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2話

 エルフ――深い森の中に住み、自然と共に暮らす種族。精霊魔法と弓を得意とし、代々世界樹を守ることを使命としている。その寿命は長いものでおよそ500年と言われ、森の賢人という異名を持つ。また、その容姿は例外なく美しく、長く尖った耳と白い肌を特徴としている。

「エルフがなんでこんなところに……。基本的には里から出てこないはず。しかもまだ子供じゃないか」


 パックや周りのオークたちが何かを言っているが、まったく耳に入ってこない。俺はそのエルフから目を離すことができなかった。

 いままで人を好きになったことはあった。でも、ここまで燃え上がるような感情を抱いたのは初めてだ。その顔、手、足、呼吸と共に上下する胸……。彼女の小さな動きでさえも注目してしまう。


「……ソータ、おいソータってば! 人の話を聞かないか!」

 パックから全力のドロップキックを食らって俺は少しよろめいた。いくらパックが小さいとはいえ、完全に不意打ちだったので踏ん張ることができなかったのだ。


「いったいなー、なにすんだよ」

「何回も話しかけてるのに返事をしないのが悪い。そんなことより、あのエルフが連れて行かれるみたいだぞ」

 パックが指差すほうを見ると、ちょうど謎のエルフ少女がオークたちによって運ばれて行くところだった。


「なあ、あの子どうなると思う?」

「さっきの話を聞いている限りだと、今晩にはオークたちの餌食になるんじゃないかな。夕食のときに集落の大人たちお集めて話し合いをするみたいだよ」

「やっぱりそうなるよなあ……」


 オークが森の奥に住んでいるのには理由がある。オークは男でも女でも他の人型種族と交わり合うことができるため、他の種族を誘拐することが多々あった。ゴブリンも同じようなことをしていたが、ゴブリンはそこまで強くないため簡単に追い払うことができる。しかし、オークはなまじ体が大きく強いため、誘拐事件は後を絶たなかった。

 そこで人間を中心とした人型種族連合は、協力してオークを討伐することになり、オークたちは窮地に追いやられていった。それによって仕方なく他の種族がいない森の奥や山奥に住むようになったのだ。


「ソータも参加するのか?」

「……するわけないだろ」

「いま、大人の階段登るところを想像したでしょ」

「ソンナコトナイヨ?」

「動揺してオーク語になってるよ」


 オークに転生してから10年。そして、記憶を取り戻してから5年。俺は幾度となく苦しまされてきた、自分の性欲に。

 周りにはオークしかいない。その中で自分の性欲は前世の中学生時代を軽く越えているとなったらどうなるかわかるだろうか?

 おかずがない絶望的な状況は俺を徐々に狂わせていった。もちろん晩御飯のおかずじゃない。懸命なる紳士諸君ならおわかりいただけるだろう。あっちのおかずだ。


 飢えのあまりパックの寝込みを襲おうとしたときは本当に死にたくなった。自分の美的センスに引っかかるのがパックしかいなかったんだ。それでも男だとわかっている相手を襲おうとしてしまった事実は消えない。あの日は絶望のあまり食事が喉を通らなかったよ……。


「さてどうしたものか……」

「ソータ、助けるつもりなのか?」

「わ、悪いかよ!」

 こちらをニヤニヤしながら見てくるパックはかなり鬱陶しい。


「ふーん、そうなんだー。あのソータがねー。ぼくは嬉しいよ、ソータが女の子に目覚めてくれて」

「もともとノーマルだからな!」

「あれれえ? でも昔ぼくに夜這いしようとしたのはどこの誰だったかな?」

「すみませんでした。許してください」

 あの一件以来パックには頭が上がらない。どう考えても悪いのは俺だからな。


「とりあえず家に戻ろうよ。帰ったら作戦会議だ」

「止めないのか? 助けてしまったらここにはいれなくなる。パックにも少なからず迷惑がかかる」

「そもそもぼくはここの住人じゃないからね。ここにいるのはソータが気に入ったからだし。昔餓死しそうだったときの恩返しだと思ってくれればいいよ」

 パックにはかなり世話になっている。狩りで失敗をした時に命を助けてもらったこともあるし、精霊語などのこの世界の知識を教えてくれたのもパックだ。


「ありがとうな、パック。なんだかんだお前はいいやつだよ」

「当たり前だろ。ぼくほどプリティーで優しい妖精はいないからね」

 そう言って顔を少し赤らめながらそっぽを向く。これで男じゃなかったら完璧なんだがなあ。そう思わずにはいられなかった。



 広場の中心では薪が火の粉を散らしながら燃え、闇夜に集うオークたちを照らし出している。

 そんな中、俺とパックは見つからないように行動を開始していた。


「本当は晩飯の間に助け出したかったんだけどな」

「それは無理だ。あのイノシシを狩ってきたのはソータだからな。主賓を差し置いて宴はできないだろうよ」

「まあ、そのとおりだな。ところで、場所は外れの洞窟であってるんだな?」

「間違いないよ。ぼくの偵察能力を舐めちゃいけない」

「普通に聞いてきただけだろうが」


 パックは妖精族だが、この集落において普通に暮らすことができている。それは名目上、俺のペットになっているからだ。

 俺は肉を定期的に集落に供給しているので、ここではある程度尊敬されている。その俺が連れてきたから誰も手を出そうとしないのだ。

 しかし、今回のエルフちゃんの場合は違う。


「でも、なんでこんな辺境の森にエルフが一人でいたんだ?」

「それは本人に聞いてみるしかないよ。よっぽどの理由があるとは思うけど……」

 エルフちゃんを見つけたのは集落の警備をしていたオークたちだった。そこで戦闘になり、集落から応援を呼んで倒したらしい。つまり、エルフちゃんは集落全体の獲物というわけだ。いくら俺でも集落全員を相手にすることはできない。


 そうこうしている間に洞窟の前にたどり着いた。ここは普段、食料を保管するために使っている。

「交代しにきたぞ。お前もみんなのところに行ってこい」

「オオソウカ、アリガタイ」

 そう言ってあっさりと洞窟の見張りを代わってくれた。色々と騙すための嘘は考えてきていたのだがまったく必要なかった。


「やっぱりオークは所詮オークだね」

「おい、失礼だろ。それと俺も一応オークなんだが?」

「気にしないで、ソータのことも馬鹿にしてるから」

「気にするわ!」

 おっと、いかんいかん。パックとふざけあっている場合じゃなかった。


 いまオークたちは、どういう順番でエルフちゃんといたすかを話し合っているはずだ。みんながみんな一番になりたがって、話し合いはある程度長引くはずだ。その間にエルフちゃんを連れ出してしまおうという作戦だ。その先のことももちろん考えてあるがいまは置いておこう。まずは脱出することからだ。

 

「もう目が覚めてるかな?」

「あの薬を飲まされたんだったら、まだ意識がないかもね。ぼくも使ってるところは初めて見たよ」


 あの薬とはオークの秘薬のことだ。様々な薬草とオークの血を組み合わせることによって作り出され、その製法は長老しか知らない。

 そして、この秘薬によって様々なオークの伝説が生まれている。いわく、オークに囚われたものはその快楽に酔いしれ二度と帰ってこない。いわく、オークの白い液体やラブジュースには媚薬成分が含まれていて中毒性がある……、などなど。


 秘薬の主な効果は身体の麻痺と魔力の阻害だ。捕まえた獲物が逃げたり抵抗したりしないようにするために飲ませる。しかし、重大な副作用がある。体のありとあらゆる部分が敏感になってしまうのだ。要するに、媚薬となんら変わりはない。


「せめてあれを飲ませるのを防げてたら楽に脱出できたんだが……」

「連れてこられた時点で飲まされてたみたいだからね。どうしようもないよ」

「さて、どんな状態かなっと」


 洞窟の一番奥までくると、縄で縛られたまま地面に横たわっているエルフちゃんがいた。パックの火魔法『灯火(ランプ)』によってその姿が照らし出されている。何度見てもかわいい。心臓の鼓動が早まっていくのを感じる。


「盛ってる場合じゃないよ、ソータ。早くここを出ないと」

「エッチな妄想なんてしてないぞ。断じてしてない。ただどうやって連れて行こうか考えていただけだ」

「語るに落ちるとはこのことだね。さすが妄想魔神」

「人よりちょっと想像力が豊かなだけだ!」

 そう、想像力が豊かなだけなんだ。手がぷにぷにしてやわらかそうとか、髪を触ったらサラサラとして気持ちいいだろうなとか、キおしたらどんな感触なんだろうかとか、どんな匂いがするのかなとか、そんなことを考えてるわけじゃないんだからな!


「どうせソータのことだから妄想でもキス止まりだろうけどね。その先のベッティングとかセックスのことまでは恥ずかしくて考えてないでしょ」

「……な、なぜそれを」

「ソータは女の子に幻想を抱いてる童貞だから」

「童貞で何が悪い!」

 世の中の童貞に謝れ! みんな好きで童貞やってるんじゃないんだぞ。ただちょっと運が悪いだけなんだ。そうじゃなきゃやってられない。


「んっ、ううん……」

 俺とパックが言い合っていたせいかエルフちゃんが目を覚ましたようだ。

 最初になんて声をかけようか。第一印象は大事だからな。人間最初についたイメージを変えるのは難しい。だからエルフちゃんとのイチャラブ性活のためにも最初が肝心だ。まあ、俺はオークなんだけどね。


「大丈夫か?意識ははっきりしてる?」

 俺はしゃがみこんで彼女に手を差し出し、出来る限り優しい声で言った。ふっ、どうだこの紳士っぷりは。完璧なファーストコンタクトのはずだ。


 彼女は俺の存在に気づいたようでこちらお見て何度かまばたきをした。

「触らないで、この変態オーク!」

 そう言って彼女は後ろずさった。どうやら第一印象は最悪のようだ。

2018/3/3 改稿

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