CHAPTER32:ダークフォース
「人の死とは実におもしろい……やはり、争いの世とはいいものだ」
キャリオルは王座に座り、不敵の笑みを浮かべて言う。
そのときだった。王の間へヌケヌケと入ってきて、帝王の名を呼ぶ下級兵士が現れたのは。
「キャ、キャリオル様ー!!」
酷く震えた声だ。こういう臆病者をからかうのも、キャリオルの趣味である。
「なんだ騒々しい。王の間では静かにするものだ」
「はっ……申し訳ございません! それが、北東部より、黒い獣のような群れが新ディンブールを襲っているという情報が入りまして……」
「何を言う? 下手なデマカセはよせ。敵勢は全て、国境に集中しているのだぞ?」
キャリオルはひざまずく兵士を、今すぐ殺してしまいそうな鋭い目で見つめた。
兵士はヒィっと声を上げ、ぶるぶると震えだした。
しかし、そのときだった。
―――ドーーン!!!
「っ!!?」
もの凄い音とともに、カイレトラン城が激しく揺れた。キャリオルは驚いて立ち上がる。そしてそのとき、王座の後ろにあったバルコニーへの窓が突き破られた。
―――パリン!
「キャシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ガルウウウウウウウゥーーー!!!」
二匹の黒い魔獣の泣き声。キャリオルは目を丸くしてその醜い姿を見つめていた。
一匹はカマキリともいえない姿の巨大な黒い虫。もう一匹はまるでオオカミを巨大化し、それに翼を生やしたような奇妙な黒い獣。どちらも顔が歪み狂っていて、さらにドロドロとした液体を口から吐き出していた。
「ガアアアアアァアアアアア!!」
オオカミのような魔獣は、近くにあった王座を殴り飛ばした。キャリオルはしゃがんでかわす。
しかし、その怪力だけでこの魔物たちがどれだけ危険かを思い知ることができた。
「クッ! 調子に乗るなよカス野郎!」
キャリオルは構わず剣を抜き、オオカミのような魔獣に切りかかった。
―――キンッ!!
「っ!?」
剣は見事に弾かれた。あまりの驚きに我を忘れ、床にしりもちをついてしまった。
「剣が……効かないだと……?」
その瞬間、近くにいた兵士たちがわれ先にと逃げ出した。扉のほうでは、下級兵士たちが群れている。キャリオルはもう一度魔獣と対峙し、剣を向けた。
ミクレスたちは空を飛んでいた。風が身体いっぱいに吹きあたり、身体が持っていかれそうになる。もう文句を言ってもいられず、ミクレスはF・Iにしがみついていた。
「おい、あれなんだよ?」
ミクレスは帝国軍のほうを指差して呟く。帝国では、敵軍が群れを成して進撃しているが、その背後から何やら変な物体と空を飛ぶ何かがこちらへ向かって進行していた。
F・Iはいったんそこにスカイボードを止め、双眼鏡を取り出してそれを見た。
「どれどれー……」
最初は微笑みを浮かべて、趣深そうにそれを見つめていたが、やがて双眼鏡を離したときの彼女の目は、ただ恐怖に引きつっていた。
「まずいわ……ログタントが言っていた、ダークフォースが動き出したのよ!!」
「はっ? なんだそれ……」
F・Iは、ログタントの基地のようなところにいたとき、パイプの上からログタントの会議を聞いていた。そのとき確かに、ダークフォースという言葉を聞いたのだ。
しかしミクレスは遠くにいたため、その会話を聞いていない。F・Iは、真剣な表情で説明を始めた。
「ダークフォース……闇の軍隊……おそらく、世界を支配するための、最強の切り札よ」
「どういうことだよ」
「つまり、ダークネスフラグメントを食べさせた魔物たちの軍団ってことよ!!」
F・Iは声を荒げて言う。ミクレスは目を丸くし、そして双眼鏡を取り上げた。
「おいおい……そんなのってアリかよ……」
この数ヶ月で、嫌というほどダークネスフラグメントの恐ろしさを思い知らされてきた。そして、そのたびに何度も死ぬかと思った。だがしかし、今回ほど最悪の状況でもない。ミクレスの目に映ったもの。それは、ダークフォースという名の災厄であった。
「どうすればアレを止められる!? なぁ! どうすれば―――」
「ダーククリスタルを破壊するのよ……」
F・Iはミクレスの言葉を遮って言った。
「ダーククリスタルを破壊すれば、魔物たちは力を失って、その場で消滅するはずよ!」
「なるほどな……そのダーククリスタルってのは、どこにある?」
「きっと島の中心。{秘境}と呼ばれる―――」
「さっそく行くぞ!」
ミクレスは急かして言った。しかし、F・Iは首を横に振った。
「先に時空移動装置のところに行くのよ! そこにある残りのスカイボードを使って、仲間をつれてから行くのよ! 今行けばきっとやられるわ。あたしだって、もう弾は残ってないしね」
「だったら急いでそこに行くぞ! 時間がない。さあ!」
ミクレスは促した。F・Iは頷く。
そして、前進スイッチを強く踏んだ。
「シズよ……わしは幻覚を見ているのか? 敵の背後で、同じく敵が宙に浮いているのだが…」
フォローガルはその光景を見つめて言った。
幻覚ではなかった。その現象は、確かに現実に起こっている。敵が空高く突き上げられ、数々の悲鳴が聞こえる現象は、確かに起こっていた。
「うわああああああああああ!!」
「ぎゃああああああああああああ!!」
「なんだあれ!! ああああああああああああ!!」
「にげろおおおお!!!」
もはやフォローガルたちの姿など忘れ、敵は将棋倒しになりながらもセレディーへと駆け出していった。
やがてたくさんの敵兵の向こうから、巨大な黒い影が現れた。
「あれは……いったいなんだ?」
「さあ……新手の騎馬隊でしょうかね?」
フォローガルとシズはその巨体を見上げた。高く、厚い肉質を持っていて、顔は歪んでいて醜い。全身は漆黒に染まっており、ところどころに触手が蠢いていた。
「どうします? これ、とんでもなくやばそうですよ?」
「うーん、そもそもこれは動物なのか?」
そんなことを言っているとき、黒い魔獣は巨大な腕を振り上げ、フォローガルめがけて振り下ろした。
「っ!!!」
フォローガルは後ろへ大きく跳び、なんとかそれをかわした。
フォローガルのいた地面が、大きく陥没し亀裂が走っていた。
「……逃げたほうがよさそうだぞ……」
「はい、そうしましょう」
「さて……私たちもそろそろ、参戦させてもらいますか!」
法衣の女は言う。キラと青い毛皮の男も頷いた。
「レフェードはリンディアに行ったから、ルヴァイス、あんたはラフェルフォードをよろしく!」
キラはしたり顔で言う。青い毛皮の男――ルヴァイスは小さく頷いた。
「やっと殺れるんだー! ラッキーラッキー」
ルヴァイスは、ラッキーとアンラッキーの言葉を使うことが多く、口調は子供っぽい。しかし、性格は恐ろしく、人を殺すことに何の躊躇いも持たないといった非道な性格を持ち合わせている。
「ティアマ、あんたはどうする?」
ティアマと呼ばれた法衣の女は、ニヤニヤと笑って答えた。
「そうね。私はヴィランティア様に相手してもらおうかしら」
「じゃ私は生き残った帝国軍を掃除しにかかるか」
―――――ログタント、出撃
もうフィアーシル島はグチャグチャになっています。
ところどころで戦乱が起こり、もう何が何だかです!
そして次回、二部最終回となります! 是非お楽しみください!