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暗闇グルメ  作者: 八花月
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7. 探索行

 脇の収納に、飲み物だけは並んでいる。

「あ、牛乳ありますね」

 男は手を伸ばした。

「飲むな」 

 鋭い一言で、藍が制止する。

「人のウチの物ですよ」

「そういうことじゃない」 

「私達は飲んだらダメだって話だ」

 断言口調で、藍はきっぱりと言った。

「……なるほど、その通り。どうかしてましたね」

 正一は出していた手を引っ込める。

 どれ、他を探そうか、と言って藍はフラフラ歩き始めた。

 流しの下を開けてみる。

 戸の掛け具に、包丁が何本か差さっていた。

 ステンレス製の、あまり値の張る物ではない。

 他には、何も見るべきものはなかった。

 暗闇の中の、さらに濃い闇の穴、といった趣でぽっかりと口を開けているだけである。

「ちょっともう一回、本見てみるか」

 藍が疲れた様子で言った。

 再び正一の手で頁が捲られる。

「やっぱこれですかね」

 先程の頁、『鯨』の頁だ。

「多分これしかない。もうちょっと詳しく読んでみよう」

「これ、サンズイのような」

「もっと、ややこしいカタチみたいな気がするねえ」 

「絵と一緒に考えてみましょうよ」 

 しばらく三人でごちゃごちゃやっていて、やっと峻が何事か閃いたような声を上げた。

「『鍋』! “なべ”ですよ! これ」

「なるほど」

「言われてみれば」

 皆納得する。

 鍋、である。間違いない。

「鯨の鍋を作れってことか」

 藍がまとめた。

「ど、どうやってですか?」 

 峻が言うまでもなく、皆それを考えている。

「材料がないですよね」

 正一が口をすぼめて言った。どことなく楽しんでいるようにも見える。

「作れ、ってことなら、材料が無いこたあないだろう。探そう」

 手分けすることになり、ちりぢりになった。

 取りあえず藍が家の二階、正一が一階。

 峻がそれ以外、ということになった。

『……それ以外っつってもな』

 要するに母屋以外ということなのだが、外には茫漠とした風景が広がっている。

 風が吹き過ぎ、丈の高い草がさわさわと音を立てていた。

 人の気配がなく、灯りも見えない。

 ただただ、どこまでも薄暗く静かで、この世のものでない風景が広がっていた。

 ふと峻は、秋の夜明けにみる夢のようだ、と感じる。

 そう思ったとたん、奇妙な安心感が湧いてきた。

 ここを誰が作ったにせよ、悪い奴ではなさそうだ、と思ったのだ。

 取りあえず探すにしても、見当のつけようもない地勢である。

 右前方に見える小高い丘を目指して歩き始めた。

 峻は、丘の裾野に辿りつく。

 両手の指先まで届くくらいの草も生えていた。

 緑が深くなっている。

 触れたら切れそうな、かやのような鋭い葉がさざ波のように揺れていた。

 虫はいないようだが、薄気味の悪い感じがする。

 峻は、注意しながらゆっくりと丘を登った。

『ん?』 

 鼻腔をくすぐる湿った臭い。

 何か生き物の糞尿のものだった。

 鳴き声は聞こえないが、かすかに鼻息のようなものも聞こえる。

「下の方だな」 

 迷った末、峻は行ってみることにした。

 徐々に匂いがキツくなる。

 小屋のような建物の影が見えた。

 もっと近づくと金網に身体がぶつかる。

 ここまで来て、やっと鳴き声の正体が判明した。

 猪である。そういえば現実世界でも、昔この辺りで猪を飼っていたという話を小耳に挟んだことがあったのを、峻は思い出した。

 金網に顔を近づけ覗いて見ると、うずくまっているように見える。

 鼻息も静かで、どうやら寝息のようだ。

『猪って夜行性じゃなかったかな?』

 峻は、ちょっと考えたが思い直した。

 こんな世界でまともに色々考えても、しょうがないのだ。

 柵の周囲を巡ってみて、これ以上何もなさそうなことを確認し、足を他へ向けた。

 しばらく行って川へ突き当たる。

 峻は少し考え、一回あの家に戻ることにした。

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