3. 隣の男
「赤西さーん、おねがーい」
呼ばれて、タレントのようなアナウンサーのような、要するにこの場の司会をするであろう男が、部屋の襖を開けて入ってくる。
この男は、縁側から上がらずにきちんと玄関から来た。
峻としては、そのような細かい部分で、わりと好感が持てる。
もっとも、自分は縁側から上がっているのだが。
カメラマンらが、ドヤドヤと縁側の向うで自分の仕事を始める。
「さあ、ここが件のお宅なんですが……一見したところ、そんなに恐ろしげな感じはしませんね」
赤西と呼ばれた男が、流暢に喋りはじめた。
さすがにプロである。
一気に淀みなく言った。
「今のところは、ね」
意味ありげに薄く笑いながら、黒づくめが口を開く。
「いや、だいぶきてますよ、コレ」
背広の男が負けじと言葉を放った。
緊迫するかと思ったが、別に黒づくめも気にしていないようである。
『俺も何か言った方がいいのかな?』
そう思っていると、
「そちらの……えー……ご近所で、霊感があると有名だという……幡野くんも何かありますか?」
と、赤西が峻に話を振ってきた。
「えー……」
正直、峻は何か妙な雰囲気だとは思ったが、はっきり何かが分かるわけではない。
「ちょっと、何かおかしいな、とは思いますね」
結局当たり障りのない事を言う。
「半端な人間では、その程度……ここにいる資格はない……」
黒づくめが、妙に作った口調でぼそぼそ呟いた。
峻には聞こえたが、放送で音になっているかどうか、ちょっとわからない。
『俺に言ってんのかなあ』
と、峻は思って、当然それしかない、ということに気付く。
不思議とそんなに腹は立たない。
まあ言われてもしょうがないかな、くらいの感覚である。
向うからすれば、もう打ち合わせもすんで、準備万端、というところでいきなり闖入してきた、わけのわからない高校生なのだ。
あなた方の商売の邪魔をする気はない、と伝えようかと思ったが、もう番組も始まっているようだし、タイミングが計れない。
こう言っては何だが、峻は自分でも自分の事を偽物っぽいと思っていた。
もしかしたらこの霊能者達には、何かテレビ局に強力なコネでも持っていて、無理やり出演をネジ込んできたどこかのボンボン、みたいに思われている可能性もある。
「ねっ? あなた、本物でしょ?」
いきなり隣から話しかけられた。
背広の男である。
どういう技術なのか顔も近づけず、小声なのに峻の耳に届いた。
どう答えたら良いものか思案していると、
「いきなりこんなのに入って来るなんて珍しいね。これちょっと面倒くさいよ」
と続けて言われた。
「頼まれたんで」
言葉短かに返す。
司会者が、ちらっと咎めるように峻を見た。
背広の男の声には反応しないのに、峻の言葉はばっちり聞こえたらしい。
「誰に?」
続けて問うてくる。少々面倒くさくなってきた。
「この家の旦那さんにですよ」
峻は、極力小声で口を動かさないよう喋るが、上手くいかない。
「へえ、本当に近所なんだ」
意外そうに言った。軽く口笛まで吹いている。
「あなたの見立てはどうなんです?」
黒づくめよりは頼りになりそうなので、訊いてみた。
「これは特殊だねえ……、ハイってやってポーンって終わり、ってわけにはいかないね」
少し思案している。
「本気でやろうと思ったらちょっと面倒な事になるだろうけど、適当に手抜いてやるよ。これTVだしね」
「ちょっと!」
峻は思わず、声を荒げてしまう。
案の定、司会者が険呑な顔を向ける。
「TVじゃなかったら、こんな面倒くさそうなやつは、お断りするかなあ……。ああ、そうそう。今回僕、出演料以外にお金もらってないからね」
「しかし……じゃあ、どうするんですか?」
峻は、なんとか食いさがる。
「どうって?」
「だって、今回番組中に除霊出来なかったら、評判下がっちゃうんじゃないですか?」
峻は暗に真面目にやれ、と言っているのだが、きちんと伝わらなかったようだった。
「その辺はねえ、まあ、ほどほどにやるよ。そういうノウハウあるんだよ」
少し自慢そうですらある。
諦めて、黒づくめに眼を向けた。
下を向いてクスクス忍び笑いを漏らしている。
何か話しかけようかと思っていたのだが、感じが悪いのでやめた。
「あ、ご主人の準備ができたみたいですね……それじゃ」
司会の赤西がたちまち笑顔を作る。
それまでは苦虫を噛み潰したような顔をしていたのだが。




