プロローグ
「いやっ、そんなに強くしないでぇ……」
俺が異世界に転生して早5年。なんだかんだあって、いま自分の膝の上に座っている女の子と旅をしている。
「だめぇ、今度はやさしくなんてずるい……」
こちらから顔を見ることはできない。しかし、その耳は真っ赤に染まっていて、さらに普通の人よりも長く尖っている。そう、彼女はいわゆるエルフという種族なのだ。
俺は彼女を膝の上から下ろして立ち上がり、仰向けでベッドに寝かせた。ベッドが少しきしんで音を立てる。
彼女は赤くなっているであろう顔を右手で隠している。なんていじらしいんだ! 俺は自分の欲望が大きくなっていくのを感じた。
「い、いやぁ……」
「そっちからお願いしてきたんだろうが」
エルフである彼女の肌は雪のように白い。けれども、いまは上気して少し赤くなっている。
汗ばんだ顔に張り付いた金色の髪をはらってやる。
「ほら手をどけて、力を抜いて。痛いのはすぐ終わるから」
「ほんとうに?」
そう言って彼女は手を下ろした。そこから見えたのは天使のようにかわいらしい顔。それでかつどこか美しさも感じさせる。その二つの大きな青い瞳が、うるうるとこちらを見つめていた。
俺は思わずつばを飲み込んだ。
「……ああ、本当だ。俺を信じて任せてくれ」
彼女はこくんとうなずくと手足から力を抜いた。
俺はそんな彼女に覆いかぶさった。
「それじゃあいくぞ、マリー」
ゆっくりとマリーに向かって手を伸ばす。そして俺はその急所へと手をかけた。
「いったぁあああああああい!」
その声を聞きながら俺はある種の達成感を味わっていた。だが俺は鬼畜ではないので動きを止めて話しかける。
「大丈夫か? 痛いならここまでにしようか?」
「ううん、痛いけど続けて。最後までちゃんとやって欲しいの」
そんなことを言われてしまっては止まれない。俺は動きを再開した。
そうすると次第に変化があらわれ始めた。苦痛に歪んでいた彼女の表情が恍惚としたものになってきたのだ。彼女の声もどこか艶を帯びたものになってきている。
それに気を良くした俺はさらに動きを激しくする。
そしてその儀式は終盤に差し掛かる。
「も、もうだめっ、それ以上は……」
「よし、それなら一気にいくぞ!」
俺はラストスパートをかけた。
そしてついにフィニッシュを迎える
「ん、んぁぁ……」
ビクビクと震えるマリーは、最後の抵抗としてなんとか声を抑えようとした。しかし、抑えきれずにうめき声のようになってしまっている。
しばらくするとマリーはゆっくりと起き上がった。
「すっきりしたろ、どうだった?」
「だめって言ったのに! なんでもっと強くしちゃうのかな!」
かわいい女の子をいじめたくなるのは世の摂理である。だから仕方ないのだ。俺は悪くない。
「ごめんごめん。次は優しくするから」
「そう言って前も激しくしたもん」
「それならもうやめとくか?」
「それは、その……。なんだかんだ気持ちよかったっていうか……」
「えっ?なんだって?」
ニヤニヤしながらうつむいてしまったマリーの顔を見つめる。
自分でも子供っぽいことはわかっているのだがどうもやめられない。なんて罪作りなエルフなんだ……。マリー恐ろしい子……!
そんなことを考えていると突然がばっと顔を上げたマリーが大きな声で罵倒してきた。
「次もマッサージして欲しいって言ってんの! ソータのバカ! 変態オーク!」
さっきまでしていたのは俺の特技であるマッサージだ。大事なことだからもう一度言うぞ。ただのマッサージだ。何もやましいことはしていない。
そしてもう一つ大事な事がある。それは俺がオークだということだ。
オークは様々なファンタジー作品の中に出てくる定番の種族だ。基本的に嫌われものであり、雑魚悪役として出てくることが多い。
そしてオークを語る上で忘れてはならない特徴がある。それはオークが豚のように醜いとか太っているとかいうことではない。
「このブサイク! デブ!」
おい、気にしてるんだからそれを言うなよ。ガチで泣くぞ。泣いちゃうよ?
こほん、気を取り直してオークの特徴に戻ろう。オーク最大の特徴。それは異常なまでの性欲である。
圧倒的なまでのサイズのナニを持ち、精力は無限大。オークに転生してしまったいまなら理解できる。オークの性欲は尋常ではないと。
さっきまでマッサージをしていたときもはっきり言ってやばかった。軽口でも言ってないと襲ってしまいそうだったからな。
「うっせーぞ! 静かにしろ!」
夜更けに少しうるさくしすぎただろうか。お隣の部屋から、思いっきり壁を叩く音とともに苦情が飛んでくる。壁ドンなんて初めてされたぞ。どうせならおっさんじゃなくてかわいい女の子にされたいものだ。まあされたいのは違う壁ドンなわけだが……。
「シーッ!ほらマリー、静かにしなきゃ。もうこんな時間なんだしさ」
俺は声を抑えて言った。
「誰のせいだと思ってるのよ、まったく」
「ごめんごめん。お詫びに今度お菓子買ってくるからさ」
「食べ物で釣られると思ったら大間違いよ!」
そう言いつつも嬉しそうなのは表情でまるわかりである。ふっ、他愛のない。これがチョロインってやつか。
「いまなにか失礼なこと考えてなかった?」
「メッソウモアリマセン」
女の勘ってやつは恐ろしい。
「さあ、明日は朝早くに出発するから今日はそろそろ寝よう」
「そうね。それじゃあ、おやすみ」
「……おやすみ」
俺はマリーが入ったベッドの隣りにあるベッドに潜った。なんとか今日も乗り切ったが、マリーをいつか襲ってしまわないかという不安は尽きない。
日本にいた頃の俺は童貞だった。女の子とお付き合いした経験すらなかった。
だからこそ、俺は第二の人生で初めての彼女を作ると決意した。そしてイチャラブ新婚生活を送るのだと。
そんな俺の最大の敵が己の体である。オークに生まれてしまったことを恨まない日はなかった。オークというだけで虐げられる世の中だぞ。
しかも肉体に引きづられているせいか前世よりも性欲がやばい。初体験が無理矢理なんてごめんだ。
まずはロマンチックなデートから始まってだな……。そこ! 気持ち悪いとか言わない! 童貞こじらせてるのは自分でもわかってるんだよ。
そんなことを考えていたら段々と眠くなってきた。マッサージで体力使ったからな。
日本の大学に通っていた平凡な俺は、なぜかオークに転生してしまった。そして、いまはこのファンタジー世界でマリーと旅をしている。
あの日のことはいまもまだ鮮明に覚えている。俺の運命が変わった日――平林想太の人生が終わり、ソータの豚生が始まった日なのだから。
2018/3/3 改稿