Before The Storm
それにしてもー、静乃は本当にインテリージェンにたきつかれたのかー?あいつはいつも通り学校に来てはいるが俺とは話そうとしない。
「今日って、静乃さんはどうしたんですかー?」
佐々木さんが笑顔で授業中だからか、小さな声で話しかけてくる。あー、そうか、彼女にとっては、俺と静乃が仲直りしたってことになっているのか。
「あーいや、何でもないんだ。つきあいが長ければ話さなくなる期間ぐらいあるさ。」
「んー、まーそうですよねー。」
佐々木さんは笑顔のまま、俺に後頭部を向け、黒板に向きなおる。
平静を装って自然なふうに言ったものの、内心結構ショック受けてんだよなー。インテリージェンが絡んでいたとはいえ、静乃に痴漢の事実を作らされたことには変わりない訳だし。ま、こんなこと大っぴらに出来るような話でもないし、あのときバイオレーンズの助けがあったのは本当に不幸中の幸いだな。
それにしても、バイオレーンズは今何やってんだろうかー。授業も暇なので窓を見る。…!うん?あれは…、バイオレーンズ!?って、何であいつが学校内にいるんだよー!あいつもこちらに気付いたようでうれしそうに手をふってくる。
その約15分後、授業が終わってすぐにバイオレーンズを探しに行くも、どこにもいない。あいつ…、迂闊に外に出るのは得策ではないというのに…。いや、逆か?逆に1人であることを遠くで見ているインテリージェンに
自然にアピールすることでおびき寄せるつもりなのか…?
次の休憩時間…、
「おーい、翔一!」
授業の息抜きに校舎の外をぶらぶら歩いていると家でよく聞く声が聞こえてきた。手を上げてこちらに走ってくる。…あれ、ただの俺の深読みだったか…。ま、別にいっか…。
「何しに来たんだ…学校まで…。」
一応きいてみる。別に答えに明確な奴の考えが宿っているなんて期待などしてないが…。
「ん、あー、ずっと家でネットいじったり、買い物をするだけの生活に飽きたんだよー。そこで何かおもしろいことないかなーなんて思ってたら、お前の学校に行ったら退屈もまぎらわせられると思ったんだよねー。」
ほらほら、やっぱり。それで俺の授業態度を見てたり、学校中を見てたりしてた、というわけね。
「お前なー、気を付けろよー、一人でいるときは特になー。」
「そりゃーそーよ。学校内で俺ばれたら叱られたりするだろうし面倒だからな。その辺は俺も考えているって!心配すんなっ。」
いや、そんなどや顔で言われてもなー。
「ま、そりゃそうなんだけど…、それよりも、インテリージェンのことな。お前が一人のときはあいつに狙われやすくなるだろうから気を付けろよ。」
大丈夫か、こいつ。ついこの間のことなのにもう忘れてんじゃねーか。一応警告はしたが心配だなー。
「あっそっちねー、大丈夫、大丈夫。あんな奴余裕余裕一。」
「ったくー、お、俺はもう授業だから、じゃあなー。」
「おう!」
俺はバイオレーンズをその場に残して教室に向かう。大丈夫か、あいつ…、ま、大丈夫、だと信じよう、色んな意味で…。
6時間目も終わり、帰る準備をする。今日は疲れたなー、まあいつものことだけど。今日も静乃とも帰れる関係ではないし、佐々木さんも部活だし、今日も一人だな。さーて、あいつはもう先帰ってるかなー。学校側にばれてたりして…。
俺はその時、そんなアホな楽観的なことを考えながら帰路についていた。この後一時間後に自分があんな状況に陥っているとも知らずに…。




