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平穏主義者の活動録  作者: ペーパードライブ
12/24

トークは最初が肝心

 その後、どうにか以前のような関係に戻れた俺たちは、

比較的どうでもよい会話をしていたら、見知った顔の女の子が乗車してきた。佐々木咲だ。

彼女は俺たち二人に気付くと俯きながらゆっくりとこっちに寄ってきた。


 「あ、あれ?お、おはよう、ございます……。」


 佐々木さんは俺たち二人の様子を改めて近くで見ると一瞬驚いてからあいさつをする。

 そして手を後ろにやり体を前のめりにして、

不思議そうに俺と静乃の目をじーっと交互に覗き込んで見比べてくる。


 なんというか、女の子に真正面からじろじろと見られるのには少し抵抗があったので

思わず視線を佐々木さんからはずしてしまう。


 全く、世の中にはなんでこんなに距離感の近い人間が存在するんだろうか。

 信じられんぜ。


 あ、勘違いされないよういっておくが、これはおれが人間慣れしていないからではない。

 もし、こんな至近距離で会話しようものなら、

唾がお互いの顔にかかってしまって不愉快だろうから避けようという俺なりの配慮なのだ。

 う、嘘ではない…。どうでもいいが、唾というものは喋るだけで1メートル飛んでいるらしい。


 ま、そんなことはさておき…、佐々木さんの声は最初の方はそこそこ大きいのだが、

後になるにつれだんだん小さくなる。


 どうやらまだ俺と静乃が仲違いの状態であると思っているようで、

普通に話しているのを奇妙に思っているようだ。


 「どうしたの、人の顔をじろじろみたりして。私たちの顔に何かついているのかしら?」


 平然な顔でその長い髪を耳に掛けながら静乃は言葉を発する。さすが、静乃。

もはや俺たちが仲違いしていた片鱗さえ感じさせない見事な振る舞いだ。


 「え、いやー、その…、仲直りできてよかったですね!」


 いつもの冷静でむしろ冷たさを感じさせる静乃に圧倒されたのか、

返答に詰まったようだが、それでもすぐに満面の笑みでうれしそうに言った。


 「いやー、前まで二人、特に静乃さんなんていつものクールさを完全に失って、

なんか子供の拗ねた感じみたいになっていましたからー。

本当に元に戻って良かったですよー。

あのままだったら私、あの険悪な雰囲気の中息苦しくて死ぬかと思っちゃいましたよー。」


 うわー、無垢な心というのは時に残酷だな。

 何が残酷って、他人の心を容赦なく踏みにじっているくせに、

本人にはその自覚がないってことだよ。

 冷静に戻った今、取り乱していた過去をいじられた日にはもう…。


 「わ、私は、いつでもクールに徹しているわよ。あ、あのときは、別に拗ねてた訳じゃ…。」


 やはり、顔を真っ赤にして否定していた。

 普段クールにしかも他人にバシバシ物申している人間って、

他人に正論言われた時すげ一弱いんだよな。


 普段Sの奴は実はMの立場になったとき意外とさまになっている

…っていうのは俺の編み出した独自の理論だ。さあ、異論はあるか!


 まあ、そんな訳でSに豹変した佐々木さん(別に本人は攻めているつもりではなく、

素直に言っているだけ)に攻められて、静乃は俯いて小さな声で反論している。


 どうしたー静乃、いつもの強気な口調でバシバシ反論しないとー(笑)。


 俺も、この会話を打ち切って、別の話題に変えてやろうかとー瞬思ったが、

佐々木さんには一切の悪気はないし、

そして何よりいつもと真逆の貴重な静乃を見れておもしろかったのでやっぱりやめた。


 「えー、そうですかー。まーいいや、とにかく仲直りできてよかったですね!」

 「え、うん、そうね、よかったわ。」


 改めて思うのだが、高校生にもなって、

「仲直りできてよかったね」なんて言われたら恥ずかしいだろう。

なんか精神年齢を幼く見られているような気がする。


 それでも嘘のつくことのできない静乃は正直に認めざるを得ない。

認めたくないが認めざるを得ないというジレンマを感じているのだろう、

静乃は戸惑いながらも言葉を紡ぐ。


 一方の俺は、二人の会話にはさまれてじーっとまだ学校に着かないかなーと考えていた。

 だいたい、会話に参加していない俺が、物理的に中心にいるのは居心地が悪い。

分かる人なら分かるよね?こんなことなら、最初に俺が窓側の席に陣取っておけば良かった…。

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