表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/37

CHAPTER2:ミクレス

大空を駆ける、一羽の鳥がいた。

鳥は、全身綺麗な青い毛並みと、金色のトサカが特徴の

{リュット}という種の賢い鳥である。

リュット系の鳥は、その賢さ故に、人になつきにくく、ペットとして飼う者はあまりいない。

しかし、この小鳥は誰かになついているのか、足首に手紙を括り付けたキャリナーバードで、

今その手紙を主人に届ける途中だろうと思われた。


鳥は遥か空の下を見下ろした。

広大な草原や険しい山々、大地を横切る大河や大きな建物が沢山ある街。

色々なものが眼下に見受けられるが、小鳥が探しているものはそんなものではない。


この高さからは、人の姿など小さな黒い点にしか見えない。

しかし、リュット系の鳥は驚異的な視力を持っているため、それを見分けることができる。

鳥は、若草色の大草原を歩く、一人の少年の姿を確かに捉えた。


次の瞬間、鳥は身体を斜めに向けて急降下していった。

だんだんと地表が近くなってくる。

若草色の草原との距離が三十メートルほどになったとき、

小鳥はスピードを落として調整を行った。


空を駆け抜ける鳥の姿に、少年はようやく気付いたようだった。

少年は振り向いて立ち止まり、小鳥が来るのを待つ。

そして少年は、ここに乗れと言うかのように腕を上げ、肘を直角に曲げた。

「ラフィーネ!」

それと同時に、少年はそう叫ぶ。

鳥:ラフィーネは、少年の腕に止まり、

足首につけられている届け物を外されるのを待った。


少年が手紙を外し終わった瞬間、ラフィーネは脚の開放感に嬉々した。

少年はお礼に、と、バッグから{酸性角砂糖}を取り出してラフィーネの口に運んだ。

「ありがとう。ほら、これ食べろ」

ラフィーネは少年が取り出した酸性角砂糖をくちばしでくわえ、

ごくりと飲み込んだ。そして、嬉しそうにピピっと鳴く。


この少年の名はミクレス。ラブレイズ(平和維持活動・自治組織)として

王国中を旅している。、十四歳の少年だ。

髪は耳が半分隠れるくらいの茶髪。

とても凛々しい顔をしていて、少し細い目が特徴だ。

体格は、この年代に相応しい細さで、背丈は百六十五センチ強。

服装は、青い麻の服と青いマントが彼の常らしい。

また、容姿以外にも小型のウエストポーチや、

腰にかけた革の鞘に包まれる両刃の剣などが印象的だ。


ラフィーネは、そんなミクレスのアティーチである。

野生の、しかもリュット系の鳥をなつかせるミクレスは、

やはり只者でないということがわかる。


ミクレスは、ラフィーネに届けられた手紙を開いた。

そこにはこう書かれていた。


{ラブレイズ本部より緊急指令を出す。帝国軍討伐の調整と準備を行うため、

 ラブレイズ全部隊はこれより二週間以内に本部へと帰還せよ。

 もしも、事故等の都合で動けない状態にある場合は、

 各自のキャリナーを使用して必ず本部へ連絡を入れること。   以上

                             ラブレイズ第六天一同}  


ミクレスは手紙を読み終えるなり、こう呟いた。

「急な命令だな・・・。しかも何故第六天が・・・?」

ラブレイズ第六天とは、ラブレイズを指揮する最高権力者の六人のことである。


ミクレスは手紙をバッグにしまうと、すぐ目の前にある目的地に向かって歩き出した。

帰還命令があったとはいえ、期限は二週間近くある。

急いで帰る必要はない。


ミクレスが向かっている先には、ラブレイズ西支部がある。

村に似せたその支部は、敵の侵入を防ぐために、

入り口以外は大きな柵に囲まれているのだ。

入り口は、今ミクレスが歩いているクラフェータ大草原方面に向かってあり、

普通の人は遠回りしなければ入ることができない仕組みになっている。


ミクレスがラブレイズの入り口まで来たとき、

すぐ近くにいた大柄の男がその姿に気付いた。

「おや・・・旅人かい?」

男はそう言いながらミクレスに近づいてきた。


男は目の前に立って、はっとしたように言った。

「もしや・・・お前さん、ミクレスか!?」

三年も経ち、ミクレスの体つきも身長も伸びたため、すぐには誰だかわからなかったらしい。

しばらくミクレスを見つめた後、「やはり」と呟いて、

三年前と変わらぬ馴れ馴れしさでミクレスの頭をポンポンと叩きながら言った。

「そうかそうか。しばらく見ない間にこんなに大きくなって!」


ミクレスは微笑んで言い返した。

「ゴリラは相変わらずデカイな」

「コ、コラ! 久々に会って最初の言葉でゴリラはないだろう!?」

そう言いながらも、ゴリラはニコニコと笑っていた。


ミクレスが来た、ということで、支部中の人々が彼の周りに集まってきた。

そして人々は口々に言う。

「ほんの少し前はこ〜んなにチビだったのに」

「大きくなったねえ」

「いや〜元気そうでなりよりだよ!」

洗濯物や、クワなどの農具を持ちながらミクレスに会いに来る者もいた。


同い年くらいの少年少女たちも、見違えるくらい大きくなっていた。

顔も引き締まった感じで、まさにラブレイズと言える。


ラブレイズ西支部自体は、殆ど三年前と変わっていなかった。

藁を敷き詰めた汚い家や、もう何度も使ってボロボロになっているテント、

柵の上からはみ出す木々、そして、人々の元気な活動だ。

それを見たミクレスは、少し安心した気分になれるのだった。


ミクレスはまず支部長に会いたかった。

「今、支部長に会いたいんだ。どこにいるか教えてくれないか?」

懐かしさ溢れる風景に感傷しながらも、ミクレスは真面目な話を切り出した。


しかし、支部長を探す必要など全くなかった。

「私ならここにいるよ、ミクレス君」

声のしたほうに目をやると、そこには赤茶色のローブを着た支部長コーリスがいた。


以前見たときは剣士の服装をしていたコーリスが、

ローブ姿で現れるのは少し違和感があった。

似合わない、とまではいかないが、正直剣士姿のほうがコーリスらしくていい。

まあ単に、ミクレスがコーリスのローブ姿に見慣れていないだけというのもあるだろうが。


「立ち話もなんだから、私の家に来なさい」

ミクレスはコーリスの指示に従い、人ごみを抜けて支部長の家に行った。

玄関扉を開けた先は、本棚で溢れかえっていて、

床に落ちた本を避けながら通ならければいけなかった。

「すまない。散らかっていて」

「いえ」


その部屋の奥にある扉を開けると、コーリスの私室へと出た。

私室は、右奥にベッドと、左奥に本棚、中央に椅子二つテーブル一つがあること以外、

殆ど何も置かれていなかった。

入り口扉と向かい側に、少し大きめの窓があり、そこから部屋唯一の明かりが入り込んでいた。

二人は中央の椅子に、テーブルを挟んで向かい合うように座った。

「君がラブレイズ本部に所属したと聞いたときは、正直びっくりしたよ」

コーリスは言う。

「本部は大人でも就くことは難しい、一流剣士の集まりだ」


彼の言うとおり、本部には剣豪たちがたくさんいる。

修行も厳しいし、任務も危険なものばかりだ。

ミクレスは少し得意げな表情で言った。

「でも、こっちはこっちで楽しくやっているよ。一流って言っても、悪い人ではない」

「はっはっは、そうか。それなら安心だ」


コーリスは立ち上がって、窓のほうへと向かった。

窓の光を見つめながら、彼は言う。

「ところで、ミクレス君。本部帰還緊急命令のことは知っているかね?」

「ああ」


そのとき、コーリスの顔が急に険しくなった。

「何故、緊急にあのようなことを言い出したか、理由を知っているかね?」

それは、声色からでも察することができた。

「どういうことだ?」

ミクレスは、否定形ではなく、あえて疑問形にした。

大事な仲間が死んだと、伝えられるような緊張感が張り詰めた瞬間だった。

しかし、次に口にした事実は、それと何ら変わりないほどの重い内容であった。


「リンディア魔法国との共同関係が断ち切られた」


「何!?」

最悪の事態を告げられたような感覚だった。


「わからない・・・ただ一つ言えることは、我々が窮地に追い込まれたということだ」


ミクレスは憤慨しそうになった。


ラフェルフォード王国にとって、リンディア魔法国の協力は絶対不可欠なものであった。

少なくとも、それであってやっと優勢な立場に立つことができる状態だった。

しかし、関係を断ち切られた今、まさに万事休す。

この状況を打破するのは非常に困難である。


しかし、ミクレスはリンディアの行動が理解できなかった。

リンディアにとってもラフェルフォードは必要なはず・・・。なのに何故?


「それで・・・? これからどうするつもりなんだ?」

とにかく今は済んだことをとやかく言っている場合ではない。

「ラブレイズは王国軍に協力し、現時点での最善の状態を確保すると発表している」

「つまりどういうことだ?」


「ラブレイズ上層部は、リンディアの進撃を防ぐことに徹底し、

 その間に王国軍はアクスラ機関と連携して帝国軍に総攻撃をかける。

 リンディアの力が途絶えたことで、総攻撃の際に妙な策はとらないそうだ」


その作戦を聞いて、ミクレスは机を拳に叩き付けた。

あまりに無謀で、且つ最善の選択だったからである。


アクスラ機関の協力が得られたことが何よりの救いである。

彼らは戦力としてかなり心強い。


しかし、ミクレスにはもう一つの懸念があった。

「もしリンディア魔法国との関係が断ち切れたと王国に知れたら、

 国民は大混乱だろうな」

「仕方ないのだ。もう後戻りはできない。今やれることをやるしかない」





事態はとんでもない方向へと進展していた。

リンディアとの国交も途絶え、ラフェルフォード、万事休す――


     

二章・用語辞典(重要項目は※)


・リュット

頭が良く、警戒心が強い鳥。

色や特性によって、四種類に分けられる。

・クラフェータ大草原

若草色の草原で、ラフェルフォード王国一の巨大さ。

王国の西に位置する。

・酸性角砂糖

ラフィーネが大好物の角砂糖。

人が食べると死に至る・・・?

・ラブレイズ西支部

ラブレイズ東西南北支部制の、西にあたる支部。

コーリスが治めている。

※ラブレイズ第六天

ラブレイズの実働を指揮する最高権力者六人のこと。

ラブレイズを組織したのも彼ら。

・アクスラ機関

弓術の名人ばかりを集める独立機関。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ