々が「古臭い名前だ」で終わっちまう。オヤジよ……今時のキラキラネームとは言わないが、せめてもう少し何とかならなかったのか……

 と、いかんいかん。のっけから現実逃避しちまったぜ。

 先に説明した通り、俺は社会人だ。仕事は日本料理の料理人……東京の下町にある、チッコい和食屋で煮方をやっている――いわゆる板前が俺の仕事だ。ま、一般の人には分からないだろうが、一応説明すると、料理人全員が板前と呼ばれる訳じゃあ無い。

 店で料理するトップが親方……いわゆる花板で、その次が向う板と呼ばれる副親方って感じの立ち位置で、大体の店じゃカウンターに立って料理できるのはこの二人だ。

 そして上から三番目の位置にくるのが、俺がやってる煮方。店によっては碗方が間に入る事もあるが、俺ん所では碗方と煮方は同じ扱いなんで三番手だ。この下には造り方や焼き方、揚げ場に追い回しと、いわゆる裏方が続く。通常和食の世界で『板前』と呼ばれるのは三番手の煮方までだ。ま、最もこれは今の時代じゃそれぞれの店の中でしか通用しない。客からしてみたら全員『板前』で通用しちまうからな。

 これでも一八から修行を開始して十年目だからな。ソコソコの腕は持って居ると自負しているぜ。ま、親方(花板)や兄さん(向う板)に比べればまだまだハナタレのヒヨッコだけどな。

 え?自己紹介が長いって?まぁそう言うなよ。一応特殊な職業だからな。ちゃんと説明しないと何か落ち着かないんだよ。

 ともかくまぁ、俺は板前とは言ってもまだまだ修行中の身、って事は解ってもらえただろう。そう、俺はまだ修行中だ。だから食材の買い出しも俺がやったりするんだ。

 ウチの店での仕入れは基本親方が直接市場の中卸しから仕入れている。しかし食材の目利きは料理人にとって重要な事だ。だから俺は親方に頼んで毎朝の仕入れに付き合わさせてもらっている。本当はそろそろ下のヤツに譲るべきなんだろうがな。

 っと、忘れていたが市場ってのは朝が早い。大体午前二時には始まり朝の八時には卸業者が店じまいを始めちまうんだ。

 なんで俺と親方の仕入れは朝の八時は既に帰り道だ。この時間になると通勤のサラリーマンやら学生さんやらが街に溢れる。

 普段なら市場近くの飯屋の一つに入って腹ごしらえをして、通勤ラッシュをやり過ごすんだが、今日に限ってちと痛みの早い食材を仕入れていてな。先に仕込みを済ませてしまおう、って事で店に戻る事にしたんだ。

 今日仕入れた端材で親方自ら賄いを作ってくれるとあれば、俺としても嫌なねえ。なんせ親方の技を間近で見られる上に味まで確かめられるんだからな!料理人としてこんな機会を逃す訳には行かない、ってなもんだ。

――今思えば――これが全ての間違いだったんだ。いつも通りに親方と飯屋で朝飯を食って居れば、俺はこんな事に巻き込まれる事は無かったんだからな。

 まぁ全ては後の祭りってやつよ。結局俺はいつもと違う行動を取り。親方と共に通勤ラッシュをかき分けて、店のある商店街へと向かったんだ。

 そして――あの場面に出くわした。


「ぶぇ~~~~~~~~~っくしょい!……っきしょうめ!」

 まず最初に親方が盛大にクシャミをかました。流石チャキチャキの江戸っ子、クシャミを止める気も口元を抑える気も更々ない豪快なヤツだ。

 その拍子に親方が持って居た袋から仕入れた品物が何個か飛び出して落ちる。

「おっと、あぶねえ!」

 咄嗟に落ちた物を拾おうと屈んだ俺に、「ドカッ」とやたらとガタイの良い、体育会系の大学生っぽいアンちゃんがぶつかりやがった。

「っ?ととっと!」

「あ、悪ぃ、オッサン!」

 屈んだ所にヒップアタックで押し出しを食らうような感じで、そのままの姿勢で数歩たたらを踏んだ俺に、アンちゃんがちっとも悪いと思って居なさそうな口調で言いやがる。

『誰がオッサンだコラ、テメエ俺と大して歳変わらねえだろ!』

 と怒鳴りたい所だが、バランスを崩している俺はそのままヨタヨタと押し出され、

「わっ?」「きゃっ!」

 そこにいた男女一組の高校生らしいガキに突っ込んじまった。

「ちょ、ちょっと、オジサン……大丈夫ですか?」

 と、さらにその近くにいた、これまた通学中らしい高校生の嬢ちゃんが心配そうに駆け寄ってくる。「だから誰がオジサンだ俺はまだ二八だ!」と言いたいのを堪え、取り敢えず

「あ、ああ、すま…………」

 『すまねえな、兄ちゃん、嬢ちゃん』と、続けるよりも早く。

 なんの脈絡もなく俺の体が輝きだした。

「は……?なんじゃこりゃ?」

 驚いて自分の体を見下ろす。と、

「えっ?こ、今度は何?」

「拓斗くん!体が……え?私も!?」

「な、何?貴方達、体が……え、そこのオジサンも……あ?私まで!?」

 そんな声に目を向けてみると、俺だけじゃなく、目の前の兄ちゃん(中世的な、やたらとツラのいいジャニーズ系の坊主だ。何かムカつくぜ)とそれとセットの嬢ちゃん(かわいい顔しているがそれよりもガキの癖にけしからんチチした嬢ちゃんだ)と、俺達に近づいてきてたもう一人の嬢ちゃん(こっちも可愛いんだが、前の嬢ちゃんに比べると胸が寂しいぜ)の体も俺と同じように輝いていた。

 いや、輝いていたのは俺達の体じゃなかった。俺達四人を取り囲むように、円筒形の光の柱が天から伸びてきていて、それが俺たちを包んでいたのだ。

 そう俺が気が付いた時には既に――俺達を包む光の柱が一際激しく輝いていた。


 そして次に気が付いた時。俺は今まで居た通勤ラッシュの商店街通りではなく、見も知らぬ、床に何やら円型の図形が掛かれた、窓も何も無い薄暗い部屋に居た。

「な、何だここは……?何がどうなってんだ?」

 唖然とした気持ちで、俺が思わず呟くと、

「こ、ここは……どこ?ハッ……明理……大丈夫!?」

「う、うん……でも、一体何が……どうなって」

「な、何なのよ今の光……それよりもここ何処よ?他の人達は……?何で私達だけなのよ」

 ……訂正しよう。『俺』ではなく『俺達』だ。さっき突っ込んだクソイケメンの兄ちゃんと巨乳美少女と貧乳嬢ちゃんの、四人がここに居た。他には誰も居ない。それどころか俺が持って居た仕入れた材料も、学生の兄ちゃん嬢ちゃん達が持って居たカバンも何もかも、俺達以外はこの部屋に何もなかった。

 と、先ほどの閃光とその後の薄暗さで全く気が付かなかったが、部屋には扉が一つだけあった。その扉が開けられ、何やら白いゾロっとしたフード付き服を着たヤツが部屋に入って来た。

 そいつを見た時。俺なぜか以前にもこの男を見た覚えがした。いや、そんな筈はない。この恰好でコイツが男か女かなんて見ただけでは分からないだろ。だからこれは俺の気のせいだ。

 しかし。

結果から言えば、俺はこの男の事を知っていた。


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