CHAPTER22:接触
―――本部、崩壊。
ミクレスは階段を駆け下りた。煙がいっそう濃くなり、息が苦しくなる。ミクレスは鼻を手で覆い、煙を吸い込まないようにした。
(どうなってんだよ……いや、それより、フォローガルたちは何やってんだよ?)
針のように尖る屋根が特徴だった家も、石造りで天井に突き刺さるほどの高さを持つ城も、窓も、庭も、道も、崩壊し粉砕しもうとにかく荒れ放題であった。砕けた岩や家の壁が道に散らばっている。ミクレスはそれを避けながら進んだ。
ミクレスはまず、ラブレイズ第六天の拠点である城の頂上を目指した。フォローガルがもし生きていれば、何故こんなことになったのか知っているはずだ。
ミクレスは大通りを歩いた。そして、悲惨な光景を見渡しながらぼそっと呟く。
「これはひどい……本部の面影すら感じられないな……」
ミクレスはひたすら歩いた。どこまで行っても煙が立ち込め、建造物は破壊されている。
そのときだ。ミクレスの目に、何者かが留まった。
「おやおや、やっとお目当ての坊やが現れたよ。ラッキーラッキー!」
陽気な声と同時に、煙が一斉に吹き飛ばされた。風術系魔法だ。
ミクレスの眼前に、白衣の男と青い毛皮を羽織った男、黒いスカートの女の三人が現れた。
白衣の男は、少し丸に近い顔立ちと黒髪のオールバックが特徴で、眉間には常に皺が寄っており、とても冷酷そうな顔をしていた。背丈は百七十五センチ程度で、他の二人よりも高い。体格は丸くもなく細くもなく、どこにでもいそうな普通の身体だった。もうお気づきの方もいるかと思われるが、彼の名はカリドールである。
次に向かって右隣の女。髪はサラっと腰まで長い茶髪で、もみ上げは肩あたりまで伸びている。目は細く、可愛いというより美しいといった表現のほうが正しいだろう。全身は黒服で、滑らかなスカートが特徴である。スタイルがよく、ウエストのくびれがよく目立っていた。
そして左隣の男。彼は三人の中で最も身長が低く、ミクレスよりも低い。目は大きくくりくりしていて、まだ十歳くらいの顔つきだった。服は青い毛皮を全身に羽織り、なんとも豪快な服装であった。
ミクレスは剣のつかに手を触れた。もう聞かなくてもわかる。こいつらがこの事態の発端であろう。
警戒し、剣を抜く構えをするミクレスに、カリドールは言う。
「手荒なマネはしたくない。言うことを聞いてくれれば、痛い目を見なくても済むよ」
「お前らラブレイズを皆殺しにするつもりなんだろ? ここで待ち伏せして」
ミクレスは辛辣そうに言う。そしてとうとう剣を抜いた。
カリドールはやれやれとため息をつく。
隣にいた女は、一歩ミクレスに近づくとなだめるように言った。
「私たちは貴方に用があってここへ来たの。決して、こんなに暴れるつもりは無かったわ」
口調も美しく、さらに表情の演技も上手かった。
「そういえば、雪山でレフェードから事情は聞かなかった?」
「レフェード?」
ミクレスは顔をしかめる。
「ああ、あの赤服の男か……」
「やはり会っていたのか。ならば話が早い」
カリドールの低く唸るような声。
「俺はレフェードっていう男がログタントとかいう組織に所属してるってことしか聞いてないぞ」
ミクレスは邪険に言う。
「そうか、お前らあの男の仲間か」
ならば話が早い。こいつらは全員敵だ。
「私たちの指導者が君に会いたがっているんだよ。十四歳にして天才と呼ばれた君にね」
「そのリーダーさんは会いたがっていても、俺はそいつに会いたくない」
第一、こんな得体の知れないやつらと接触したくないのだが。
「次期世界の王者となるお方の命令だ。君に拒否権などない」
そしてカリドールはクククと笑った。
ミクレスは剣を構え、剣先をカリドールに向けた。あくまでも従う気はない。そんな表情をしている。
カリドールは同時に笑い出す。
「ならば仕方あるまい。少しの間眠ってもらおうか。キラ」
キラ、どうやらこの女の名前らしい。女は呼びかけに反応し、ミクレスにゆっくりと近づいた。
ミクレスはその女一人に注意した。ただならぬ威圧を感じる。明らかに場慣れしてる!
「どうしたの。こんなに近付けちゃってもいいの?」
女――キラは微笑みながら言う。ミクレスは高速で剣をついた。
確かに手ごたえはあった。肌に剣が突き刺さったような感触が確かにあった。しかし何故だ。何故剣先に誰もいない?
「君はシノビより速く動けるのかな?」
耳元でその女の声がした。美しく、でも恐ろしい声。
シノビとは、今で言う忍者のことだ。この時代にはあまり公になっておらず、修行も活動も殆ど隠密に行っている(隠密だからこそ忍者なのだが)。とにかく身体能力が人並み外れており、影分身や壁抜けなどといった神業もこなすことができるのだ。もちろん普通の人間がとうてい勝てる相手でもなく、シノビからすればミクレスの動きなど止まって見えるだろう。
「ざーんねん。じゃ、おとなしくおねんねしててね」
首に何かが突き刺さったような、脳を強く刺激する攻撃が当たった。とたんに目の前が真っ暗になり、意識が遠のいていく。やがて、ミクレスは気絶してしまった。
「さっすがキラ! 生け捕り上手! ぼくなら間違いなく殺してたね!」
青い毛皮の男のはしゃぐような声。でも、口にしている言葉は恐ろしい。
「さあ、もう用は済んだよ。帰ろう」
キラはミクレスを肩に乗せて言う。
カリドールと青い毛皮の男は頷いた。しかし、そのときだった。
「ま……待て……」
「ん?」
三人の背後から、腹から血を流したボロボロの男がやってきた。
「ただでは帰さん!」
よくもまあ、そんな身体で怒鳴り声を上げれるもんだと感心させられた。
「ねえねえ、こいつは殺っていいよね? ね!?」
青い毛皮の男はニッと笑う。そして、カリドールから了承を得た瞬間、剣を取り出して男に襲いかかった。
謎の組織ログタント。彼らはミクレスをどこにつれていこうというのだろうか?
そして、ラフェルフォードの運命は……?
ミクレスが誘拐された!? ラフェルフォードも大変ですね……ちなみにカリドールは「CHAPTER1 陰謀なる襲撃」で登場しています。キラはその最後あたりで名前の紹介程度で。。。青い毛皮の男は初登場なうえに名前すら明らかになっていません(笑)