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CHAPTER4:出会いと旅立ち(中編)

小さい木造の家。玄関から向かって右奥にベッドがあり、

左奥には食器棚がある。中央には縦長いテーブルが横に置かれており、

椅子は向かい合うように二つずつ、計四つ置かれていた。

テーブル上の真ん中には白い花を入れた、くびれのある小さな花瓶が乗せられており、

花びらの中からは光の粉が漏れていた。


窓から差し込む太陽の光に照らされて、ベッドに眠る少女が目を覚ました。

「う〜ん・・・」

少女は上半身を起こすと、右手で目を擦った。とても長い夢を見ていたような気がする。


そのとき、彼女は自分の身体に起こった大変な異変に気がついた。

「あれ・・・・」

無意識に右手を使って目を擦っていたが、まさか・・・治ってる?


「やっと目を覚ましおったか」

しゃがれ声の老婆が、まさに「やっとか」といった口調で言った。

少女は驚いて老婆を見る。

「お前さん、二日も眠ったままだったんじゃぞ?」


そうだ! 自分はあのとき、赤いコートの男に城から突き落とされたのだ。

そして、助けを求めてよろよろとさ迷い歩き、荒野のようなところに出た。

そこから先はあまり覚えていない・・・が、あのときは確かに右腕が折れていたはずだ!

「あの・・・何故私はこんなところに? それに、腕も・・・」

少女はおどおどした様子で尋ねた。

老婆はため息をついて答える。

「そこの青いのが倒れているお前さんを運んで来たんじゃよ」


少女は{そこ}に目をやる。

そこには、青い服と青いマントを着た、自分と同い年くらいの少年がいた。

少年は何か言わなければと思ったのか、チラっと一瞬少女を見た後、こう言った。

「森の広場みたいなところで倒れていたんだ」


森?いや、私が倒れていたのは少なくとも森ではないはず。

「森・・・? 私は―――」

「近くにパードラグリフがいた。きっと荒野かどっかで倒れていたお前を、

 あそこまで運んできてくれたんだろう」

「そうなの・・・」

少年は淡々とした物言いで言った。


ゴホンゴホンと咳をした後、老婆は微笑みながら言った。

「そういえば、何年か前にも似たようなことがあったのう」

それは、この少年にたいして言った言葉だった。

少年は肩に乗せている青い鳥を見つめて答えた。

「ああ、ラフィーネのことか。そういえば、こいつとの出会いはそんなんだったっけ・・」


そう、ミクレスは、ラフィーネの恩人なのだ。

数年前、身体に酷い傷を負っていた青い鳥を、ミクレスは拾い、

彼女と同じように老婆のもとへと連れて行った。

そして、もう飛ぶことはできないかもしれないというほどの重い傷を、

彼女の腕を数日で治したのと同じ治療法で見事、傷を負う前の、

大空を駆けることができる鳥に戻すことができたのだ。

ミクレスはその鳥をラフィーネと名づけ、旅のお供として連れて行くことにした。

そして、今に至るというわけである。


賢く警戒心の強いリュット系のラフィーネが、

ミクレスと共に旅を続けられるのはそのためである。

彼は自分の命を救ってくれた。

そのことは、ラフィーネの心を惹き、{信頼}というものに繋げさせたのだ。


「あのときも、結局治療をしたのはわしじゃがね」

老婆は得意げに言う。そして、フンと鼻を鳴らした。


「ところでお前さん、名はなんというんじゃ?」

老婆は少女のほうも見ずに聞いた。


もうお気付きの方もいるであろう。

ミクレスと同い年くらいの、重傷を負っていた彼女の名前は―――

「私はラミネ。ラミネ・ソリフェイト」



「ラミネか。なかなかの名前じゃないかえ。

 ああ、わしの名か? わしはランツ――」

「ばあちゃん、誰も聞いてないよ」

「うるさいわい!・・・・・ああ、もうわしも年老いたババアじゃ。

 おばあさんなりばあちゃんなり、好きに呼ぶとええ」

「じゃ、クソババアって呼ぶといい」

「これ! ミクレス!」

このくだらないコントのような会話は、毎回のように続いている。


そのくだらないコントを前にして、ラミネはクスクスと笑っていた。

それを見た二人は、優しい微笑みを浮かべるのであった。


「あの、ミクレスさん?」

ラミネはさっきより肩の力を抜いたような、気軽な感じで話しかけてきた。

どうやら警戒心がなくなったみたいだ。

「ミクレスでいいよ」

ミクレスは相変わらず淡々とした感じでそう言う。

ミクレスは、敬語というものがあまり好きではなかった。

まあ、敬語が好きだなんていう人もこの世にいるかどうか疑問だが。


「助けてくれて、ありがとうございます」


きっと、ラミネの心からの言葉だっただろう。

しかし、ミクレスはそんな、何か隔たりのあるような固い感謝は要らなかった。

「その敬語をどうにかしてくれれば、ちゃんと聞いてやるよ」

そう一言言い残して、ミクレスは家を出ていってしまった。


ミクレスは怒ってはいなかった。しかし、他人からすれば誰が見ても

怒っているように見える。

ラミネは何か悪い事を言ってしまったのかな、と心配していた。

その様子をそばで見ていた老婆―――ランツばあさんは、

揚々とした様子でつぶやいた。

「あのバカはいつもああやって突っ張ってる。

 何も怒っているわけじゃあないから、心配せんでええ」

「は、はあ・・・」


ランツばあさんは、ミクレスの相変わらずの様子に呆れていた。

初対面の相手にも偉そうにして、いつも淡々とした物言いで、

いい加減直せばいいのにと思う。

そしてあげく勘違いされる始末で、まったく仕方ないヤツだ。


俯いて、右腕の具合を確認するラミネに、ランツばあさんは問い掛ける。

「何故折れていたはずの腕が治ったのか、気になるじゃろ?」

そういいながら、ランツばあさんはゆっくりとラミネに近付いた。


そりゃ、確かに気になる。

こんな驚異的な治療は、リンディアの魔法でさえも不可能だからだ。

「はい」

ラミネはポツリと答えた。

ランツばあさんはベッドの近くの椅子に腰を下ろし、

超驚異的治療法の秘話を語り始めた。

「それはな、この森に存在する{女神の神泉}という特殊な

 泉が湧くところがあるのじゃ。その水には神の力が宿っていてな、

 それを飲むと、どんな病気も傷もたちどころに治す事ができる。

 まあ、量によって回復の具合は多少異なるがねえ。

 その水はあまり市場にも出回っておらず、世間からもあまり知られていないから、

 今も滾々と沸き続けているさ」

結局のところ、成分や性質はわかっていないということだろう。

ならば、城に持ち帰って研究してもらおう。

うまくいけば回復術系魔法の大きな進歩につながるかもしれない。


「そんな水がリンディアに存在していたなんて・・・」

ラミネはボソっとつぶやいた。

しかし、ランツばあさんは首をひねったように変な顔をした。

「お前さん、何か勘違いをしてるんじゃないかい?

 ここはリンディアではなく、ラフェルフォードじゃぞ?」



そのときだった。家の外から、ミクレスともう一人の男の声が聞こえてきたのは―――

二人は玄関のほうに目をやる。次の瞬間、玄関扉が吹っ飛んだ。

「うわあ!!」

ミクレスは玄関扉を突き飛ばし、家の中の壁に激突した。

「いきなり何すんだよ!?」

頭をおさえながらミクレスは叫ぶ。そして、玄関扉があったとこから、

背丈が二メートルくらいありそうな巨体の男が現れた。

「はっはっは、しばらく見ない間にナマったな。ミクレスよ」

ぽっかり口をあけて見つめるラミネの横で、ランツがやれやれといった感じで言った。

「なんでもいいけど、ドアは元通り直しておくれよ・・」


巨体の男は、ラミネの存在に気付いた。

「お? 客人か。こんな汚い家に、めずらしいな。

 ・・・・俺はスホウって言うんだ。よろしく!」

スホウという名前を聞いたラミネは、驚いた様子で確認をする。

「スホウって、もしかして・・・フィアーシル四天王の!?」


フィアーシル四天王・スホウ。どんなときでも紫色の道着に身を包む、

かつての天才剣士。その厚く引き締まった肉体から繰り出される

豪快な戦術は、四天王として相応しいと聞く。

四天王の格付けがされた数日後に行方不明になり、二度と王国に姿を現さなくなったという。


「四天王って呼ぶのはよしてくれ。俺は、そんなに誇れる腕前じゃねえしな!」

そういうとスホウは、高らかに笑った。


「そんなバカ師匠、四天王でもなんでもねえよ。ただの世捨て人だ」

「はっはっは、言うねえ。そんな世捨て人にも勝てない半人前のくせに」

ミクレスとスホウはお互いを罵り合っていた。

そんな二人を眺めるランツが、はあっとため息をついて言う。

「また始まったよ・・・」



四章・用語辞典(重要事項は※)


※フィアーシル四天王

フィアーシル島の中で最強の四人のことを言う。


・女神の神泉

驚異的回復力を秘める水が湧く泉。

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