覚悟
私は小さい頃からはっきり言って優秀だった。何をやっても常にまわりで一番だった。そしてそれが普通で、いつまでも続いていくのだと思っていた。ただ、ただ一人、私の頭脳を上回る男がいた。それが影路翔だった。
スポーツなどの他の分野では彼を大幅に上回っていた私だったが、何事においても一番だったというプライドからか、彼を意識し始めた。
彼と最初に出会ったのは小学一年生のとき。その時は小学生だったこともあり、テストも簡単だったので、すべて満点だった。だから彼も同じように満点を取っていたけれど、気にはしなかった。それからは彼とずっと同じクラスだったけれど、特に関わりはなかった。
それから何事もなく近くの中学へ進学した。中学校ということで、部活が始まり、いろいろと大会で賞を取ったり。これからもそうあり続けるのだと信じていた。
そこで、中学に入ってからの最初の中間テストが始まった。さすがに中学の勉強ともなるとそれなりに難しくなっていた。英数理社、これらは満点であった。しかし、国語の現代文の記述問題で一点減点されてしまい、合計点は499点であった。パーフェクトで無かったものの、この点数で一番で無いはずは無いと私は確信していた。満を持して、はり出された順位表を見に行ったところ、私の名前:白井静乃はニ位の場所にあった。
それから私は影路翔に闘争心を抱き始めた。次の期末テストでは絶対に彼に勝つ。実際、そこでは一位をとった。五教科すべて満点とはいかなかったが一番であることを奪還できたのだ。そこには底知れぬ満足感を感じた。
そして、リストを見てみると、影路翔は二位どころか、成績優秀者のリストに乗っていなかった。彼に聞いてみると、合計点はほぼ平均点と同じだったらしい。それが中学三年間続いた。
一緒に勉強に付き合っているときの彼の様子をみるに、彼の学力レベルは満点を取ってもおかしくないレベル、少なくとも平均付近をうろつくレベルでは決してない。
そこで私は彼がテストで点数を操作しているのだと確信した。彼の理解力は、分からない人が多い間題がどれであるか、というようなことが分かっているらしいし、それが可能であることは明白だった。
彼は中間テストで満点でトップを取ったことで、不良連中から目を付けられてしまっていた。中にはカンニングさせることを強要してくる連中もいたらしい。そこで彼は、連中の注意を自分からそらすために、わざと目立たない点数を取ることで、自分にはカンニングする、目を付ける価値にないのだと、連中にアピールしていたのだ。
私が本当の彼にリベンジを果たすことはできなくなった。理由が理由なだけに、彼を責めるべきでは無いと思っていたので、私としては、複雑な気持ちだった。
そして県内でトップと目される高校に二人して進学することになった。私としては、ここでは以前のような連中はいないと思っていたので彼にリベンジが果たせると思っていた。しかし、彼の意識の中には、注目を浴びることへの恐怖が植え付けられていたらしく…、結果は同じだった。
その時、今まで我慢していた彼への怒り、悔しさが、私の理性を上回ってしまった。
下校途中にある男に頼まれた仕事をバス内で実行に移してしまった。一時の感情に流されて…。
その罪の償いを…、今!
「ま、この通り、壁の次はあなたたちですよ。」
薬の入った注射器を両手いっぱいに握って笑いながら俺たち二人に見せているインテリージェン。
と、インテリージェンの背後から突然女が現れ、インテリージェンの持っている注射器を一つ奪う。
「…!?」
「何を!」
後ろをふり返ったインテリージェンは咄嗟に手から気弾を一発出す。貫かれたのは女の右の脇腹だった。そしてその女は…、静乃だった…。
「う…!翔!これを!」
倒れる前に俺にその注射器を投げてくる。その場に倒れた静乃は腹から大量に出血している。
「静乃…!?」
彼女の元に駆け寄ろうとしたが、俺は静乃の意図を理解していた。投げられた注射器をキャッチし、バイオレーンズにインテリージェンのやったように、薬を注入した。バイオレーンズの体に変化が起き始める。
「まずい…!」
インテリージェンは焦りの色を示していた。




