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暗闇グルメ  作者: 八花月
3/11

3. 隣の男

「赤西さーん、おねがーい」

 呼ばれて、タレントのようなアナウンサーのような、要するにこの場の司会をするであろう男が、部屋の襖を開けて入ってくる。

 この男は、縁側から上がらずにきちんと玄関から来た。

 峻としては、そのような細かい部分で、わりと好感が持てる。

 もっとも、自分は縁側から上がっているのだが。

 カメラマンらが、ドヤドヤと縁側の向うで自分の仕事を始める。

「さあ、ここが件のお宅なんですが……一見したところ、そんなに恐ろしげな感じはしませんね」 

 赤西と呼ばれた男が、流暢に喋りはじめた。

 さすがにプロである。

 一気に淀みなく言った。 

「今のところは、ね」

 意味ありげに薄く笑いながら、黒づくめが口を開く。

「いや、だいぶきてますよ、コレ」

 背広の男が負けじと言葉を放った。

 緊迫するかと思ったが、別に黒づくめも気にしていないようである。

『俺も何か言った方がいいのかな?』 

 そう思っていると、

「そちらの……えー……ご近所で、霊感があると有名だという……幡野くんも何かありますか?」

と、赤西が峻に話を振ってきた。

「えー……」

 正直、峻は何か妙な雰囲気だとは思ったが、はっきり何かが分かるわけではない。

「ちょっと、何かおかしいな、とは思いますね」

 結局当たり障りのない事を言う。

「半端な人間では、その程度……ここにいる資格はない……」

 黒づくめが、妙に作った口調でぼそぼそ呟いた。

 峻には聞こえたが、放送で音になっているかどうか、ちょっとわからない。

『俺に言ってんのかなあ』

と、峻は思って、当然それしかない、ということに気付く。

 不思議とそんなに腹は立たない。

 まあ言われてもしょうがないかな、くらいの感覚である。

 向うからすれば、もう打ち合わせもすんで、準備万端、というところでいきなり闖入してきた、わけのわからない高校生なのだ。

 あなた方の商売の邪魔をする気はない、と伝えようかと思ったが、もう番組も始まっているようだし、タイミングが計れない。

 こう言っては何だが、峻は自分でも自分の事を偽物っぽいと思っていた。

 もしかしたらこの霊能者達には、何かテレビ局に強力なコネでも持っていて、無理やり出演をネジ込んできたどこかのボンボン、みたいに思われている可能性もある。

「ねっ? あなた、本物でしょ?」

 いきなり隣から話しかけられた。

 背広の男である。

 どういう技術なのか顔も近づけず、小声なのに峻の耳に届いた。

 どう答えたら良いものか思案していると、

「いきなりこんなのに入って来るなんて珍しいね。これちょっと面倒くさいよ」   

 と続けて言われた。

「頼まれたんで」

 言葉短かに返す。

 司会者が、ちらっと咎めるように峻を見た。

 背広の男の声には反応しないのに、峻の言葉はばっちり聞こえたらしい。

「誰に?」

 続けて問うてくる。少々面倒くさくなってきた。

「この家の旦那さんにですよ」 

 峻は、極力小声で口を動かさないよう喋るが、上手くいかない。

「へえ、本当に近所なんだ」

 意外そうに言った。軽く口笛まで吹いている。

「あなたの見立てはどうなんです?」 

 黒づくめよりは頼りになりそうなので、訊いてみた。

「これは特殊だねえ……、ハイってやってポーンって終わり、ってわけにはいかないね」

 少し思案している。 

「本気でやろうと思ったらちょっと面倒な事になるだろうけど、適当に手抜いてやるよ。これTVだしね」

「ちょっと!」 

 峻は思わず、声を荒げてしまう。

 案の定、司会者が険呑な顔を向ける。

「TVじゃなかったら、こんな面倒くさそうなやつは、お断りするかなあ……。ああ、そうそう。今回僕、出演料以外にお金もらってないからね」

「しかし……じゃあ、どうするんですか?」

 峻は、なんとか食いさがる。

「どうって?」

「だって、今回番組中に除霊出来なかったら、評判下がっちゃうんじゃないですか?」  

 峻は暗に真面目にやれ、と言っているのだが、きちんと伝わらなかったようだった。

「その辺はねえ、まあ、ほどほどにやるよ。そういうノウハウあるんだよ」

 少し自慢そうですらある。

 諦めて、黒づくめに眼を向けた。

 下を向いてクスクス忍び笑いを漏らしている。

何か話しかけようかと思っていたのだが、感じが悪いのでやめた。

「あ、ご主人の準備ができたみたいですね……それじゃ」

 司会の赤西がたちまち笑顔を作る。

 それまでは苦虫を噛み潰したような顔をしていたのだが。

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