心
「うぐぅうぉおおー…!」
バイオレーンズもまた、薬を打たれると、インテリージェンのように体が全体的に紫色に変わっていき、巨大な翼が生え始めた。いや、どちらかと言うと黒に近い…。
「俺がこの姿に戻った、ということは、分かっているだろうな?」
変化の終わったバイオレーンズは静かに、だが確かに怒りをこめた口調で言った。
「静乃ー!」
俺はインテリージェンの近くで血を大量に流して倒れてしまっている静乃の元へ駆け寄ろうとする。すると、肩に手をかけられ、止められる。
「やめろ…、今近づけばお前も彼女のようになるぞ。お前は俺たちから離れていろ。それに彼女は…。」
「うるさい!あいつはまだ生きてるんだよ!」
言いかけていたところでバイオレーンズを遮る。
「生きてはいるが瀕死状態だ。見ろ。もう彼女は助からない。」
確かに彼女の腹からは腸やその他の内臓が飛び出していた。
「…く…!」
「すまない、俺のことで巻き込んでしまって。」
バイオレーンズは俺に向かって頭を下げる。そして、
「さて、時間は限られている。自分のしたことの責任はとってもらうぞ!インテリージェン!」
「くそったれめー!」
空高くに飛び、バイオレーンズとは反対方向へ高速移動するインテリージェン。
「あの女、バス内の件では役立たずだった上に、この僕を一度ならず二度も邪魔するなんて…、使えない奴だ。まあいいです、薬一本ならそこまで時間は長くないので、逃げておくのが得策ですねぇー。おっとそろそろ効果が切れる頃ですか。また摂取しなければ…。」
飛行しなから薬を打とうとするインテリージェン。すると、バイオレーンズが後ろから彼を上回るスピードで迫っている。
「まずい!」
インテリージェンが加速したときには時すでに遅し、すでにバイオレーンズはインテリージェンの進行方向に立ちふさがっていた。
「その程度のスピードで俺から逃げられると思っていたんじゃ…ないだろうな?」
静かにそう言った後、突然無言のまま、すばやくインテリージェンの顔に右拳を入れるバイオレーンズ。
「うぐぅえ…。」
殴られた衝撃で、後ろに超高速でふっとぶと思われたインテリージェンだが、彼はそこから一歩も動かない。いや、動けないのだ。なぜなら、彼がふっとぶ方向にすばやく先回りしたバイオレーンズが、連続で彼を殴っているのだから。だから彼は空中で完全に静止しているように見える。彼自身、もう空中にとどまる力は残っていないはずなのに…。それでも尚、バイオレーンズは静かに、手を休めることなく攻撃を続けている。
「静乃!」
俺は、腹がえぐられて地面に力なく倒れている静乃の元へ走って行く。
「大丈夫だ、今…、救急車を呼ぶから…、お前は助かるから…。」
急いで携帯電話を取り出して119を押そうとする。
「私はもう…助からないわ…。だから…、最後に少し聴いて…。」
彼女は俺の方を力のない目で見つめて言う。俺は携帯を動かす手を止めて、彼女の手を両手で握った。
「私がこうなったのは、自業自得なの。だからあなたは何も気負うことはないわ。それと…、後は自分に自信を持って生きてね。あなたは…私よりも能力があるんだから…、あなたに足りないのは自信だけだから…。」
無言で聞いていると自然と涙が流れて来た。
「そして…、今までありがとうね。」
彼女は最後に精一杯俺に微笑みかける。それから瞳を閉じ、一切動かなくなってしまった。
「静乃ー!」
そっと握っていた手を離して俺は、ゆっくりと、本当にゆっくりと、119番に電話をかける。
「彼女が血を流して倒れています。助けてあげてください…。」
俺は放心状態でそう告げた後…、その場で気を失った。




