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平穏主義者の活動録  作者: ペーパードライブ
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人間は意外と闇が深い

 そんなこんなで俺は、二人の会話の物理的中心点に位置しながらも会話に参加しないまま

ようやくバスが降車地点に到着した。


 何、俺クラスになるとこのような面倒な状況でさえ、容易に切り抜けられる。

 寝たふりをしていればいいのだ。え、そんなことしたら失礼だって?

ちっちっち、分かっていないな一君。


 至近距離にいながら会話に参加していない人間というものは、

会話中の人間にとって扱いづらい存在であることこの上ない。

 なんとか会話に入れてあげなければならないという重苦しさが伴う。


 そして会話に参加していない方の人間も、

会話に参加していないことを周囲から気にされている雰囲気を感じとれてしまう。


 一人でいることには何も抵抗は無いんだがな。

嫌なのは一人でいることを勝手に哀れに思われることなんだよ、全く。

 おっと、ついつい感情的になってしまった。


 要は、双方メリットはなく、デメリットしか無いというのなら、

どちらか一方が消えてしまうのが手っ取り早い。つまり寝たふりだ。


 こうすれば、向こうもぼっちを気にすることなく居ない者として気楽に会話できる。

 そして、気にかけられていないのでぼっちの方も気楽、お互い万々歳だ。

 ということでみなさん、ぼっちを見掛けたら、変に気遣うのではなく、

いない者として扱ってあげましょう。


 無視する勇気も大切です。少なくとも俺はそうしてほしい。


 「どうしたの、バスで私たちが喋っていたときずっと寝てるふりしていたけど。」

 「え…、何で本当は寝てないって分かったんだ…!」


 バスを降りすぐ静乃は話しかけてきた。

 顔には意地悪そうな微笑を浮かべて楽しそうにしている。Sモード発動だ。


 こいつは俺の傷口を進んでえぐってくるな、本当。

 普通の人なら寝たふりって分かっても、その辺は察して突っ込まないと思うんだけど。

 いや、その前に普通の人なら俺の演技に気付かないだろう。


 まあ、静乃とはなんやかんやで長年付き合っているからな。

 俺が静乃の性格をそれなりに知っているのと同じように、静乃も知っているのだろう。

 知られているが故に突っ込みが的確なのが困る。俺もまだまだだな。演技力に磨きをかけないと!


「え、あれって寝たふりだったんですか、起こさないように少し声のボリューム下げていたのに。」


 冷静な静乃に対し、佐々木さんは少しふくれっつらで不機嫌そうだった。

 おおー、さりげない俺への気遣い。心にグッと来ました。佐々木さん、君に100ポイント。

 そしてもう一つうれしいことが分かった。俺の演技はそこそこ世間に通用する。


 「まだコミュニケーションが苦手なのかしら。

いいかげん改善しないと、社会に出てから苦労すると思うわよ。」


 「お、俺は二人の会話の邪魔にならないように振る舞っていただけだ。

その手っ取り早い手段が寝たふりだったというだけで。

決っして対人恐怖症という訳ではない。」


 「対人恐怖症とまでは言っていないんだけど…。」


 しまったー。失言だったー!

 これじゃあ自分が対人恐怖症だと宣言しているようなものじゃないか。

 攻めるのが好きなSの静乃、そして佐々木さんまでもが少しひいている。

 やめてよー、そんな態度とられたら超辛いんですけど…。


 「うわー、翔くんって対人恐怖症だったんですかー。

すいません、今までそんなこと知らずに接してしまって。これからは注意するんでー…。」


 ひきながらも笑って佐々木さんは言う。優しさというのは時に残酷である。

 彼女の浮かべているぎこちない笑顔は苦笑いだろうか。


 「…、いや、ちょっと待って。だから俺、対人恐怖症じゃないからー。」


 時すでに遅し、必死に弁解するも二人とも「はいはい。」と

軽く俺をあしらうように適当に返事をする。


 俺の弁解は筋が通っていて説得力があると思うんだが…。

 やはり、人間先入観にとらわれてしまうとなかなか本質を見極めるのは難しいのだろう。


 故に俺が対人恐怖症というわけではなく、

単に、彼女ら二人が俺をそうと決めつけているだけである。

…はあ、俺何に言ってんだろ…。


 演技力ではなく、コミュニケーション能力を高めた方がいいんだろうか…。

 そんな、らしくないことを思った自分がそこにはいた。

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