CHAPTER16:謎の組織ログタント
二人は急に肩が軽くなったような気がした。
凄まじき死闘、攻防、そして、勝利。
何度死ぬかと思ったか、数えても数え切れないほどだ。
フルクは鼻を手の甲で擦りながら呟いた。
「何が安全で楽なんだよ? 帰ったら陛下に話しつけてやる」
それはどことなく嬉しそうな様子だった。
ミクレスも剣を直しながら言う。
「俺も。さすがにコレは有り得ないよな!」
勝利に喜びの笑顔を見せるミクレスたちのそばで、闇が刻一刻と迫っていた。
岩壁の先、山道のほうから何者かが近づいているということに、
彼らは知る由もなかった。
そして、静かに闇は牙をむいた。
ミクレスたちは無邪気に笑っていた。
そのとき、パヒュンと何かが跳ねる音がしたと思ったら、
フルクは頭が吹っ飛んでしまいそうな勢いで吹っ飛ばされていた。
「フルク!!」
ミクレスは咄嗟にフルクに駆け寄り、そしてばっと振り向いた。
「はじめまして。ミクレス君」
そこには、炎を模したような赤いコートを着た、嫌味な表情をした男が立っていた。
髪はトゲのように尖っていて、スマートな体格をしている。
身長はミクレスをちょうど見下ろすくらいで、
フルクと同じくらい、いや、もう少し高いか、といったところだった。
「貴様、フルクに何を!?」
ミクレスは男に一歩近づいた。
「安心してくれよ。ちょっと気絶してもらっただけだからさ」
鋭い視線で見つめるミクレスに、男は楽しそうに嘲笑した。
ミクレスは剣を抜き、さっと構えた。こいつは一体何を考えている?
それに・・・どこから現れた?
「貴様は一体何者だ!?」
ミクレスは強く警戒した。
この者の只ならぬ威圧感。ヘラヘラと笑う裏に隠された、強大なる力。
雰囲気だけでわかる。明らかに一般人とは違う。
「俺はレフェード。・・・君の闘い、全部見させてもらったよ。
ちょっと途中で妙な現象が起こったけど、
そうそう悪くない闘いっぷりだったよ、フラグメント相手にね」
ミクレスは、レフェードという名前に聞き覚えがあった。
そう、旅の途中で悲しそうにラミネが話していた、同盟破棄の元凶。
確か、赤いコートを着ていて、常に不気味な笑みを浮かべる男だと言っていたな。
そうか、こいつがそうか。
ミクレスは眉をひそめて睨みながら言った。
「フラグメント? どういうことだ?」
「ククク、これのことだよ」
レフェードは黒い光を放つ何かの欠片のようなものを取り出した。
欠片自体も真っ黒で、見るからに嫌な気配を漂わせている。
ミクレスは、奇怪生物を見つめるような眼差しでその欠片を見た。
「なんだそれは・・・?」
その質問に、レフェードはとんでもない答えを返した。
「これはダークネスフラグメントと言ってね。
驚異的な魔力を秘めたクリスタルの欠片なんだよ。
これを食べさせれば絶大な能力を持った{魔物}をつくることが出来る。
眼前の敵を殺すことしか興味のない魔物がね。
さっき君たちに戦ってもらったサルも、これを食べた魔物だよ」
「あの化け物が・・・サル!?」
ミクレスは絶叫した。
「まさか・・・そんな、サルの原型すら失っ・・・」
ミクレスは途中で気がつき、言葉を詰まらせた。
そして、あの欠片がとてつもなく危険なものだということがわかった。
「そう、これを食べれば絶大な能力を持つとともに、
身体を異常な生物へと突然変異させる。
まあ単に、この強大な魔力に身体が耐え切れなくなってしまうだけだろうけどね」
ミクレスは、すぐさっきまでは敵だと認識していた魔獣も、
もとは人を襲うこともない普通の動物だったと聞いたとき、
激しい怒りが込み上げてくるのを感じた。
また、彼には別の怒りもあった。
同盟破棄の元凶。その言葉が頭の中でこだまする。
少なくとも、ラミネの大事な親族を殺し、彼女を悲しませたということは
とても許しがたいことであった。
「貴様ら帝国軍は、どこまで人を貶めれば気が済むんだ!!」
ミクレスは怒鳴った。平気で酷いことをする彼らが許せない。そんな面持ちだった。
「帝国軍? 勘違いしないでくれ」レフェードは言う。
「俺たちはあんな強者ぶった弱者たちとは違う」
「だったらいったい――」
「俺たちはログタント」レフェードはミクレスの言葉を遮って言った。
「秘密組織といったところか」
ログタント?秘密組織?確かに聞いたことはないが、そんな組織が本当に存在するのか?
「ログタント・・・貴様らはいったい・・・」
「君もいずれ知ることになろう。なぜなら、君は我々の仲間なのだから」
そしてまたクククと笑う。
「どういうことだ・・・?」
ミクレスは聞いたが、レフェードは嘲笑しただけだった。
「答えろ!」そして駆け出した。
しかし、レフェードのほうが一瞬反応が速かった。
レフェードは手に握り締めた何かを親指で弾き、
さきほどのパヒュンという音と共に小さな鉄球をミクレスに飛ばしてきた。
「っ!!」
ミクレスはそれをかわすのがやっとだった。
あとコンマ数秒反応が遅れていれば、鉄球は額を貫いていただろうか?
レフェードはミクレスを前に高く飛び上がり、
それを待っていたかのように通りかかったラフェグリフが
彼の片手をしっかりと掴んだ。
そしてレフェードは、微笑みながらこう叫ぶ。
「良い反応だ。さすが指導者が気にしているだけあるな!」
最後に嫌な笑い声を上げた後、
ラフェグリフの背中に乗りなおして遥か彼方へと去っていった。
ちょうどそのとき、フルクは目を覚ました。
「いってー・・・。いったい何が起こったんだよ」
ほとんど突然の出来事だったために、彼は何が起こったのか覚えていないらしい。
おそらく彼は、あの高速の鉄球に額を直撃したのだろう。
その証拠に、彼の額にはくっきりと弾の跡が残っていた。
(今は、あえてレフェードのことは言わないでおこう)
「ラミネたちのいるところへ行こう」
ぶつぶつと文句を言うフルクを横に、ミクレスは広場を去ろうとした。
フルクは額をおさえながら、ミクレスの姿を目で追う。
「おい待てよ」
そして立ち上がり、ミクレスの後に続いた。
謎の組織ログタント・・・彼らはいったい何者なのか?
そして、彼らの目的とはいったい・・・・
当時のミクレスたちには、これから起こる最悪の事態を知るすべもなかった。
フラグメント?なにそれ?おいしいの?
☆自重☆