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暗闇グルメ  作者: 八花月
9/11

9. 『あんたらがやんなよ』

「これですよ! これ」

「いやいや坊っちゃん、ちょっと落ち着きなさい」 

 当惑した正一が諭すように言う。

「何の話をしてるんですか?」

「これで作るんですよ、さっきの。『鯨鍋』」

 聞いている二人は、さらに怪訝の色を濃くする。

「おいちょっと。大丈夫?」

 藍がポンポン峻の頭を叩いた。

 正一は何も言わない。

 眉間に皺を寄せ何か考え込んでいる様子だ。

「うーん、そういやあ私も何か聞いたことあるな……」

 少し間を置いて、

「鹿肉の紅葉、みたいな感じで、猪の事を『山鯨』と呼ぶっていう話」

「ええ」

 そうです。間違いありません、と峻は力強く頷いてみせる。

「これが鯨だとしてさあ、どうすんのさ?」 

 藍は、長い前髪をくるくるといじりながら、声を上げた。

 苛々している時の癖らしい。

「こんな生きてるやつ、どうにか出来んの? アタシは無理だよ」

 男二人は冷水をかけられたような表情で、顔を見合わせた。

「いやあ、生きてる鯨捕まえるよりはマシでしょう!」

「そうそう、海に入らなくていいし……」

「当たり前だろ!」

 藍が怒声を発する。

「取りあえず解体はあんたらがやんなよ。アタシは家に居るから」

 そういうと、くるっと踵を返してさっさと帰ってしまった。

「あの人、かわいいとこありますね」

 もう藍が見えなくなってから、正一が呟く。

 峻が顔を見ると、ニヤニヤ笑っているのがわかった。

「どこがです?」 

「だって。ものすごい勢いで行っちゃったじゃないですか。見たくなかったんでしょう。解体するの」

 言われてみると、なるほど、と思う。

「……で、するんですか? 解体」 

 真顔で正一が問うてきた。

「し、しますよ。そりゃあ」

 しないわけにもいくまい。

「なにか道具を探しましょう」

 さっきの家の中の方がありそうだが、取りあえずこの「イノシシ牧場」から調べてみることにした。

「あの納屋みたいなとこみてみましょう」 

 正一に従い、峻は真っ暗闇の納屋に侵入する。

 何せ暗くて何も見えない。

 道具を探すとかいう話にもならなかった。

「……一回あの家に帰りましょうか?」

 ここを探すにしても、明かりがいるということに今更ながら気付いたのだ。

「蝋燭は藍さんが持ってっちゃったし……。外なら結構明るいんですけどね、風情もあって」

 峻は、遥か空を望みながら言った。

 さっきまで居た川島家からは見えなかった、満ちた月のことを言っているのだ。

 漆黒の空に輝くのは、月のみで星々は影も形もない。

 ……どうせ作り物の世界のこと、万年満月なのだろうが明るいに越したことはなかった。

 おい! と呼ぶ声がする。

「う、ウワァァァー!」

 振り向くと、藍が包丁を両手に持って立っていた。

「ほれよ、使えよ」

 叫びを上げた峻に構わず、包丁の柄の方を向けてくる。

「あ、こりゃどうも」

 ひょっこり出てきた正一が、軽く受け取った。

「あともう一回台所見てみたら、野菜があったよ。鍋やる時に使おう。野菜ぐらいは私が切ってやるよ。じゃあ終わったら呼んで」 

 そそくさと踵を返す。

「さ、さっきありませんでしたよね、そんなの?」

 台所は見たはずだ。

「猪が鯨ってのが正解だったから、出てきたんじゃないの……?」

 曖昧にモゴモゴ言いながら、藍はまた去っていく。

「じゃあ、やる?」

 正一が峻に包丁を渡そうとしながら言った。

 どうも、やれということのようだ。 

 峻は、どうせなら美味そうなやつを選ぼうかと思ったが、そのうちにどうでもよくなった。

「まず殺さなきゃいけないんですよね……」 

 そこからハードルが高い。

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