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全能の耐性持ち 〜でも不幸耐性はありません〜  作者: 月の旦那
第一章 健康な家畜
1/5

プロローグ

 名前 須藤 悠里、17歳。日本在住の日本人男性。


 好きなこと 自由に生きること。

 嫌いなこと 作り笑い、愛想を振りまく、我慢。


 享年 18歳

 



 小さい頃から体が弱かった。いわゆる、不治の病だったらしい。らしいというのは、正直な所、自分自身がその病気に関してあまり興味が持てなかったからだ。

自分のことなのに、それも一生に関わる大事なのに自分が興味が持てなかったのはその病と真剣に立ち向かうことをあきらめてしまったからだ。


 治らないのだからしょうがない。


 真剣になればなるほど、病気に抗う努力がどれだけ無力なのかが後からわかった。

 だから半ば諦めた。残りの半分は病と抗う姿を作ること。病と抗う姿勢だけでも周囲に見せなければ、彼らの気分を害することになる。自分が暗い気分になるだけ周りの空気だって悪くなる。


 『不幸を隠して明るく振る舞う健気な病人』


 そういう健気な姿勢を親もクラスメートも他人も求めていた。自分だってそうだった。でも一年二年と経つにつれ、現状を保つのが精神的に困難になった。

 人間は完璧に動く機械とは違う。たまには愚痴をこぼしたり、弱音を吐いたり、我儘を言いたくもなる。

 だが、そんなことをすれば周囲に迷惑を掛ける。病気のせいで、自分にとっては些細なことが大きく取り扱われるのはよくあった。だからなるべく一人の時に愚痴や弱音を言い、ストレスは物にぶつけた。

 周囲が自分を大切にする分、自分を周囲に相応の感謝と対応が求められる。結局は自分にそれだけの負担がかかった。これでは本末転倒である。

 病人はなにかと優遇されると思われがちかもしれないが、なってみればその優しさが苦痛でしかない。


 今思えば、一度でいいから、友達を雑に扱ってみたかったかもしれない。

 友達の肩をバンバンと叩いたり、悪口を冗談で言い合ったり、喧嘩をしてみたり……そういう経験を一度はしてみたかった。


 自由に生きたかった。


 結局、そんな経験は一度もないまま、小、中、高と順調に進み、そしてついに病状が悪化して病院での生活へと移行した。

 最初は車椅子生活だったが、二ヶ月から体が全く動かせなくなった。主治医にそろそろ覚悟してくださいと言われたのもそのくらいだった。


 介護同然の寝たきり生活がスタートし、ますます一人になる時間が減るとストレスがたまっていった。別に寝たきり生活が不便だからそうなったわけではない。むしろ自分が動けない分、他人が動いてくれるから便利だったと思う。

 変に真面目だった性格のおかげで、誰かに迷惑をかけている現状に不満が募っていたのだ。

 誰かに世話を焼かれるたびに、申し訳なさが祟って、胃がきりきりと痛んだ。


 最初の数ヶ月はクラスメートやクラス外での友達がお見舞いに来てくれた。周囲には愛想を振りまいていたおかげでそれなりに友好関係は広かったのでかなりの人数が来ていたと思う。

 しかし入院してから三ヶ月目を目処に、徐々にお見舞いに来る人数は減っていった。最終的には本当に仲の良かった友人が数人だけが残った。

 あれだけ愛想を振りまいても、結局は数人だけしか残らないのだ。まったく、今まで振りまいた物を惜みたくなる。


 友達は一生の宝物だというが、自分にとってその言葉は砂上の楼閣という言葉と同義語だと、朦朧とした意識の中で思った。


 ようやく死期が来たらしい。


 何やら息苦しさを感じてナースコールを押したら、まるで医療ドラマの如く自分は人工呼吸器と点滴を付けられたまま救急用ベッドで搬送されていた。両親が自分の手を握りながら叫んでいるが、車輪がガラガラいう音だけが耳に入ってくる。

 だんだん息苦しさが増し、思考がまとまらなくなる。

 目から見える光、耳から聞こえる雑音、体に伝わる揺れ。それらの感覚が気持ち悪い。立ちくらみした時の感覚に近いかもしれない。

次第に目を開けるのが難しくなり、自分は目を瞑った。いま目を瞑ってしまえば二度と目覚めないかもしれないが、目を瞑っていた方が気持ち悪さがだいぶ和らぐと思った。

案の定、気持ち悪さはだいぶマシになったが、今度は意識が薄れてきた。本格的に死が近い気がする。


 なら、死に際の言葉くらいは言って死のうと思う。



 父さん、母さん。こんな病弱な子供に生まれてごめんなさい。まだ親孝行もせずに死んでいく自分を許してください。産んでくれたことを感謝しています。


 友達の皆さん。こんな手のかかる自分の友達になってくれてありがとう。こんなこと言うのは気が引けるけど、できれば葬式に出てくれると嬉しいです。だって、葬式に友達が一人も来なかったら両親がとても悲しむと思うから。無論、自分も。


 そして神様。もしこの言葉が聞こえていたら、自分の願いを聞いてください。現世ではそれなりに苦労したので、来世への希望がたくさんあるのはご容赦してください。


 まず来世は健康体で生まれてきたいです。動物とか虫の畜生道行きじゃなくてちゃんとした人間でお願いしますよ。

 病気にかからなくて、アレルギーとかもなしで。そういえばテレビで見たんですけど、コウモリやラーテルみたいに毒とか病気とか色んなものに耐性とかあれば尚いいです。健康な体で生まれて早々、事故や病気で死にたくないので。

 あと、できれば顔はイケメンで、裕福なところに生まれたいですね。……あ!それと、自分一人っ子だったので妹か弟が欲しいです!可愛い子でお願いします!

 あとはえーと、近所には美人が多いとか……あ、とは………今までできなかった経験をしたり……あ…と……………………………………………やべ……………………………………………………………眠い………………………………………………………………………えっと………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あ、ここまで…来て……性別、女とか…は、なしでお願い…します。



 『了解しました。新たな体を構成します』


 『種族、人間。性別、男。容姿、イケメン。状態、健康。あらゆる耐性を獲得……完了しました』


 『裕福な環境。きょうだいあり。近所に美人あり。未体験の世界』


 『以下の条件を満たすものからランダムで選択……決定しました』

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