まだ脅威は去ってはいない
上手くいったか?よし、インテリージェンは気絶しているようだ。
バイオレーンズもまだ生きている。
だが急がねば、この現場を他人に見られてに少々面倒だ。
そしてインテリージェンが目を覚ます前に。
「おーい、バイオレーンズ、無事だな。
脇腹を少し刺されたぐらいだから命に別状はないはずだが、大丈夫だよな?」
「大丈夫だ、このくらいで死にはしねーよ。
っていうか、俺が刺されるところ見てたんならその時点で助けに来るべきなんじゃねーの?」
バイオレーンズは少し嫌味のまじった口調で言う。
おいおい、地味にこいつ助けてもらったお礼一言も言ってなくね?
それはちょっとないんじゃないの?バイオレーンズさん。
「はいはい、すみませんでしたよ。バイオレーンズさま。」
少し皮肉ってやった。
そう、これはいわゆる偉そうにしている小さな子供が機嫌を損ねたときに
まわりのおばちゃんたちがその子を持ち上げてなだめるために使う手法。
つまり、相手を露骨にガキ扱いすることにより相手を馬鹿にするという行為である。
「ふっ。分かればいいんだよ。
お前も俺様のことをついにさま付けして呼ぶようになったかー。いやーいいねー。」
通じていなかった!こいつバカなの?もしかして本物のバカなの?…バカだな。
いや、それはそれでこいつにとってはハッピー。よし、もうこれでよしとしよう!
「そんなことより…、これ…お前一体何したんだ?」
「その説明は後だ。後でじっくり話し合うとしよう。
それより今は、ここからさっさと撤収するぞ。他の奴らに見つかると面倒だ。」
言いながら俺はすばやくビニールから鞄を取り出し、
そのビニールを鞄の中に入れる。
その様子を不思議そうに眺めていたバイオレーンズだったが、
突然目蓋が重力に対する抵抗力を失っていく。
「おい、バイオレーンズ。どうした?おい!……意識を失っているのか。
まあ無理もない。痛みと貧血が原因だろう。早いところ病院に連れていかねば!」
ん?しかしここで救急車を呼ぶのは間違っているな。
ここの場所からそう遠くない場所に公園があったはず。
そこで呼ぶのが最適だろう。
鞄は背負うタイプのものだ。
ならば、バイオレーンズはお姫様抱っこで運ぶべきだ。
人前でそれを見られるのは少々気が進まんが…、
その方が腹の傷口にも直接触れることもないし、衛生上の問題もないはずだ。
…今は人の目を気にしている場合ではない!
「ん?ここは……?」
「やっと目を覚ましたかい?ここは病院だ。
つまり、お前の腹の傷を治療してくれている施設だよ。」
「お前がここまで運んでくれたようだな。感謝する。
そして何やらお2人にはお騒がせして申し訳ない。」
バイオレーンズが刺されたとのことで、俺、そして俺の両親が病院に来ていた。
俺だけでなく両親が来ていたことでバイオレーンズは少し焦っていた。
俺はすでに知ってしまったが、親にはまだ知られていないし、
知られたくもないだろう。弟に殺されかけたなんてことは。
「大丈夫かい、バイオレーンズ。命に別状がなかっただけよかったよ。」
「そうね、本当によかったわ。体は大事にね。
あなた、私たちはもう帰りましょう。
レーンズ君も事件のこともあって動揺していると思うし、
落ち着くまでそとしておいてあげましょう。」
…ぷ、レーンズ君って…。
「そうだな。じゃあ私たちは帰ることにしようか。
じゃあ、お大事にね。さあ、翔、行こうか。」
「いや、俺はまだ付き添っておくよ。後で1人で帰るから。」
「そうか、じゃあ先に帰っておくとしよう。
もう夜遅いからほどほどにな。じゃあ、また後でな。」
両親が部屋を出て、病院を出るのを窓から確認する。
病室にはプライバシーの問題上監視カメラは設置されていないはず。
そしてここはバイオレーンズだけの個室だ。
情報がもれることはないだろう。
やはり今日の昼頃起こった事はむやみに拡散していいものではないからな。
「両親や警察には、誰かにすでに刺されていたお前を、
偶然俺が発見したということで話を通してある。
インテリージェンのことは他の人には知られたくはないだろう?」
「そうか、いろいろとありがとよ。
ああ、そうか…インテリージェンが突然倒れた後、気を失ったんだっけ…。
そうだ、奴は、インテリージェンはその後どうなった!」
バイオレーンズはかなり動揺していた。
まあ、あの場では冷静を装っていたが、実の弟が自分を殺しに来たのだから当然だろう。
「声のボリュームを下げろ。誰かに聞かれでもしたら厄介だ。
お前の腹の傷の治療があの時は最優先事項だったからな。
救急車を呼ぶのに時間がかかってしまって奴の処理は後回しになってしまった。
あの場所に警察を連れて行ってみたが、やはり奴はもういなかった。」
「ちっ、ならば今から俺が奴を探してくる!」
必死だった。それは自分が弟に殺されてしまうという恐怖から来るものなのか、
はたまた自分の皇帝の座への執着なのか、俺には分からない。だが、
「その傷では返り討ちだ。幸い腹の傷は大したことない、
3日間療養すれば完治するそうだ。それからでも遅くない。
そもそも奴の居場所が分からないのではどうしようもない。
気長に奴の情報が手に入るのを待つのが一番だ。
焦りは禁物だよ。バイオレーンズ。」
「そうだな。そうしよう。ってそういえば!
お前、あの時一体何してあの場をおさめたんだ?」
「あーあれな、なーに、単純なことさ。
奴に足りてなかった視野の広さをついてやっただけさ。」
バイオレーンズは「はっ?」と口を開けて呆然としていた。
別にそんな大層なことをやってのけた訳ではないよ。




