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CHAPTER13:最凶の魔物

フルクは弓を片手に、辺りを警戒した。

「何かって・・・?」

アレイラは焦った様子で聞く。しかし、フルクは返事をしない。


ミクレスも何かを察知したようだった。

何かが蠢くような、何かが這いずり回るような、そんな感覚にとらわれる。

姿は見えないが、何かがいる。とても近くに、自分たちを狙っている何かが。


次の瞬間、ミクレスははっとして叫んだ。

「下だ! 逃げろ!」

ミクレスはラミネの手をさっと引き、駆け出した。

アレイラとフルクも一瞬戸惑いを見せながらも、急いでその場を離れようとした、が―――


「うわああ!」

足元が急に膨らみあがったかと思うと、フルクとアレイラは吹っ飛ばされていた。


一瞬、何が起こったのか理解できなかった。


ミクレスは振り返り、急いでフルクとアレイラに駆け寄ろうとした、しかし―――


「うそだろ・・・」

ミクレスは、彼らの背後にいる巨大な怪物を見て、思わず立ち止まってしまった。

「なんだよ・・・こいつ」


それは、今までに見たことのないような醜い化け物であった。

漆黒の全身は厚い毛に覆われていて、針のように尖っている。

背中には肋骨のような太く長い突起が六本生えていて、

ビクンビクンと鼓動していた。

そしてこの世のものとは思えないほどに崩れ、歪んだ顔。

その口からは巨大な二本の牙が突き出ており、あれに噛まれると終わりだと思った。

腕と爪だけは極端に大きく、そして鋭く研ぎ澄まされているかのようだった。


フルクとアレイラは、自分たちを覆いつくす影に気がつき、

倒れながら振り向いた。

「なっ・・・」

驚きと恐怖のあまり、叫び声さえも失ってしまった。


――――死


たった一文字、たった一言が頭の中をよぎった。

やばい、やばすぎる! これをどうにかしようなんて、絶対に有り得ない!


魔獣は両手を大きく振り上げた。

フルクはうつ伏せの状態ながらも必死に叫ぶ。

「よけろ! アレイラ!」


「!!!!!」

それと同時に、魔獣の拳は地面に叩き付けられた。

二人は間一髪のところでその攻撃を回避していた。

もし、あの下敷きになっていたと考えるとゾッとする。


ミクレスは剣を抜き、スキだらけの魔獣に飛び掛った。

だが・・・!


金属と金属がぶつかりあうような、キンという高い音と共に、

ミクレスの剣は弾き飛ばされてしまった。

想定外の出来事にミクレスは態勢を崩してしまい、そのまま地面へとぶち当たる。


ラミネはミクレスに駆け寄った。


「来るな! ラミネ!」

ミクレスは叫んだ。しかし、もう遅かった。

魔獣は大きく右腕を広げ、同時に思い切り振り払った。

「きゃああ!」

ラミネは払い飛ばされてしまった。

ギリギリで崖で持ち堪える。が、今にも落ちてしまいそうな状況だった。


ラミネを助けているのは、たった二つの手だけだった。

身体は宙ぶらりんになって、手を離せば遥か下の氷の岩盤に叩きつけられてしまうだろう。

「う・・・く・・・」


「ラミネ!!」

ミクレスは急いで立ち上がり、ラミネのもとへ向かおうとする。

しかし、魔獣はそう簡単に行かせてくれそうにもなかった。


魔獣は続いて左腕を広げ、第二波を繰り出そうとしていた。

しかし、フルクはそれを許さない。


「これでも食らえ!」

フルクは矢を構え、魔獣の目をめがけて放った。

彼の天才的な弓術のおかげで、見事魔獣の動きを中断させられると思った――しかし!


また、金属と金属がぶつかり合うような音が鳴り響いた。


「おいおい、冗談だろ!?」

矢は確かに魔獣の目に命中したはずだ。

しかし、矢は刺さるどころか弾き返されてしまった。

だが、さすがに目を射たことで、少なからずダメージがあったみたいだ。


魔獣は低く唸ったかと思うと、上半身を起こして耳をつんざくような雄たけびを上げた。

しかし、それは逆にチャンスだった。ミクレスは今だ、と思い、一目散に駆け出した。



ラミネは既に限界を感じていた。

魔獣から受けた攻撃が、ジンジンと痛む。

ただでさえかじかんで動かない手に、さらに恐怖の震えが走る。


―――もう、ダメ・・・


ラミネはズルっと手が滑るのを感じた。

その瞬間、あのときレフェードから宙に投げ出されたことを思い出した。


―――ああ、また、あのときと一緒か・・・


今度は簡単に死ねるような気がした。今度はたかだか城の四階とはわけが違うからだ。

王国一の大山の頂付近から、遥か下の雪山入り口付近まで落ちると

考えていただければわかりやすいだろうか。


そのときだった。自分の身体が、遥かなる宙で止まったのは。

「頑張れ! ラミネ!」

ラミネは泣き出しそうになった。

ミクレスが、落ちかけた自分の腕を、しっかりと掴んでくれていたのだ。


ラミネはズルズルと崖から引きずりあげられた。

そして、ミクレスのふところに飛び込む。

そのとき彼女は、限りなく大きな感謝をミクレスにするのであった。

「安心しろ、もう大丈夫だ」



しかし、そんなことを言っている場合ではなかった。

フルクの攻撃のせいで、魔獣は怒り狂い、さらに勢いを増して攻撃を繰り出していた。


フルクは魔獣の大振りをかわしたかと思うと、

魔獣はアレイラに向き直り、標的ターゲットを変えた。


フルクは喘ぎながら叫ぶ。

「逃げろアレイラ! 早く! アレイ・・・」

見ると、アレイラは恐怖にすくみあがっていた。

フルクが必死に叫ぶが反応しない。


このとき、アレイラの頭の中には、恐怖と死という二つの言葉しかなかった。

この異常に強固な肉体。突然現れ、突然暴れ狂う恐怖の魔獣。


――――――最凶の魔物


勝てるはずがない。勝てるはずがないんだ。

だから、逃げたい。でも、足が動かない。足が・・・・。


「アレイラアアアァァァァァア!!!」

フルクの叫び声が彼女に届いたときには、もう既に遅かった。


魔獣は自慢の鋭利な爪で、彼女の身体を貫通させていた。


そして彼女を仕留めたことを確認した後、乱暴にひょいっと放り投げた。


フルクは無意識に駆け出していた。

アレイラのそばに駆け寄り、必死に声をかける。

「アレイラ! 頼む! 起きてくれ!!」

しかし、アレイラの身体はぐったりとしていた。

左横腹からは大量の血が流れ、今にも危険な状態にあった。


フルクは彼女を抱いて立ち上がった。

そして、ある一点に向かって駆け出した。


それは、暴れ狂う怪物の腹の下。さきほどヤツが自らあけた巨大な穴だ。


今のフルクは驚異的な身体能力を覚醒させていた。

何も考えなくても敵の動きが読める。次にどんな攻撃が飛んでくるかわかる。

それは、ただ真っ直ぐな、アレイラに対する友情から来るものであった。


フルクは見事魔獣の下に潜り込み、穴の中へと入っていった。

その後を、魔獣は爪で穴をほじくり起こそうとするが、無駄だった。



その一部始終をひそかに見つめていたミクレスは、

まずその穴に入ることを第一に考えた。


「ラミネ、あそこに入るぞ!」

ミクレスはラミネの手を引く。

しかし、ラミネは恐怖に手が震え、とても行けそうな状態ではなかった。


魔獣は既にミクレスたちに向き直っていた。

一瞬威嚇したかと思うと、ただ高速でミクレスたちに襲い掛かった。


ミクレスはラミネを持ち上げる。そして、魔獣のなぎ払いを高く跳んでかわした。

続いて魔獣の腕をつたい、頭に上る。そしてそこから後ろへと飛び降り、

穴のすぐ前まで来た。その超人的な一連の動きを、たった数秒のうちに済ませてしまった。

「いくぞ!」

ミクレスは低く叫んだ。


次の瞬間、二人は真っ暗な穴の中へと落ちていった。



地面に着地したのを確認したミクレスは、ラミネを下ろし、

ひざまずいて嘆くフルクのもとへと向かった。


「アレイラァ! 起きてくれよ・・・」

今にも泣き出しそうな声で言った。

ラミネは急いで駆け寄り、アレイラの首を起こした。

「急いで治療したほうがいいわ。戻りましょう!」


アレイラの血は全く止まる様子がなかった。

このままではマズイ。



―――「フルク・・・」

優しく弱弱しい声が聞こえた。


アレイラだ。アレイラが最後の力を振り絞って叫んでいるのだ。

しかし、彼女はそれ以上何も言うことはできなかった。

本当に死んでしまったのではないかとも思った。


その弱々しく、消え入りそうな声を聞いて、フルクは静かに立ち上がった。


「1センチでいい・・・」

怒りに震え、強い恨みが篭ったような力強い言葉だった。

魔獣ヤツに傷をつけろ」

それは、ミクレスに対して言っている言葉なのだとすぐにわかった。

「どういうことだよ?」


魔獣ヤツを倒すぞ!!!」



――――フルク、激怒!



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