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6. 恋と熱病に浮かされて

 


 寝苦しさを感じ、ぼくは再び目を覚ました。

 身体中から汗が噴き出しているような感覚だ。服はじっとりと身体にへばり付き、少し気持ちが悪い。

 頭は、まだボーっとしていた。まだ熱が下がっていないようだ。まだ、夢を見ているような感覚が続いていた。

 どのくらい眠っていたんだろう。


 周りを見ると、今までの部屋とは違うようだった。十人でいる部屋よりずっと狭い、ベッド一つが三分の一ほどを占めてしまう部屋。他には棚があるだけだ。


 隣ではソラが椅子に座ったまま居眠りしている。寝顔を間近で見るのは初めてだったけれど、普段とは違う、あどけない顔だ。不思議な感じがする。

 なんだか、ポカポカしてきた。熱が上がったのかな。

 ソラとは作業中二人でいるけれど、それ以外の場面で二人きりだと、なんだか変な感じだ。妙に緊張する。


 しばらくじっと観察していると、ソラが目を覚ました。


「ごめんなさい、看病するつもりだったのに、寝てしまったわ」

「ううん。ありがとう、ソラ。ぼく、どれくらい寝てた?」

「たぶん、あまり経ってないわよ」


 寝苦しかったからか、あまり眠れていないようだ。

 喉が渇いてないかソラに訊ねられ、カラカラに渇いていることに気づいた。

 ソラから水を受け取り、お礼を言うと、ソラはどうして、と呟いた。


「どうしてわたしにも他の奴と同じように接するの? 同じように、普通に。わたしは、彼らに作られた……化け物、なのに」


 か細い、声。ソラは今にも泣きだしそうな、震えた声でぼくに訊ねる。

 作られた、というのはよくわからないけれど。でも、そんなことは決まっている。

 前にも言ったかもしれないけれど――そう前置き、ぼくは続ける。


「ソラは普通の女の子だからだよ」

「普通なら、ほかの子がいるじゃない。どうして、わたしに……」


 どうしてだろう、なんて考えてもいなかったけれど。

 改めて、考える。判然としない脳を何とか回転させて、ぼくにとってのソラはどのような存在なのかを。

 頭は相変わらず痛むけれど、それを無視して考える。


 ぼくは。ソラが、心配で、気になって、話したくて、話を聞いて欲しくて――大切で。二人きりだと少し緊張するし、ドキドキして。ソラの笑顔を見たくて、ポカポカして。

 それは、どうして――。そんなこと、わかりきっている。

 ――それは、ぼくがソラのことを。


「好き、だから」

「え?」

「ぼくが、ソラのことを、好きだからほかの人より気になるし、優しくしようとする……んだと思う」

「……わたしを? あなたが?」


 ソラは驚いた顔でぼくを見つめる。ぼくもソラを見つめていた。

 もう一度、ぼく自身も確かめるように、噛みしめるように、言う。

 喉も痛むけれど、ぼくは考えて、掠れた声で、言葉を紡ぎ出す。


「ぼくは君が好きなんだ」

「……だって、わたし、は……バケモノ……」

「ソラは人間だよ。ううん。ソラが化け物でも関係ない。ぼくはソラが好きだ」


 ぼくがそう告げると、ソラはどう反応したらいいのかわからない様子だった。目を彷徨わせ、眉をハの字にしている。少しだけ、顔が赤い気がする。

 風邪が伝染(うつ)ったのかもしれないと思い、体調を訊ねようとすると、ソラが「どうして」と再び呟く。

 それは、何に対してのどうしてなのか、ぼくには理解できなかったけれど。ぼくは話す。


「ぼくがここにきて、初めてソラと話して。そのときから、不思議だけど気になってたんだ。二人で作業するのが楽しくて、まあ辛い時もあるんだけど、ソラと一緒なら、頑張れる。今も、ソラはこうやってぼくを看病してくれてる。ソラは、化け物なんかじゃないよ。優しい、かわいい女の子だ」


 だから好きだよ。そう続ける。

 ソラは戸惑ったまま、それでもぼくをしっかりと見つめ返して、ぼくの手を握ってきた。


「わたしはそういう、好き、とかはわからないけど、でも、あなたは――カイトは、他の人とは違うって思う。これが、好き、なのかな」

「……やっと、名前で呼んでくれたね。ソラ」

「カイト。わたしも好き、なのかな。カイトといると、変なの。一緒にいるとドキドキする。ソラって呼ばれると、ポカポカするの。こんなの、初めて」

「ぼくは、そうだと、うれしいな。でも、焦らないでいいんだよ」


 ああ、なんだか、身体がポカポカする。ボーっとする。手が暖かく、心が温かい。

 瞼が重いけど、でも、今は、寝ては駄目だ。ソラと、話を、したいのに。


「眠いなら、寝ていいよ」


 ソラはそう言うけれど。そうしたら、この時間がもう二度と来ないような、そんな気がして。夢なのではないか、という気がして。

 それでも、ぼくの身体は言うことを聞かず、先程までの寝苦しさはどこへ行ったのかというほどに、深い眠りに落ちていった。


 ソラ、と呼びかけたのが、声に出たのかぼくにはわからなかったけれど、ソラの少し微笑んだ顔が、瞼の裏に焼き付いていた。


 

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