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3話

「なぜだ……! 俺の『エルフちゃんを助けてお友達になろう計画』は完璧だったはず」

「計画も何も行き当たりばったりじゃないか」


 さすがにここまで好感度が低いことは想定していなかった。初対面で変態って言われたのは初めてだよ。


「なぜオークと妖精が一緒に……。そもそもなぜ言葉が通じるんだ……」


 独り言をぶつぶつとつぶやくエルフちゃん。いまいち状況が飲み込めず混乱しているようだ。


「エルフの少女よ、どうやら状況を把握できていない様子。ここはボクの話を聞いてもらえないかな?」

「……そうね、わかったわ。わたしもここに連れてこられて、なにがなんだかわからないし……」

「なんでパックの話は聞くのに俺の話は聞いてもらえないんだ!」

「ソータは黙ってて」

「あっ、はい」


 そうやってみんな俺のことをいじめるんだ。泣いちゃうよ? ガチ泣きしちゃうよ?


「ボクの名前はパック。さすらいの妖精族さ。それで、そこの隅っこでしょぼくれてるのがソータ。オークだけど普通のオークとは違っていいやつだよ……多分」

「そこは言い切って欲しかったよ。改めまして、俺の名前は想太。どうぞよろしく」


 俺は近づくと怒られそうなのでち、ちょっと離れたところからご挨拶。さてエルフちゃんの名前はなんていうんだろうか。


「わたしはマリー・ルークス見ての通りエルフよ。よろしくね、パック」

「あの、俺は……」

「それで何がどうなってるのか教えてもらえないかしら? オークたちと戦っていたところまでは覚えているのだけど、そこから記憶がないの」

「あっ、はい」


 俺の扱いひどすぎない?マリーを拉致してきたのは俺と同じオークだから、信用ならないのはわからなくもないんだけどさ。もうちょっと歩み寄ってくれてもいいと思うんだ。


「ここはイニーの街近くにあるオークの集落だよ。いま他のオークたちがマリーの扱いをどうするか話し合ってるところなんだ。その間に逃げてもらおうと思って助けに来たんだけど……」

「あんたには聞いてないんだけど。まあ、いいわ。それにしても、まさかオークなんかに捕まるなんて……。一生の不覚ね」


 いくら温厚な俺でも怒っちゃうよ?確かに一目惚れはしたけど、それとこれは別問題。残念ながらここまでこけにされて黙っていられるほど聖人君子じゃないし、恋に盲目というわけでもない。


「あのなあ、こっちはお前を助けにきたわけ。それなのにその態度はないんじゃないか」


 少し棘のある声でそう言ったが、マリーは涼しい顔をして言い返してきた。


「そもそも助けてなんて一言も言ってないんだけど。勝手にやって来て恩着せがましい口ぶりなんて、そっちこそ何様?」

「それだったら一人で勝手にやってろ。もうこんなやつほっといて行くぞ、パック」

「ほんとにいいのかい?」

「ああ、いいんだよ」


 マリーに背を向け外へ歩いて行く、なんなんだよ、あいつは。そりゃ多少の下心はあったけどあの態度はありえないだろ。


「くそっ、やってられねえ」


 俺はそうつぶやいて石を蹴っ飛ばした。



 洞窟の外に出るとそこには多くのオークたちが集まっていた。

「何をしていた?」

「捕まえたやつが逃げないように中で見張ってたんだよ」

「そうか、ご苦労」

 長老を先頭にオークたちがぞろぞろと中へ入っていく。どうやら話し合いで順番が決まったようだ。


「ねえ、ソータ……」

「なにも言うな。今日は何もなかった。それでいいじゃないか」


 パックはまだ何か言いたげだったが、俺の顔を見ると黙り込んでしまった。


 しばらくその場に立ち尽くしていたが、いつまでもそうしていても仕方ない。家に帰ろうと一歩踏み出したときだった。


「きゃあああああああ!」


 夜空を切り裂くような叫び声が響き渡った。声が聞こえてきたのは洞窟の中からだ。


「やってられねえよ。あんなやつ大っ嫌いだ。大嫌いなはずなのに……」


 初めて見たときは心が震えた。100m走を全力疾走したかのように鼓動が激しくなった。彼女に出会うために転生した、そう思いすらした、

 でも、彼女と実際に話してみてそれは淡い幻想だったことを知った。取り付く島もないほどの拒絶。


「たった一言、『助けて』って言ってくれるだけでよかったんだ」


 それ以上は声にならなかった。


「ソータはさ、マリーの手を見た?」


 俺は首を横に振った。いったい手がどうしたって言うんだ。


「ずっと震えてたんだよ」

「それが?」

「見知らぬ場所でひとりぼっち。しかも自分をさらってきたオークがすぐ近くにいる。きっと怖かっただろうね」

「さらってきたのは俺じゃない。それにあいつは全然平気そうだったじゃないか」

「強がってただけだよ。そうしないと自分の心を保てなかったんだと思うよ」

「それはあくまでもパックの予想だろ?」

「だったら確かめればいい。真実を自分の目で見て確かめるんだ」


 なんでパックはこんなことを言うんだ。パックはあいつの、マリーの肩を持つっていうのか。


「ソータ、行きなよ。行かなきゃ絶対に後悔するよ。ぼくはただソータに後悔して欲しくないだけなんだ」

「…………わかったよ。行けばいいんだろ、行けば」


 パックとは長い付き合いになる。困ったときは助けてくれたし、楽しいときは一緒に笑いあった。そのパックが真剣に俺のことを案じて言ってくれてるんだ。その意見を聞き入れないわけにはいかない。


「マリーを助けたいから行くんじゃないぞ。パックだどうしてもって言うから行くんだ」

「はいはい、そういうことでいいよ。もう、素直じゃないなあ」

「うっさい」


 振り向くと真っ暗な洞窟が大きく口を開けて待ち構えていた。


「こ、来ないで!」

「そろそろ犯すか」

「ちょっと待ったあああああああ」

 俺はそう言いながらマリーとオークの間に割って入った。


「なんであんたがここに……」

「いまはちょっと黙ってろ!」


 マリーのほうに目をやるとひどいありさまだ。服は前よりもボロボロになっているし、殴られたのかお腹を痛そうに抑えている。


「なあ、少しこの子と話す時間をくれないか?」

「我々の邪魔をするのか?」

「そういうわけじゃない……とも言えないな」

「そこをどかなければ、敵とみなす」


 周りには20体ほどのオークがいる。さすがにこの数を突破することは容易ではない。パックに全力で魔法を撃ってもらえばなんとかなるかもしれないが、その場合オークたちの命が保証できない。


 この世に生まれて10年ぐらいたっているが、ここまで育ててもらった集落のみんなを殺すことは俺にはできない。甘いと言われるかもしれないが、これだけは譲れない。


「なあ、一つだけ聞かせてくれないか?もしもここにおとぎ話の勇者がいたとしたら、お前はどうして欲しい、マリー」

「…………たずげてほじい、たずげでほじいよぉ」

「おう、まかせとけ」

「何を、話している?」

「どうやらここを退くわけにはいかなくなったみたいだ」

「そうか、残念だ……。皆の者、やれ」



「ハァ、ハァ……。これは洒落にならないぐらいきついな」

「だから、ぼくにまかせればよかったのに」

「そうしたらみんな死んじゃうだろうが」


 とは言っても、現状突破口は開けないしジリ貧状態だ。武器が手元にないのも大きい。普段の狩りで使っている槍があればもう少しなんとかなったかもしれない。


「ちょっと、かっこつけた割にやられてるじゃないの」

「しょうがないだろ!こちとら魔法は使えないし武器も手元にないんだよ」

「私も一緒に戦えれば……。力も入らないし魔法も使えないなんて」


 マリーは皮肉を言えるぐらいには回復してきているみたいだ。それでも立ち上がれるほどではない。さてどうしたものか。


「ソータ、左だ!」


 考え事をしていたら一瞬反応が遅れた。顔を左に向ける間もなく強烈なパンチが顔面に襲い掛かってくる。


「……ぁ……うぅぅ」


 あまりの衝撃に倒れ込んでしまった。声もまともに出すことができない。


「ソータ、しっかりするんだ!」

「しっかりしてよ!助けてくれるんじゃなかったの……?」


 倒れ込んだ場所がマリーの近くだったようで、マリーの声が近くに聞こえる。くそっ、こんなところで終われるか! 俺はかわいい彼女を作って脱童貞するって決めたんだ!


 顔を上げるとちょうどマリーが見えた。その目尻から涙がとめどなく溢れている。その涙が落ちていくのを見ていたら意識がぼんやりとしてきた。


 這いつくばりながらなんとかマリーのもとまでたどり着く。俺はふらふらしながらも膝立ちになり、マリーを上から見下ろす。


「だ、大丈夫なの? 返事をしてよ!」


 俺は無言のままマリーの両肩に手を置く。一瞬ビクッとしたものの振り払うことはしないようだ。その力がないだけかもしれないが。


 頭がズキズキと疼く。何かの声が聞こえる。それは初めて聞く声ではなくどこか懐かしい声だ。


『……の……に……れ。』


 声が段々とはっきりしてくる。


『……己の欲望に素直であれ』


 そして、俺はマリーの服を引き裂いた。すでにボロボロだった服はあっけなく破れ、もはやその意味をなしていない。


「きゃああああああ! なにすんのよこの変態! あんたいまの状況わかってんの!?」


 マリーはせめてもの抵抗として手で胸を隠している。その顔は羞恥に染まっていて真っ赤だ。


 俺はその手を強引にどかし、マリーの体に触れた。


2018/3/3 改稿

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