頭の悪いラクダの分け方
あるアラブの老人が死に際にこんな遺言を残しました。
「私が死んだなら私の財産は三人兄弟で分けなさい。けんかにならないように配分も私が決めておいた。
長男は二分の一、次男は三分の一、三男は九分の一だ。しっかり遺言通りに分けるように。」
やがて老人は死にました。
葬式の終わった後、長男が兄弟たちに言いました。
長男「親父は死んでしまった。これからは自分たちで生きていかなければならない。
ではこれから遺産の分配を行おうと思う。」
次男「そうだな、おやじの遺言通りに行おう。遺言は何だったかな。」
三男「確か、俺に二分の一、兄さんたちには四分の一ずつだ。」
長男「馬鹿野郎、勝手に配分を変えるな。俺に二分の一、次男に三分の一、お前には九分の一だ。
お前いつもそんなんだから親父に取り分を減らされちまうんだよ。」
次男「まあまあそんなことよりも早く分けようよ。まずはラクダから分けよう。ラクダは十七頭だ。」
長男「そうだな。つまり遺言通りに分けるとなるとおれが八頭と半分、次男は五頭と三分の二、三男は
一頭と九分の八だ。よし、分けよう。」
次男「待ってくれ、それだと俺は五頭と三分の二のラクダがもらえるわけだが、三分の二とはいったい
どの部分なんだ、頭のほうから三分の二か、それとも尻のほうから三分の二か。」
三男「そうだ、俺の一頭と九分の八の九分の八はどこのことだ。兄さんの二分の一は縦半分に割れば
綺麗に二分の一になるからそんな無茶な分け方が簡単に言えるのだ。」
長男「それもそうだな、ではこういうのはどうだ。とりあえず俺の二分の一とお前たちの三分の二と
九分の八はおいておこう。まずは完璧なラクダのほうを分けよう。」
次男「そうすると八頭、五頭、一頭と分けるから合わせて十四頭だな。三頭余る。」
三男「待て、その十四頭の分け方も問題だ。見たところ年老いたラクダと若いラクダがいる。
年老いたラクダばかりでは公平とは言えないぞ。」
長男「じゃあ、ラクダの年齢の平均が大体同じになるように分けよう。」
次男「そうはいってもこいつらの年齢なんて知らないぞ。」
長男「では、ひける荷物の分量で決めないか。」
次男「よし、では測ってみよう。」
しばらくして
長男「全部のラクダのひける荷物の分量を量ったところこれが一番平均が近い分け方だ。」
三男「では残りの三頭の分け方を決めよう。しかし面倒くさいことだ。もうこの際この三頭は
売って金に換えてしまわないか。」
次男「そんなもったいないだろう。買値より売値のほうが安いのだ。売ってしまっては損だ。
三男「しかしどう分けるにしろこのままでは残った三頭は肉にして分けなければならないぞ。
その方がもったいないじゃあないか。」
次男「それもそうだなあ、どうしようか。」
長男「おいみんな一つ気づいたことがあるんだ。聞いてくれ。もし俺たちがうまくラクダを分けたとする。
しかし二分の一と三分の一と九分の一を足しても十八分の十七にしかならないんだ。」
三男「一体どういうことだ。十八分の一余ってしまうではないか。」
長男「それなんだよ。余った十八分の一、つまり十八分の十七頭のラクダはどうすればいいんだ。」
次男「なあ、俺思ったんだが親父様は俺たちのことをからかっているのではないか。
俺もう考えるの嫌になってきたよ。もうこのまま残った三頭は俺たちで一頭ずつ分けないか。」
三男「そうだなあ。もうそれがいいんじゃないかなあ。」
長男「待て、親父の遺言を無視する気か。」
次男「そういうわけじゃあないがね、もういい加減ラクダだけじゃなくてほかの遺産も分けたいんだよ。」
ここで三男は思いつきました。
三男(待てよ、もし親父の遺言を無視するのだったら何も俺がたった二頭のラクダで我慢することは
ないんじゃあないか。むしろ俺が全部もらっちまってもいいんじゃないか。上二人は納得しな いだろう。しかし兄さんたちにはもううんざりしていたんだ。
年上だというだけで威張りくさりやがって。むしろ今までの慰謝料として遺産を全部もらうのは
俺の当然の権利なんじゃあないか。)
暑さで頭の湧いていた三男は兄たちに提案しました。
三男「ここらでちょっと休もうじゃないか。俺ちょっと飲み物持ってくるよ。」
そういうと三男は台所に入っていきました。そしてお盆に三つのグラスを用意しました。
三男「ここにちょうど良く毒の入った小瓶がある。これを二人にもってやろう。」
三男は二つのグラスに毒を入れるとその上から酒を注ぎました。
そして兄たちのところに戻ると二人に酒を勧めました。
長男「気が利くな。」
そういうと長男と次男はグラスに口をつけました。
次の瞬間兄たちは膝から崩れ落ちました。
三男「やったぞ、ついにやったぞ。これで遺産は俺のものだ。」
三男は踊り上がって喜びました。
三男は浮かれるあまり気が付きませんでした。後ろで次男が立ち上がったのを。
そして次男は三男の首を一刀のもとに切り落としました。
次男「俺や親父がお前の本性に気が付いていないとでも思ったのか。お前はなかなか本性を見せなかったが
これでやっと長男を殺した罪で裁くことができた。
このむちゃくちゃな遺産の分け方も俺と親父が仕組んだことだったんだよ。」
三男と長男にはもう何も聞こえてませんでした。
その後次男は遺産をすべて引き継ぎ、死ぬまで豊かな生活を送りました。