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暗闇グルメ  作者: 八花月
5/11

5. 『もう無理だね』

 どうにも部屋の中が暗い。

 明かりが消えたのか、と思ったがそれにしてもおかしかった。

 窓からも光が入ってきていない。

「あーあ。もう無理だね」 

 何だか下の方から聞こえてくる。

「どこだ!?」

 峻は大声を上げる。

「出てこい!」

 明らかに何かがおかしい。

 それなりに色々経験してきてはいるが、こんな事は始めてだった。

 机の下から何か這い出してくる。

「な……」

 絶句して、峻は後ずさった。

 黒い何かがモゾモゾ動いている。

「どーも」

 奇妙なくぐもった声を発しながら、黒いモノは立ちあがった。

「妙なカンジだね。よろしく」

 黒いモノの中から、にゅっと手が伸びてくる。

 握手を求めているらしかった。

「ど、どうも」  

 迷った末、してもしなくてもいいような返事をして、峻は手を握った。

 黒い何かは、どうも人間の髪の毛らしい。

「アンタ、そういや家の周りウロウロしてたね」

「ああ」 

 呆けたような声で返事をする。 

 思い出した。

 この家に入る前、柵の向こうで見た人物だ。

 あの時はよくわからなかったが、声質からしてどうも若そうであった。

「僕は昔から、この家の人達を知ってるんですよ。あなたは?」

 格好から判断しても、怪しいのは明らかに向うの方だ。

 峻は、軽く先方の喋り方に苛立っていた。

「あたしゃ知らないけど、ご近所だからね」 

 くっくっく、と喉を鳴らしながら喋る。

 奇妙な女だった。

 それよりおかしいのは、この家の近所に住んでいるということは、峻の住所の近くに住んでいる、ということでもあるということだ。

 今までこんな人間は見たことがない。

 それを訊ねてみると、

「あんまり家から出ないんだよ」

 と言って、今度は喉からゲッゲッゲ、と咳き込んでいるような、痰が絡んでいるような妙な声を出した。

 どうも笑っているらしい。

「この家、食べ物がなくなるらしいんですけど、理由はわかりますか?」

 訳知りな様子なので訊ねてみたが、

「それどこじゃないだろ」

 と、一蹴された。

「これ、どうにかしないと、あたしらここから出られないよ」

 言われて、窓に近づいてみる。

 外は暗い。真っ暗と言ってよい。

 夜だとしても異常である。

 鍵がかかっていない窓を、思い切って引いてみる。

 全くビクともしなかった。

「壊してみようかな……」 

「やってみれば?」

 また女が笑う。

 腹立たしいが、ひとまず放っておき、その辺の固い物を窓に投げつけてみたが、やはり徒労に終わった。 

 音すらしない。

 時間ごと凍ってしまったような印象である。

 峻は、机の上のコップを持ちあげて、強く下ろしてみた。

 ガツン、と鈍い音がする。

 やるやる、そういうの。という言葉の後に、女の哄笑が響いた。

「外に出られないってことなんだよ。まあ、出たからってどうなるかわからないけど」

「……要するに、何かしなきゃ出られないんですね?」 

 知らず、峻は舌打ちしている。

 ずっと以前、似たようなことがあったのを思い出したのだ。

「出してくれない、って感じかな」

「僕の他に二人、霊能者みたいな人が来てるんです。テレビの収録なんですけど」 

「ふうん。そいつらもここに居んのかね」

 女は考えているような口ぶりである。

 峻にとっては、話が早くて助かった。

「一人はちょっと……わかんないんですけども、もう一人の人は話せば協力してくれると思います」

 へえ、と女は気の抜けたような返事をする。

 峻は、さっき撮影していた部屋に行ってみた。

 が、誰の姿もない。

 縁側の戸もがっちりと閉まっている。

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