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CHAPTER11:死者が語るもの(前編)

早朝―――

まだ日の出前、空にも薄っすら星が浮かんでいるころだ。

ミクレスは眠たそうに目を擦りながら呟いた。

「なんか・・・身体に力が入らない」


全身に脱力感のような、ふんわりとした感覚が襲う。


「きっと、野宿に慣れていたからだよ」

既に起きていたラミネは言った。


原因はおそらくそれにあろう。

普段、草原の上の生活が日常となっているので、ベッドというものはどうも寝付きにくい。


ミクレスは重い身体を起こして、大きく伸びをした。

「こんなに朝早く出発するって、いくらなんでも」

「ほら、早く行くよ!」

文句を言い出そうとするミクレスに、ラミネは微笑みながら叫んだ。

「あいよ」


ラミネはこの数日間の付き合いを経て、

だんだんとミクレスのあしらい方が上手くなった。



ラミネが宿屋の店長に出発の挨拶を済ませている間に、

ミクレスは早朝の外の空気を吸っていた。

少しひんやりした朝霧が立ち込める街中は、どことなく寂しげな雰囲気を醸し出している。


ミクレスは出口の門へと向かった。

そこには、霧の中にぼんやりと浮かぶ二つの影があった。

「おはよう」

アレイラは元気よく言った。ミクレスは「ああ」と呟いただけだった。


フルクは金髪の前髪を弾いて気障に言う。

ヒトを待たせるのはいいけど、アレイラおんな

 待たせるのは男としてどうかと思うよ」


また始まった、とミクレスは思った。だから、あえて返事をしない。


そのころにはラミネもすぐ後ろまで来ていた。

「おまたせ」

ラミネはニコっと微笑んで言った。

「いえいえ、女性レディーを待つことは男の使命ですから」


アレイラは両手を挙げてやれやれと言った感じに首を振った。

そして、苦笑しながら呟く。

「さあ、集まったことだし、出発しようか」


何故かそのとき、フルクが先頭を切って進行した。

その後にアレイラが続き、何だか不思議そうにミクレスとラミネが続く。


しかし、上手く格好をつけたものの、やはりフルクは相変わらずフルクのままであった。

「なぁ・・・」

フルクは振り返る。そして、怪訝そうな顔をする。

なんだろう?と立ち止まる一向に対して言った言葉が、コレであった。

「北って、どっち?」


呆れて笑いも出なかった。一同はただ深いため息をつくだけであった。


結局、アレイラが先頭を切って進行することになった。

最初からそうしておけばいいものを。


フルクとアレイラの位置を交代したことで、

ミクレスとフルクはほぼ隣同士で歩いていた。


ミクレスはバカにするようにフンと鼻を鳴らした。

「お前さ、女口説くのもいいけど、その前に常識的なこと覚えろよな」

一瞬フルクはチラっと視線を送る。

「うるせえ」

フルクは想像以上に悔やんでいる様子だった。

やってしまった、と手で顔を覆い隠す。

その様子を見てミクレスは嬉々した。



さて、ここからセレディー大雪山までの道のりだが、

ザッと見積もって軽く十日はかかるだろう。

この方向音痴フルクアレイラがラブレイズ本部まで来てくれていれば、

この往復約二十日間の約十日間を短縮できたかもしれないのに。


そんなことを考えているミクレスとは真逆に、ラミネはこの状況を楽しんでいた。

ラミネにとって、徒歩で行く旅は色々と発見があって飽きることがない。

勿論、雨の日などは身体が冷え、野宿などに困ることもあるが、

それはそれでまた趣き深い・・・・。そんな自然の捉え方をしているのだ。


一方フルクは、まだ先ほどのミスを悔やんでいた。

彼にとって、女性の前でちょっとしたミスをするだけでも

人前で裸になるくらい恥ずかしいことなのだ。

自慢することでもないが、彼の女好きは世界一だろう。


そしてアレイラだが、おそらくこのメンバーの中で彼女が最もしっかりしている。

彼女は、いつなんどき誰かに襲われようとも対応できるように常に周りを警戒しているのだ。

他人のスタイルにいちいちケチをつけるつもりは全くないが

彼女自身、他の三人にはもう少し緊張感というものを持ってほしいと思っていた。



そんなこんなで、一日、また一日と日が過ぎていった。

三日目には、王国軍から生存確認を兼ねた食料がキャリナーより届けられた。

それはあまりにも多く、とても持っていけないほどだった。

「これまたご親切な国王陛下だな」

ミクレスは皮肉っぽく言う。

フルクは食料をバッグに詰め込みながら、笑って言った。

「国王陛下は常に味方の安全を考えていらっしゃる」


「単に過保護なだけじゃないのか?」



彼らは先頭を変えながら目的地へと向かった。

特にフルクのときは、アレイラが指示をするという情けない光景が見ることできた。


草原を踏み、森を抜け、川を渡る。

移り変わる自然を感傷しながらも、ただひたすらと北に向かった。


旅のスタイルを変えられ、つまらないと言いたげに空を眺めるミクレスに、

ラミネは積極的に声をかける。しかし、ミクレスは殆ど曖昧な返事しかしない。


七日が過ぎ、空気もだんだんと冷たくなっていった。

その日にはまた、王国軍から食料が届き、残りの数日を過ごす補給を行った。

そのころには既に、セレディーの山影が見えていた。


進行は以外と早かった。

この分だと、十日と見積もっていたものが、あと二日もあれば到着するだろう。




やがて、一日が過ぎ、ミクレスの予定より二日以上も早く目的地へと到着した。

目の前には頂上が角のように尖った大雪山が高く聳え立っている。


空気は非常に冷たく、そのせいで指がかじかんだ。

ミクレスはポケットに手を突っ込んでふうっと息を吹いた。

「さすがにラフェルフォードの最北端ともなると、身に堪えるってヤツか」


四人は一列に並んで、遥かに続く大山の雄大さを実感していた。



「君たちが王国軍から送られてきた調査隊員かね」

喉で篭ったような声の男が、急に話しかけてきた。

四人はすぐに男に視線を移す。

「ああ」フルクは答えた。


男は毛皮のフードを被り、全身厚着。

顔は真面目一辺倒で、厳しい表情をしている。

初老を済ませたくらいで、全体的に話しかけづらい雰囲気を放っていた。


男は鋭い視線を四人に送り、疑わしげに呟いた。

「ほう、君たちがね・・・」


送られてきたのが子供、ということに呆れているのか、

それともたった四人で来たことに驚いているのかはわからなかったが、

とにかく挨拶をしなければ、と思ったアレイラはおどおどしながら言った。

「私たちは、その、大雪山の調査と確保を兼ねた捜査を行うためにやってきました」

「フン、まあよい。ついてきなさい」


四人は彼に従って、眼前にあった洞窟の中へと入っていった。

先頭は男が行き、その後に彼らがついていく。

洞窟の中は蝋燭の火が灯されていて、とても明るい状態にあった。


先頭を歩いていた男は、低い声で言った。

「ここはアクスラ機関の本拠地、そして私はガムラス。

 アクスラ機関の実質的リーダーだ」

「ええ、貴方が!!」

アクスラ機関のリーダーと聞いて、フルクは過敏に反応した。

ガムラスは少し不機嫌そうに言った。

「何かおかしいかね?」


フルクは弓術の達人。そんな彼にとって、アクスラ機関とは一つの憧れなのだ。

そしてリーダーともなると、弓術の天才ということになる(そうとも限らないが)

少なくとも彼の中では、その方程式が成り立っていた。

フルクは目を輝かせて自己紹介をした。

「いえ、滅相もない! あ、僕は王国軍で弓術を志している者でして・・・」

「ふむ、そうか。他の者は?」

ガムラスはフルクに大して気に掛けた様子もなかった。


「私はラミネといいます」

ラミネは相変わらずおっとりとした声で答えた。


ガムラスはさらに目を鋭くして、チラっと振り向いた。

「君はリンディア人だな」

ギロっとした強い視線がラミネを襲う。

ラミネはビクっとして立ち止まった。


驚いたのはラミネだけではなかった。

おそらく、最も驚いたのはフルクとアレイラだろう。

「何言っているんですか。ラミネは・・・」

フルクたちも立ち止まった。


ミクレスはなんとか誤魔化そうとした。

とにかく、リンディア人がいると知れたらマズイと思ったのだ。

「あ、あの―――」


「その人の言うとおりです」


ラミネは俯いていた。そして、震えていた。

彼女にだってバレるとマズイことだとわかっていたはずだ。

しかし、何故自分から明かしたのだ?


ガムラスはまた歩き出して語り始めた。

「種族間の差別など恐れる必要などどこにもない。

 元々は同じ人間、同じ種族なのだから。

 そんな簡単なことさえもわからず、他民族を排斥しようとする輩は醜い。

 そして・・・君のように排斥を恐れて震える輩も醜い」

顔も目つきも怖いが、彼のこの言葉はただひたすらに真摯なものであった。

フルクもそれに共感した。

「だよな。別にリンディア人だとしても、お前はラミネおんなだもんな!」

「お前はあくまでも女かよ!」

ミクレスはツッコミを入れた。


その瞬間、一気に空気が変わったような気がした。

ガムラスのたった数秒の言葉で、あるものに対する価値観や考え方が

変わったような気がした。

確かに、ただこの五人だけが共感しても意味がないかもしれない。

しかし、今はそれで十分だ。


「ありがとう」

ラミネは呟いた。

少なくとも、彼女はきっと少しは楽になったのではないだろうか。



彼らはガムラスに続いて、一本道に続く長い洞窟をただひたすら進んでいった。

途中で上り坂になった。そして、だんだんと螺旋状になっていった。

奥に進むにつれて寒くなる。しかし、彼らは少し清清しい気分であった。

「着いたぞ」

ガムラスの言葉と同時に、円形状の大きな雪原へと出た。

天井はなく、上には大きな空が広がっている。

一面の雪景色がふもとまで広がっており、足を前に出すと、

そこに足跡が綺麗に残るようなところであった。

そしてところどころにテントが建てられていて、人がいるのか、火が灯っていた。


どうやらここが、アクスラ機関の基地らしい。



辺りの景色に感動していた、そのときであった。

「ガムラス様ー!」

まだ若い青年の声が聞こえてきた。

ガムラスは振り向く。

「何事だ?」

「はい! それが、A部隊のウェドが、何者かに・・・」

ミクレスたちはいぶかしげに二人の会話を聞いていた。

どうやらウェドという人が何者かに襲われて大変なことになっている、という話らしい。


「それで、今ウェドはどうしている!?」

ガムラスは青年の肩を掴んで詰め寄るように叫んだ。

青年は悲しげな表情をして「はい、それが・・・」

それ以上は言わなくてもわかった。

ガムラスは青年から手を離し、拳を強く握り締めた。


「君たちは、ここで待っていなさい」

ガムラスからの指示であった。






ちなみにアクスラ機関は弓術の名人ばかりを集める独立機関です。

ラフェルフォード王国にありながら、王国からの指示や干渉も受けないということが

特徴の機関です。ああ、ストーリー中にもありましたが、フルク様の憧れらしいです!(笑

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