7. 夜が更ける
ぼくが次に目を覚ますと、すでに夕方になっていた。お腹がぐうと鳴る。
そういえば、朝も食べていなかったことを思い出す。
「おはよう、であってるのかしら。今度はよく眠れたみたいね」
そう言って、ぼくに笑いかけるソラを見て、ああ、あれは夢じゃないんだ、と実感した。
ぼくはずっとソラの手を握っていたみたいだった。ソラはぼくが起きるとすぐに、トイレに急いでいった。
なんだか、申し訳ない気持ちになる。無意識にでもソラをどこにも行かせたくなかったのかもしれない。けれど、ソラも離さないでいてくれたことに、嬉しい気持ちでいっぱいになった。
熱は大分引いたようで、それでもまだ頭と喉は少し痛んだけれど、身体は動かしても大丈夫そうだ。
やつらに言い、部屋を戻してもらおうとしたが、ソラは一晩ここで寝た方がいいと言う。
「またぶり返すかもしれないし、それに、わたしも、一緒にいるから」
ソラは少し恥ずかしそうに、呟いた。ぼくはソラと一緒にいたい、と言うと、大きく頷いた。
ぼくは、ソラが嬉しそうに見えるのが思い過ごしでなければいいな、なんて考えながら、一緒にご飯を食べた。いつもと同じ粗末なご飯を、とてもおいしく感じられたのは初めてだった。
量が少し多い気がしたのは、やつらなりの気遣いなのだろうか。
先程の、ぼくが眠る前のことを思い返す。
ソラは、ぼくといるとドキドキすると言ってくれた。けれど、それは今までそうした人がいなかったからじゃないか、とも思ってしまう。
――いや、それはぼくも同じなのかもしれない。底都にいる頃は、あまり人と関わらなかったし、同年代の子供がいなかった。それが急に底都が、みんながいなくなって、ソラに出会って。そうした偶然で出来た今でも、この気持ちは勘違いであってほしくはない――そう思った。
そのあとも、ソラはずっとぼくにつきっきりでいてくれた。作業がないと他にやることがないからかもしれないけれど、それでもぼくは嬉しかった。
今でもまだ、夢なのではないかと思えてしまう。
ふと、朝に見た夢を思い出す。――気づくと底都に居て、これまでの、地上のことが夢だったように思ったこと。
知らずにいれば、それでよかったのかもしれない。けれど、ぼくは地上を、そしてソラを知ってしまった。ぼくはもう、これが夢だとは思いたくなかった。
底都の人には薄情だと言われるかもしれない。けれどぼくには、底都にいた十年より地上の十数日のほうが鮮やかに思えた。底都に居たころが遥か昔に思えるほどに。
◆
それから、夜になったけれど、ぼくは一向に眠くならない。当然だ、あれだけ眠ったのだから。
隣にソラがいるということも気になって、ドキドキする。ベッドに二人で入っているため、どうしても近くなってしまうのだ。
ソラに風邪が伝染ってしまうと、ぼくは抗議したんだけれど、ソラは一緒に寝ると言い、話を聞いてくれなかった。風邪になったことがない、とも言っていたけれど、本当だろうか。
仕方なく、ぼくはソラに背を向けて横になっている。
それでも、まったく眠くならない。とりあえず目を瞑って、何度ももぞもぞと動いているとソラが声をかけてきた。
「眠れないの?」
「ごめん、起こしちゃった」
「ううん。わたしも、なんだか眠れなくって」
ソラのほうへ寝返りを打つと、思わず仰け反ってしまった。ソラの顔が目の前にあったからだ。
でも、ソラは少しはにかんでいた。それを見て、ぼくも笑顔になる。
「ねえ、カイトの話を聞かせて」
ソラが唐突にそう言った。
「ぼくの話?」
「そう、ここにくる前の、カイトの話」
「いいよ。でも、その代わり、ソラの話も聞かせて欲しい」
「……わかった」
そのあと、ぼくたちは夜が更けても話し続けた。時間なんて気にしなかった。
ぼくの底都での話。ソラの話。この世界の、地上の話。いろいろな話をしてから、ようやく二人で仰向けになり目を閉じた。
――手を繋いで。