4. 十人のこと
ブクマがついてる!
ありがとうございます、がんばります。
それから、数日が経った。
その間に、リクのペアの二十三番――ササラ、カイのペアの五十七番――シンと知り合った。知り合った、とは言っても、少し話しただけだけれど。
また、リクとシンは十四歳、ササラは十一歳、カイは十二歳だそうだ。
ササラは小柄で元気な女の子で、ぼくはてっきり年下だと思っていたけれど、そう言ったら頭を叩かれてしまった。シンはササラとは対照的に、大柄で無口な男の子だ。物静かだけど、力持ちで頼りになりそうなお兄さんだと思った。
ソラの年齢はわからないけれど、名前を知る人物の中ではぼくが今のところ最年少だ。
残り四人は、他の人と全くコミュニケーションをとらない。話しかけても聞こえていないのかと思ってしまうくらいに無反応だ。
二十三番――番号のそれなりに早いササラが言うには、残りの四人は周囲の人間の死に精神が耐えられなかったのではないか、とのだった。
ここに来た時点で、二人はただやつらに言われたことだけをこなすだけだったという。
残りの二人も、徐々に喋らなくなっていったのだと。
「こんな環境に居たら、仕方ないのかもしれないけどさ」
そう言うササラは、なんだか寂しそうだった。
ササラはその様子を見てきても、しっかりと自分の意志で行動している。強い女の子だと思った。
「ササラはすごいね」
そうぼくが言うと、何故かリクが「そうだろ」と自慢げだった。ササラもまんざらではなさそうだ。
その二人の笑い合う姿を見て、なんだかぼくも嬉しい気持ちになった。
◆
地上での暮らしは初日とほとんど変わらない。穴を掘る場所が変わっていくだけだ。
あれからは外で作業してなんとか症にもならなくなった。こまめに水分をとることが大事らしい。
水分と言っても、そこら辺の川の水だとか、雨水だと言っていた。
川は底都でも人工的に作られたものがあったためぼくにも理解できる。
雨、というのは、なんと空から水が降ってくるらしい。ぼくはまだ見たことがないけれど、いつか見てみたいと思う。どうして水が空から降ってくるのか不思議に思ってソラに聞いてみたけれど、難しいことを言っていてよくわからなかった。
あと、地上には海と言うものもある。川から流れた水が全部海に集まるのだという。海は大きな溜め池みたいなものだけど、水はしょっぱくてとてもそのままでは飲めないらしい。どうして川の水が集まるとしょっぱくなるのか、変だと思って聞いたけれど、やっぱりこれも難しくてよくわからなかった。
川の水が塩辛くなるのはもったいないな、と思っていたら、どうやらそれを飲み水に変える機械があるんだと言う。
言いたくはないけれど、やつらの技術はすごい、と思った。
ちなみに、これらの知識は全て、ソラに聞いたら教えてくれた。
やっぱり、何でも知っているソラのほうがやつらより何倍もすごい、とぼくは思う。でも、ソラは海を見たことがないと言っていたので、一緒に見に行けたらいいね、と言ったら驚いたような顔をしてそのままどこかへ行ってしまった。
――あれは、どうしてなんだろう。
そんなことを思い出していたら――。
「手を動かして」
どうやら考え込んでしまっていたようだ。今は外での作業中。ソラに怒られてしまった。
未だソラはぼくのことをカイトと呼んでくれない。そのことに少し寂しさを覚える。
ごめん、と言って再び作業に集中する。ふとソラの様子を横目で見ると、今度はソラが何やら考え込んでいるようだった。
「ソラ、どうかした?」
「……どうして、あなたは私に普通に接するの?」
「どうしてって……」
そんなことは決まっている。ソラは普通の人間で、普通の女の子だからだ。
「だってわたしはこの施設で育てられた。普通じゃない。それに……七十一番から話を聞いていたでしょう」
ああ、と納得がいった。そもそも一つの部屋に十人がいるのだ。内緒話なんてできないに等しい。
「だってそれは聞いただけで、本当かどうかはわからないから。それじゃあ聞くけれど、ソラはやつらの言いなりなの?」
「……仕方ないでしょう。あの人たちに反抗して、ここで生きてはいけないもの。他の奴らだって、言いなりみたいなものじゃない」
確かにそうだ。しかし、今のソラの言葉がやけに心に引っかかった。
仕方ない。本当に?
例えば今なら、たぶん二人で逃げ出すこともできる。そのあと生きていけるかは別として、だけど。
そう言おうとしたけれど、既にソラは作業に戻っていた。仕方なく、ぼくも穴掘りを再開する。
なんとなく、心がもやもやした。
もやもやは消えることなく燻り続けた。結局、その日の作業でもコロニーは見つからず終了した。他のコロニーなんて、本当にあるのだろうか。
ぼくはと言えば、ずっとソラの言葉について考えていた。なにか違和感があった。でも、それがなんなのかわからない。もやもやを抱え込んだまま、その日は早めに眠った。