1話
日差しが強く、うだるような暑さの中、多くの大学生が騒いでいる。
ここは川の近くにあるバーベキュー場。
日差しが強くうだるような暑さの中、多くの大学生が騒いでいる。
ここは川の近くにあるバーベキュー場。
│GWにおこなっているサークル合宿の最終日ということでバーベキュー大会が開かれている。
肉を取り合う者、新入生の女の子にツバをつけにいく者、先輩にいじられて一発芸をやらされている者……。
そう言った喧騒をよそに、俺はせっせと食材を運んでいた。
「想太ー、こっち肉なくなったー」
「こっちも肉ちょうだい!」
やれやれ、こんな暑い中働いてるこっちの身にもなって欲しいものだ。
わがテニスサークルでは、二回生が行事の企画・運営をすることになっている。ちょうどその二回生である俺は、この合宿でバーベキュー係というお役目を与えられていた。
女の子と仲良くなりたいという不純な動機で入ったサークルだったが、一応その目標は達成されている。しかし、あくまでも仲のいい友人止まり。恋人はできておらず、恋人いない歴=年齢という汚名を返上できていない。
「じゃあ、ここで毎年恒例のアレやりたいと思いまーす。しゅーごー」
酔っ払った先輩が突然そう言ってみんなを集め始めた。
このサークルでは、GWの合宿に度胸試しで新入生が川に飛び込むというなんとも面倒な伝統がある。もちろん男限定だ。しかも、飛びこむ前に大声で自分の秘密を言わなければならない。もはや罰ゲームの領域だ。
「それじゃあお手本は誰にしようかなあ。お、お前にしようか想太。いってこーい」
「勘弁してくださいよー」
「……やれ」
「あ、はい」
先輩に睨まれて俺は抵抗を諦めた。だって先輩の顔、ヤクザみたいに怖いんだもの。
俺は石の上を通って対岸まで渡ると、靴とTシャツを脱いで大きな岩を登り始めた。この岩は大体4mぐらいあってその下の川底は少し深くなっている。絶好の飛び込みポイントというわけだ。
飛び込むのは別に怖くない。去年も飛び込んでるわけだし、ちょっと水が冷たいのが嫌なぐらいだ。
嫌なのはもちろん自分の秘密を言うことである。去年は調子に乗って、気になっていた同回生の女の子に告白まがいのことをして見事に撃沈した。あのときの自分は本当にどうかしていたと思う。
「……あっ!」
考え事をしていたのがいけなかったのか、俺はもう少しで登りきれるというところで足を滑らせた。
真下は岩だらけだ。ここで落ちたらからただではすまない。人間、死の間際になるとスローモーションになるって言うけど本当だったんだな。対岸にいるサークルメンバーの悲愴な顔が見える。その中にはヤクザ先輩の顔もある。
先輩、俺知ってるんですよ。去年俺が告白した子と先輩がつきあってること。リア充死すべし!
男の嫉妬ほど醜いものはない。俺はそんなことを思いながら意識を失った。
「いやあ、今日はうまいこと引っかかったなあ」
木々が鬱蒼と茂った森の中を俺は歩いていた。右肩には本日の獲物であるイノシシを引っさげている。
「獣というのは馬鹿なものだ。このような罠にかかるとは」
「パックも昔ひっかかってただろうが。イノシシと同じレベルだな」
「馬鹿にするな。あのときのボクは死ぬほど飢えていたんだ。だからしょうがなかったんだ。そもそもソータはぼくに対する態度がなってないと思うんだよね。おい、聞いているのか!」
反対の左肩には羽を生やした小さなお人形さんがちょこんと座っている。
「はいはい、わかってるって。というか耳元で大きな声出すなよ」
「いいや、君は何もわかってない。そもそもだな……」
小さな体を大きく動かして自己主張しているこの生き物の名前はパック、│妖精族だ。
この赤髪の妖精と出会ったのは、今日のように狩りに出ているときだった。仕掛けた罠を確認しに言ったところ、こいつがかかっていたのだ。
「おい、服がずれてきてるぞ。そのベビードールみたいなうっすい服はなんとかならんのか」
「そのベビードールというやつは知らないが、これは妖精族の伝統衣装だ。つまり妖精族の誇りなのだよ。そんなわけだから他の服を着ることは断固として拒否する。ちなみに同じものを色違いで10着ほど持ってるぞ。これは一番気に入っている白いやつだ」
そう言って腰まである長い髪をかきあげながらドヤ顔をかますパック。その顔はいままで会ったことのある女の子の中でも一二を争うほどかわいい。
だがしかし、騙されてはいけない。
「男の薄着なんてお呼びじゃないんだよ。どうせなら女の子に着て欲しいもんだ」
「最初ぼくを女の子だと思っていたくせに。あのときのソータはかわいかったなあ。服を脱ごうとしたら顔を真っ赤にしてそむけちゃって」
「うっせえなあ」
パックは男だ。姿形だけじゃなく声も高くて女の子みたいだがれっきとした男だ。はじめて出会ったときに俺は見事に騙されて恥をかいた。
パックとそんな話をしていると森の開けた場所に出た。そこには多くの掘っ立て小屋が建っていて、いくつかの人影が見える。
ここがいまの俺の住んでいる場所。森の奥深くにあるオークの集落だ。
ある日、俺は夢を見ていた。何かに抱きしめられている感覚。前が見えず息苦しい。息をするためにその何かを引き離そうとすると、手のひらに伝わってきたのはマシュマロのようなやわらかさだった。
両手をわきわきとさせること約10秒。
「…………あうっ」
その艶めかしい声に俺は固まった。抱きしめる力が弱くなったのでゆっくりと顔をあげる。
そこには黒髪の女神がいた。まるで美術館にある女神像がそのまま動き出したかのような神聖さを感じさせる美しさ。思わず見とれてしまった。
「あのー、お話してもよろしいでしょうか?」
「………………」
「あ、あのー」
「……はひっ」
いかんいかん、ぼーっとしていたせいで変な声が出てしまった。しかし、ここはどこだろう?見渡す限り真っ白な空間が広がっている。
「あまり時間もないので手短にお話しさせていただきます。あなたにはこの先大きな困難が訪れるでしょう。そのようなときにはこのことを思い出してください」
そう言って女神様(?)はもう一度俺を抱きしめた。動揺を隠せずバタバタともがくが身動きが取れない。そんな俺をあやすように、頭をなでながら最後に一言。
「己の欲望に素直であれ」
その日、目を覚ました俺はすべてを思い出した。自分が人間だったこと。日本に暮らしていたこと。そして、死んでしまったこと。オークとして生まれ変わって5年たっていた俺にはあまりにも衝撃的なことだった。
衝撃のあまりベッドの中でしばらく呆けていたが、下半身の不快感に起き上がって掛け布団をめくった。そこにはぐっしょりと濡れてシミができているパンツ。オークに生まれて初めての吐精であった。
「ただいまー」
「みんな、ソータが戻ったぞ」
帰ったことを告げると、何人かのオークがこちらによってくる。
いまもソータと呼ばれているのはオークの習慣に原因がある。オークにはもともと名前をつける習慣がなかったのだ。
そこで俺が想太と名乗り始めたところ「ソータ、ソータ」と呼ばれるようになったのだ。ちなみにいまこの集落では自分の名前を考えるのがブームになっている。
みんなと軽く挨拶をかわして自分の家に入る。イノシシは家の外に置いてきた。家と言っても丸太を組み合わせて作っただけの掘っ建て小屋だが、案外住み心地は悪くない。住めば都とはよく言ったものだ。
「今日は猪鍋だな。パックもそれでいいか?」
「おにく、おにく、お・に・くー♪」
パックは嬉しそうに部屋の中を飛び回っている。肉はいつも食べれるわけじゃないからごちそうだ。そのため、手に入ったときは集落全体で分けて食べることになっている。この集落では50人ほどが暮らしている。1頭あたり大体200人前はあるからしばらくは肉が食える計算だ。
「なあパック。解体用のナイフってどこやったっけ?」
「この前裏の物置に入れてたじゃないか。ソータは忘れっぽいな。頭の中まで豚になっちゃったのかい?」
「豚はここまで流暢に喋れないだろうが。お前だけ肉なしにするぞ」
「そんな殺生な!いますぐ脱ぐから許してくれ」
「許すから脱ぐな。男の裸はいらん」
にっしっしと笑いながらパックは服にかけた手を下ろした。
いま俺とパックが話しているのは精霊語と呼ばれる言語だ。主に妖精族が話す時に使う。さっき他のオークたちと話していたのはオーク語。オークたちの間でしか通じない。オーク語は生まれてからずっと聞き続けていたので自然と覚えていたが、精霊語はパックに教えてもらった。
ナイフを取ってきてイノシシの解体を始める。最初はあまりのグロさに吐いたが、いまは慣れてしまった。やり方を教えてくれたのは親父だ。もちろん前世じゃなくて今世のだ。でっぷりと太った立派なオークである。
しばらくイノシシと格闘していると、集落の入り口から多くの声が聞こえてきた。そういえば普段ならもっと人がいるはずなのになぜか少なかったな。そのことと関係があるのだろうか?
「今日って何かあったっけ?」
「ぼくが覚えてる限りでは何もなかったはずだけど」
「ちょっと様子を見に行ってくるか」
「そうしよう!そうしよう!」
解体中は危ないので無言だったのだが、パックは暇していたようだ。
入り口にある広場までたどり着くと、そこには多くの大人たちが集まっていた。何かを囲んで話し合っている。俺は他のオークたちよりも一回り小さいので中心に何があるか見えない。
「なに話してるんだろ?」
「見てみればすぐにわかるよ。ほらソータ、はやくはやく!」
パックにせかされて輪の中に入る。大人たちを押しのけて真ん中まで行くと、そこには衝撃の光景が広がっていた。
「こ、これは……」
「ありゃりゃー。これは厄介なことになりそうだね」
地面には縄で縛り上げられた人物。気を失っているようでその服はところどころ破れてしまっている。
「……エルフだ」
この瞬間、俺は初めて恋に落ちた。
肉を取り合う者、新入生の女の子にツバをつけにいく者、先輩にいじられて一発芸をやらされている者……。
そう言った喧騒をよそに、俺はせっせと食材を運んでいた。
「想太ー、こっち肉なくなったー」
「こっちも肉ちょうだい!」
やれやれ、こんな暑い中働いてるこっちの身にもなって欲しいものだ。
わがテニスサークルでは、二回生が行事の企画・運営をすることになっている。ちょうどその二回生である俺は、この合宿でバーベキュー係というお役目を与えられていた。
女の子と仲良くなりたいという不純な動機で入ったサークルだったが、一応その目標は達成されている。しかし、あくまでも仲のいい友人止まり。恋人はできておらず、恋人いない歴=年齢という汚名を返上できていない。
「じゃあ、ここで毎年恒例のアレやりたいと思いまーす。しゅーごー」
酔っ払った先輩が突然そう言ってみんなを集め始めた。
このサークルでは伝統として、GWの合宿に度胸試しで新入生が川に飛び込むというなんとも面倒な行事がある。もちろん男限定だ。しかも、飛びこむ前に大声で自分の秘密を言わなければならない。もはや罰ゲームの領域だ。
「それじゃあお手本は誰にしようかなあ。お、お前にしようか想太。いってこーい」
「勘弁してくださいよー」
「……やれ」
「あ、はい」
先輩に睨まれて俺は抵抗を諦めた。だって先輩の顔、ヤクザみたいに怖いんだもの。
俺は石の上を通って対岸まで渡ると、靴とTシャツを脱いで大きな岩を登り始めた。この岩は大体4mぐらいあってその下の川底は少し深くなっている。絶好の飛び込みポイントというわけだ。
飛び込むのは別に怖くない。去年も飛び込んでるわけだし、ちょっと水が冷たいのが嫌なぐらいだ。
嫌なのはもちろん自分の秘密を言うことである。去年は調子に乗って、気になっていた同回生の女の子に告白まがいのことをして見事に撃沈した。あのときの自分は本当に
どうかしていたと思う。
「……あっ!」
考え事をしていたのがいけなかったのか、俺はもう少しで登りきれるというところで足を滑らせた。
真下は岩だらけだ。ここで落ちたらからただではすまない。人間、死の間際になるとスローモーションになるって言うけど本当だったんだな。対岸にいるサークルメンバーの悲愴な顔が見える。その中にはヤクザ先輩の顔もある。
先輩、俺知ってるんですよ。去年俺が告白した子と先輩がつきあってること。リア充死すべし!
男の嫉妬ほど醜いものはない。俺はそんなことを思いながら意識を失った。
「いやあ、今日はうまいこと引っかかったなあ」
木々が鬱蒼と茂った森の中を俺は歩いていた。右肩には本日の獲物であるイノシシを引っさげている。
「獣というのは馬鹿なものだ。このような罠にかかるとは」
「パックも昔ひっかかってただろうが。イノシシと同じレベルだな」
「馬鹿にするな。あのときのボクは死ぬほど飢えていたんだ。だからしょうがないじゃないか。そもそもソータはぼくに対する態度がなってないと思うんだ。おい、聞いているのか!」
反対の左肩には羽を生やした小さなお人形さんがちょこんと座っている。
「はいはい、わかってるって。というか耳元で大きな声出すなよ」
「いいや、君は何もわかってない。そもそもだな……」
小さな体を大きく動かして自己主張しているこの生き物の名前はパック、妖精族だ。
この赤髪の妖精と出会ったのは、今日のように狩りに出ているときだった。仕掛けた罠を確認しに言ったところこいつがいたのだ。
「おい、服がずれてきてるぞ。そのベビードールみたいなうっすい服はなんとかならんのか」
「そのベビードールというやつは知らないが、これは妖精族の伝統衣装だ。つまり妖精族の誇りなのだ。そんなわけだから他の服を着ることは断固として拒否する。ちなみに同じものを色違いで10着ほど持ってるぞ。これは一番気に入っている白いやつだ」
そう言って腰まである長い髪をかきあげながらドヤ顔をかますパック。その顔はいままで会ったことのある女の子と比べても一二を争うほどかわいい。
だがしかし、騙されてはいけない。
「男の薄着なんてお呼びじゃないんだよ。どうせなら女の子に着て欲しいもんだ」
「最初ぼくを女の子だと思っていたくせに。あのときのソータはかわいかったなあ。服を脱ごうとしたら顔を真っ赤にしてそむけちゃって」
「うっせえなあ」
パックは男だ。姿形だけじゃなく声も高くて女の子みたいだがれっきとした男だ。はじめて出会ったときに俺は見事に騙されて恥をかいた。
パックとそんな話をしていると森の開けた場所に出た。そこには多くの掘っ立て小屋が建っていていくつかの人影が見える。
ここがいまの俺の住んでいる場所。森の奥深くにあるオークの集落だ。
ある日、俺は夢を見ていた。何かに抱きしめられている感覚。前が見えず息苦しい。息をするためにその何かを引き離そうとすると、手のひらに伝わってきたのはマシュマロのようなやわらかさだった。
両手をわきわきとさせること約10秒。
「…………あうっ」
その艶めかしい声に俺は固まった。そこで抱きしめる力
が弱くなったのでゆっくりと顔をあげる。
そこには黒髪の女神がいた。まるで美術館にある女神像がそのまま動き出したかのような神聖さを感じさせる美しさ。思わず見とれてしまった。
「あのー、お話してもよろしいでしょうか?」
「………………」
「あ、あのー」
「……はひっ」
いかんいかん、ぼーっとしていたせいで変な声が出てしまった。しかし、ここはどこだろう?見渡す限り真っ白な空間が広がっている。
「あまり時間もないので手短にお話しさせていただきます。あなたにはこの先大きな困難が訪れるでしょう。そのようなときにはこのことを思い出してください」
そう言って女神様(?)はもう一度俺を抱きしめた。動揺を隠せずバタバタともがくが身動きが取れない。そんな俺をあやすように、頭をなでながら最後に一言。
「己の欲望に素直であれ」
その日、目を覚ました俺はすべてを思い出した。自分が人間だったこと。日本に暮らしていたこと。そして、死んでしまったこと。オークとして生まれ変わって5年たっていた俺にはあまりにも衝撃的なことだった。
衝撃のあまりベッドの中でしばらく呆けていたが、下半身の不快感に起き上がって掛け布団をめくった。そこにはぐっしょりと濡れてシミができているパンツ。オークに生まれて初めての吐精であった。
「ただいまー」
「ミンナ、ソータガモドッタゾ」
帰ったことを告げると、何人かのオークがこちらによってくる。
いまもソータと呼ばれているのはオークの習慣に原因がある。オークにはもともと名前をつける習慣がなかったのだ。
そこで俺が想太と名乗り始めたところ「ソータ、ソータ」と呼ばれるようになったのだ。ちなみにいまこの集落では自分の名前を考えるのがブームになっている。
みんなと軽く挨拶をかわして自分の家に入る。イノシシは家の外に置いてきた。家と言っても丸太を組み合わせて作っただけの掘っ建て小屋だが案外住み心地は悪くない。住めば都とはよく言ったものだ。
「今日は猪鍋だな。パックもそれでいいか?」
「おにく、おにく、お・に・くー♪」
パックは嬉しそうに部屋の中を飛び回っている。肉はいつも食べれるわけじゃないからごちそうだ。そのため、手に入ったときは集落全体で分けて食べることになっている。この集落では50人ほどが暮らしている。1頭あたり大体200人前はあるからしばらくは肉が食える計算だ。
「なあパック。解体用のナイフってどこやったっけ?」
「この前裏の物置に入れてたじゃないか。ソータは忘れっぽいな。頭の中まで豚になっちゃったのかい?」
「豚はここまで流暢に喋れないだろうが。お前だけ肉なしにするぞ」
「そんな殺生な!いますぐ脱ぐから許してくれ」
「許すから脱ぐな。男の裸はいらん」
にっしっしと笑いながらパックは服にかけた手を下ろした。
いま俺とパックが話しているのは精霊語と呼ばれる言語だ。主に妖精族が話す時に使う。さっき他のオークたちと話していたのはオーク語。オークたちの間でしか通じない。オーク語は生まれてからずっと聞き続けていたので自然と覚えていたが、精霊語はパックに教えてもらった。
ナイフを取ってきてイノシシの解体を始める。最初はあまりのグロさに吐いたが、いまは慣れてしまった。やり方を教えてくれたのは親父だ。もちろん前世じゃなくて今世のだ。でっぷりと太った立派なオークである。
しばらくイノシシと格闘していると集落の入り口から多くの声が聞こえてきた。そういえば普段ならもっと人がいるはずなのになぜか少なかったな。そのことと関係があるのだろうか?
「今日って何かあったっけ?」
「ぼくが覚えてる限りでは何もなかったはずだけど」
「ちょっと様子を見に行ってくるか」
「そうしよう!そうしよう!」
解体中は危ないので無言だったが、パックは暇していたようだ。
入り口にある広場までたどり着くと、そこには多くの大人たちが集まっていた。何かを囲んで話し合っている。俺は他のオークたちよりも一回り小さいので中心に何があるか見えない。
「なに話してるんだろ?」
「聞いてみればすぐにわかるよ。ほらソータ、はやくはやく!」
パックにせかされて輪の中に入る。大人たちを押しのけて真ん中まで行くと、そこには衝撃の光景が広がっていた。
「こ、これは……」
「ありゃりゃー。これは厄介なことになりそうだね」
地面には縄で縛り上げられた人物。気を失っているようでその服はところどころ破れてしまっている。
「……エルフだ」
この瞬間、俺は初めて恋に落ちた。
2018/3/3 改稿