8. これが答え?
帰り道は丘を突っ切らず、ぐるっと回って元の家へ向かう。
小さい作業小屋らしきものや、畑のような場所を通って丘を回り込み、やっと二人のいる母屋に辿りついた。
「どう?」
正一が短く、峻に訊ねる。
「鯨の肉はありませんねえ……他に使えそうな物も……あ、猪はいましたよ」
ふん、と藍は鼻を鳴らした。
何か考えている様子だ。
「柵があって……何匹か寝てました」
猪じゃあしょうがないでしょう、と正一がため息をつく。
この様子だと、皆収穫はなかったようだ、と峻は思った。
「鍋はあったよ」
藍は口を開いたかと思うと、金属製の鍋を床に投げ出した。
ガランガランと派手な音がして、床を転げまわる。
「やけくそにならないでくださいよ」
正一が拾い上げて、中を覗く。
「まあ……使えそうですね。洗えば」
「あたしらが食うためのものを作るために、使うんじゃない。ついでにいえば、多分誰も食わないし。余計なことを考える必要はない」
気分の問題ですよ、イヤだなあ。真面目に答えられると。
とか何とか、ブツブツ言いながら、正一は目線を当て処もなく彷徨わせている。
「これは幽霊様の口に合うものを作らなければいけない、っていうことじゃない。クイズみたいなもんなんだ。気持ちとか気分は関係ないよ」
幾分か、トゲトゲしさが藍から消えたように見えた。
「クイズ……」
何か、峻にピンとくるものがあった。
今までこれは、普通に考えてはいけない、と考えていたがむしろ普通に考えたほうがいいのかもしれない。
ある意味ここは、人工的な世界なのだ。
『ゲームみたいなもんなんだよな』
クイズ、という言葉に峻は引っかかっている。
『ゲーム、ゲームってことは……』
必ず正解があり、それに向かう手順がある。
言い換えれば、不可能なことを問題にはしていない。はず。
「明かりか何かありませんかね?」
峻は、唐突に言った。
他二人が顔を見合わせる。
「明かりねえ……何かに使うの? 料理する時にあればいいんじゃない?」
正一は面倒くさそうだが、峻は意に介さなかった。
峻は、もう動き出している。
今いるんですよ、今!
ガサガサその辺を漁りながら、声を張り上げた。
暗いので、もう手当たり次第である。
他に妙案があるわけでもないので、藍と正一も手伝い始めた。
「蝋燭があったよ」
藍が腕を上げて言った。
良く見えないが、その手には蝋燭が握られているのであろう。
「火が……」
火が点けられればいいのだが。と峻は思う。
「私、ライター持ってます」
正一が曇りのない、朗らかな声を上げた。どういう精神状態なのか。
とにかく問題は解決した。
峻は、それを受け取り屋外に駆け出す。
後ろから、二人とも追いかけてきた。
「案外義理がたいんですね」
並走している二人に、峻は話しかける。
「待ってたって、わけわかんないからね」
「好奇心ですよ、好奇心」
気軽に声を揃えた。
妙な大人だ、と峻は思ったがそう悪い気もしない。
丘を越え、叢を抜ける。
むせるような緑の匂いを掻きわけて、猪の檻に着いた。
まだ、猪達の寝息が聞こえる。
手に持った蝋燭を掲げ、火を点ける。
走ったせいで体温が上がっており、皮膚に触れている部分の蝋が少し融けていた。
「何があるんです?」
正一の言葉を尻目に、峻は心許ない蝋燭の火で何かを探している。
「あ、ほら、これ」
見つかったようだ。
薄汚れた、木製の看板だった。
この牧場? の入口らしきところに立てかけてある。
峻達は裏側からここに侵入していたのだ。
こちら側から入るのが、本来のルートなのである。
看板に書いてあるのは、
『猪』
の文字であった。
「見りゃあわかるよねぇ」
藍が軽く舌打ちする。
「間違いない!」
峻が大声を上げ、他二人を驚かせた。




